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国の方針・計画

冬季の省エネルギーの取り組みの通知

 去る11月5日に経済産業省から「冬季の省エネルギーの取り組みについて」が通知されていました。この通知は「省エネルギー・省資源対策推進会議省庁連絡会議」の決定とされています。背景として、日本が2050年までのカーボンニュートラルのために脱炭素化を進める必要があるということに加えて、今年度はエネルギー需要が増大する冬季の電力供給不足が懸念されるためです1)

 また、世界的にみれば、LNG や石炭等の発電用燃料の供給が不足し、各地で電力需給のひっ迫や燃料価格の高騰が生じています。こうした最近の国際情勢により我が国の燃料や電力の安定供給に与える影響は予断を許さない状況にあることも背景にあるようです。そのため、省エネルギーへの取り組みについて国をあげて強化するとしています。

2021年度冬季の電力需給の状況

 通知では、「特に本年度冬季の電力需給見通しについては、追加的対策を講ずるなどしてようやく最低限必要な予備率を確保するに至っており、過去10年で最も厳しいものとなっている」としています。

 下図に今冬の電力供給管内別の予備率(電力の需給バランス:電力供給が需要を上回る割合)を月別(12月~3月)に示します2) 。この図において、「中西6エリア」とは、電力の広域融通が可能な中部、関西、北陸、中国、四国、九州の6電力供給管内を示しています。

 下図の注釈にあるように、「エリア間融通を勘案後の数値であり、需給検証においては、最も厳しい断面において予備率が確保できているかを確認することを目的としており、新型コロナウイルスの影響による需要の減少見通しは考慮していない。」と記載されています(ここで、最も厳しい断面とは、10年に1度の厳しい寒さを想定した最大需要発生時と想定されます)。

 これより東京管内の1月と2月の予備率が3.2%、3.1%と非常に小さいことが分かります。また、中西6エリアも広域的な連携を行っても、2月には3.9%と厳しい状況が分かります。

出所)経済産業省資源エネルギー庁:2021年度冬季に向けた電力需給対策について、2021年10月26日、https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211027003/20211027003.html
元出所)需給検証報告書
注)予備率等はエリア間融通を勘案後の数値、需給検証においては、最も厳しい断面において予備率が確保できているかを確認することを目的としており、新型コロナウイルスの影響による需要の減少見通しは考慮していない。

電力の需給バランスが崩れるとどうなる?

 電力の需給バランスがくずれるとどうなるのでしょうか。電力の供給は需要に合わせて「同時同量」を送るのが原則です。需要が供給を大きく上回ると電気の周波数が低下します。電気(交流)は電圧のプラスとマイナスが交互に入れ替わって、波のように流れています。この波が1秒の間に起こる回数を「周波数」と呼びます(下図)。東日本では50Hz、西日本では60Hzで供給しています。電気を供給する時は、この「周波数」を一定に保つことが必要となります。

出所) 経済産業省資源エネルギー庁:スペシャルコンテンツ、「2月13日、なぜ東京エリアで停電が起こったのか?~震源地からはなれたエリアが停電したワケ」、2021年4月16日

 周波数が低下すると発電機が故障したり、需要者が使っている電気機器も異常動作したりすることになります。そのため、電力会社は発電機を切り離したり、需要を一部自動的に緊急遮断したりする機能を有しています。すなわち、緊急遮断された地域では停電となります。このような対策を行って、需要に対して供給をバランスさせて周波数を正常に回復させ、発電機の正常化と地域全体の停電(ブラックアウト)を防いでいます3)

 しかし、このブラックアウトが実際に起こったのが北海道胆振東部地震に伴う北海道全域での大規模停電でした4)。2018年9月6日3時7分に最大震度7の地震が起きました。この地震によって3時25分、日本で初めてとなるエリア全域におよぶブラックアウトが発生してしまいました。これは、地震により主力である苫東厚真火力発電所が機器の損壊により停止し、その後周波数の低下によって各種の発電所(風力、水力含む)が停止、その結果需要地の緊急遮断が生じ、それが連鎖的に生じて地域全域に拡大していったものでした。その2日後には需要家の99%が復旧されましたが、これが冬期に生じた場合には多大な被害が出た可能性があります。

 このような事例は、大幅な需給バランスの崩壊が原因ですが、発電所の故障による補修などは良く生じることであり、需給がひっ迫した時にこのようなことが起きるとブラックアウトにはならなくても比較的広い地域での停電は避けることはできないと思われます。

2021年冬季の電力供給サイドの対策

 参考文献2(総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会の協議資料)では、今後供給サイドで以下の対策をとることを協議しています。
● 広域機関は、今回実施した電力需給検証後の供給力等の以下の変化を継続的に確認する。
 (1) kW予備率のモニタリング(1ヶ月程度先までの週別バランス評価)
 (2) kWh余力率のモニタリング(2か月程度先までの余力推移)を定期的に実施し、HPにて公表予定。
● 昨冬の需給ひっ迫時に実施した供給電圧調整は供給力対策として一定の効果があるため、これについても検討していく。
● 昨年度生じた燃料制約の発生は回避できる見込みであるが、電源の燃料制約が発生するリスクもあるため、一般送配電事業者によるkWh公募(燃料等の追加調達)を行うことも選択肢としてある。
● 需要者に対して節電の要請を行う必要はないが、今冬の電力需給は過去10年間で最も厳しい見通しであり、無理のない範囲での効率的な電力の使用(省エネ)の取組が今まで以上に重要であるとのメッセージを発出することを提案。
● 産業界に対して、省エネの取組の呼びかけとともに、ディマンドレスポンス等に積極的に応じるとともに、緊急時において柔軟に対応するよう要請を提案。

 これをみると、昨年度も電力需給が非常にひっ迫しており、様々な対策が取られてきたことが分かります。そして、今年も同様の対策をとる準備をしつつも、節電を一般の国民に要請することはせず、現状の情報を伝えて状況を確認しながら対策を実施していくという姿勢のようです。

2021年冬季の需要者サイドの対策

 通知において需要者サイドに求められていることを以下に引用します。

● 省エネルギーの取組に対する国民各層の理解と協力を得るため、家電製品の省エネ性能カタログによる情報発信 や WEBシステム「省エネ製品買換ナビゲーション『しんきゅうさん』」の活用による省エネルギー・ 脱炭素社会の構築に貢献する 製品への買換え 促進 、省エネルギー月間の広報など、産業、業務、家庭、運輸の各部門において、きめ細かな情報提供及び普及啓発活動等を実施する。
●「みんなでおうち快適化チャレンジ」キャンペーンにより、新築住宅のZEH化・既存住宅の断熱リフォームと省エネ家電への買換えを促進する。
●自治体の庁舎・建築物の省エネルギー改修・建替えを進め、地域の省エネルギーの先進事例として、地域全体への波及効果を含めて地域の省エネルギー化を実現する。
●各家庭のライフスタイルに合わせた省エネルギー、省CO2対策を提案し、効果的な対策に結びつける「家庭エコ診断」を引き続き実施し、更なる認知度の向上を図る。
● 徹底した省エネルギーを確実に達成するため、省エネルギー・脱炭素社会の構築に貢献する製品、サービス、ライフスタイルを選ぶ「COOL CHOICE」により、具体的な行動変容を促進し、旧式の製品等から省エネルギー・脱炭素社会の構築に貢献する製品等への切り替えや、ウォームビズ実施率の向上などを進めていく。また、国民一人ひとりが自分ごと化して取り組める「ゼロカーボンアクション30」の周知により、脱炭素社会の理解醸成及びライフスタイルの行動変容を促す。
●このほか、移動の脱炭素化を目指して、省エネに資する電気自動車EV 、プラグインハイブリッド車 PHEV または燃料電池自動車FCVと再生可能エネルギー電力を組み合わせた「ゼロカーボン・ドライブ(略称:ゼロドラ)」を呼びかけるとともに、ゼロドラの実践を後押しする取組を進める。

 上記にあるように、「各家庭のライフスタイルに合わせた省エネルギー」を行うことが求められています。家電製品については、これまで夏季の電力消費を中心に検討してきました。今後は、冬季の省エネ対策(暖房)の検討も必要と考えられます。暖房については、住宅の断熱化が基本的な施策ですが、その検討の前に家電の消費電力について検討していきます。

<参考文献>
1) 経済産業省、ニュースリリース、「冬季の省エネルギーの取組について」を決定しました、2021年11月5日、https://www.meti.go.jp/press/2021/11/20211105001/20211105001.html
2) 経済産業省資源エネルギー庁:2021年度冬季に向けた電力需給対策について、2021年10月26日、https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211027003/20211027003.html
3) 経済産業省資源エネルギー庁:スペシャルコンテンツ、「2月13日、なぜ東京エリアで停電が起こったのか?~震源地からはなれたエリアが停電したワケ」、2021年4月16日
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/why_teiden.html
4) 経済産業省資源エネルギー庁:スペシャルコンテンツ、「日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」、2018年12月2日、
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html