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COP26の結果報告②-パリ協定第6条

パリ協定第6条に関する課題

 今回も引き続きCOP26の報告をします(COP26の概要については「COP26の結果報告①-結果の概要」を参照ください)。COP26で重要な課題は、COP24からの継続議題となっていたパリ協定第6条の具体化されていない部分について、ルールブックを完成させるということでした。今回は日本政府代表団の結果報告及び各種セミナーの結果などからその概要を報告します1)2)

 パリ協定第6条とはどのようなものでしょうか。COP21で締結されたパリ協定第6条の条文(和文翻訳版)を以下に示します3)4)

パリ協定第6 条
1. 締約国は、一部の締約国が、国が決定する貢献の実施に際し、緩和及び適応に関する行動を一層野心的なものにすることを可能にし、並びに持続可能な開発及び環境の保全を促進するため、任意の協力を行うことを選択することを認識する。
2. 締約国は、国際的に移転される緩和の成果を国が決定する貢献のために利用することを伴う協力的な取組に任意に従事する際には、持続可能な開発を促進し、並びに環境の保全及び透明性(管理におけるものを含む。)を確保するものとし、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が採択する指針に適合する確固とした計算方法(特に二重の計上の回避を確保するためのもの)を適用する。
3. 国が決定する貢献を達成するための国際的に移転される緩和の成果のこの協定に基づく利用については、任意によるものとし、参加する締約国が承認する
4. 温室効果ガスの排出に係る緩和に貢献し、及び持続可能な開発を支援する制度を、締約国が任意で利用するため、この協定により、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議の権限及び指導の下で設立する。当該制度は、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が指定する機関の監督を受けるものとし、次のことを目的とする。
(a)持続可能な開発を促しつつ、温室効果ガスの排出に係る緩和を促進すること。
(b)締約国により承認された公的機関及び民間団体が温室効果ガスの排出に係る緩和に参加することを奨励し、及び促進すること。
(c)受入締約国(他の締約国が決定する貢献を履行するために用いることもできる排出削減量を生ずる緩和に関する活動により利益を得ることとなるもの)における排出量の水準の削減に貢献すること。
(d)世界全体の排出における総体的な緩和を行うこと。
5.受入締約国は、4に規定する制度から生ずる排出削減量について、他の締約国が決定する貢献を達成したことを証明するために用いる場合には、当該受入締約国が決定する貢献を達成したことを証明するために用いてはならない
6.この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、4に規定する制度に基づく活動からの収益の一部が、運営経費を支弁するために及び気候変動の悪影響を著しく受けやすい開発途上締約国の適応に係る費用の負担を支援するために用いられることを確保する。
7.この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、第一回会合において、4に規定する制度に関する規則、方法及び手続を採択する。
8項以降省略

 第6条は京都議定書に盛り込まれた市場メカニズム、すなわち「他国での緩和行動による温室効果ガス(以降GHGと称する)排出削減量を自国での緩和行動としてカウントすること」が示された部分です。まず、第6条2項、3項の記載内容については、二国間での協定によって行われたGHG排出削減量をNDC(Nationally Determined Contribution:国が決定する貢献)にカウントできることを示したものです。

 これは、日本政府が進めるJCM事業(Joint Crediting Mechanism)の枠組みとなるものです。日本ではこれまでJCM事業に政府が設備設置への補助金を出して事業を推進してきました。しかし、パリ協定の批准後においても第6条の詳細が決定せず、JCM事業の位置づけが不明確なままでした。今回、パリ協定第6条2項、3項に関する詳細なルールが決まったことは大変有意義なこととして歓迎されました。

 一方、第6条4項~7項はこれまでの国連主導型の市場メカニズムを意味しており、パリ協定締約国会議の権限と指針の下で承認されたGHG排出削減量をカウントすることを認めるというものです、これまでのCDM(Clean Development Mechanism)と同様の位置づけとなっており、一部の国からは過去に実施したCDM事業での削減量をNDCに参入することを認めるよう求められていました5)

 なお、第6条6項に、「この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、4に規定する制度に基づく活動からの収益の一部が、運営経費を支弁するために及び気候変動の悪影響を著しく受けやすい開発途上締約国の適応に係る費用の負担を支援するために用いられることを確保する。」と記載があります。これは第6条4項の活動を対象にしたものですが、活動の内容は類似しているため、第6条2項の活動にも適用されると解釈する国もあり(自動的に適応基金に充当される課税措置(SOP:Share of Proceeds))として、途上国と先進国での協議が対立する事項となっていました。

 また、第6条4項でのGHG削減対象についても、NDCに計上する場合に二重計上がないよう調整する相当調整(CA: Corresponding Adjustment)が求められますが、この部分については相当調整の対象外と主張する国もあり、これまで合意に至っていませんでした。これらの課題に対する各国の主張を図示したものが下表です。図中のCER(Certified Emission Reduction)とはクレジットと呼ばれ、承認されたGHG削減量のことを言い、市場で取引することが可能です5)

出所)地球環境戦略研究機関(IGES):COP25結果報告、パリルールブック、パリ協定第6条、2019年12月23日、「COP25における6条の論点」

 これらの市場メカニズムで達成したGHG排出削減量を自国の削減目標達成に活用するには、以下のことが求められるとされており、そのことを確実に行える報告書の様式などが課題となっていました。
・「厳格な算定方法を適用し、特に二重計上(double counting)を避ける」、「持続可能な開発の推進」、「環境十全性および透明性の確保(ガバナンス面も含む)」が条件となる。
・緩和成果の国際移転を行う場合、パリ協定締約国会合が今後採択する指針(ガイダンス)と整合的であることも求められる。

パリ協定第6条に関する協議結果

 COP26において、パリ協定第6条2項と4項に関する協議結果をまとめたものを下表に示します2)

条項課題決定事項
6条2項ITMOs(緩和成果)の定義2021年度以降の排出削減量に適用。その用途は①NDC(参加国が承認したもの)、②国際的な緩和目的(CORSIA等)、③その他の目的(自主取引)に使用できる。
二重計上防止ルール二重計上防止のため相当調整(CA)を行う。クレジットの報告、レビュー、管理登録簿の規定などのルール化。
利益の一部を途上国への適応支援のために拠出する(SOP)利益の一部を自動的に拠出する仕組みは規定しない。「適応基金に拠出することを強く促す」、「その拠出額などを報告する」として自主的に貢献する。
6条4項新たな国連主導のクレジット制度の構築監督委員会の設立と基本的なルールの採択(参加要件、制度のサイクル、方法論、適応の貢献(SOP)とクレジット取消(OMGE)の決定等)
二重計上防止ルール二重計上を防止するための相当調整を行う。
CDMクレジットをパリ協定に移管すること2013年以降に登録されたクレジットのみ使って良いことに決着。
注)ITMOs(Internationally Transfer Mitigation Outcomes):国際的に移転された緩和成果
CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation):国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム
CA(Corresponding Adjustment):相当調整、NDCにカウントする場合に二重計上しないように二国間で調整を行うこと
SOP(Share of Proceeds):適応のための課税的措置

 まず、第6条2項については、ITMOs(Internationally Transfer Mitigation Outcomes:国際的に移転された緩和成果)の定義を明確にしました。すなわち、パリ協定で対象とする緩和成果(排出削減量)は2021年度以降のものに適用されます。そして、その用途は①NDC(参加国が承認したもの)、②国際的な緩和目的(CORSIA等)、③その他の目的(自主取引)に使用できることとなりました。

 第6条2項の二重計上防止ルールについては、二重計上防止のため相当調整(CA)を行うこととされました。そのためにクレジットの報告、レビュー、管理登録簿の規定などがルール化されました。

 排出削減の利益の一部を途上国への適応支援のために拠出する仕組みを作ることについては、自動的に拠出する仕組みは規定しない(課税措置ではない)が、代わりに「適応基金に拠出することを強く促す」、「その拠出額などを報告する」という条件で決着しました。

 次にパリ協定第6条4項に関しては、新たな国連主導のクレジット制度を構築するために、監督委員会の設立と基本的なルール(参加要件、制度のサイクル、方法論、適応の貢献(SOP)とクレジット取消(OMGE)の決定等)が採択されました。今後策定される方法論については、CDMに比べてより保守的な厳しいルールになりそうであるとのことです2)

 また、二重計上の防止については第6条2項と同様に相当調整を行うことになりました。そして、京都議定書下のCDM活動によるクレジットについては一部2013年以降に登録されたもののみをパリ協定に移管することが合意されました。

 この結果、パリ協定第6条の実施指針が採択され、パリルールブックが完成されたと言われていますが、内容について各国の解釈に相違があるかもしれないため、今後微調整が続くのではないかと言われています2)

クレジットの取引

 COP26で定義されたITMOs(緩和成果=クレジット)はNDCに参入できるほか、国際的な緩和目的に活用することや自主的に取引できることになっています。JCM事業では、取得したクレジットのうち半分以上が日本国政府(NDCにカウント)に、残りの半分は事業を実施している事業者、または相手国政府が取得できることになっており、その配分は関係者の協議により決定されるとしています6)

 これまでの京都議定書の下でのCDM事業で取得したクレジット(CER)については、社会全体としてのGHG削減を効率的に行うことを目的として、市場で取引することでクレジットの価格が決定されていました。この価格は炭素1トン当たりの価格で取引されるため、炭素価格(carbon price)とも呼ばれています。このクレジットを取引するためにはそのための市場(オークション)がなければならず、CDMではクレジットを売買する市場が存在していました。

 ヨーロッパではCDMのクレジット(CER)とは別のクレジットが存在し、市場で価格が決められています。欧州連合では2005年から欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS: European Union Emission Trading System)が導入され、試行錯誤を重ねながら低炭素経済への移行を試みてきました7)。EU ETSはキャップ&トレードという方式を採用しています。欧州経済領域の31か国における約12,000の発電所、商業施設と航空事業者を対象に、許容排出量(排出枠:EUA=European Union Allowance)が決められ、対象事業者はその達成のために許容排出量の過不足を取引できるようになっています。そのため、欧州連合ではこのクレジットのことをEUAと呼んでいます。

 クレジット価格はこれまでクレジットの需給関係や社会経済的な要因などにより大きく変動してきました。CDM事業でのCERは最大で15€/t-CO2になることもありましたが現在ではその価値はほとんどありません。一方、EUAも大きく変動してきましたが、現在ではカーボン・オフセットによるクレジットの需要の高まりから、60€/t-CO2以上に価格が上昇してきているようです(2021年9月時点の値です)8)

 一方、日本においてJCM事業で得られたクレジットの取引については以下となっています(以下、炭素市場エクスプレスのwebサイトから引用)。

「海外を拠点とする企業等がクレジットを取引するには、日本のJCM登録簿に口座を開設する必要があります。JCMクレジットは日本政府の温室効果ガス(GHG)削減目標の達成に活用される他、事業者においてはGHG算定・報告・公表制度における調整後排出量の調整や自社の排出量をオフセットするカーボン・オフセット等へ活用することができます。」

 JCM事業で得られたクレジットの取引についても、今後は欧州連合のようなオークションによって価格が決まっていくことが必要と思われます。今回のCOP26によりパリ協定第6条の市場メカニズムが確立したことでJCM事業の国際的な裏付けができたことから、事業への参加者も増加しGHG排出削減量が拡大され、日本の将来目標の達成に貢献できるようになることが期待されます。

<参考文献>
1) COP26日本政府代表団、国連気候変動枠組条約第26 回締約国会合(COP26)結果概要、令和3年11 月15 日、環境省Webサイトより、https://www.env.go.jp/press/files/jp/117098.pdf
2) 地球環境戦略研究機関(IGES):ISAP2021 テーマ別会合、パリ協定第6条の交渉結果と今後の炭素市場の展望、2021年11月26日
3) 環境省、地球環境・国際環境協力、パリ協定に関する基礎資料、パリ協定(和訳)、http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop/shiryo/10a01tr_jp.pdf
4) Paris Agreement, United Nations, UNFCCC, 2015
https://unfccc.int/files/essential_background/convention/application/pdf/english_paris_agreement.pdf
5) 地球環境戦略研究機関(IGES):COP25結果報告、パリルールブック、パリ協定第6条、2019年12月23日、https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/3-1_Takahashi.pdf
6) 炭素市場エクスプレス:二国間クレジット制度(JCM)に関するFAQ,、クレジットについて
https://www.carbon-markets.go.jp/faq/jcm.html
7) 地球環境戦略研究機関(IGES):欧州連合域内排出量取引制度の解説、2019年3月
8) 日本貿易振興機構(JETRO):海外ビジネス情報、地域分析レポート、世界で導入が進むカーボンプライシング(前編)炭素税、排出量取引制度の現状、2021年9月10日、
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0401/946f663521dac9af.html