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暖房機器

ストーブ(2)-二酸化炭素排出特性

 省エネ法の対象機器であるストーブの燃料は石油(灯油)とガス(都市ガス)の化石燃料ですが、今回はその燃料の二酸化炭素排出特性(発熱量当り二酸化炭素排出係数)を整理します。カーボンニュートラルの目標年である2050年までは一般家庭に提供される電力の電源構成も再生可能エネルギー100%ではなく、化石燃料を使うことになると思われます。そのため、電気ストーブやエアコンについても現状の電源構成のもとでの二酸化炭素排出特性を把握して、燃料用ストーブと比較することとします。

 暖房機器はエネルギー消費効率(燃料の場合は熱効率、電気の場合は成績係数:COP)が異なるため発熱量当たりの二酸化炭素排出係数の比較だけでは二酸化炭素排出量の比較はできません。そのため、モデル住宅における暖房機器別のエネルギー消費量を算定し、その時の二酸化炭素排出量を試算してそれらの比較を行います。さらに参考のため、現状におけるこれらのエネルギーコストについても試算を行い、需要者の費用負担についても分析することとします。

化石燃料の二酸化炭素排出特性

 ここでは、ストーブの燃料(都市ガス、灯油)の二酸化炭素排出特性と現状の電源別構成のもとでの電気の二酸化炭素排出特性も把握します。これにより、3つのエネルギーを用いた場合の温室効果ガスの排出の傾向を比較し、地球温暖化に対してどれだけの影響があるかについて概観します。まず、ここでは燃料の二酸化炭素排出特性について整理します。

 下表に燃料別の二酸化炭素排出係数を示します1)。下表は環境省の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度において用いられる最新の燃料別の発熱量と発熱量当たりの炭素排出係数を示しています(閲覧日:2022年2月22日)。なお、二酸化炭素排出量はこの炭素排出係数を用いて以下の式で算定されます。

二酸化炭素排出量=燃料使用量×単位使用量当たりの発熱量(A)×単位発熱量当たりの炭素排出係数(B)×44/12

表-1  ストーブの燃料の発熱量、排出係数

 燃 料発熱量(A)炭素排出係数(B)二酸化炭素排出係数
単位t-C/GJt-CO2/GJ
灯油36.7GJ/kL0.01850.0678
都市ガス44.8 注)GJ/1000m30.01360.0499
注)エネルギー起源CO2の排出量の算定に用いる発熱量については、省エネルギー法の規定による定期報告において用いた発熱量を用いてもよい。二酸化炭素排出係数は炭素排出係数に44/12を乗じた値。
出所)環境省、温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧、2022年2月22日閲覧

 燃料のうち、灯油の単位発熱量当たりの二酸化炭素排出係数は0.0678(t-CO2/GJ)、都市ガスは0.0499(t-CO2/GJ)であり、都市ガスの方が小さな値灯油の3/4程度)となっています。

 なお、発熱量と炭素排出係数を乗じると体積当りの炭素の質量0.679kg/L(=36.7×0.0185t/kL)となり、灯油1Lすなわち0.8kg中に炭素が約85%(質量比=0.679/0.8)含まれていることが分かります(灯油の密度は理科年表2020より)。

 一方、都市ガスの体積当り炭素の質量は0.609kg/m3(=44.8×0.0136t/1000m3)であり、都市ガスの密度を0.825kg/m3とすると都市ガス1m3すなわち0.825kg中に炭素が約74%(質量比=0.609/0.825)含まれていることが分かります(都市ガスは複数のガスで構成されており、その密度をガスの構成比とガスの密度をもとに算定)。

 これらから同じ質量の灯油と都市ガスを燃焼した場合、都市ガスの方が炭素排出量が少なくなることが分かります。

燃料と電力との二酸化炭素排出係数の比較

 次に電力の二酸化炭素排出係数の状況を整理します。下表に、多数ある小売電気事業者のうちから一部の事業者のみの二酸化炭素排出係数を示しています2)。小売電気事業者の電源構成によって二酸化炭素排出係数が異なっています。小売電気事業者は需要者のニーズに合わせて排出係数の異なる電力を提供していますが、ここではそれぞれの事業者の基礎排出係数と調整後排出係数を示しています。

表-2 小売電気事業者の二酸化炭素排出係数(一部抜粋) (単位:t-CO2/kWh)

登録番号小売電気事業者名基礎排出係数調整後排出係数
A0267北海道電力(株) 0.0006010.000601
A0268東北電力(株) 0.0004760.000521
A0269東京電力エナジーパートナー(株) 0.0004470.000441
A0270中部電力ミライズ(株) 0.0004060.000424
A0271北陸電力(株) 0.0004690.000497
A0272関西電力(株) 0.0003620.000318
A0273中国電力(株) 0.0005310.000585
A0274四国電力(株) 0.0005500.000408
A0275九州電力(株) 0.0003650.000370
A0276沖縄電力(株) 0.0007370.000705
A0039北海道瓦斯(株)0.0004350.000469
A0064東京ガス(株)0.0003690.000364
A0161京葉瓦斯(株)0.0004870.000478
A0085東邦ガス(株)0.0004600.000483
A0048大阪瓦斯(株)0.0004260.000495
A0084西部瓦斯(株)0.0005180.000530
A0001(株)F-Power0.0004770.000513
A0002イーレックス(株)0.0004700.000499
A0009(株)エネット0.0003730.000408
A0014エネサーブ(株)0.0003470.000636
A0016ミツウロコグリーンエネルギー(株)0.0003440.000491
A0019日本テクノ(株)0.0004240.000483
A0027ダイヤモンドパワー(株)0.0003640.000699
A0028出光グリーンパワー(株)0.0002070.000391
A0053オリックス(株)0.0003360.000812
A0061サミットエナジー(株)0.0004120.000476
A0071王子・伊藤忠エネクス電力販売(株)0.0001470.000580
A0074テプコカスタマーサービス(株)0.0004600.000495
A0076日鉄エンジニアリング(株)0.0005300.000643
A0086シナネン(株)0.0004760.000714
A0130丸紅新電力(株)0.0003790.000484
A0153(株)エナリス・パワー・マーケティング0.0004870.000531
出所)環境省、温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)-2020年度実績- 2022年1月7日、環境省・経済産業省公表、2022年2月17日一部修正、2022年2月22日閲覧

 基礎排出係数と調整後排出係数とは以下の通りです3)4)。下式にあるように、基礎排出係数とは、「販売した電気を発電する際に燃料から排出された二酸化炭素の量(t-CO2)」を「販売した電力量」で除して求めたものです。

 一方、調整後排出係数は「基礎二酸化炭素排出量(独自に発電したもの)」に「再生可能エネルギーの固定価格買取制度に関連して二酸化炭素排出量を調整した量」を加え、「GHG削減クレジット等によりカーボン・オフセットした二酸化炭素排出量」を減じて求めた値を「販売した電力量」で除した値です。

<基礎排出係数と調整後排出係数>
基礎排出係数=販売した電気を発電する際に燃料から排出された二酸化炭素の量(t-CO2)/ 販売した電力量(kWh)
調整後排出係数={基礎二酸化炭素排出量※1(t-CO2)+ 再生可能エネルギーの固定価格買取制度に関連して二酸化炭素排出量を調整した量(t-CO2)- GHG削減クレジット等※2によりカーボン・オフセットした二酸化炭素排出量(t-CO2)}/販売した電力量(kWh)

※1:電気事業者が供給した電気を発電する際に燃料から排出された二酸化炭素の量
※2:J-クレジット、二国間クレジットなどの国内および海外の認証削減排出量や非化石証書の電力量に相当するGHG排出量

 ここで、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)に関連して二酸化炭素排出量を調整した量」については、FIT対象の電気は電気利用者が公平に負担する再エネ賦課金によって成り立っている電気であるため、制度上「CO2排出量がない」という環境価値を持っていないと定義されています。すなわち、FITで得られた電気の二酸化炭素排出量は日本の全電源平均排出係数を用いて計算されます。そのため、FIT電気を多く利用している小売電気事業者の二酸化炭素排出係数は基礎排出係数に対して調整後排出係数は大きくなります。

 国の算定・報告・公表制度に基づく法定報告(二酸化炭素排出量を一定量以上排出している企業に義務付けられている法定報告)においては、基礎排出係数、調整後排出係数を用いて算定した温室効果ガス排出量と調整後温室効果ガス排出量の2通りの排出量を報告することが決められています。一方、企業の自主的な報告であるサステナビリティレポートやCSR報告書で開示する電気の使用に伴う二酸化炭素排出量は、調整後排出係数を用いて算定することが望ましいとされています4)

 小売電気事業者別の基礎排出係数と調整済み排出係数を比較したものが下図です。旧電力会社やガス会社の両者の差は小さいですが、他の小売電気事業者の差は非常に大きなものがあります。具体的には、基礎排出係数に対する調整済み排出係数の比はオリックス(株)は2.4倍、王子・伊藤忠エネクス電力販売(株)のそれは3.9倍となっています。これは基礎排出係数はFIT電気の二酸化炭素排出係数を0とみているのに対し、調整後排出係数は全国平均の二酸化炭素排出係数を用いて計算されており、これらの電気事業者はFIT電気の割合が高いものと思われます。

出所)環境省、温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)-2020年度実績- 2022年1月7日、環境省・経済産業省公表、2022年2月17日一部修正、2022年2月22日閲覧

 ここで、電力と燃料を単位熱量当たりの二酸化炭素排出係数で比較したものが下図です(電力は調整後排出係数を用いています)。この図では、電力の二酸化炭素排出係数を以下の式により「kWh当り」から「GJ当り」に換算して比較しています。
 電力の二酸化炭素排出係数(t-CO2/GJ)=(表-2の値:t-CO2/kWh)×1000/3.6
  (1kWh=3.6MJ=3.6×10-3GJであるため)

 これを見ると、小売電気事業者の発熱量当たりの二酸化炭素排出係数は燃料の2倍から3倍となっています。これは、現在の電源構成が化石燃料中心であり、その発電効率や送電ロス等のため、電気の二酸化炭素排出係数が燃料に比べて大きくなるためです。

出所)環境省、温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)-2020年度実績- 2022年1月7日、環境省・経済産業省公表、2022年2月17日一部修正、2022年2月22日閲覧

 ここで、東京電力エナジーパートナー(株)の電源構成を下図に示します5)。この図を見ると火力発電分(石炭、LNG、その他ガス)が78%を占めています。一方、非化石証書を取得した再生可能エネルギー分が3%、水力(3万kW以上)が3%で、合計でも6%しかありません。化石燃料を用いて発電する際の発電効率は最大でも55%程度(LNG火力発電)であり6)、小規模火力発電の場合はさらに発電効率は低下します。その上、発電所からの送電の過程でも送電ロスが生じるため、発電ロス、送電ロス後のエネルギー利用率が低下したことで、燃料と比較して発熱量当たりの二酸化炭素排出量が増加したということです。カーボンニュートラルに向けて、この電源構成が2030年、さらに2050年までにどのような電源構成になっているか注目されます。

出所)TEPCO公式サイト、電源構成・非化石証書の使用状況

暖房機器別の二酸化炭素排出量とコストの比較

(1)二酸化炭素排出量

 次に、実際に一般家庭で暖房に用いる際の燃料と電気の二酸化炭素排出量とそのコストを試算して、比較してみます。

 ここでは、ガスストーブ、石油ストーブ、電気ストーブ、エアコンの4種類の機器を暖房に使用した場合の二酸化炭素排出量を試算します。参考文献7からモデル住宅で行ったシミュレーション結果より年間暖房負荷(暖房に用いるエネルギー量)を10.88GJと仮定しました(詳細は表-3の注釈を参照ください)。なお、ここでのガスストーブ、石油ストーブのエネルギー消費効率(熱効率)は省エネ基準の値を用いています(ストーブの熱効率については、「ストーブ(1)-省エネ特性」を参照ください)。また、電気ストーブのCOP(成績係数)を1.0、エアコンのそれを3.0と仮定しています(COPについては「エアコン(1)-省エネ性能」を参照ください)。また、二酸化炭素排出係数は燃料については表-1より、電気については表-2の東京電力エナジーパートナー(株)の値(調整後排出係数を発熱量当たりに変換)を採用しています。

 これらの条件で試算した結果、二酸化炭素排出量はエアコンが最も少なく(0.444t-CO2)、次いでガスストーブ(0.662t-CO2)となり、電気ストーブが最も多く(1.333t-CO2)なっています。電気の二酸化炭素排出係数が大きいにもかかわらずエアコンの二酸化炭素排出量が小さくなったのは、燃料系ストーブの熱効率の悪さエアコンの高い省エネ性能によります。

表-3  モデル住宅の暖房用エネルギー消費による二酸化炭素排出量の試算

暖房種類燃料・電気年間暖房負荷
(GJ)
二酸化炭素排出係数
(t-CO2/GJ)
熱効率
(%)
COP 
(ー)
エネルギー
消費量(GJ)
二酸化炭素排出量
(t-CO2
石油ストーブ灯油10.880.067886.012.6510.858
ガスストーブ都市ガス10.880.049982.013.2680.662
電気ストーブ電気(東京電力EP)10.880.12251.010.8801.333
エアコン電気(東京電力EP)10.880.12253.03.6270.444
注1)年間暖房負荷(10.88GJ)は参考文献7におけるモデル住宅における年間暖房負荷のシミュレーション計算結果より得た。モデル住宅は木造、低断熱ケース(外壁の断熱材厚さ25mm、単層ガラス)、暖房期間(11/1~4/30)、気温は東京のアメダスデータを使用、暖房時間帯でも室温が暖房設定室温より高い場合は暖房を行わない条件で試算。
注2)石油ストーブ、ガスストーブは密閉式強制対流式を仮定し、熱効率は省エネ基準値を採用。
注3)電気ストーブのCOP(成績係数)は原理的な数値として1.0、エアコンは年間平均値として3.0を仮定した。

(2)暖房コスト

 次に、エネルギー消費にかかるコストを試算した結果が下表です。下表の注釈にある計算条件の通り、エネルギーコストは2022年1月の単価を採用しています8)。最近はエネルギーコストが上昇しているため例年に比べてやや高めの試算値となっていると思われます。電気の単価は様々な料金体系があり、消費量によっても異なるため、参考値として確認ください。

 試算した結果、エネルギーコストが最も少ないのはエアコンであり、次いで石油ストーブ、ガスストーブの順であり、電気ストーブのコストが最も高くなっています。しかし、エアコンと石油ストーブの差は1割程度であり、ストーブの燃焼方式が開放式(熱効率が原理的に100%)の場合は逆転する可能性があります。

表-4  モデル住宅の暖房用エネルギー消費によるエネルギー費用の試算

暖房種類燃料・電気エネルギー
消費量(GJ)
発熱量 (GJ/kL,
GJ/1000m3)
燃料、電気消費量
(L, m3, kWh)
エネルギー単価
(円/L, m3, kWh)
コスト
(円)
石油ストーブ灯油12.65136.7344.710937,572
ガスストーブ都市ガス
(東京ガス)
13.26844.8296.216548,873
電気ストーブ電気
(東京電力EP)
10.8803,0223399,726
エアコン電気
(東京電力EP)
3.6271,0083333,264
注)電気のエネルギー消費量(kWh)は消費熱量(GJ)を1000倍して3.6で除して算定。
エネルギー単価は以下の通り。
灯油単価:参考文献7による2022年1月の店頭現金価格の平均値(円/L)
都市ガス単価:東京ガス(株)の1月単価(13A,45MJ、「ずっともガス」契約における消費量50m3時の料金より計算)
電気単価:東京電力エナジーパートナー(株)の1月単価(従量電灯B、400kWh使用時の料金より計算)。

(3)地域特性による二酸化炭素排出量とコストの分析

 ところで、前述のように電気の二酸化炭素排出係数は小売電気事業者によって異なっています。また、燃料を用いたストーブは「密閉式強制対流式」を用いています。ストーブの給排気方式が「開放式」の場合は熱効率が原理的には100%となるため、エネルギー消費量は少なくなる可能性があります。そのため、大手の小売電気事業者のうち二酸化炭素排出係数が最も大きい北海道電力を想定し、「開放式」の燃料用ストーブを用いた場合の温室効果ガス排出量を比較してみました。その結果を下表に示します。

 この結果、ガスストーブ(0.543 t-CO2)がエアコン(0.605 t-CO2)を逆転して少なくなり、石油ストーブもエアコンの2割程度まで差を縮小する結果となっています。エアコンのCOPが低い機器の場合はさらに近接してくる可能性もあります。

表-5 一般家庭の暖房用エネルギー消費による二酸化炭素排出量の試算(北海道電力利用)

暖房種類燃料・電気年間暖房負荷
(GJ)
二酸化炭素排出係数
(t-CO2/GJ)
熱効率
(%)
COP 
(ー)
エネルギー
消費量(GJ)
二酸化炭素排出量
(t-CO2
石油ストーブ灯油10.880.067810010.880.738
ガスストーブ都市ガス10.880.049910010.880.543
電気ストーブ電気(北海道電力)10.880.16691.010.881.816
エアコン電気(北海道電力)10.880.16693.03.6270.605
注)燃料用ストーブを開放型と仮定し熱効率100%、北海道電力の二酸化炭素排出係数を使用
北海道電力の二酸化炭素排出係数(t-CO2/GJ)は表-2の二酸化炭素排出係数(t-CO2/kWh)を1000倍して3.6で除して算定。

 また、コストを試算した結果が下表です。この結果から、エネルギーコストも石油ストーブがエアコンを逆転して、安くなっています。このことから、地域と利用する暖房機器の特性によっては、燃料の二酸化炭素排出量が少なく、エネルギーコストが安い場合もあると想定されました。

表-6 一般家庭の暖房用エネルギー消費によるエネルギー費用の試算(北海道電力利用)

暖房種類燃料・電気エネルギー
消費量(GJ)
発熱量(GJ/kL,
GJ/1000m3)
燃料、電気消費量
(L, m3, kWh)
エネルギー単価
(円/(L, m3, kWh)
コスト
(円)
石油ストーブ灯油10.8836.7296.510932,319
ガスストーブ都市ガス
(東京ガス)
10.8844.8242.916540,079
電気ストーブ電気
(北海道電力)
10.883,02235105,770
エアコン電気
(北海道電力)
3.6271,0083535,280
注)北海道電力の電気単価は以下の条件による
 従量電灯B、400kWhにおける電気料金14,186円から試算。

 しかし日本の多くの地域では、エアコンが二酸化炭素排出量、エネルギーコスト共に良好な暖房機器であると考えられます。発電のための電源構成が現状のように化石燃料の割合が高い状態でもこの結果ですので、将来的に電源構成が再生可能エネルギーに移行していく場合には、さらに二酸化炭素排出量は低減していくものと想定されます。

まとめ

 今回は、2050年のカーボンニュートラルへの移行期に寒冷地では使用が継続されるストーブについて、その燃料である灯油と都市ガスの二酸化炭素排出係数を把握しました。発熱量当たりの二酸化炭素排出係数は都市ガスが灯油の3/4程度であることが分かりました。

 また、発熱量当たりの二酸化炭素排出係数を電気のそれと比較すると、半分から1/3程度ということが分かりました(電気については、小売事業者別に電源構成の相違から、異なる値をとっていることには注意が必要です)。このことは、現状では電気が石油やガスなどの燃料を主として用いて発電しており(東京電力では78%が化石燃料)、その発電効率、送電ロスなどを考慮すれば自明のことと思われました。

 次に、モデル住宅での暖房負荷(暖房に必要なエネルギー量)を仮定して、石油ストーブ、ガスストーブ、電気ストーブ、エアコンの4種について二酸化炭素排出量を比較しました。その結果、エアコンの二酸化炭素排出量が最も少なく次いでガスストーブ、石油ストーブ、電気ストーブの順となりました。電源構成が化石燃料中心であるにもかかわらずエアコンの二酸化炭素排出量が最も少なくなったのは、エアコンのエネルギー消費効率が非常に高いためです(COP3.0を仮定)。今後、電源構成が再生可能エネルギーの割合が増加していくにつれて、さらにエアコンの二酸化炭素排出に関する有利性が増加していくことと思われます。

 また、これらの暖房機器のエネルギーコストについても分析した結果、やはりエアコンのコストが最も安くなり、次いで石油ストーブ、ガスストーブ、電気ストーブの順となりました。

 一方、地域によっては二酸化炭素排出係数が高い小売電気事業者もあり、ストーブの熱効率やエアコンの省エネ性能によっては、燃料を使うストーブの方が有利になる場合もあることが試算されました。また、エネルギーコストについても石油ストーブが有利との試算結果となりました。そのため地域性等を考慮して賢く暖房のエネルギーを選択することが重要です。

 
<参考文献>
1) 環境省:温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧、https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/itiran_2020_rev.pdf、2022年2月22日閲覧
2) 環境省:温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)-2020年度実績- 2022年1月7日、環境省・経済産業省公表、2022年2月17日一部修正、https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/r04_coefficient_rev.pdf、2022年2月22日閲覧
3) 経済産業省、環境省:電気事業者ごとの基礎排出係数及び調整後排出係数の算出及び公表について、2018年1月12日
4) 非財務情報保証協会:基礎排出係数と調整後排出係数のどちらを使うべきか?、2020年2月11日
5) TEPCO公式サイト:電源構成・非化石証書の使用状況、
https://www.tepco.co.jp/ep/power_supply/index-j.html
6) 資源エネルギー庁:次世代火力発電に係る技術ロードマップの策定について、技術参考資料、
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/jisedai_karyoku/pdf/report02_02_00.pdf
7) 宇田川光弘、他:建築環境工学-熱環境と空気環境(改訂版)、朝倉書店、2020.
8) ガソリン・灯油価格情報NAVI:全国灯油(店頭販売)価格の推移(2022年1月4日~2022年1月30日)、https://oil-stat.com/kerosene_shop.html