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磁気ディスク①-省エネ性能

磁気ディスクとは

 今回は磁気ディスクの省エネについて報告します。磁気ディスクとは「金属あるいはガラスの円盤に磁性材料を塗布し,磁気による情報の記録を可能にした媒体。コンピュータの外部記憶媒体として使われる。その構造からハードディスクともいう。」(ブリタニカ国際大百科事典)と説明されています。家庭ではハードディスクという呼び方が一般的なので、この言葉を使います。

 コンピュータの外部記憶装置として使われるほか、家庭ではテレビの録画装置として使われることも多いのではないでしょうか。家庭で使われるパソコンには内臓のハードディスクがあり、さらにバックアップ用として外付けのハードディスクも使われています。記憶容量の大型化が進み、現在では家庭用のハードディスクでも80TBの容量を持つものが出てきているようです(価格ドットコム、外付けハードディスク、2021年10月20日閲覧)。個人でここまで必要かどうかは別にして、この容量も数年たてばさらに大型化が進んでいることでしょう。

 ハードディスクは下図に示すように、ディスク(プラッタ)と呼ばれる円盤にデータを記憶させ、スピンドルモータによりプラッタを回転させて、磁気ヘッドで読み書きをさせる構造になっています1)。プラッタの記憶容量の高密度化とともに、枚数を増やすことで記憶容量を増大させてきました。

磁気ディスクの種類とそのシェア

 ところで、最近は個人でハードディスクを購入してバックアップを取るよりもネットワークを介してサーバ型の記憶装置に保管する方も多いのではないでしょうか。いわゆるオンラインストレージというものですが、良く知られているものでは、Dropbox、Google Drive、Microsoftが提供するOne Drive、Amazon Driveなどがあります。ある容量までは無料で、大容量になると有料にするというタイプが多いようです。パソコン、タブレット、スマートフォン等の媒体を問わず、どこからでもアクセスできるという利点があり、セキュリティもしっかりしているので、今後は利用者が増加していくものと思われます。

 下表に磁気ディスクをディスクドライブ搭載数とディスクサイズで分類して、その分類別の消費電力量と出荷台数の推計値を示しています2)。ディスクドライブの数とディスクサイズによる分類は経済産業省の告示に示された省エネ基準の分類と同様です。ディスクサイズは3.5インチと2.5インチがあり、前者は主としてデスクトップパソコン用に、後者はノートパソコン用に用いられています。

 家庭で用いられる磁気ディスク(ハードディスク)は、ディスクドライブ1~3台の分類であり、年間消費電力量については2.5インチは4.4kWh/年、3.5インチは14.2kWh/年ですので、家庭の消費電力量における割合は少ない方です(年間稼働時間を490時間と想定しています)。従って、それほど節電に注意して利用するというものではないようです。

表-1 磁気ディスクの消費電力と出荷台数

ディスク
ドライブ
搭載数
ディスク
サイズ
消費電⼒
(W)
年間稼働
時間(h)
1台当り年間
消費電⼒量
(kWh/台)
出荷台数
(シェア)
(2015年度)
総エネルギー
消費量シェア※
(2015年度)
1〜3台2.5インチ9490(⼀⽇80分程度)4.40.0020.075
3.5インチ2914.20.9763
4〜11台3.5インチ712,920(⼀⽇8時間)2070.01630.018
12台以上2.5インチ1,6318,322(⼀⽇24時間)
※メンテナンス考慮
13,5730.00310.907
3.5インチ6,28052,2620.0024
元出所)電子情報技術産業協会
出所)総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、電子計算機及び磁気ディスク装置判断基準ワーキンググループ、「磁気ディスク装置判断基準等のとりまとめ」、2020年8月
注)2015年度出荷における平均的な磁気ディスク装置から推計。12台以上の磁気ディスク装置は2.5インチでは100台以上、3.5インチでは300台以上搭載されているものから試算。
※総エネルギー消費量シェア(%)=1台あたりの年間消費電⼒量×出荷台数/2015年に出荷された磁気ディスクの総エネルギー消費量

 しかし、日本国内での磁気ディスクに消費される年間消費電力量は2018年度で15億kWhと推定されています3)。これは日本の大口需要以外の総消費電力量4)の0.5%ほどですが、決して小さな値ではありません(小売電力の自由化前の統計数値が明確な2015年度の消費電力量を基にしています)。また、上表に示すようにオンラインストレージを扱っているデータセンター等で⽤いられる磁気ディスク装置(ディスクドライブ搭載数が12台以上)のエネルギー消費量のシェアは90.7%を占めています。オンラインストレージの利用が今後拡大していくことが想定されることから、このような大量データを扱うデータセンターでの磁気ディスクの消費電力量への省エネが求められていると考えられます。

磁気ディスクの省エネ基準

 磁気ディスクは省エネ法の対象であり、告示で省エネ基準が定められています。その告示は1999年経済産業省告示195号(廃止・制定)「磁気ディスク装置のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改正2021年告示96号です。

 新しい改正が2021年に行われており、旧告示の目標年度は2022年まで、改正された告示の目標年度は2023年度以降となっています。告示の内容については、「磁気ディスクのエネルギー消費効率」に示していますので、参考にしてください。

 磁気ディスクのエネルギー消費効率は消費電力(W)を記憶容量(GB)で除した数値です。消費電力の測定においては新告示では「電源を入力し、ディスクが回転している状態で、直ちにデータの書き込み及び読み取りをすることが可能な状態(「レディアイドルモード」)で、5秒以下の測定間隔で消費電力を7,200秒間測定し、平均消費電力を算出すること」とされています。

 省エネ基準の一例として単体でディスクが「1枚」及び「2~3枚」のものとデータセンター(メインフレームサーバ)用の3つの区分における新旧告示の省エネ基準を以下に示します。単体ディスクでディスク枚数が「1枚」及び「2~3枚」のものは新旧告示で同じ省エネ基準になっています。一方、サブシステムで用いられるサーバ用のもの(新告示ではディスクドライブ搭載可能数12台以上、ディスクサイズ75mm超を含む構成)は、旧告示では回転数の関数で、新告示では一定値(0.00170)と設定されています。

表-2 省エネ基準の一例

  旧告示(目標年度2022年度まで)  新告示(目標年度2023年度以降)
例1単体ディスク、ディスクサイズ75mm以上、ディスク枚数1枚(区分A)E=exp(2.98×ln(N)-30.8)ディスクドライブ搭載可能数1台、ディスク枚数1枚(区分Ⅰ)E=exp(2.98×ln(N)-30.8)
例2単体ディスク、ディスクサイズ75mm以上、ディスク枚数2~3枚(区分B)E=exp(2.98×ln(N)-31.2)ディスクドライブ搭載可能数1台、ディスク枚数2~3枚(区分Ⅱ)E=exp(2.98×ln(N)-31.2)
例3サブシステム用でメインフレームサーバ用のもの(区分M)E=exp(1.85×ln(N)-18.8)ディスクドライブ搭載可能数12台以上、ディスクサイズ75mm超を含む構成(区分V)0.0017
備考1.「メインフレームサーバ」とは、専用CISC(ビット数の異なる複数の命令を実行できるように設計されたCPUのうち、電子計算機毎に専用に設計されたものをいう)が搭載されたサーバ型電子計算機(ネットワークを介してサービス等を提供するために設計された電子計算機をいう)をいう。
2. E及びNは次の数値を表すものとする。
  E:基準エネルギー消費効率(W/GB)
  N:回転数( 回/分)
3. lnは底をeとする対数を表す。

 省エネ基準を算定するために、一例として具体的な磁気ディスク製品の性能仕様を下表に示しています。記憶容量12TB、ディスク枚数は9枚、回転数7,200回/分、レディアイドル時の消費電力は4.25Wです。本製品はクラウドストレージやサーバーストレージシステム等への搭載に適しているとされ、サブシステム型のものと言えます。

表-3 磁気ディスク製品の一例

項  目 内 容
メーカー東芝デバイス&ストレージ(株)
型 番MG07ACA
フォームファクター3.5型
インターフェースSATA 6 Gbit/s
記憶容量12TB
ディスク枚数9
ディスク回転数7200 rpm
データ転送速度242 MiB/s
消費電力( Idle - A )4.25 W
重量 ( Max )720 g
出所)東芝デバイス&ストレージ株式会社、公式サイト

 本製品はサブシステム用のハードディスクであるため、基準エネルギー消費効率の計算式は以下となります(計算式は表-2の例3を参照ください)。

<目標年度2022年度までの基準エネルギー消費効率>
 Es=exp(1.85×ln (N)-18.8)
 Nは回転数7,200 回/分 であるため、以下となります。
 Es=exp(1.85×ln (7,200)-18.8)= exp(1.85×8.882-18.8)=0.0936 (W/GB)

<目標年度2023年度以降の基準エネルギー消費効率>
 Es=0.00170 (W/GB)

 これらより、2023年度以降の基準がかなり厳しい基準(省エネ)となっていることが分かります。なお、本製品のエネルギー消費効率は以下より算定されます。

 E=アイドル時の消費電力/記憶容量=4.25/12,000=0.00035 (W/GB)

 したがって本製品はどちらの目標年度の基準エネルギー消費効率(省エネ基準)も満たしていることが分かります。

磁気ディスク製品の省エネ性能

 磁気ディスクは、パソコンと同様に経済産業省資源エネルギー庁の「省エネ型製品情報サイト」には製品情報の記載がないため、販売されている製品の省エネ性能の傾向を取りまとめるデータがありません。そのため、メーカーの公式サイトから製品のエネルギー消費に関するスペックを整理することで省エネ傾向を把握します。下表にウエスタン・デジタル社の製品のエネルギー消費を整理した結果を示します。

 これらの表から、エネルギー消費効率は記憶容量が大きいほど小さくなる(省エネになる)ことが分かります。これらがサブシステム用の磁気ディスクとして使われるとした場合、回転数7,200回/分のGoldシリーズの磁気ディスクは記憶容量が4TB以上であれば省エネ基準を満たします(省エネ基準1.7W/TBのため、1TBは1,000GBです)。また回転数5,400回転が中心のEZシリーズでは 記憶容量が2TB以上であれば省エネ基準を満たすことがわかります。

表-4 ウエスタン・デジタル社のハードディスクの消費電力(Goldシリーズ)

 製品型番  WD18
1KRYZ
WD16
1KRYZ
WD14
1KRYZ
WD12
1KRYZ
WD10
2KRYZ
WD800
4FRYZ
WD600
3FRYZ
WD400
3FRYZ
WD200
5FBYZ
WD100
5FBYZ
記憶容量(TB)181614121086421
ディスクサイズ(インチ)3.53.53.53.53.53.53.53.53.53.5
回転数(rpm)7,2007,2007,2007,2007,2007,2007,2007,2007,2007,200
消費電力
(W)
動作時 6.56.566.99.28.8778.18.1
アイドル時5.65.65.5587.45.95.95.95.9
エネルギー消費効率(W/TB)0.310.350.40.40.80.911.535.9
出所)ウエスタン・デジタル社、公式サイト

表-5  ウエスタン・デジタル社のハードディスクの消費電力(EZシリーズ)

 製品型番  WD60
EZAZ
WD60
EZRZ
WD40
EZRZ
WD30
EZRZ
WD20
EZAZ
WD20
EZRZ
WD10
EZRZ
WD10
EZEX
WD5000
AZRZ
WD5000
AZLX
記憶容量(TB)664322110.50.5
ディスクサイズ
(インチ)
3.53.53.53.53.53.53.53.53.53.5
回転数(rpm)5,4005,4005,4005,4005,4005,4005,4007,2005,4007,200
消費電力
(W)
読み取り/書き込み4.85.34.54.14.14.13.36.83.33.3
アイドル3.13.42.932.332.56.12.52.5
スリープ時0.60.40.40.40.60.40.41.20.40.4
エネルギー消費効率(W/TB)0.50.60.71.01.21.52.56.15.05.0
出所)ウエスタン・デジタル社、公式サイト

まとめ

 磁気ディスクはハードディスクとも呼ばれますが、家庭ではパソコンの補助記憶装置やテレビの録画用に使われています。パソコンの補助記憶装置として用いる場合は、最近はネットワークを介してサーバ型の記憶装置に保管する(オンラインストレージ)の用途が増えてきています。

 家庭用に使われるディスクドライブの数が1台の場合の年間消費電力量については、2.5インチは4.4kWh/年、3.5インチは14.2kWh/年とそれほど大きな消費電力量ではありません。しかし、磁気ディスクの総年間消費電力量は日本の大口電力以外の電力量の0.5%と推計され、決して少なくない量となっています。サーバ型のオンラインストレージは磁気ディスクの日本全体の総電力消費量の9割を占め、今後も需要が増加していくため、省エネが求められると思われます。

 磁気ディスクも省エネ法の対象機器です。告示により省エネ基準(基準エネルギー消費効率)が定められており、2021年に新告示が出され基準が新しくなりました。 磁気ディスクの省エネ基準は消費電力(W)を記憶容量(GB)で除した数値です(数値が小さいほど省エネ)。新告示の省エネ基準の区分は、 ディスクドライブの数とディスクサイズ及びディスク枚数で分類され、ディスクの回転数の関数で算定されるように決められています。

 現在販売されている磁気ディスク製品の消費電力は回転数が大きいほど増大し、エネルギー消費効率は記憶容量が大きくなるほど向上する(エネルギー消費効率の値は小さくなる)傾向にあります。今後需要が増加していくオンラインストーレージ(サーバ用)においては適切な処理速度を確保し、大容量で効率の良い磁気ディスクを採用して、省エネを目指していく必要があります。

<参考文献>
1) (一社)電子情報技術産業協会、磁気記憶装置専門委員会省エネ部会、「IT機器のトレンド、エネルギー効率等の現状と今後―磁気ディスク装置の記憶容量、消費電力の推移と省エネ技術動向」、2016年7月
2) 総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、電子計算機及び磁気ディスク装置判断基準ワーキンググループ、「磁気ディスク装置判断基準等のとりまとめ」、2020年8月
3) 経済産業省の1999年告示195号(廃止・制定)「磁気ディスク装置のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改正2021年告示96号
4)電気事業連合会、電力需要実績、2015年度分電力需要実績(確報)、電灯・電力計(3060億kWh)