パソコンの普及状況
家庭で使うコンピュータはパーソナルコンピュータ(パソコン)と呼ばれていますので、ここではパソコンと称します。今回はパソコンの消費電力について整理していこうと思います。その前に、パソコンは日本においてどの程度普及しているのでしょうか。昨今のテレワーク増加の影響で、家庭でパソコンを使うことが多くなっているような気もしますが、実態はどうなのか。その辺りから調べてみました。
内閣府の消費動向調査よりパソコンの普及率と保有台数を調べてみました。下図は「2人以上世帯」(単身世帯は含まれません)におけるパソコンの普及率と100世帯当たりの保有台数の推移です。2021年3月時点で普及率は78.5%、保有台数は128.3(台/100世帯)でした。2012年頃から普及率、保有台数とも横ばいとなっています。
この数値には単身世帯は含まれていませんので、単身世帯の最新の数値を下表に示します。単身世帯でのパソコンの普及率は52.7%、保有台数は70.7(台/100世帯)でした。なお、内閣府の消費動向調査はあくまでもサンプリング調査によります。2021年3月の調査世帯数(有効回答数)は7,497世帯(二人以上世帯5,433世帯、単身世帯2,064世帯)です。
表-1 パソコンの世帯別の普及率、保有台数、全国のパソコン保有台数推計値
単位 | 単身世帯 | 二人以上世帯 | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
世帯普及率 | % | 52.7 | 78.5 | |
世帯当り保有台数 | 台/100世帯 | 70.7 | 128.3 | |
全世帯数 | 千世帯 | 14,907 | 36,878 | 51,785 |
推計パソコン保有台数 | 千台 | 10,539 | 47,314 | 57,853 |
二人以上世帯の普及率、保有台数は、内閣府経済社会研究所、消費動向調査、令和3年3月実施調査結果、2021年3月
全世帯数は厚生労働省、統計情報・白書、第1編人口・世帯、第3章世帯(2019年度の世帯数)
上記の保有台数等が統計調査の結果であることを前提として、得られたデータから日本全国のパソコンの保有台数を推計しました。表-1にある通り、単身世帯と二人以上世帯の世帯数を厚生労働省の統計より把握し(2019年度の世帯数)、これに世帯当たりの保有台数を乗じて算定しました。この結果、日本全国の家庭に約58百万台のパソコンがあることが分かります。これを全て利用しているかどうかは分かりませんが、相当な数のパソコンが電力を消費していると考えられます。
パソコンの省エネ基準
パソコンを購入するときに消費電力のことを気にして買うことはあまりないように思われます。まず、機能や性能に注目し、使う目的、使う場所などを中心に考えることでしょう。そのためか、製品の取扱説明書にもあまり消費電力のことは書かれていません。また、経済産業省の「省エネ型機器情報サイト」にもパソコンの製品データは記載されていませんので、消費電力に関する仕様はメーカーのパソコンのカタログから探さなければなりません。
パソコンには大きく分類するとデスクトップとノートブック(ラップトップとも言っています)の2種類があり、前者は机上に設置して仕事や趣味のために、後者は持ち運ぶことができるため主として出先で利用することを目的にしています。もちろん、自宅内での持ち運びを考えて仕事、趣味用にノートブックを購入する方も多いでしょう。また、最近のゲームソフトの高度化により、マニアにはゲーム用のパソコンが売れています。グラフィックやCPUの処理速度を重視するため、いろいろカスタマイズできるようなパソコンが販売されているようです。
本報告では、パソコンの省エネ基準について整理していきます。パソコンに関する経済産業省の省エネ基準に関する告示は「電子計算機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」です3)。この告示の内容については、「家庭を中心とした地域レベルの地球温暖化対策」の「コンピュータのエネルギー消費効率」に詳細に記載していますので参照してください。
この告示では、省エネ基準を設定するために以下の区分がされています。
① ノートブック
② デスクトップ-一体型、分離型に細分化
ノートブックパソコンはディスプレイが本体に必ずついていますが、デスクトップパソコンはディスプレイが本体と一体型のものと分離しているものがあります。そして、消費電力に影響を与える要因として以下のものを挙げています。
① CPU(中央演算装置):コア数とクロック数
② 画面サイズ
③ メインメモリ
④ ディスプレイの画素数
⑤ グラフィック
⑥ 内部電源装置
これら が大きくなる(機能が高くなる)ほど電力を消費するので、省エネ基準はこれらの関数になっています。基準算定方法については専門性が高くなるため、前述の告示の内容をご確認ください。ここでは、どの程度の消費電力量となるのかを事例として示すにとどめます。
一例として、下表に示すパソコン製品の基準エネルギー消費効率(省エネ基準)を算定します。なおパソコンのエネルギー消費効率は年間消費電力量です。このパソコンはノートブックであり、Pスコア(中央演算処理装置のコア数にクロック周波数(GHz)を乗じた数値)が14.4なので、基準エネルギー消費効率を設定する際の区分は「区分12」になります(下の表-3をご確認ください)。
表-2 パソコン製品の性能仕様とエネルギー消費効率の一例
項目 | 内容 | 基準算定のためのパラメータ | 算定されたパラメータ | |
---|---|---|---|---|
メーカー | NEC | |||
パソコンの製品名 | GN18N1/UH | |||
プロセッサ | 動作周波数 | 1.8GHz | Pスコア (周波数×コア数) | 1.8×8=14.4 |
コア数 | 8コア | |||
メインメモリ | 8GB | Mmax (最大GB) | 8 | |
ディスプレイ | サイズ | 15.6型 | A (画面面積) | 34.54cm×19.43cm=671.11cm2 |
画素数 | 1,920×1,080 | r (百万ピクセル) | 1.92×1.08=3.456 | |
消費電力 (W) | 標準 | 8.7 | ||
最大 | 45 | |||
スリープ | 0.3 | |||
エネルギー消費効率 | 29.5kWh/年 |
表-3 ノートブックパソコンの基準エネルギー消費効率(省エネ基準)
製品形態の種別 | Pスコア | 画面サイズ | 区分名 | 基準エネルギー消費効率の算定式 | |
---|---|---|---|---|---|
ノートブック パーソナル コンピュータ | 8未満 | 15型未満 | 10 | Es=5.21+TECmemory +TECint_display + TECstorage + TECgraphic | |
15型以上 | 11 | Es=7.75 + TECmemory + TECint_display + TECstorage + TECgraphic | |||
8以上 | ― | 12 | Es=11.34 + TECmemory + TECint_display + TECstorage + TECgraphic |
TECmemory=Mmax × αm (Mmax: 最大記憶容量、αm=0.186:区分12)
TECint_display=(8.76×0.30) × ((A÷2.54÷2.54)×0.0300+r×0.244) (A:画面面積(cm2)、r:画素数(百万pixel))
TECstorage=2.51 (区分10、11、12、ただし磁気ディスク装置がない場合は0)
TECgraphic=4.198 (区分10、11、12、ただし独立型GPUがない場合は0)
「区分12」の基準エネルギー消費効率の算定式は以下の通りです。
Es=11.34 + TECmemory + TECint_display + TECstorage + TECgraphic
そして、経済産業省の告示では「区分12」のパラメータを以下のように算定するものとされています。下式中のMmaxはメモリの最大値、Aはディスプレイの面積(単位はcm2)、rは画素数(単位は百万ピクセル)です(表-2の右2列目欄参照)。
TECmemory=Mmax × αm (αmは区分12の場合0.186)=8×0.186=1.488
TECint_display= (8.76×0.30) × ((A÷2.54 ÷2.54 )×0.0300+r×0.244)=9.531
TECstorage=2.51 (区分10、11、12)
TECgraphic=4.198 (区分10、11、12)
E=11.34+1.488+9.531+2.51+4.198=29.067
この計算により、本製品の基準エネルギー消費効率は29.1kWh/年ということになります。そして、本製品のエネルギー消費効率(年間消費電力量)は29.5kWh/年ですので、省エネ基準達成率は以下の通り98.5%ということになります。
省エネ基準達成率=29.1/29.5×100=98.5
販売されているパソコン製品の省エネ評価
ここでは、日本のパソコン製造専業メーカーであるマウスコンピュータのパソコンを例にして、年間消費電力量や省エネ基準などの機種別の省エネ性能を把握します。下表にマウスコンピュータのカタログからノートブック2種、デスクトップ2種、ゲームマシン1種の5種類のパソコンの性能仕様、消費電力量、省エネ区分、省エネ基準達成率等を示しています。
この結果より、ノートブックはディスプレイを含めてもその年間消費電力量は20~25kWh/年であるのに対して、デスクトップは36~76kWh/年で2倍から3倍程度、そしてゲームマシンは162kWh/年と7倍から8倍程度になっています。ゲームマシンでゲームをしていない時(ネットサーフィンなど)でも非常に電力を消費するので、注意が必要です。
また、ここで示したノートブックパソコンの年間消費電力量はどちらも省エネ基準達成率が100%を超えています(A: 省エネ基準達成率が100%以上110%未満、AA:110%以上140%未満)。デスクトップは2種のうち1つは省エネ基準が100%を超えているものの、他の一つは88%となっています。年間消費電力量が少ないにもかかわらず省エネ基準達成率が逆転しているのは、省エネ基準がパソコンの区分によって変わっているためです。
表-3 パソコン製品の年間消費電力量、省エネ基準達成率の事例(マウスコンピュータ製品)
モデル名 | mouseK5 | mouseK5-R7 | mouseCT6-H | mouseDT7 | G-Tune XP-Z-LC |
---|---|---|---|---|---|
タイプ | ノートブック | ノートブック | デスクトップ | デスクトップ | ゲームマシン |
CPU | インテルCore i7- 10750H | AMD-Ryzen7 4800H | AMD-Ryzen5 4500U | インテルCore i7- 10700 | インテルCore i9- 11900K |
コア/スレッド | 6/12 | 8/16 | 6/6 | 8/16 | 8/16 |
グラフィックス | GeForce- MX350 | AMD Radeon Graphics | AMD Radeon Graphics | intel UHD Graphics | GeForce- RTX 3090 |
メモリ | 16GB | 16GB | 16GB | 8GB | 64GB |
ストーレージ | 512GB | 512GB | 512GB | 512GB | 4TB |
ディスプレイ | 15.6インチ | 15.6インチ | なし | なし | なし |
同上画素数 | 1920×1080 | 1920×1080 | - | - | - |
年間消費電力量 | 20 | 25.1 | 36.1 | 76.4 | 162.4 |
省エネ区分 | 12 | 12 | 15 | 17 | 18 |
省エネ基準達成率 | AA | A | 88% | AA | 70% |
標準消費電力 | 5.27W | 6.52W | |||
最大消費電力 | 90W | 90W | |||
スリープ消費電力 | 0.65W | 0.74W | |||
価格(円,税込み) | 131,780 | 131,780 | 87,780 | 100,980 | 549,780 |
注)省エネ基準達成率の「A」は達成率100%以上110%未満、「AA」は達成率110%以上140%未満、「AAA」は達成率140%以上を示す。
まとめ
パソコンは1999年から省エネ法の対象とされて省エネが図られてきています。現在、日本の家庭で約58百万台保有されていますので、多くの電力を消費していると思われます。パソコンの省エネ性能は多段階評価の対象とされていないこともあり、販売店での表示は行われておりません。しかし、製品のカタログの詳細仕様には省エネ性能が記載されていますので、確認することはできます。
省エネ法の告示ではパソコンをノートブック、デスクトップに分け、その性能に応じて省エネ基準が設定されています。CPU、 画面サイズ、メインメモリ、ディスプレイの画素数、グラフィック、 内部電源装置などの機能が向上すると消費電力量が増加します。
機種別ではノートブックの年間消費電力量は30kWh/年以下と非常に少ない傾向があり省エネ基準達成率も高いものがあります。一方、デスクトップはやや年間消費電力量が大きく(ノートブックの2~3倍)、ゲーム専用マシンなどは高度な性能が必要なため160kWh/年を超える年間消費電力量のものもあります。ゲームマシンでネットサーフィンを行うと非常に電力を消費するので、注意が必要です。
<参考文献>
1) 内閣府経済社会研究所、消費動向調査、令和3年3月実施調査結果、2021年3月
2) 日本政府統計窓口「e-Stat」統計でみる日本、消費動向調査、令和3年3月調査、単身世帯、主要耐久消費財等の普及・保有状況
3) 1999年通商産業省告示第194号(廃止・制定)「電子計算機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2019年経済産業省告示第69号
4) 総合エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会、電子計算機及び磁気ディスク装置判断基準ワーキンググループ、取りまとめ(案)、資料5
5)NEC LAVIE 公式サイト、LAVIE Direct N15(R)仕様、https://www.nec-lavie.jp/navigate/products2/pc/202q/07/lavie/n15/spec/index06.html
6)マウスコンピューター公式サイト、https://www.mouse-jp.co.jp/