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空調・住環境

エアコン(6)-暖房時の環境質管理

エアコンの暖房時の課題

 今回もエアコンの暖房時の消費電力に関して報告します。暖房に使われるエアコンの消費電力量は大変大きなものです。脱炭素社会において化石燃料を使用するストーブが使えなくなったとき、再生可能エネルギー起源の電気を使ったエアコン等に頼らざるを得ません。そのため、エアコンの消費電力量に気を付けながら使用することになり、エアコンの暖房としての機能をよく理解する必要があるのです。

 また、ストーブと違ってエアコンは短時間で暖かくならないことから、寒冷地での使用が可能なのかという問題もあります。さらに室内に温度分布ができて人がいる下部は暖かくなりにくいことや、場所による温度の違いもあります(温度の垂直、水平分布の問題)。また、乾燥した温風により肌が荒れたり、空気中のウイルスの生息にも関係したりすることなどから、湿度コントロールも重要な課題となります。今後は、暖房時の環境質(温度、湿度)を適切に管理することが一層求められるでしょう。

 そこで、今回はエアコン使用時の環境質の管理に関して、測定データを基にした分析と解決策を探りたいと思います。室内環境の不確定要素をなるべく少なくするため、今回は比較的狭い空間でのエアコン使用における環境質の変化と消費電力量を把握することにします。なお、この測定は研究機関が行うような精密な測定ではなく、あくまでも家庭にある簡易な計測機器を用いた測定であるため、計測精度がそれほど高くないことを断っておきます。

環境質の測定方法

 測定に使われる部屋は下図に示す通りです。部屋の寸法は長辺3.89m×短辺2.50m×高さ2.48mであり、広さは9.73m2で約6畳(9.9m2)、その容積は24.12m3となります。長辺方向は東側、西側に面しており、東側は外気に面しており、窓(2.0m×1.1m)があります。南側は宅外廊下、西側、北側は宅内の他の部屋に面しています。西壁に物入れの扉、北壁に出入りする扉があります。家具は下図のように机及び本棚などが配置されています。エアコンは東壁南側の上部に設置されています。

 環境質の測定箇所及び測定項目は下図と表-1に示す通りです。壁(扉含む)と床及び家具の表面温度を29か所測定しています。壁(本棚、扉を含む)は高さ方向に3等分した中心部3か所を測定します。窓及びカーテンは上下2か所、床は東と西で2か所、机は1か所のみ測定しました。室温は部屋の中央部の高さ1.2mの位置にセンサーを設置して測定しています。外気温は窓の外に風よけの箱の中にセンサーを入れて測定しています。

表-1 環境質の測定位置と測定番号

測定項目測定位置測定点番号
壁表面温度東壁(北側)、窓、東壁(南側)北側1、2、3、窓4、5、南側6、7、8
南壁、机9、10、11、机12
西壁(扉と南側の壁)物入れの扉(北側)13、14、15、
壁(南側)16、17、18
北壁(扉、壁と本棚)扉19、20、21、壁22
本棚23、24、25
床等の表面温度カーテン、床表面温度カーテン26、27、
床28、29
気温、湿度室温、湿度、外気温室温30、湿度31、外気温32

 測定機器は表-2の通りです。壁や床などの表面温度は赤外線非接触式電子温度計(Monoyoi社製、KRL-HE1)、気温と外気温は温度データロガ(A&D社製、AD-5326TT)、湿度はハイブリッド加湿器(Dainichi社製、HD-RX319)の湿度表示部から測定しています。消費電力はラトックシステムのワットチェッカーを用いて測定しています。

表-2 環境質と消費電力の測定機器

測定機器メーカー名、型番備考
表面温度赤外線非接触式電子温度計Monoyoi社製、KRL-HE1物体表面温度測定モードで測定
室温、外気温温度データロガA&D社製、AD-5326TT2チャンネル自動保存
湿度ハイブリッド加湿器Dainichi社製、HD-RX319湿度表示部
消費電力ワットチェッカーラトックシステム社製
RS-WFWATTCH1
Wifiを通じて自動保存
注)赤外線非接触式電子温度計は体温、物体表面温度の2つの測定モードがあります。
温度校正は高精度の体温計と比較して温度差を校正しています。

 また、湿度をコントロールするために加湿器を使用しており、湿度の設定値は50%です(加湿器は上記のハイブリッド加湿器)。さらに、温度成層を防止するため、サーキュレーターを使用し、壁面での対流熱伝達にあまり影響を与えないように最弱にして運転しています。

 温度と湿度の測定は10分間隔、消費電力量は1分間隔です(温度と消費電力量は自動的にデータロガに記録されます)。ただし、壁や床の表面温度は順に測定していくため、最初と最後の測定で5分程度の時間差があります(測定の順番は測定点番号の順です)。

環境質等の測定結果

(1) 消費電力量

 設置されているエアコンは富士通ゼネラル、ノクリア(AS-Z22K)です。省エネ達成率120%、通年エネルギー消費効率(APF)6.9の省エネ型エアコンです。なお、エアコンの詳細な仕様については、本サイトの「エアコン③-消費電力の測定」を、エアコンの一般的な省エネ性能については「エアコン①-省エネ性能」を参照ください。

 消費電力量の推移を下図に示します。9時にエアコンをONにした直後(0~10分後)の消費電力は1,300W程度まで上昇しますが、その後は低下していき9時40分から10時までは300W程度です。その後、10時から10時20分まで0Wと400Wの大きな変動が3回あります。そして10時25分頃からスイッチOFFの11時30分まで170~180Wのほぼ一定値で推移しています。エアコンが稼働した9時から11時半までの2時間半で全消費電力量は741Whでした。

(2) 室温、外気温の推移

 室温、外気温の推移を下図に示します。室温は9時の16.6℃から10時に24.1℃まで上昇し、その後は23℃程度で一定値が続いています。11時30分のエアコンOFF後は温度が低下し12時には20.8℃まで低下しています。エアコンの設定温度は22℃ですが、最大時にはそれを2℃オーバーし、さらに23℃で定常運転になっており、意図した温度コントロールにはなっていません。エアコンの消費電力が10時以降20分間で0になったのは、10時の室温が24℃を超過したためと思われます。

 外気温は9時10分及び20分に最低気温7.4℃となり、その後は直線的に上昇して12時には10.2℃となっています。

(3) 壁面、窓、床面の表面温度の変化

 東壁と窓の表面温度の推移を下図に示します(グラフが見やすいように測定点の数を限定しています)。東壁の表面温度は室温と同様の変動傾向ですが、垂直方向に温度差が大きいことが分かります。上部の最高温度が22.1℃、下部のそれは17.3℃と5℃近い温度差があります。サーキュレーターで上下流を作って温度成層を低減しているつもりですが、その効果は少ないようです。

 窓の下部の表面温度は最大でも15.5℃であり非常に低くなっています。その変動幅は最も小さく(3.7℃)、また室温の変動傾向とは異なっています。最高温度の時刻は11時40分であり、外気温の変動と類似しているようです。

 西壁の表面温度の推移を下図に示します。西壁南側の温度は東壁と異なって上部よりも下部が高くなっています。これはエアコンの送風がこの地点に直接あたりこの部分が暖められているためです。そのため、西壁南側の下部の温度は26.0℃まで上昇しています。西壁北側は上部の方の温度が高くなっています。西壁の北側と南側では2℃以上の相違があります。これもエアコンの送風位置に関係がありそうです。

 北壁(扉、壁、本棚)の表面温度の推移を下図に示します。変動傾向は室温と同様で、上部と下部では温度差があります。本棚の下部の温度が特に低いのは机の陰に隠れているためと思われます。

 床の表面温度の推移を下図に示します。西側の温度は室温と同様な変動を示していますが、東側の温度は低くゆっくりと上昇していきます。これは、東側の測定点が窓に近く机の下にあり、エアコンの送風が届きにくいためと思われます。

 下図に各壁別(東西南北)、垂直方向別(上部、中部、下部)の平均表面温度を示します。まず水平方向については、西壁南側が最も温度が高く、次いで南壁となっています。これはエアコンの風が当たる領域と考えて良いでしょう。東壁は外気に面しているので他と比較して低い温度となっています。

 また、垂直方向の温度分布に関しては西壁南側の下部が上部より温度が高くなっており、直接エアコンの送風が当たっている影響です。他は上部の方ほど温度が高くなっています。その温度差は東壁で非常に大きく、3~4℃程度の差となっています。垂直方向の温度差については、サーキュレータで上下の流れを作っているのですが、それでも十分には循環がされていないものと考えられます。最も温度が高い西壁南側下部の平均表面温度は23.4℃、最も低い東壁南側下部のそれは16.5℃であり、約7℃の温度差がありました。

 最後に湿度(相対湿度)の変化を室温とともに下図に示します。9時では58%でしたが、温度が上昇するにつれて急速に低下し9時30分に40%程度まで低下しますが、温度の上昇が緩やかになってから上昇し53%でピークを打った後は50%前後で推移します。そしてエアコンOFF後の温度低下とともに再び上昇していきます。

 湿度が40%まで低下したのは、急速な温度上昇に加湿が追い付かず湿度が下がった結果です。また、湿度が53%まで上がったのは、気温の上昇速度が減速して加湿超過になったためです。加湿器による湿度コントロールが難しい状況が分かると思います。

温度分布から見た節電対策

 エアコンの暖房時の熱収支については次回以降の投稿で検討していきますが、今回の温度、湿度測定で得られた結果から節電対策に資すると考えられる事項を記載します。

 今回の測定では、狭い室内にもかかわらず温度の水平、垂直分布が非常に大きくばらついていました。サーキュレーションを弱くしていた(6W程度)こともあり、温度成層を抑制できなかったと思われます。サーキュレーションに電力をかけるのも節電に影響すると思われますので、部屋の家具の配置などを工夫して温度管理ができる方法を整理します。

 まず、今回測定したことで重要なことは外気に面している東面に机があり、ここで作業をすると非常に低い温度にさらされているということです。特に足元の温度は室温が24℃の時でも17℃であり非常に低い温度となっています。そのため、まず机の位置を変更し足元でも温度低下が少ない東側に設置することで温度低下を改善します。

 次に、同じく東壁及び窓の温度は外気に面しているため熱損失が大きく、この熱損失を低減させることが重要になります。そのため、本棚を東壁に接して配置させることで、熱損失を防ぐことが可能と思われます。また、窓についても現状カーテンがありますが、窓の熱損失を少なくすることや「すき間風」対策も有効となるでしょう。

 下図に温度分布から改善すべき家具の配置案と対策のまとめを示します。机や本棚の配置を変更することと、窓の断熱、すき間風対策が改善案です。外壁、窓の断熱対策については次回以降で具体的に検討していきます。

まとめ

 今回は面積が約6畳(約10m2)の比較的狭い空間でのエアコンによる暖房時の室内温度、壁表面温度、湿度を測定しました。

 測定時は、エアコン(6畳用)、加湿器、サーキュレータを稼働させました。エアコンの設定温度は22℃、加湿器の設定湿度は50%、サーキュレータは最弱(6W)で運転しました。エアコンは2時間半の運転で741Whの消費電力量でした。

 室温は開始時の16.6℃から1時間後に24.1℃まで上昇し、その後は23℃程度で一定値となりました。エアコンの設定温度は22℃ですので、設定値を1℃ほど大きく上回って運転されています。この時の外気温は最低気温7.4℃、午前中は直線的に上昇して12時に10.2℃になっています。

 壁面温度の水平分布については、外気に面した東面が最も低く、エアコンの送風を直接受ける西壁が最も高くなっていました。また、その垂直分布については、一般的には上部が高く下部が低くなっていましたが、エアコンの送風を直接受ける西壁の南側のみが下部が高くなっていました。また、東壁は上部と下部で5℃程度の温度差があり、対策が必要と考えられました。

 外気の影響を強く受ける窓の温度(下部)は、14~15℃程度であり室温の上昇にあまり影響を受けず、外気への熱の流出が懸念されました。そこで、これらの温度の分布から改善すべき家具の配置案について検討しました。その結果は、机の配置の変更(東面から西面へ)、本棚の配置変更(北面から東面へ)、さらに窓の断熱、すき間風対策を実施するというものです。

 湿度は測定開始時58%、温度が上昇するにつれて急速に低下して40%程度となり、温度の上昇が緩やかになってから上昇し53%でピークを打った後は50%前後で推移しました。加湿器を50%で設定していましたが、温度の上昇速度が速いため湿度の低下を招きました。

 今後は、これらの得られたデータを用いて室内の熱収支について分析し、室内の環境要素(温度、湿度)の管理について検討していきたいと考えております。