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COP26の結果報告①-結果の概要

世界の首脳の集結

 COP26(第26回気候変動枠組み条約約締約国会合)が英国グラスゴーで10月31日から行われ11月13日に終了しましたので、今回はその報告をします。この会合では同時に京都議定書第16回締約国会合(CMP16)、パリ協定第3回締約国会合(CMA3)も行われています。

 気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が発表した資料によれば、COP26 の参加者(対面・オンライン参加を含む)は、各国代表団が22,274 名、オブザーバー(NGO・企業・研究機関などの非政府主体)が14,124 名、メディアが3,886 名(11月6日時点)であり1)、過去最高の参加者であったとされています2)

 11 月1~2 日まで「世界リーダーズサミット」が開催され、国連アントニオ・グテレス事務総長をはじめ、米国のバイデン大統領やG20 首脳級会合の議長を務めたイタリアのドラギ首相等、130 か国以上の首脳が出席しました。各国首脳はプレナリー会場でスピーチを行い、気候変動対策の推進に向けた取組が発表されました3)

 ただし、中国の習近平国家主席の対面及びオンラインの出席はなく、声明文書が公開されたのみでした。またG20 加盟国では、中国以外にブラジルやサウジアラビア、南アフリカの首脳も欠席しました。しかし、世界第3 位の温室効果ガス排出国であるインドのモディ首相は出席し、2070 年ネット・ゼロを発表しました。インドの発表を歓迎する声は多かったと報告されています3)

 「世界リーダーズサミット」には日本から岸田総理大臣が出席し、以下のような発言をしたことが報告されています4)

●2030 年までの期間を「勝負の10年」と位置づけ、全ての締約国に野心的な気候変動対策の呼びかけ
●新たな2030年における温室効果ガス削減目標(新たなNDCに基づく46%の削減)
●今後5年間での100億ドル資金支援の追加及び適応資金支援の倍増の表明
●グリーンイノベーションの推進、グローバル・メタン・プレッジへの参加等の取組

COP26における主な課題

 本会合で注目されていた事項は以下の通りです。
 ●気温上昇抑制の目標と実現性
 ●パリ協定のルール化(市場メカニズム、透明性の確保、共通時間枠)
 ●石炭火力発電の廃止
 ●適応と損失・被害(ロス&ダメージ)

 まず、気温上昇抑制の目標については、パリ協定第2条において「平均気温を2℃より充分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」として、1.5℃は努力目標にとどまっていました。その後IPCCから地球温暖化の影響を最小限に抑えるためには1.5℃以下に抑えることが望ましいとの特別報告が出され、その取扱いが課題となっていました。また、その目標の実現性についてもこれまで各国から提出されているNDC(Nationally Determined Contribution: 自国が決定する貢献→国別削減目標を指します)を集計したときにその目標を達成できるのかが課題でした。

 さらに、COP24から先送りになっているパリ協定のルールブックの完成と合意が課題となっていました。パリ協定第6条の市場メカニズムについては、国際的に移転される温室効果ガス削減量の二重計上防止のルール、京都議定書下のCDM(Clean Development Mechanism:クリーン開発メカニズム)クレジットの扱い、6条を通じた適応支援、クレジットの算定手法等が論点でした。また、透明性の確保とは、CMA1 で採択された実施指針に基づく各国の温室効果ガス排出量の報告及びNDC 達成に向けた取組の報告様式が交渉の論点となっています。

 そして、適応、損失と被害(ロス&ダメージ)については、適応に関する資金支援と既に地球温暖化によって損失と被害が生じている国に対する補償を求めていたことに対する対応です。島嶼国の中には既に地球温暖化による損失と被害が生じているとして、適応資金とは別に補償が必要であると主張し、先進国が反対して同意が得られず先送りされていました。

 また、石炭火力発電については、会合前から議長国の英国首相が日本に対して石炭火力発電の廃止を求めたことがニュースでも伝えられており、日本がどのような対応をするかに注目が集まっていました。石炭火力発電から排出されるCO2は天然ガスの2倍とされており、環境NGOからも石炭火力発電の早期廃止が叫ばれてもいました。しかし、下図に示すように国によって電源構成の違いがあり、現状で石炭火力発電の割合が高いインド、中国、そして日本もこれに応じることは困難が伴うというのが一般的な見方でした(下図参照)。

出所)International Energy Agency (IEA), World Energy Balances, 2021年11月19日閲覧
https://www.iea.org/data-and-statistics/data-product/world-energy-statistics-and-balances,
注)中国、インド、ロシア、ブラジル、インドネシアは2019年、その他は2020年のデータ。

結果の概要

<気温上昇抑制の目標と実現性>
 気候変動の目標について、UNFCCCのサイトにあるCOP26の決定事項(Decision -/CP.26)には以下のような文章が記載されています5)

 「気候変動の影響は、2℃と比較して1.5℃の温度上昇ではるかに低くなることを認識し、温度上昇を1.5℃に制限する努力を追求することを決意します。」

 このことは、これまでの2℃から1.5℃に目標が変わったと言っても良いことを意味しています。これは、COP26 冒頭のグテレス国連事務総長のスピーチや議長国の取りまとめ方針からも強く意識されていたことでした。

 また、1.5℃を達成する実現性については、COP26までに変更されたNDC(2030年目標)の削減量を集計しても190~230億トンの排出ギャップがあることが分かりました。そのため、1.5℃目標には遠く及ばないことを認識し、2022年までに必要に応じて2030年削減目標の見直し、強化を求めるとされました2)

<パリ協定のルール化(市場メカニズム、透明性の確保、共通時間枠)>
 パリ協定のルール化については、第6条の市場メカニズムや透明性の確保、共通時間枠(NDC 実施の共通の期間)が協議の対象となりました。

 パリ協定第6条については、二国間協力や国連が主導するCDMで生ずるCO2削減量の二重計上を防止する対策をルール化しました。京都議定書下のCDMで獲得したクレジットのうち2013年以降に獲得したクレジットをパリ協定の削減量に移管することができることになりました。さらに、適応支援についてもその方法が決定されました。これによりパリ協定ルールブックが完成されたことになります。

 なお、パリ協定第6条の取り決めの内容については、本年11月26日にオンラインセミナーでIGES(公財地球環境戦略研究機関)から詳細な報告があるため、その結果を本サイトでも報告する予定です。

 次に、透明性の確保については、全締約国に共通の項目・表で排出量の報告を行うこと、また比較可能な表形式でNDC 達成に向けた取組の報告を行うことが決定されました。また、キャパシティ・ビルディングを含む報告のための支援のあり方についてはCMA4 で新たな議題の下、継続して議論することが合意されました。さらに、共通時間枠については、これまで目標年度が明確でなかった2031年以降のNDCの目標年度については、全締約国に対し2025 年に2035 年目標、2030 年に2040 年目標を通報(以降、5年毎に同様)することを奨励する決定が採択されました。

<石炭火力発電の扱い>
 日本政府代表団の報告には記載されていませんが、議長国英国がこだわった石炭火力発電の取り扱いについては、以下のように表現されました5)

 「締約国に対し、技術の開発、展開、普及、および政策の採用を加速し、クリーンな発電の展開とエネルギー効率対策の迅速な拡大を含む、低排出エネルギーシステムへの移行を呼びかける。対策が講じられていない石炭火力発電の段階的削減と非効率的な化石燃料補助金の段階的廃止に向けて、国の状況に沿って最も貧しく最も脆弱な人々に的を絞った支援を提供し、公正な移行に向けた支援の必要性を認識します。」

 上記の強調文字の原文は以下の通りです。石炭火力発電はphasedown化石燃料補助金はphase outになっています3)。当初はどちらも段階的廃止(phase out) としていましたが、この表現を全体会合の場でインドが提案したとされています。
「including accelerating efforts towards the phasedown of unabated coal power and phase-out of inefficient fossil fuel subsidies」

 今回のCOP26において主催者の英国政府関係者は石炭火力発電の廃止にこだわってきたと言われており、この決定に失望したとも伝えられています。なお、日本もエネルギー中期計画では2030年の電源構成として石炭火力発電の割合を19%としているため(本サイトの「第6次エネルギー基本計画の概要」及び「第6次エネルギー基本計画の閣議決定」を参照ください)、会合開催中の最中11月2日に前回に引き続きNGOから化石賞を受賞しています6)

<適応・損失と被害(ロス&ダメージ)>
 適応に関する世界全体の目標(GGA: Global Goal on Adaptation)の実施に向けた取組についての議論が行われ、今後はGGA について議題を設定して議論していくこと、今後2年間の作業計画「GGA に関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画」を開始することが決定されました。ロス&ダメージについては、サンティアゴ・ネットワークの機能及び技術支援を目的とする資金の提供について議論が行われ、来年春の補助機関会合において、グラスゴー対話を立ち上げ、議論を継続することが決定されました。

 ところで、本会合の開催中に米国と中国が気候変動対策に関する共同宣言を発表しました。これは、両国が今後10年の気候変動対策を話し合う作業部会を設けるほか、中国が今後5年間で石炭消費量を段階的に削減することや、メタンガスの排出削減計画を策定することなどが柱となっています7)。この声明に現れているように温室効果ガスの削減対象をこれまでのCO2に加えてメタンも対象にする動きが出てきています。本会合で2030年までメタン排出量を2020年比30%削減するイニシアティブに100か国以上が誓約したとされています2)。今後は、CO2だけでなくメタンに対する対策も求められていくものと思われます。

<参考文献>
1) UNFCCC、COP26公式サイト、
https://unfccc.int/conference/glasgow-climate-change-conference-october-november-2021
2) IGES気候変動ウェビナーシリーズ、COP26の成果:気候変動トラック、2021年11月9日
3) IGESブリーフィングレポート、第26 回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)~第1 週目を終えて~、2021年11月
4) COP26日本政府代表団、国連気候変動枠組条約第26 回締約国会合(COP26)結果概要、2021年11 月15 日、環境省Webサイトより、https://www.env.go.jp/press/files/jp/117098.pdf
5) Outcomes of the Glasgow Climate Change Conference, United Nation Climate Change,
https://unfccc.int/process-and-meetings/conferences/glasgow-climate-change-conference-october-november-2021/outcomes-of-the-glasgow-climate-change-conference
6)Climate Action Network Japan (CAN-Japan)、プレスリリース、日本、「本日の化石賞」を受賞 岸田首相の演説で:COP26グラスゴー会議(2021年11月2日)
https://www.can-japan.org/press-release-ja/3066
7)JETRO(日本貿易推進機構)ビジネス短信、バイデン米政権、COP26で中国との気候変動対策に関する共同宣言発表、
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/11/e52847fe0fedd14e.html