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国の方針・計画

第6次エネルギー基本計画の閣議決定

 持続可能な社会を構築するために地球温暖化防止は人類すべてが取り組むべき課題です。そのための対策として、利用するエネルギーのうち化石燃料をどのように削減していくのかが最も重要になります。日本政府としてのエネルギー政策の基本的な方針を定めるエネルギー基本計画が改定されましたので、以下に概要を示します1)

エネルギー基本計画改定の経緯

 2021年10月22日に第6次エネルギー基本計画が閣議決定され公表されました。本計画はエネルギー政策基本法(2002年法律71号)に基づいて、国のエネルギーの需給に関する基本方針を定めるもので、エネルギーをめぐる情勢の変化を勘案して3年ごとに改定されます。

 今回の改定で注目されていたのは、近年において政府から発表されていた「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」(2020年10月26日首相所信表明演説)、「2030年温室効果ガス46%削減」(2021年4月22~23日の気候サミットでの首相表明)の2つの方針に対する対応を求められていたためです。

 過去のこれまでのエネルギー基本計画では、これらの地球温暖化防止の重要性は認識しつつも、必ずしも目標設定にその意思が表れてこなかったことがありました。これは一昨年の国連のCOP25(気候変動枠組み条約締約国会議)の開催中に、日本の地球温暖化防止対策への消極的な態度が世界的に注目され、国際的なNGO組織から化石賞などという不名誉な賞を受賞したことにも表れていました。第3次から第5次までのエネルギー基本計画において設定されていた2030年における電源構成(エネルギーミックス)の目標値を以下に示します2)


●第3次基本計画(2010年6月):原子力50%、再エネ20%、化石燃料30%
 ★東日本大震災、福島第一原子力発電所事故(2011年3月)
●第4次基本計画(2014年4月):電源構成は示されず
 ★気候変動枠組み条約締約国会議においてパリ協定合意(2015年12月)、発効(2016年11月)
●第5次基本計画(2018年7月):原子力20-22%、再エネ22-24%、化石燃料56%

 電源構成の目標の変遷を見ると、第3次基本計画においては原子力50%、再エネ(再生可能エネルギー)20%でした。計画書には原子力と再エネの両方を合わせて70%とあるだけですが、審議会資料にはこのような内訳で書いてあります。

 東日本大震災、福島第一原子力発電所事故(2011年3月)が起きた後、原子力の扱いに関する方針を出す必要がありましたが、継続的に使用を続けるとの方針が出ただけで、その後の第4次計画では電源構成は示されませんでした(第4次基本計画策定時における審議会資料については探すことができませんでした)。

 第5次基本計画での電源構成は原子力20-22%、再エネ22-24%、化石燃料56%と明記されました。ここで、初めて原子力の構成比率が出され、再エネは第3次基本計画と比較してもごくわずかな増加にとどまりました。第5次基本計画の前にはパリ協定が成立し(2015年)、温室効果ガスの削減が強く求められていましたが、日本のエネルギー政策は世界の動きから離れていたと言えます。

 この間、世界のエネルギー政策は地球温暖化防止を念頭に再エネを主力電源とする方向に進んでいました。そして、欧米を中心として脱炭素を前提として自国の国際競争力の強化を図る技術開発や国際的なルール作りが進行しており、この動きに乗り遅れると日本の世界におけるリーダーシップや経済成長も揺るぎかねない状況でした。そのため、冒頭に示した2050年及び2030年の目標に関する我が国の首相の表明になったものです。今回の計画改定においては既存の計画の目標値から2030年の温室効果ガス削減46%の目標への大きな転換を迫られていたのです。

エネルギー基本計画改定の概要

 本計画の概要は本サイトの「国内の地球温暖化対策に関する情報」の「第6次エネルギー基本計画の概要」に示しています(経済産業省のWebサイトから引用)。ここでは、そのエッセンスを箇条書き的に示します。

●2030年に向けた基本方針

 S+3Eの実現のため、最大限の取組を行う
〇安全最優先(Safety):技術・ガバナンス改革による安全性の確保
〇安定供給、エネルギー自給(Energy security):エネルギー安全保障、選択肢の多様化
〇環境適合(Environment):脱炭素化とエネルギー供給における環境配慮
〇経済効率性(Economic efficiency):供給コストの低減による自国産業競争力の強化

 この原則(S+3E)は第5次基本計画から引き継がれているもので、安全性を第一にエネルギー安全保障や電力コスト削減による産業の国際競争力の強化、脱炭素化をすることが含まれています。原発事故後の安全性の優先は必須のことですが、電力の安定供給は健全な生活、産業活動を保証するものであり、資源の自給率を高めることは石油危機を経験した我が国の経済安全保障上も重要です。さらに、脱炭素化は世界中で求められることではありましたが、今回は政府の提示した脱炭素化の目標により非常に大きな位置を占めることになりました。さらに、コストの低減(電力料金の低減)は国際競争力を高めるために産業界から強く求められていたことでもあります。

●2030年に向けた需要サイドの取組

●徹底した省エネの更なる追求、省エネ法の改正を視野にいれ制度的対応検討
●産業部門では、ベンチマーク指標や目標値の見直し、「省エネ技術戦略」の改定等
●業務・家庭部門では、住宅・建築物について省エネ性能の向上等
●運輸部門では、電動車の導入拡大、電動車関連技術・サプライチェーンの強化等

 需要サイドの取り組みとして省エネの向上がありますが、省エネ法に基づく目標値の見直しや制度設計の改定に加えて、今回は住宅・建築物の省エネ性能の向上が重点的に記載されているようです。運輸部門では電動車の導入の拡大に合わせた省エネ技術の強化が求められています。

●2030年に向けた再生可能エネルギーの取り組み

●S+3Eを大前提に、再エネの主力電源化を徹底し、再エネに最優先の原則で取り組み、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す。
●地域と共生する形での適地確保:再エネ促進区域の設定による太陽光・陸上風力の導入拡大、再エネ海域利用法に基づく洋上風力の案件形成加速
●事業規律の強化:太陽光発電の技術基準の執行、安全対策強化、条例策定の支援
●コスト低減・市場への統合:FIT・FIP制度、中長期的な価格目標、発電事業者のFIP制度
●系統制約の克服:再エネが石炭火力等より優先的に基幹系統を利用できるルールの見直し。
●規制の合理化:風力発電の導入円滑化に向けアセスの適正化、地熱の導入拡大に向け自然公園法・温泉法・森林法の規制の運用の見直し

 再エネについては、「主力電源化を徹底し、最優先の原則で、最大限の導入を促す」と強調されています。世界の潮流にやっと歩調を合わせようとしている姿勢がうかがえます。その導入量は後に示すように電源構成の36~38%を占めるまでになっています(現状18%程度)。再エネの導入の障害となっている連系線等の基幹系統を優先的に利用できるルールの見直しや、安全対策を強化して地域の導入への合意を取るための支援、アセスの適正化や自然公園法の運用見直しなどで導入を加速するとしています。

●2030年に向けた原子力の取り組み

●東京電力福島第一原子力発電所事故への真摯な反省が原子力政策の出発点
●原子力の社会的信頼の獲得と、安全確保を大前提として原子力の安定的な利用の推進
●立地自治体との信頼関係構築
●研究開発の推進

 原子力については、様々な意見がある中で今回も「安全確保を大前提に安定的な利用の推進」として記述されました。地球温暖化防止の目的を達成するためには原子力を一定期間使い続けなければならないということもあるのでしょう。これは2011年の地震被災後の第4次計画においても原発の廃止を目標としなかったことから、ある意味では必然の結果ということと思われます。

●2030年に向けた火力の取り組み

●安定供給を大前提に、再エネの瞬時的・継続的な発電電力量の低下に対応可能な供給力を持つ形で設備容量を確保しつつ、できる限り電源構成に占める火力発電比率を引き下げる。
●非効率な火力のフェードアウトに着実に取り組むとともに、脱炭素型の火力発電への置き換えに向け、アンモニア・水素等の混焼やCCUS/カーボンリサイクル等に取り組む。
●政府開発援助援等を通じた、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を2021年末までに終了。

 火力については、再エネの電力が不安定であるための調整電源として必要であるという理由で「設備容量を確保しつつ比率を引き下げる」としています。非効率な火力の廃止に取り組み、脱炭素型の火力発電への置き換えに向け、アンモニア・水素等との混焼を促進します。アンモニアは石炭との混焼から始め、最終的に100%までの転換を図る計画のようです。なお、水素、アンモニアについては、火力発電のみではなく様々な用途に活用することを別建てで記載されています(ここでは省略)。しかし、水素もアンモニアも安定供給のためには海外からの輸入に頼らざるを得ず、その輸送費用の問題とエネルギーの自給には貢献しない特徴があるようです。

●2030年に向けた電力システム改革

●脱炭素化の中での安定供給の実現に向けた電力システムを構築する。具体的には再エネ導入拡大に向けて電力システムの柔軟性を高め、調整力の脱炭素化を進めるため、蓄電池、水電解装置などのコスト低減などを通じた実用化、系統用蓄電池の電気事業法への位置付けの明確化や市場の整備などに取り組む。

 再エネの導入拡大に伴う安定供給のリスクに対して、調整力を化石燃料に依存することなく対応できる施設整備と技術開発(蓄電池、水電解装置)、蓄電池の電気事業法の位置づけなどを行うとしています。

●2030年度におけるエネルギー需給の見通し

●最終エネルギー消費(省エネ前)35,000万kLで6,200万kLの省エネ(17.7%)
●電力部門の2030年の総発電電力量は9,340億kWh、電源構成の目標値は下図の通り。
●野心的な見通しが実現した場合の3E
①エネルギーの安定供給(Energy Security):エネルギー自給率⇒ 30%程度(5次基本計画:25%)
②環境への適合(Environment):CO2の削減割合 ⇒ 45%程度(5次基本計画:25%)
③経済効率性(Economic Efficiency):電力コスト全体 8.6~8.8兆円程度(5次基本計画:9.2~9.5兆円)、kWh当り 9.9~10.2円/kWh程度 (旧ミックス:9.4~9.7円/kWh)

※コストが低下した再エネの導入拡大、IEAの見通し通りに化石燃料の価格低下した場合
注)上記の試算値は様々な前提条件が付いていますが、ここでは省略しています。

 まず、需要としての最終エネルギー消費は35,000万kLに対して省エネを6,200万kL(省エネ率17.7%)と見込んでいます。第5次計画に比べて2割以上省エネ率を増大させています。

 また上図にあるように、電源構成の新たな目標は再エネ36~38%原子力20~22%化石燃料41%、水素・アンモニア1.0%となっています。再エネの内訳は太陽光14~16%、風力5%、地熱1%、水力11%、バイオマス5%です。化石燃料のうち石炭火力は19%となっています。

 現状(2019年)との比較では、再エネは18.1%から2倍以上に増加させること、化石燃料は76%から41%まで減少させることになります。原子力は現状6%で最大で3.7倍にすることになっており、原子力規制委員会での審議において原子力をこの範囲まで増加させられるかどうかが不透明なところです。また、第5次計画との比較では、再エネは6割程度の増加、化石燃料は3割程度の減少となっています(構成比の変化で電力量ではありません)。

 この電源構成により2030年の温室効果ガスを2013年度比で45%削減することができ、これに非エネルギー起源ガス・吸収源を加えることで、目標の46%削減を達成するとしています。

おわりに

 第5次基本計画から再エネの電源構成における割合は大幅に増加しましたが、この目標値どおりに達成可能かどうかは大変不透明です。これまでの施策で現状から2倍程度の増加を達成できるのかということです。FIT(固定価格買取制度)の導入のみで再エネが拡大していくとは思えません。何より、再エネの導入主体が誰なのか不明で、個人、企業、地方自治体、国のどの主体がどれくらい導入する見込みなのか、具体的に示して欲しいところでした。

 日本型の脱炭素火力発電を前面に打ち出した施策が強調されていますが、水素とアンモニアを輸入するというのは、エネルギー自給の観点からどうなんでしょう。アンモニアを製造する際に二酸化炭素が発生する上に、輸送にも化石燃料が使われます。水素利用については実証試験が続いていますが、政府の直営事業で大規模プラントを建設するなどの方針は出せないものでしょうか。

 サプライチェーンの見直しも記載されていますが、太陽光パネル、風力発電設備、水素製造装置等を世界のどの国よりも性能が良く安い製品を国家プロジェクトで開発するなどの方針は出せないものでしょうか。結局、日本においても中国製の太陽光パネルを主体とした整備が続いていくのではないかと懸念しています。

 本年11月初めにCOP26がイギリスで開催されます。日本の新たなエネルギー基本計画を世界がどのように評価するかは、COP26の報告とともにお伝えする予定です。

<参考文献>
1) 経済産業省Webサイト、ニュースリリース、ニュースリリースアーカイブ、2021年度10月一覧、「第6次エネルギー基本計画が閣議決定」
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005.html
2) 経済産業省Webサイト、政策について、エネルギー政策、エネルギー基本計画について、「これまでのエネルギー基本計画について」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/past.html