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複合機②-消費電力の測定

消費電力の測定方法

 本報告では、複合機の消費電力を測定した結果を報告します。複合機とは印刷(プリンター)、複写(コピー機)、画像の電子化(スキャナー)、FAXの機能を持った電子機器のことです。近年では画像の電子化(jpg、pdf化など)を行う機会が増えてきており、複合機の普及も増加しています。本報告で使った複合機の省エネ基準等は本サイトの「複合機のエネルギー消費効率」に示していますので、参考にしてください。

 ところで、複合機の消費電力は非常に小さなものです。そして一般消費者用に販売されているワットチェッカーは消費電力が少ないものを対象にしていません。第1回目の報告(「家庭の省エネ対策(はじめに)」)で紹介した2つのワットチェッカーのうち、リーベックス(株)のET30Dは5W未満は測定できませんし、積算電力量も10Wh以上しか表示されません。また、ラトックシステム(株)のRS-WATTCH1も瞬時電力には一部欠測があるため、正確な電力量を把握することはできません。また1分値も今回のような短い時間での小電力を測定する場合には使えません。

 そのため、本報告での消費電力の測定結果は、一部のデータについて推計を行ったものです。すなわち、ラトックシステム(株)のRS-WATTCH1の瞬時電力データを用いて、以下のような補完をしています。データの欠測期間が待機時やスリープ時のように一定した電力の時は前後の値を用いて補完します。また、瞬時電力のグラフをモニターで見ながら電力モードが変わる時刻(例えば待機モードからスリープモードに変わる時点)をメモしておき、欠測期間にモードの変更点が含まれていれば、その時点からデータ値を変更するよう補完します。このような補完でも大きな誤差はないものと想定されます。

測定した複合機の性能仕様

 下表に測定に用いた複合機の性能仕様を示します。ブラザーの2017年発売のインクジェット方式の機種で、A3の印刷、コピーが可能です。印刷速度はモノクロで22ipm(22枚/分)、ファーストスピードはモノクロで5.5秒となっています。消費電力はコピー時約29W、待機時約7.0W、スリープ時約1.7Wです。A3用紙の対応が可能なため、A4までの対応機種より5割程度消費電力が大きくなっています(2017年カタログより)。

表-1 測定に用いた複合機の性能仕様

項  目  内  容
メーカーbrother
機種名(型番)GMFC-J6995CDW
プリント方式カラーインクジェット方式
プリント解像度最大1200×4800 dpi
インク4色独立カートリッジ
使用可能用紙サイズA3、A4、A5、B5、レター、はがき 等
メモリ容量512MB
印刷速度
(A4普通紙)
モノクロ約22 ipm (枚/分)
カラー約20 ipm (枚/分)
ファーストスピード(A4普通紙)モノクロ約5.5秒
カラー約6.0秒
消費電力
注1)
コピー時約29W 注2)
待機時約7.0W
スリープ時約1.7W
電   源AC 100V 50/60Hz
外形寸法(収納時)約575×477×375(mm)
質   量約23.5kg
出所)ブラザー販売株式会社、ビジネスインクジェット複合機、総合カタログ、2017年6月
注1) USB接続時の消費電力
注2) 画質:標準、原稿:ISO/IEC24712印刷パターン、ADF片面印刷時

消費電力の測定結果

 ここでは消費電力の測定を経済産業省の告示(「複合機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2019年告示第68号)に示された「印刷試験の手順」(別紙2)の方法で測定しました。当該複合機は上記の告示が改定される前の製品であるため、本告示の省エネ基準等は対象外ですので、算定された数値は参考程度にご確認ください。

 経済産業省の告示に示された複合機の印刷試験の手順をイメージで示したものが下図です(詳細は本サイトの「複合機のエネルギー消費効率」に示しています)。この試験方法では、全部で5回の印刷試験を行うことになります。1回に行う印刷枚数は、複合機の印刷速度毎に定められていて、本機の場合はモノクロ印刷速度が22枚/分であるため、1回の印刷試験で11枚の印刷を行います(告示の別紙3)。

 スイッチON直後の印刷後にスリープ状態となった後、1時間経過後にスリープ時の消費電力量を計測します。2回目からの印刷時の消費電力量が稼働時のものとして使われます。1回の印刷(11枚の印刷)における消費電力量の測定時間は15分です。15分間の積算消費電力量(下図のWJX)を計測して記録します。

注)経済産業省告示「複合機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」の別紙2「印刷試験の手順等」に示された消費電力測定のイメージ

 告示の別紙2「印刷試験の手順」に従って消費電力量を測定した結果を下図に示します。下図の通り5回印刷しており、各印刷回とも最大20W程度の瞬間的な消費電力が生じていますが、直ぐに6W程度の待機電力となり、待機電力が5分程度続いた後にスリープモードに変わっています。

注)ブラザー製GMFC-J6995CDWを対象にワットチェッカー RS-WATTCH1 を用いて経済産業省の告示別表2の「印刷試験の手順」に従って消費電力量を測定

 この結果得られた消費電力量等は以下の通りです。スリープ時の消費電力は1.4Wであり、スペックの1.7Wよりも少なくなっています。また、1回の印刷(11枚印刷、15分間)に要する消費電力量もいずれも1Wh未満と非常に少ない値となっています。なお、最終印刷時の15分経過後のスリープまでの時間(T)は計測時間の15分以内にスリープに移行したため0となっています。

  Ws=1.40 Wh/h
  WJ1=0.916 Wh(15分間)
  WJ2=0.926 Wh(15分間)
  WJ3=0.916 Wh(15分間)
  WJ4=0.881 Wh(15分間)
  T=0 (15分経過する前にスリープモードに移行したため)

エネルギー消費効率の算定

 この手順によって測定された消費電力量を使ってエネルギー消費効率(複合機の場合は年間消費電力量です)を算定することができます。この時の仮定条件は一日中スイッチを付けたままにしておくことが前提です。測定された印刷1回当り(15分間)の消費電力量と1日の印刷回数(J)を仮定して平日1日当たりの消費電力量を算定します。週末(土日)は1日中印刷せずにスリープ状態が続くと仮定します。平日と週末の数値を用いて1週間分の消費電力量を算定し、これに52週分を乗じて年間消費電力量が算定されます。

 TEC=(WD×5)+(WS×48)

 WTEC:1週間当たりの消費電力量(Wh/週)
 WD:1日当たりの消費電力量(Wh/日)
 WS:1時間当たりのスリープ時の消費電力量(Wh/h)

 次に1日当たりの消費電力量(WD)は以下で算定されます。

 D=WJ+(WT×2)+WDS

 WJ:印刷時に必要な1日当たりの消費電力量(Wh/日)
 WT:スリープ時への切り替え時の消費電力量(Wh)
 WDS:スリープ時の1日当たりの消費電力量(Wh/日)

 WJは上記の図で測定したWJ1やWAJから算定されます。1日の作業は午前と午後に分かれていて、初回に印刷する時の消費電力量がWJ1、その後の印刷によるものがWAJです。 WAJ は印刷試験の2回目から4回目の消費電力量の平均として算定されます。1日の印刷枚数を「J」枚とすると、平日の稼働時の消費電力量(WJ)は以下となります。この機種では「J」は22枚/日です。

 WAJ=(WJ2+ WJ3+ WJ4)/3= (0.926+0.916+0.881)/3=0.908
 WJ=(WJ1×2)+(WAJ×(J-2))= (0.916×2)+(0.908×(22-2))=19.99

 次に平日のスリープ時の消費電力量(WDS)は、24時間から印刷時間(15分✖J回)と印刷後のスリープモードへの移行時間を減じた時間にスリープ時消費電力を乗じて算定されます。WDSの式中の「J/4」は15分(1/4時間)がJ回印刷に使われることを指しています。また、平日の消費電力量(WD)はWJとWDSを合計して以下のように算定されます(WTは0のため省略しています)。

 WDS=(24-(J/4+T×2))×WS= (24-(22/4+0×2))×1.40=25.90
 WD=WJ+WDS= 19.99+25.90=45.89

 最後に、平日と週末の消費電力量を合計してWTEC(消費電力量/週)を算出し、これに52週分を乗じて年間消費電力量(E)を算定すると以下となります。

 WTEC=(WD×5)+(WS×48)= (45.89×5)+(1.40×48) =296.65
 E=WTEC×52/1,000=296.65×52/1,000=15.4 kWh/年

 この結果より、この複合機を電源をONのままにしておいても1週間で0.3kWh、1年間で15.4kWh( 電気代にして約420円程度)しか消費しないことが分かります。

 また、この複合機の基準エネルギー消費効率は以下の通りです(「複合機①-省エネ性能」を参照ください)。カラー印刷が可能で印刷速度が43枚/分未満のため省エネ法の区分は「a」であり、これにX=22(印刷速度)を入れることにより、以下を得ます。

 Es=2.17X+125=2.17×22+125=172.7kWh/年

 したがって本製品の省エネ基準達成率は以下の式によって算定されます。

 省エネ基準達成率=172.7/15.43×100=1,120%

 このように本製品の省エネ性能が高いのは、上図に示すようにスリープ時間まで5分程度と非常に短く設定されているためと考えられます。

まとめ

 本報告では実際に複合機の消費電力を測定した結果を示しました。測定は経済産業省の告示に示されている「印刷試験の手順」に従って行いました。複合機の消費電力は非常に少ないため、家庭用のワットチェッカーでは正確に測定することが困難でしたが、適切な補完を行うことで把握が可能となりました。

 測定に用いた複合機は2017年に発売されたブラザー製、GMFC-J6995CDWで、A3の印刷、複写が可能、印刷速度22枚/分(モノクロ)という機器です。得られた結果は、スリープ時消費電力は1.4Wであり、スペックより2割ほど少ないものでした。また、1回の印刷時の消費電力量(15分間)も1W未満であり、印刷待ちの待機電力も6W程度、スリープまでの時間は5分程度であるため、1日中電源を付けておいても大きな消費電力量とはならないことが予想されました。

 その消費電力量を用いて、経済産業省の告示に示された年間消費電力量を算定した結果、15.4kWh/年となり、電気代にして約420円程度(27円/kWhを仮定)でした。測定対象にした製品はA3の印刷が可能なため消費電力はやや大きめではありましたが、スリープまでの時間が5分程度と短いため1日のスリープ時間が長く、2019年に設定された省エネ基準172.7kWh/年(告示「区分a」の印刷速度22枚/分)を大きくクリアするものでした。

 ただし、経済産業省の告示による年間消費電力量の算定方法では、本製品の1日の印刷枚数が22枚で、週末は印刷しないという仮定のため、この枚数が多い家庭ではこの限りではありません。

<参考文献>
1) ブラザー販売株式会社、ビジネスインクジェット複合機、総合カタログ、2017年6月
2)経済産業省2013年告示第36号(制定)「複合機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2019年告示第68号