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暖房機器

ストーブ(1)-省エネ性能

 今回はストーブの省エネ性能について報告します。化石燃料を使うストーブは2050年までには役割を終えるかもしれませんが、冬季の気温が低い地域ではそれまでは使っていくものと思われます。ストーブは省エネ法の対象29品目に含まれています。その対象範囲は石油ストーブとガスストーブのうち、密閉式(給排気を外気とやり取りするもの)と半密閉式(排気のみ外気に排出するもの)のものです。冬季の気温が比較的厳しくない地域では、開放式(給・排気ともに室内に行うもの)の石油(またはガス)ストーブを使っている世帯が多いと思われますが、それらは対象とはなっておりません(下図参照)。

出所)資源エネルギー庁、省エネ性能カタログ(家庭用)2021
出所)資源エネルギー庁、省エネ性能カタログ(家庭用)2021

 ここでは、ストーブの種類を整理するとともに、省エネ法の対象となっている機種についての省エネ基準(エネルギー消費性能基準)を示します。また、なぜ、一般的に使われている開放式ストーブが対象になっていないかについても説明します1)。そして、経済産業省の省エネ製品情報サイトから現状におけるストーブ製品の省エネ傾向を把握します。

ストーブの省エネ基準

 ストーブは省エネ法施行令第18条に示された特定エネルギー消費機器(29製品)の対象とされ(詳細は本サイトの「エネルギー消費機器のトップランナー制度と省エネラベリング制度」を参照ください)、トップランナー制度によってエネルギー消費効率の向上を求められています。ストーブの省エネ基準については、本記事と同様の内容を本サイトの「家庭を中心にした地域レベルの地球温暖化対策」の「ストーブのエネルギー消費効率」にも記載しています。

 その対象並びに省エネ性能基準は、2002年経済産業省告示第432号(制定)、最終改正2019年経済産業省告示第46号に示されています2)。ストーブのエネルギー消費効率は「熱効率(%)」です。ストーブの熱効率は以下のように算定されます。

熱効率=(消費した燃料の発熱量-排気ガスが持ち去る熱量)/消費した燃料の発熱量×100

 なお、上式で用いる燃料の発熱量についてはいろいろな資料の数値がありますが、一例として資源エネルギー庁が公表している最新の数値は以下の通りです3)

表-1 燃料の発熱量

総発熱量真発熱量(MJ/L)
燃料MJ/L,MJ/m3MJ/kgMJ/L,MJ/m3MJ/kg
石油(灯油)36.4945.9834.2743.18
都市ガス39.9654.4236.4449.62
天然ガスLNG(39.26)54.7(35.77)49.84
注)総発熱量は高位発熱量、真発熱量は低位発熱量である。低位発熱量は燃料中に含まれる水の凝縮潜熱を差し引いた数値。天然ガスの体積当たりの値は気化LNGの値を参考値として示す。
出所)資源エネルギー庁:エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数(2018年度改訂)の解説、2020年1月

 表-1の総発熱量とは高位発熱量(燃焼によって得られる一般的な発熱量)のことであり、真発熱量は低位発熱量のことで、燃料中に含まれる水の蒸発潜熱を除いたものです。石油やガスを燃焼する暖房機器の熱効率を算定する場合には総発熱量を用いることがJISによって決められています(ガス器具はJIS S2122:2019、石油器具はJIS S3031:2009)。

<ガスストーブの省エネ基準>

 対象となるガスストーブの対象範囲については、開放式ガスストーブ及び半密閉式ガスストーブは除外されています。その理由は、開放式ガスストーブは「熱効率を燃焼効率とした場合約100%であり、エネルギー消費効率の改善余地がほとんどないこと、またエネルギー消費効率の測定方法が確立されていないため」とされ、半密閉式ガスストーブは、「出荷台数が約500台、エネルギー消費量が約200kL(ともに2000年)と極めて少ないため」とされています。

 さらに、密閉式についても密閉式強制対流式のみであり、現時点で製品出荷がないもの(放射式、自然対流式)については、将来的にも製品出荷の可能性が少ないため、下表に示すように区分は「密閉式強制対流式」のみとなっています。このストーブの製品の一例と給排気のイメージを下図に示します(「密閉式強制対流式」を英語でForced draught balanced Flue typeと表すため、FF式と略称されています)。

表-2 ガスストーブの区分

区分給排気方式伝熱方式機  能
 1密閉式強制対流式ストーブ前方に熱を放流する
ガスFF式暖房機(密閉式強制対流式ガスストーブ)
出所)東京ガス公式サイト
燃焼に必要な空気を屋外から取入れ、排気も屋外に排出します。

 対象となった密閉式強制対流式ガスストーブの設定された基準エネルギー消費効率は下表の通り82%です。

表-3 ガスストーブの省エネ基準(基準エネルギー消費効率)

  区   分 基準エネルギー消費効率(%)
1 密閉式(強制対流式)   82.0

<石油ストーブの省エネ基準>

 次に石油ストーブについては、その適用範囲は以下の製品を除外しています。
・開放式石油ストーブ
・密閉式石油ストーブのうち燃料消費量が2.75L/hを超えるもの
・半密閉式石油ストーブのうち燃料消費量が4.0L/h超えるもの

 開放式石油ストーブを除外したのはガスストーブと同じ理由であり、燃料使用量の制限は出荷台数が少ないことによります。

 省エネ法においては、石油ストーブは(1)給排気方式(密閉式、半密閉式)と(2)伝熱方式(放射式、自然対流式、強制対流式)によって下表のように区分されており、製品の普及状況から密閉式の放射式は除外されて、AからEまでの5区分となっています。

表-4 石油ストーブの区分

分類給排気方式伝熱方式 機  能 省エネ法の区分
 1密閉式放射式ストーブ前方、上方に熱を放散する除外
 2自然対流式ストーブ全周に熱を放射する自然対流式(A)
 3強制対流式ストーブ前方に熱を放流する強制対流式(B)
 4半密閉式放射式ストーブ前方、上方に熱を放散する放射式(C)
 5自然対流式ストーブ全周に熱を放射する自然対流式・強制対流式(D、E)
 6強制対流式ストーブ前方に熱を放流する
注)省エネ法の区分D、Eは表-5に示すように、燃料消費量によって区分されています。

 これらの区分ごとの設定された基準エネルギー消費効率は下表の通りです。「半密閉式の放射式以外のもので燃料消費量が1.5L/hを超えるもの」は算定式で規定され、それ以外は基準値で規定されています。これらの基準値を見ると、密閉式の基準値は80%台、半密閉式は60%台の数値となっています。

表-5 石油ストーブの省エネ基準(基準エネルギー消費効率)

   区    分基準エネルギー消費
給排気方式伝熱方式区分名 効率又はその算定式(%)
密閉式  自然対流式 A   83.5
強制対流式 B   86.0
半密閉式 放射式 C   69.0
放射式以外のものであって最大の燃料消費量が1.5L/h以下のもの D   67.0
放射式以外のものであって最大の燃料消費量が1.5L/hを超えるもの E E=-3.0L+71.5
備考 E及びLは、次の数値を表すものとする。
E:基準エネルギー消費効率(%)
L:最大燃料消費量(L/h)

 なお、本基準の適用年度は2006年以降の各年度とされています。また、ストーブの製造事業者等は、次の事項を製品等に表示することとされています。

(1) 品名又は形名
(2) 区分名(石油ストーブに限る。)
(3) 最大燃料消費量(規模制限あり)
(4) エネルギー消費効率
(5) 製造事業者等の氏名又は名称

ストーブ製品の省エネの状況

<ガスストーブ>

 経済産業省資源エネルギー庁の「省エネ型製品情報サイト」より、ガスストーブの製品データをとりまとめます5)。まず、燃料消費量(最大)の階級別にメーカー別の製品数を示したものが下図です。ガスストーブの製品は、「燃料使用量5以上7L/h未満」が最も多く(22製品)、他のクラスも10製品以上そろっています。メーカー別では、リンナイ、サンポットが8割以上の製品を提供しています。

出所)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、閲覧日2022年2月18日

 次に、省エネ基準の達成率別の製品数を下図に示します。どの製品も省エネ基準を達成しており、最大の達成率でも102%であり、達成率の差は大きくありません。そして、達成率が100%の製品が全体の8割を占めており、101%の製品が約15%です。

出所)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、閲覧日2022年2月18日

<石油ストーブ>

 「省エネ型製品情報サイト」のデータより、石油ストーブの製品データをとりまとめます5)。省エネ区分別にメーカー毎の製品数を示したものが下図です。製品は、「省エネ区分B(密閉式、強制対流式)」が最も多く(556製品)、全体の約8割を占めています。次いで「省エネ区分C(半密閉式、放射式)」が117製品、「省エネ区分D、E(半密閉式、放射式以外)」が27製品となっています。「省エネ区分A(密閉式、自然対流式))」の製品は現在はどの企業も提供しておりません。

出所)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、閲覧日2022年2月18日

 また、メーカー別には、コロナ、サンポット、トヨトミが全体の9割以上を占めています。コロナとサンポットは全ての省エネ区分の製品をそろえており、クサカベ、調布製作所、三菱重工業は「省エネ区分B」のみの製品を提供しています。
 次に、省エネ基準の達成状況を見ると、下表と下図の通りです。「省エネ区分E」で省エネ基準を達成していない製品がありますが、しかしその達成率は99%であり、概ねどの製品も省エネ基準を達成していると言えます。

 省エネ基準達成率100%の製品が全体の85%です。省エネ基準達成率101%が94製品(13%)(省エネ区分Bのみ)、同102%が6製品(省エネ区分Eのみ)、同104%が3製品(省エネ区分Dのみ)となっています。

表-6 省エネ区分別、省エネ達成率別の製品数

 区分省エネ基準達成率(%)合計
99100101102104
 B 46294556
 C 117117
 D 8311
 E 46616
 合計45939463700
出所)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、閲覧日2022年2月18日
出所)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、閲覧日2022年2月18日

 ストーブは目標年度が2006年以降の各年度となっており、既に目標年度から16年が経過していますが省エネ基準達成率は高くなく(最大で104%)、他の電化製品とは異なる傾向がみられます。省エネ基準の指標である「熱効率」は、「煙として排出される熱の損失の少なさ」を評価したものですが、その技術には限界があり技術革新で解決できないもののように思われます。

 カーボンニュートラルを目標とする場合、化石燃料を使う暖房製品はいずれは役割を終えると想定されますが、もし排出される二酸化炭素の回収を行う技術が家庭にも一般化した場合は、排ガスを煙突で排出する密閉式、半密閉式のストーブが生き残る可能性もあり、今後の二酸化炭素回収、蓄積、利用技術の進展に留意していくことも必要と考えられます。

 次回は、化石燃料を使うストーブと電気を利用した暖房(エアコン)の炭素排出特性の違いについて検討します。また2050年までの過渡期に用いられるストーブとエアコンの並行利用について検討していきたいと考えております。

まとめ

 今回は省エネ法の対象となっているストーブ(石油、ガスストーブ)の省エネ性能について整理しました。

 ストーブには密閉式、半密閉式、開放式の3種類があります。省エネ法の対象となっているのは密閉式(給排気を外気とやり取りするもの)と半密閉式(排気のみ外気に排出するもの)です。比較的温暖な地域で普及している開放式(給・排気ともに室内に行うもの)は対象となってはおりません。

 ガスストーブは製品の主流である密閉式のうち強制対流式に対して、省エネ基準が定められています。石油ストーブは密閉式では自然対流式と強制対流式、半密閉式では放射式も含めて省エネ基準が定められています。

 省エネの指標となる「熱効率」は消費した燃料の発熱量のうち、排気ガスが持ち去る熱量を考慮した効率を指します。省エネ基準値は密閉式の場合は80%台ですが、半密閉式は60%台とトップランナー方式でも低効率の目標値となっています。

 資源エネルギー庁の省エネ型製品情報サイトから現在販売中の製品の省エネ特性を把握しました。ガスストーブ、石油ストーブともに省エネ基準達成率は100%を超えてはいますが、最大でも104%であり、その省エネへの技術革新は進んでいるとは言えません。煙として排出される熱損失を抑制する技術には限界があり技術革新で解決できないもののように思われました。

 次回は、化石燃料を使うストーブと電気を利用した暖房(エアコン)の炭素排出特性の違いについて検討します。また2050年までの過渡期に用いられるストーブとエアコンの並行利用について検討していきたいと考えております。

<参考文献>
1) 経済産業省:総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会、ガス・石油機器判断基準小委員会、最終とりまとめ、2002年4月3日
2) 2002年経済産業省告示第432号(制定)「ストーブのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2019年経済産業省告示第46号
3) 資源エネルギー庁:エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数(2018年度改訂)の解説、2020年1月
4) 資源エネルギー庁:エネ性能カタログ(家庭用)2021
5) 資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、
https://seihinjyoho.go.jp/index.html、2022年2月18日閲覧