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暖房機器

ストーブ(3)-エアコンとの併用

 ここではストーブの3回目のトピックとして、エアコンとの併用を考えます。冬季の気温が非常に低い地域では、朝の暖房はエアコンでは十分ではない場合があります。特に低断熱の住居の場合は、朝は気温が著しく下がるためエアコンだけでは不足する可能性があります。エアコンは部屋全体を温めるため部屋の温度が上がるのが遅いことや、スイッチを付けた直後の立ち上がりの消費電力量は非常に大きいものがありました(「エアコン(4)-暖房時の消費電力」を参照ください)。

 一方、ストーブは局所的な部分を急いで温めるには好都合の暖房機器です。また、開放式のストーブ(給・排気を室内で行うもの)の熱効率は原理的に100%であり、エアコンに次いで効率的な暖房機器と言えます。そして、現状の電源構成では発電するための燃料の多くが化石燃料であるため、電気の二酸化炭素排出係数も大きいことが分かりました(現状の電力の電源構成については「ストーブ(2)-二酸化炭素排出特性」を確認ください)。そのため、2050年までの過渡期の暖房機器として、特に断熱性の低い住居においては開放式ストーブとエアコンとの併用が有効ではないかと思われます。

 そのため、まず開放式ストーブの燃料消費特性を把握します。また、開放式ストーブも電気を消費するため、その消費電力量についても実態を把握します。そして、ストーブとエアコンを併用した場合のエネルギー消費量を把握し、暖房による温室効果ガスとしての二酸化炭素排出量の分析を行います。

ストーブ燃焼時のエネルギー消費量の把握

 ここでは、まず開放式石油ストーブの燃料と電力の消費量について実測値をもとに分析します。前述の通り、開放式ストーブとは「給・排気を室内で行うストーブ」のことです。そのため、開放式ストーブは排ガスを屋外に排出しないため、エネルギー消費効率が100%です。省エネ法では、開放式ストーブは対象になっていません。ストーブのエネルギー消費効率については、「ストーブ(1)-省エネ特性」を確認ください。

(1)測定対象の石油ストーブ

 測定に用いた開放式石油ストーブは株式会社コロナの石油ファンヒータ(FH-G3215Y)であり、取扱い説明書よりその仕様を下表に示します。石油ファンヒータは灯油を気化させ空気との混合ガスに変えて燃焼させ、発生した熱を送風ファンにより室内に送り出す仕組みになっています。点火(放電)、気化のための予熱、送風ファンの駆動のために電気を消費します。スイッチON後、2~3分程度予熱してから点火され、燃焼中はファンの回転のために電力を消費、また消火後でも本体内部の温度を下げるためファンが継続して回転するため、数分間は電気を消費します。そのため、消火後に直ぐ電源プラグを抜かないようにとの注意書きがあります。

 本ストーブは2016年に製造・販売されたもので、エネルギー使用量は後継の機種よりも多い傾向にあります。最新の機種は、予熱時間も短くするなどの工夫がされているようです。最新の機種ではないことを前提に以下のエネルギー消費量の検討をご覧ください。

表-1  測定に用いた開放式石油ストーブの仕様

  項  目  内   容
型   式FH-G3215Y
メーカー株式会社コロナ
種  類強制通気形開放式石油ストーブ
点火方式高圧放電点火
使用燃料灯油 (JIS 1号灯油)
燃料消貴璽最大3.19kW (0.310L/h)
最小0.66kW (0.064L/h)
暖房出力最大3.19kW
最小0.66kW
騒音35dB(最大燃焼時)/21dB(最小燃焼時)
タンク容量5.0L
燃焼継続時間16.1時間(最大燃焼時)
暖房のめやす木造 15m2 (9畳)まで
コンクリート 20m2 (12畳)まで
外形寸法高さ426 mm 幅394 mm 奥行き324mm
質量9.3kg
電源電圧及び周波数100V  50/60Hz
定格消費電力点火時最大650W・燃焼時20W
待機時消費電力0.8W
販売年2016年
注)本説明書では灯油の発熱量を37MJ/Lで計算。
出所)株式会社コロナ、石油ファンヒータ取扱説明書

(2)燃料の消費特性

 本石油ファンヒータの灯油の使用量は最大で0.31L/h、最小で0.064L/hです。これを出力(単位:kW)で表すと最大で3.19kW、最小で0.66kWです。本取り扱い説明書では灯油の発熱量を37MJ/Lで計算しており、最大出力を例にしてその計算結果を以下に示します。

 最大出力=0.310L/h×37MJ/L=11.47MJ/h
    =11.47MJ/60/60=3.19kJ/s=3.19kW (W=J/sのため)

 日本ガス石油機器工業会によれば、暖房の能力と部屋の広さの目安は下表の通りです1)。下表に示すように12畳の広さの部屋は、温暖地(東京、大阪など)では木造の建物で4.8kW、コンクリート建物で3.5kWが適用されます。また、寒冷地(札幌など)では木造4.7kW、コンクリート3.0kWのストーブが適用されます。寒冷地の方が能力が低いのは断熱性が高いためのようです。本石油ストーブの能力は3.19kWですので、温暖地のコンクリート建物の10畳(16m2)以下、寒冷地のコンクリート建物で12畳(20m2)以下であれば適用ができるようです。

表-2 ストーブの出力と部屋の広さの目安

部屋の広さ温暖地寒冷地
畳数面積(m2木造コンクリート木造コンクリート
6畳102.4kW1.7kW2.4kW1.5kW
8畳133.2kW2.3kW3.1kW2.0kW
10畳164.0kW2.9kW3.9kW2.5kW
12畳204.8kW3.5kW4.7kW3.0kW
14畳235.6kW4.0kW5.5kW3.4kW
16畳266.4kW4.6kW6.3kW3.9kW
注1)「温暖地」とは室内外温度差が15℃の地域(東京、大阪なと)を指し、「寒冷地」とは、室内外温度差が30℃以上の地域(札幌など)を指します。
注2)温暖地の「木造」とは、木造戸建住宅、「コンクリート」とは、コンクリート集合住宅を指します。いずれも1重窓で断熱材なしの建物です。断熱材を施している場合は、上記の能力を1.2で割った能力のもので足ります。
注3)寒冷地の「木造」とは、2重窓、断熱材(グラスウール)75mmの木造戸建住宅、「コンクリート」とは、2重窓、断熱材(ポリスチレンフォーム)30mmのコンクリート集合住宅を指します。これ以上の高断熱住宅では、木造で1.2、コンクリートは1.5で割った能力のもので足ります。
出所)一般社団法人日本ガス石油機器工業会

(3)電気の消費特性

 電気の消費特性を前記の仕様から整理すると、定格の消費電力は点火時最大650W、燃焼時20W、待機時0.8Wとされています。なお、仕様書における点火とはスイッチをONにすることを指しています。本報告では点火とは放電されて気化されたガスに着火することを指します。ここでは、実際の消費電力を測定してこれらを確認します。

 本石油ストーブは温度設定をすることができ、測定時の設定温度は22℃としています。また、室内の広さは12.5畳(約20m2)です。表-2の基準からすると、断熱性の低いコンクリート造の建物なので若干能力が不足しているかも知れません。その意味では、エアコンとの併用が有効と言えます。

 消費電力の測定にはラトックシステム(株)のワットチェッカーRS-WFWATTCH1を用いています(ワットチェッカーについては「家庭の省エネ対策(はじめに)」にメーカーのリンクがあります)。本機種は1秒単位での消費電力を測定して記録し、wifiを使ってデータを転送しパソコンに取り込むことができます。ただし、データの欠測があるため、部分的にデータを補完することが必要です。

 消費電力の測定結果を以下に示します。下図は縦軸の目盛を変化させた2つのグラフを示していますが、同じ測定結果です(上図は1目盛100W、下図は5W)。測定開始2分後にスイッチONしています。スイッチON時の消費電力は仕様に書かれているように650Wであり、これが約2分30秒間継続します。これは電力により灯油をガス化している過程と考えられます。その後、点火(放電による着火)された後は定常運転に入り21~22W程度の消費電力となっており、これは送風用のファンの電力と考えられます。なお、点火2分後に再度650Wの消費電力(40秒間)となっていますが、再予熱の過程と思われます。

 測定開始後43分後に室温が20℃を越えたためスイッチをOFFにしました。スイッチOFF後に2分ほど約20Wの電力消費が続いた後、待機電力(1W程度)となりました。スイッチOFF後の消費電力は本体を冷やすためのファンの動力です。これらの測定結果は仕様と概ね一致しています。ストーブが稼働していた約40分間の消費電力量は約47Whでした。

石油ストーブとエアコンの併用時のエネルギー消費

(1)エネルギー消費量の実測

 ここでは、石油ストーブの利点を生かしてエアコンとの併用を検討することにします。しかし、省エネ及び二酸化炭素排出量の軽減の目的は達成されていません。その原因は、室温を監視してその温度を一定に保つために、ストーブのON、OFFを頻繁に行うことが生活の中では非常に難しいということです。また、ストーブを使用するとその温かさゆえにスイッチをOFFにする意欲が失われるということもあります。従って、今回の測定が省エネとはなっていない事例として報告したいと思います。

 測定に使用した石油ストーブは前述の石油ファンヒータ(FH-G3215Y)です。また、エアコンは下表に示すように三菱電機の「霧ヶ峰」MSZ-ZW403Sであり、暖房能力は標準5.0kW、低温7.1kWの製品です(標準、低温の基準は表下欄の注釈を確認ください)。本エアコンの通年エネルギー消費効率(APF)は6.3です(APFは成績係数COPと類似した指標ですが、冷房と暖房の2つの効率を年間値として総合化したものです)。

表-3 測定に使用したエアコンの仕様

項  目  内 容  
メーカー三菱電機
型 番MSZ-ZW403S
電 源単相200V
暖房能力(kW)標準5.0
低温7.1
暖房時消費電力(W)標準1,130
低温2,750
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室23
木造南向和室18
通年エネルギー消費効率(APF)6.3
注)暖房能力及び暖房時消費電力は、室内20℃、室外7℃(標準)、2℃(低温)の温度環境で最大風量における仕様値。
出所)三菱電機、三菱ルームエアコン、カタログ

 下図に、石油ストーブとエアコンを併用した場合の消費電力量(折れ線)と石油ストーブの稼働時間(棒グラフ)を示しています。エアコンは5時半にスイッチONしてから22時OFFまで連続運転しています。運転モードは標準、設定温度は22℃です(温度計とエアコンの設置高さが異なるため、目標室温を20℃とする場合は、これまでの計測の経験からエアコンの設定温度を22℃にすることが適切と判断されます)。

 上図より、石油ストーブの稼働は、5時半から1時間稼働させています。その後5回にわたってONとOFFを繰り返しています。1回当りの稼働時間は1時間以内になるように運転しています。ストーブが稼働しているときのエアコンの消費電力量は大きく減少しています。本来、朝の一番室温が低い5時半から7時ころまでの消費電力量が一番多いはずですが、石油ストーブが稼働しているためピークとはならずに、石油ストーブを稼働していない7時~8時の1時間の消費電力量が最大となっています。また、午後も石油ストーブの稼働している時間帯はエアコンの消費電力量が減少しています。この日のエアコンの総消費電力量は4.74kWhであり、石油ストーブの総稼働時間は6時間でした。

 次に、この時の室温と外気温の推移を下図に示します。この日は1日中外気温が上がらずエアコン稼働時(5時半から22時まで)の平均気温は6.7℃でした。室温は20℃を目標にしていますが、9時に25℃に近づくなど上げ下げが大きい結果となっています。石油ストーブを稼働しているときの温度上昇が大きいことが分かります。

(2)供給熱量と室温上昇の関係

 次に、石油ストーブの灯油消費量とエアコンの消費電力量を熱量単位(MJ)に換算し、石油ストーブの供給熱量(A)とエアコンの供給熱量(B)を計算します。石油ストーブの供給熱量はその稼働時間からの以下のように計算しています。

(A)石油ストーブの供給熱量(MJ)=稼働時間(h)×時間当たり灯油消費量(0.31L/h)×灯油発熱量(37MJ/L)

 また、エアコンの供給熱量は平均成績係数(COP)を3.0として、以下で計算しています。なお、仕様に示された高いCOPは最大値としてとらえ、平均COPを3.0と設定した根拠については、「エアコン(8)-暖房時の室内熱収支の修正」を参照ください。

(B)エアコンの供給熱量(MJ)=消費電力量(kWh)×平均成績係数COP(3.0)×3.6

 上記で計算された供給熱量の和(A+B)とその時間帯での室温の温度変化の関係を下図に示します。

 上図から、暖房機器からの供給熱量と室温の温度変化は線形の関係がありそうです。この回帰式を図中に示しています。回帰式の重相関係数は0.88、決定係数は0.78です。統計的検定の結果、「危険率1%で有意」でした(この式を統計的に有意であると判断するリスクが1%以下であることを意味します)。この式から、この測定した室内で当日の外気温という条件では、1MJの熱を供給すると温度が0.43℃上昇することが分かります。逆に、温度を1℃上昇させるには2.3MJを要することが分かります。

 このデータのばらつきは部屋の温度の上昇が単に供給熱量だけに関係しているわけでないことを意味しています。以前に報告したように、供給した熱量が室内の空気を温めていく過程では、いろいろな要因が関係しているためです。具体的には人や機器からの発熱量、すき間風や換気による熱損失、部屋に差し込む日射量などです。しかし、それらを無視しても、供給熱量との回帰式はある幅を持ちながらも、統計的に有意であることが示されています。

(3)エネルギー消費量の比較

 次に、この日の外気温におけるエアコンだけ稼働させた場合と、石油ストーブとの併用の場合の比較を行いました。比較項目は、エネルギー消費(電力と灯油)による供給熱量、二酸化炭素排出量、コストの3項目です。下表にその結果を示します。なお、前者の消費電力量の予測には、以前の報告で検討したこのエアコンの外気温による消費電力量の予測式(「消費電力と気温の関係(2)」を参照ください)を用いています(予測式は下表の注釈を確認ください)。

表-4  エアコンのみ稼働とエアコンと石油ストーブの併用の比較

消費電力量灯油消費量熱量合計CO2排出量 注5)コスト 注6)
kWhMJLMJMJ電気灯油電気灯油
ケース1
(エアコンのみ)
6.67 注1)72.00072.02.940220-
ケース2
(エアコン、
石油ストーブ
併用)
エアコン4.7451.251.22.09-156-
石油ストーブ0.42 注2)注3)1.86 注4)68.868.80.194.6314203
合  計5.1651.21.8668.8120.02.284.63170203
注1)エアコンのみ稼働時の消費電力量は以下の予測式による。
  y=-0.4337x+9.5752 
  y:1日の消費電力量 (kWh)
  x:1日平均外気温 (℃)
注2)石油ストーブの1回稼働時当りの消費電力量を以下で計算します。
 実測により40分間の稼働で47Whのため、1分当りの消費量を1.175Wh/分とし、これに石油ストーブの1回当りの稼働時間を乗じて算定します。
注3)石油ストーブの消費電力は点火、予熱、ファン駆動に利用されるため、供給熱量には加算しません。
注4)灯油の消費量は稼働時間から以下で算定。
 灯油の消費量(L)=稼働時間(h)×時間当たり灯油消費量(0.31L/h)
注5)電気の二酸化炭素排出係数は0.441kg-CO2/kwh(東京電力エナジーパワー)、灯油の二酸化炭素排出係数は0.679kg-CO2/L。
注6)電気の単価は33円/kWh(東京電力エナジーパワーの2022年1月単価)、灯油の単価は109円/L(2022年1月の現金払い小売実績)と仮定。

(a)供給熱量の比較

 エアコンのみの稼働の場合(ケース1)の消費電力量は上表の注釈にある回帰式を使って6.67kWhと予測されました。一方、エアコンと石油ストーブ併用の場合(ケース2)のエアコンの消費電力量は4.74kW(実測値)、石油ストーブの消費電力量は、上表欄外の計算方法を用いて0.42kWhと推定されます。これらから、ケース2の合計消費電力量は5.16kWhとなり、エアコンのみを稼働させた場合の77%となりました。ケース1、ケース2の消費電力量を熱量に換算すると、それぞれ72.0MJ、51.2MJとなります。ここで、ケース2の消費電力量のうち、石油ストーブの消費電力量は、予熱やファンの動力に使われるため発熱量にはカウントしていません

 次に、ケース2の石油ストーブの灯油消費量は1.86Lです。灯油による供給熱量は灯油消費量に灯油の発熱量(37MJ/L)を乗じて68.8MJとなります。

 これらから、ケース1の供給熱量は72.0MJ、ケース2は120.0MJとなり、ケース2はケース1の約1.7倍となっています。供給された熱量の比較からは石油ストーブの稼働時間を短くすることが可能であったと思われます。

(b)二酸化炭素排出量の比較

 両ケースの二酸化炭素排出量を試算します。ケース1は消費電力量6.67kWhに二酸化炭素排出係数(0.441kg/kWh)2)を乗じて2.94kg-CO2となります(東京電力エナジーパートナーの二酸化炭素排出係数を採用、詳細については「ストーブ(2)-二酸化炭素排出特性」を参照ください)。

 次に、ケース2はエアコンと石油ストーブの消費電力量5.16kWhに上記と同じ二酸化炭素排出係数を乗じて2.28 kg-CO2となります。さらに灯油の燃焼については、灯油消費量(1.86L)に灯油の二酸化炭素排出係数(2.49kg-CO2/L)3)を乗じて、4.63 kg-CO2となります。従って、ケース2の二酸化炭素排出量はこの合計6.91 kg-CO2となり、ケース1の2倍以上(2.37倍)になっています。

(c)コストの比較

 さらにコストについては、ケース1は消費電力量6.67kWhに東京電力エナジーパートナーの電力単価(33円/kWh)を乗じて、220円となります(従量電灯Bの契約において、2022年1月の月使用量400kWhの料金から単価を計算)。

 一方、ケース2は同様の単価を使って電力費が170円(=5.16×33)です。さらに、灯油代は灯油消費量1.86Lに灯油単価(109円/L:2022年1月の店頭現金価格の平均値を採用)4)を乗じて203円となります。そして電力費と灯油代を合計すると373円となります。ケース2のコストはケース1の約1.7倍となっています。

(d)エアコンと石油ストーブ併用の効果

 1回の実測を基に様々な仮定条件の下で試算した結果ですので、一概に結論をつけることはできませんが、この結果だけで判断すると、エアコンと石油ストーブの併用は供給熱量が過剰になるため、トータルとしては二酸化炭素排出量とコストが高くなると言えます。石油ストーブのON、OFFを上手に行うことはかなり難しいからです。

 前回の報告にも示した通り、エアコンの省エネ性能は高く、今後は電力が次第に再生可能エネルギーの割合を増加させていくことで、エアコンが使う電気の二酸化炭素排出係数がさらに小さくなっていくことを考えると、エアコンの使用時間を増やし、石油ストーブの使用時間を減らしていくことが必要です。

 理想的には、住居の断熱性を高めて、石油ストーブを利用せずエアコンで暖房を全て賄うことを考えた方がよさそうです。しかしながら、住居の断熱性能を向上させることは、家電機器を購入するのとは違って、壁や窓などの開口部のリフォームをすることになり、集合住宅などでは困難が伴います。

 このような根本的な対策については、国や自治体の補助金などを活用した対策が必要と考えられますが、これについては機会を改めて検討したいと思います。なお、次回は開放式ストーブの課題である二酸化炭素濃度の人に与える影響について考察をしていきたいと思います。

まとめ

 今回は、石油ストーブとエアコンの併用について検討してきました。電力の二酸化炭素排出係数が高い現状では、断熱性の低い住居においては石油と電気を併用した暖房が有効な場合があるのではないかと思ったためです。

 まず、開放式石油ストーブのエネルギー消費特性を整理しました。対象とした石油ストーブは、(株)コロナの石油ファンヒータです。この製品の最大出力は3.19kWであり、燃料である灯油の消費量は最大で0.31L/hでした。日本ガス石油機器工業会の自主基準では、この能力のストーブは温暖地のコンクリート建物の10畳(16m2)以下、寒冷地のコンクリート建物で12畳(20m2)以下で適用できるとのことです。

 この石油ストーブの消費電力量を実測したところ、約40分の燃焼で47Whを消費していました。ストーブの二酸化炭素排出量を算定する場合は、燃料(灯油)からの排出量に加えて、消費電力量にかかる二酸化炭素排出量を加える必要があります。

 次に、エアコンと石油ストーブを併用して暖房に用いる場合のエネルギー消費量を実測しました。断熱性の低い20m2の部屋(1999年竣工の集合住宅)で、前述の石油ストーブとエアコン(暖房能力:標準5.0kW、低温7.1kW、APF6.3)を用いて、消費電力量と灯油消費量を測定しました。

 エアコンは5時半から22時まで連続して運転し(標準モード、設定温度22℃)、石油ストーブは1回の稼働を1時間以内にして6回ON、OFFを繰り返し、室内温度を20℃程度に制御するようにしました。結果的には、石油ストーブを細かくON、OFFすることは難しいため、室内温度は最大25℃に近づき、変動が大きい状況となりました。

 この時間内で消費した灯油は1.86L(稼働時間6時間からの推計)、石油ストーブの消費電力量は0.42kWh(実測値からの推計)、エアコンの消費電力量は4.74kWh(実測)となりました。この結果より、1時間ごとの供給熱量(エアコンと石油ストーブの合計熱量)と温度変化の関係を分析したところ、偏差は大きいものの統計的に有意の回帰式が得られました。この式によると、1MJの熱を供給すると温度が0.43℃上昇し、逆に室温を1℃上昇させるには2.3MJを要することが分かりました。

 また、エアコンと石油ストーブを併用した場合とエアコンのみを使用した場合の供給熱量、二酸化炭素排出量、コストの比較を行いました。エアコンのみ使用の場合の消費電力量は、以前作成した外気温と消費電力量の回帰式を用いて算定しました。この結果、エアコンと石油ストーブを併用する場合はエアコンのみに比べて、供給熱量は1.7倍(これは石油ストーブを細かくON、OFFできないことによります)、二酸化炭素排出量は2.4倍、コストは1.7倍となりました。

 このことから、石油ストーブとの併用をするよりも、住居の断熱性を高めてエアコンで暖房を全て賄うことを考えた方が良いことが分かりました。しかしながら、住居の断熱性能を向上させることは、壁や窓などの開口部のリフォームをすることになり、集合住宅などでは困難が伴うことから、国や自治体の補助などによる建て替え、リフォーム対策など、根本的な対策が必要と考えられました。

<参考文献>
1) 日本ガス石油機器工業会:ストーブ・ファンヒーターと暖房のめやす、https://www.jgka.or.jp/torikae_kounyuu/choice/danboumeyasu/index.html
2) 環境省:温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)-2020年度実績- 2022年1月7日、環境省・経済産業省公表、2022年2月17日一部修正、https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/r04_coefficient_rev.pdf、2022年2月22日閲覧
3) 環境省:温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧、https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/itiran_2020_rev.pdf、2022年2月22日閲覧
4) ガソリン・灯油価格情報NAVI:全国灯油(店頭販売)価格の推移(2022年1月4日~2022年1月30日)、https://oil-stat.com/kerosene_shop.html