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断熱建材

建築材料(1)-外壁の断熱性能

建築物の省エネ基準と評価制度

 前回の報告では、エアコン暖房時の室内の熱収支を分析しました。その結果、暖房時に壁面や窓、床等から大きな熱損失が生じていることが分かりました。そのためエアコンの省エネ性能も重要ですが、建築材料(建材)の断熱性能も重要ということが分かりました。

 建材については、2013年の改正省エネ法(エネルギーの合理化に関する法律)において、「住宅・ビルや他の機器のエネルギーの消費効率の向上に資する建築材料等」が新たにトップランナー制度の対象に追加され、エネルギー消費機器と同様の判断基準が示されました。改正省エネ法の対象となる建築材料は、「外壁等に使用される断熱材」及び「窓に使用されるガラス及びサッシ」です。これらの建築材料の省エネ性能については、本サイトの「建築材料の断熱性能向上の判断基準」に示していますので参考にしてください。

 その後、2015年7月に建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)が公布され、エネルギー消費に関する各種の基準や評価制度が設定されています。建築物省エネ法では、省エネ法で措置されていた300m2以上の建築物の新築等の「省エネ措置の届出」や住宅事業建築主が新築する一戸建て住宅に対する「住宅トップランナー制度」等の措置に加え、新たに「大規模非住宅建築物の適合義務」、「特殊な構造・設備を用いた建築物の大臣認定制度」、「性能向上計画認定・容積率特例」や「基準適合認定・表示制度」等を措置したものとなっています。

 建築材料の断熱性能を評価する指標では、固体の伝熱性を評価する熱貫流率を用いることが一般的です。熱貫流率は後に説明するように固体内の熱伝導と固体表面での熱伝達の両方を評価した指標です。ここでは、まず断熱性能に関係する熱伝導の現象を把握し、そこで使われる熱貫流率について説明します。そして、前回報告した室内の熱収支の結果(「エアコン(8)-暖房時の室内熱収支の修正」を参照ください)を用いて、外壁の断熱性能を向上させた場合の省エネ性の向上について検討します。

外壁(固体内)の伝熱

 前回の報告では室内表面の温度が室内空気に伝わる熱伝達の現象をモデル化した熱収支の検討を行いました。その前段として、室内の気温や室内壁面等の表面温度を測定しました(室内の温度測定については「エアコン(6)-暖房時の環境質管理」を参照ください)。この表面温度は同じ室内にもかかわらず大きな差異があり、熱の損失に大きく関係していました。

 室内の熱は伝導対流放射によって移動していきます1)。熱伝導は固体、液体、気体中に生じる熱移動現象です。「温度」の実態は原子・分子の運動を表し、運動のエネルギーが高温部から低温部に伝わることで「熱の流れ」が起きるとされています。建築物の伝熱では主に固体中の熱伝導が扱われます。

 対流は液体や気体の分子が移動するのに伴って熱が運ばれる現象であり、固体表面とこれに接する流体間に生じる熱移動が対流熱伝達と言われています。そして、放射は電磁波の形で生じる熱移動であり、固体表面間の放射伝熱が問題となります。

 これらを総合化して壁体での熱移動を熱の貫流と言います。外壁の外表面と外気との間には対流熱伝達が生じているほか、壁体の内部では熱伝導により固体内の熱流が生じます。壁体の内部に中空の層があると壁の中空部の対流、放射により反対側の固体に熱が伝えられます。内表面と室内空気との間で熱交換が行われ対流熱伝達と放射熱伝達が行われます。ここでは、壁体内の熱伝導についての理論を説明します。

<壁体の熱貫流>「宇田川光弘、他:建築環境工学-熱環境と空気環境(改訂版)、朝倉書店、2020.」より作図

 熱移動の定常状態では、均質な単一材料からなる固体壁の温度分布は直線状になります(下図の(1)を参照)。そして熱伝導の現象を定式化すると以下となります1)

 qλ・(θ-θ)/d (W/m2) (1)

 ここで、
 q:熱流量  (W/m2
 λ:熱伝導率 (W/(m・K))
 θ1θ2:固体の両面の温度 (K)
 d:固体の厚さ(m) 

 上式は、熱流qと両側の温度差(θθ)との間の関係として、温度勾配(θθ)/dに比例して熱流qが生じることを意味しています(フーリエの法則)。式中の比例定数λ熱伝導率とよばれ、物質によって決まった値を取ります。
 上式を変形すると、

 θθd/λ・q   (2)

 となり、d/λ(m2・K/W)のことを熱抵抗と言います。この関係は電気回路におけるオームの法則と類似しており、ポテンシャル(温度差または電位差)は流れの大きさ(熱流または電流)に抵抗(熱抵抗または電気抵抗)を掛けたものとして統一的に解釈できます(下図(2)を参照ください)。

 V(電位差)=R(電気抵抗)×I(電流) <電気回路におけるオームの法則>

出所)宇田川光弘、他:建築環境工学-熱環境と空気環境(改訂版)、朝倉書店、2020.

 この熱伝導率が小さいほど、または熱抵抗が大きいほど固体は熱を通しにくい、すなわち断熱性が高いということになります。下表に主な建材の熱伝導率と比熱、密度を示しています。熱伝導率は密度が高いほど大きくなるという傾向があります。

表-1  主な建材の熱伝導率、比熱、密度

材料名称熱伝導率比熱密度
単位(W/(m・K))(J/(g・K))(g/L)
550.467900
ガラス10.752500
コンクリート1.60.882300
セメント・モルタル1.50.82000
石膏ボード0.221.1750
天然木材0.121.3400
吹付けロックウール0.0641.42290
グラスウール断熱材10K相当0.050.8410
密閉中空層R=0.15(m2・K)/W
非密閉中空層R=0.07(m2・K)/W
出所)空気調和・衛生工学会:空気調和設備計画設計の実務の知識(改定第4版)

 省エネ法の断熱材の基準を下表に示します。建築物の外壁や窓の断熱性はこの熱伝導率(熱抵抗)を考慮して断熱性の高い素材を選択することが求められています。

表-2 省エネ法における断熱材の性能基準

区分区分名基準熱損失防止性能
断熱材の基材断熱材の種類(W/(m・K))
押出法ポリスチレンフォーム押出法ポリスチレンフォーム断熱材0.03232
ガラス繊維(グラスウールを含む。以下同じ)グラスウール断熱材0.04156
スラグウール又はロックウールロックウール断熱材0.03781
硬質ポリウレタンフォーム2種硬質ウレタンフォーム断熱材2種0.02216
3種硬質ウレタンフォーム断熱材3種0.02289
備考1 「2種」とは、日本産業規格A9521(2017)に規定する硬質ウレタンフォーム断熱材の種類が2種のものをいう。
2 「3種」とは、日本産業規格A9521(2017)に規定する硬質ウレタンフォーム断熱材の種類が3種のものをいう。

 外壁や窓では室外の対流熱伝達、壁材の熱伝導、室内の対流熱伝達によって熱が伝わるため、それらを総合化したものを熱貫流といいます。一般的に外壁や窓は材料を重ねて断熱効果を高めるため、総合化した熱貫流率(Uは以下のように算定されます。 
  U1/(1/hod11d22d33+……+dnn1/hi (3)
   =1/(Ro+R1+R2+R3+………+RnRi)
   =1RT
  総合化した熱貫流率を用いて熱流を計算する場合は以下の式です。
  qU・(θ-θ (W/m2) (4)
ここに、
  U:熱貫流率 (W/(m2・K))
  hi:室内側壁表面での表面熱伝達率 (W/(m2・K))
  ho:室外側壁表面での表面熱伝達率 (W/(m2・K))
  λn:構成する材料の熱伝導率(W/(m・K))
  dn:構成する材料の厚さ(m)
  R:外表面熱伝達抵抗(m2・K/W)
  R:内表面熱伝達抵抗(m2・K/W)
  Rn:第n層の熱抵抗(m2・K/W)
  R:熱貫流抵抗(m2・K/W)
 
一例として参考文献2に示された外壁の熱貫流率の計算事例を以下に示します。

表-3 外壁の熱貫流率の計算事例

熱伝導率(伝達率)λ
W/(m・K)
厚さd
m
1/h、d/λ
(m2・K)/W
室内表面熱伝達 hi90.11111
石膏ボード0.220.0120.05455
非密閉空気層 ra0.07
吹付け硬質ウレタンフォームA種10.0340.020.58824
コンクリート1.60.150.09375
モルタル1.50.020.01333
タイル1.30.0080.00615
室外表面熱伝達 ho230.04348
合計 1/U=Σ(d/λ+ra+1/h)0.210.98061
熱貫流率 U (W/(m2・K))1.020
出所)空気調和・衛生工学会:空気調和設備計画設計の実務の知識(改定第4版)

外壁の断熱性の向上による効果

 前回の報告(「エアコン(8)-暖房時の室内熱収支の修正」)では、対流熱伝達の理論から外気に面している東壁の熱流(熱損失)を計算しました。その結果は161Wであり、面積当りに換算すると28.7W/m2であることが分かりました。

 今回は熱貫流率の定義を用いて東壁の熱流の計算をしてみます。下図に対象となった東壁の材料の構成を示します。(3)式を基に熱貫流率の計算をすると表-4の通りです。各層を総合化した熱貫流率(U)は1.832W/(m2・K)と計算されました。

 定常時の外気温と室温との温度差は約13.98℃であるため、(4)式より東壁の熱損失(熱流量)は25.6W/m2となります。前回報告した熱伝達の理論から計算した値(28.7W/m2 )と同程度の数値となっています。

<熱収支を検討した部屋の東壁の外壁部材構成>

表-4 東壁の熱貫流率の計算

材料熱伝導率λ厚さd1/h、d/λ
室内表面熱伝達 hi90.1111
ビニールクロス0.190.0020.0105
石膏ボード0.220.0120.0545
非密閉空気層0.020.07
吹付け断熱材(ロックウール)0.0640.010.1563
コンクリート1.60.150.0938
タイル1.30.0080.0062
室外表面熱伝達 ho230.0435
合計 1/U=Σ(d/λ+1/h)0.2120.5459
熱貫流率 U W/(m2・K)1.832
注)熱伝導率は参考文献2による。

 本建物(集合住宅)は2000年に建設されたものであるため、建築物省エネ法の対象にはなっておりません。建築物省エネ法の対象となった場合は、下表に示すように熱貫流率が0.87W/(m2・K)(地域6である東京都多摩地域の性能基準)となっています。性能基準は下の式に示すように、外壁のみでなく屋根や床などの平均的な熱貫流率を対象としています。

<建築省エネ法における外皮平均熱貫流率(UA)の基準>
  外皮平均熱貫流率(UA)=単位温度差当たりの外皮熱損失量q/外皮の部位の面積の総和

地域区分12345678
UA基準値0.460.460.560.750.870.870.87
単位)W/(m2・K)
注)地域区分は細かく市町村別に指定されています。東京都の区部、多摩地域は地域区分6となっています。

 東壁のみ熱貫流率を1.83 W/(m2・K)から0.87 W/(m2・K)に改善したとすると熱損失は76Wと、85W減少します(53%の減少)。定常時のエアコンの暖房熱量は520Wから435Wとなり、消費電力量に換算すると145Wとなって16%の節電となります。この計算は東壁のみの断熱化ですが、他の壁や床、天井の断熱化を行えば、さらに大きな効果を得られるはずです。このように、省エネの上では建材の断熱性の向上は極めて重要なものです。建築物省エネ法の適用は始まったばかりですので、今後はその効果が期待されます。

<東壁の熱貫流率1.832W/m2を性能基準である0.87 W/m2にした場合
の東壁の熱損失とエアコンの熱流量、消費電力量を算定>

まとめ

 今回は、建材の断熱性能について検討しました。外壁や窓の伝熱を検討する際には固体内の熱移動である熱伝導現象を理解することが必要です。固体内の熱流は温度勾配に比例して大きくなり、その比例定数が熱伝導率です。固体によって熱伝導率は異なり熱伝導率が低いほど断熱性は高まるため、熱伝導率が低い建材を選ぶ必要があります。

 壁体や床などは何層もの建材を組み合わせて断熱性を高めています。建材が複数接している外壁について外気から室内までの熱流を算定するには、熱貫流率を利用することが有用でありその計算方法を示しました。

 そして、前回の報告で検討した対流熱伝達の分析により得られた壁面の熱損失と、今回検討した熱貫流率により把握された熱損失を比較して、ほぼ同レベルの熱損失となっていることを確認しました。そのため、前回パラメータとして使用した総合熱伝達率の妥当性が確認できました。

 さらに、現在施行されている建築物省エネ法で設定されている断熱性能基準(熱貫流率の基準)を用いて、外気に面した東壁の熱損失を計算したところ、現状に比べて5割以上改善することが分かりました。そして、それを用いて室内でのエアコンの暖房消費電力量を算定すると、16%程度の省エネを達成することが分かりました。これは外壁のみの改善のため、床や天井なども同様の断熱化を行えば大きな省エネになると想定されました。

 建築物省エネ法が施行されてまだ間もないですが、今後はこれらの効果が表れてくるものと思われます。次回は、窓とサッシの断熱性能について検討する予定です。

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<参考文献>
1) 宇田川光弘、他:建築環境工学-熱環境と空気環境(改訂版)、朝倉書店、2020.
2) 空気調和・衛生工学会:空気調和設備計画設計の実務の知識(改定第4版)、オーム社、2017.
3)一般社団法人建築環境・省エネルギー機構、公式Webサイト、https://www.ibec.or.jp/index.html
4)4) 2013年経済産業省告示第270号(制定)「断熱材の性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2020年告示第68号