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調理機器

電子レンジ(2)-加熱モード別の消費電力

 今回は、前回に引き続き電子レンジを対象に、実際に消費電力の測定を行い、加熱モードによる消費電力の違いを分析します。

 前報の通り、電子レンジは既に日本のほとんどの家庭に普及している家電機器です。冷凍食品の解凍や温めだけでなく、食べ残した食品や冷えた味噌汁を気軽に温めて食べるなど、食品ロスを削減するために非常に重宝する家電機器と言えます。年間の消費電力量も60~80kWhと、他の家電製品と比べても大きなエネルギーを要するものではありません。

 最近の電子レンジは単なる温めだけでなく、様々な調理法に対応できるように機能が付加されてきています。例えば、パンを焼き上げるオーブン加熱、焼き魚やトーストなどの強い熱で加熱して焦げ目をつけるグリル加熱、茶わん蒸しなどを蒸気で柔らかに仕上げるスチーム加熱などです。これらの加熱方法はどのような消費電力となっているのでしょうか。それを知るため、具体の製品を使って加熱方法別の消費電力を測定することで、その加熱方法の消費電力の特徴について分析してみたいと思います。

測定に使用した電子レンジの仕様

 測定に使用した電子レンジは、シャープの加熱水蒸気オーブンレンジ(RE-F23A)です。下表にこの製品の仕様を示します1)。仕様には寸法しか書かれていませんが、経済産業省の製品情報では総庫内容量が書かれており、それは23Lと記載されています2)

表-1  測定した電子レンジの仕様

項   目 内    容
メーカーシャープ(SHARP)
電 源交流 100V 50-60Hz共用
レンジ定格消費電力1,460W
高周波出力1,000W※1 · 600W · 500W · 200W相当
発振周波数2,450MHz
グリル定格消費電力730W
オーブン定格消費電力1,430W
温度調節範囲発酵(35 · 40 · 45℃), 110~250℃ ※2
外 形 寸 法 ※3幅500mmx奥行380mmx高さ345mm
庫内有効寸法幅320mmx奥行290mmx高さ225mm
質 量約13kg
角 皿335mm x 285mm
省エネ区分名B
電子レンジ機能の年間消費電力量56.0kWh/年
オーブン機能の年間消費電力量14.0kWh/年
年間待機時消費電力量0.0kWh/年
年間消費電力量70.0kWh/年
※1:定格高周波出力1000Wは、短時間高出力機能(最大3分)であり、定格連続高周波出力は、600Wです。600Wへは、自動的に切り換わります。
※2:このオーブンレンジの250℃での運転時間は約5分間です。その後は、自動的に220℃に切り換わります。
出所)シャープ株式会社:加熱水蒸気オーブンレンジ、RE-F23A、取扱説明書

 本製品の省エネ区分は「区分B」の「オーブン機能を有するもの(オーブンレンジ)でヒーターの露出があるもの」です。年間消費電力量は70.0kWh/年であり、「区分B」の省エネ基準は73.4kWh/年ですので省エネ基準達成率は104%となります(小数点以下切捨て)。定格消費電力は1,460W、高周波出力は最大1,000Wであり、普通は600W、500W、200W相当となっています(1,000Wは短時間高出力機能(最大3分)です)。

 ここで、高周波出力(W相当という言葉で表示)とは食品に加えられる熱量のことであり、消費電力量のことではありません(前回の報告、「電子レンジ(1)-省エネ性能」を参考にしてください)。

 本電子レンジは3種類の加熱方法(レンジ加熱、オーブン加熱、グリル加熱)を選択することが可能であり、その加熱方法は下表に示す通りです。一般的に冷凍食品を解凍、温めるときはマイクロ波を用いたレンジ加熱を使います。赤外線センサーを使って食品の温度を測定し、加熱をコントローすることができます。レンジ加熱の一種で、スチームカップに水を入れ蒸気を出してから加熱を行うと、乾燥せずに柔らかに仕上がります。

 一方、オーブン加熱とグリル加熱は庫内のヒーターを使って加熱しています(上の写真右に示すように庫内上部にヒータが見えます)。表-2の説明によれば、オーブンは上下のヒーターを使い、グリルは上部のヒーターのみを使います。仕様にあるようにオーブンの消費電力は1,430W、グリルのそれは730Wなので、下のヒーターの消費電力は700Wということと思われます。

表-2 電子レンジの加熱方法

加熱の種類加熱の内容図解
レンジ加熱■ 電波の振動によって食品中の水分が摩擦熱を起こし、加熱します。
● 食品の種類・加熱前の温度によって加熱時間は、異なります。
● 食品の分量が2倍になると加熱時間は、2倍弱になります。
■赤外線センサーが、フラットテーブルの中央に置いた食品の表面温度を検知します。
■スチームカップの水を加熱し、蒸気を発生させて、食品表面の乾燥をおさえながら加熱します。
オーブン加熱■上下のヒーターで、庫内の温度を一定に保ち、食品を包み込んでふっくら焼き上げます。
グリル加熱■上ヒーターからの強い熱で焦げ目を付けて焼き上げます。
出所)シャープ株式会社:加熱水蒸気オーブンレンジ、RE-F23A、取扱説明書

 ところで、ヒーターはコイル状の電熱線を石英ガラスのパイプに通したもので、赤外線の放射によって食品を温めます3)。その熱効率の成績係数(COP)は1.0です。このCOPはエアコンなどの省エネ型機器との比較でこのように仮定されるものですが、熱の損失はあると想定されます。熱損失については、次回の電気ケトルの熱効率の測定のところで確認したいと思います。

消費電力の測定結果

(1)レンジ加熱

 電子レンジの利用方法として最も多いのは冷凍食品を解凍して温めて食べることではないでしょうか。食器などを汚すことがなく、冷凍食品を袋から出してそのまま電子レンジに入れて温めるだけで、食事が出来上がります。

 ここでは、レンジ加熱を使って冷凍食品の「たこ焼き」(6個、180g)を温めます(左写真)。製品に記載の通り、600Wで3分20秒の温めを行います。電子レンジの操作は、レンジボタンで600Wを押し、時間を3分20秒と設定してスタートボタンを押します。

 消費電力の測定結果は以下の通りです。2つのグラフがありますが、上は縦軸の目盛が200W、下が2Wのもので、同じ測定結果を示しています。なお、今回の測定もラトックシステム(株)のワットチェッカ―RS-WFWATTCH1を使用しています。

 測定開始1分後に電子レンジの扉を開けた段階で2.5W程度の電力が消費されます。これは液晶表示部と庫内照明の消費電力と思われます。スタートボタンONにより加熱が開始され、1,100Wまで上昇しその後一定になります。設定の通り、3分20秒後に加熱が終了し15W程度まで減少しますが、この消費電力が1分ほど継続しています。この消費電力は庫内を冷却するためのファンの動力です。一連のレンジ加熱操作は測定開始後6分30秒後に終了したと考えられます(扉を開けてから5分30秒後)。その後、2.5Wの消費電力が約20分間継続し、測定開始26分25秒で消費電力は0Wになりました(取扱説明書では自動的に電源が切れるのは最大30分とあります)。

 この結果より、出力600Wの時の消費電力は1,100Wということが分かりました。そのため、この時の熱効率は54.5%(=600/1,100)と計算されます。この値は、前回の報告で示した電子レンジの一般的な熱効率(54%)に近い値となっています(「電子レンジ(1)-省エネ性能」を参照ください)。

 また、電子レンジの扉を開けて冷却ファンの稼働が終わるまでの5分30秒間の総消費電力量は約60Whでした。そして、食品に加えられた熱量は、600Wの出力が3分20秒間継続したので33Wh(=600×200/3600)です。これらを考慮すると、一連の加熱処理操作における電子レンジの熱効率は以下で計算されます。

 熱効率(%)=食品への加熱熱量33Wh/総消費電力量60Wh×100=55.0%

 これらの結果はどちらもほぼ同様の値となっていますが、後者が一連の加熱操作における熱効率として解釈できるもので、他の調理器具との比較に用いることができると考えられます。

(2)オーブン加熱

 冷凍食品のミニバゲット(2本、260g)をオーブン加熱を使って焼き上げます。製品の表示に従って、180℃まで電子レンジ内を予熱し、オーブン加熱を12分間行いました。その消費電力の推移を下図に示します。

 測定開始1分後にスイッチをONにし、1分30秒後に庫内の予熱を開始しました。予熱時間は約10分間継続し、庫内の温度が180℃になったため、バゲットを庫内に入れて約12分間オーブン加熱を行いました。バゲットのオーブン加熱前後の写真を下に示します。

 予熱中では消費電力が1,430Wと740Wが交互に繰り返されています。ヒーターは上下に2本あり、そのうち1本を使用する場合と2本使用する場合を組み合わせて、温度調節を行っているものと思われます。

 次にバゲットの加熱時においては、1,430Wと23Wが交互に繰り返されています。これも、ヒータ2本使用の場合と2本ともOFFの場合によって温度調節を行っているものと思われます。

 予熱に要した消費電力量は174Whバゲットの焼き上げに要した消費電力量は121Whであり、合計で295Whという結果でした。前者は庫内を20℃から180℃に上昇させる熱量(電力)であり、後者は庫内を180℃に保ち冷凍食品を温める熱量であるため、前者の熱量が多くなるものと思われます。

(3)スチーム加熱

 次に、スチームを使って食品の乾燥を防ぎながら温めるスチーム加熱時の消費電力を測定しました。まず、スチーム加熱は表-2に示したように、スチームカップに水を入れ(約30mL)、食品を入れずに1分程度加熱して蒸気を庫内に満たし、その後出力600Wで30秒間のレンジ加熱で食品を温めます。

 今回は少し硬くなったパンをスチーム加熱で柔らかくしました(2個、約150g)。測定した消費電力を下図に示します。

 スチーム加熱時の消費電力は約1,100Wです。これは、600Wの出力時の消費電力と同じです。1分間の予湿による消費電力量は18Whでした。その後の30秒の加熱も同様に1,100Wですので、消費電力量はその半分の9Whであり、合計で27Whでした。省エネのためには、予湿(蒸気発生)の時間と出来上がりの品質を良く確認して、時間を長すぎないようにすることが必要と思われます。

 レンジ加熱、オーブン加熱、スチーム加熱の測定結果より、各操作時の消費電力をまとめると以下の通りです。

 (1) ドア開閉時、電源ON時(液晶表示、庫内照明):2.5W
 (2) 出力600W相当のレンジ加熱時:1,100W
 (3) オーブン(高温、ヒータ2本)加熱時:1,420~1,450W
 (4) オーブン(低温、ヒータ1本)加熱時:740~745W

 (5)スチーム加熱時:1,100W
 (6) 冷却ファン稼働時:15W
 (7) 待機電力:1W未満(測定範囲外)

 オーブン加熱時の消費電力が定格消費電力より大きいのはヒータの電力に加えて庫内照明や液晶表示部でも電力が使われているためと思われます。なお、冷却ファンの停止後のスイッチONの状態が続くのは扉を開けたままにしていることによるようです。省エネのためには、扉を閉めてスイッチをOFFの状態にするか、電源を切る(電源プラグを抜く)ことが省エネにつながります。なお、待機電力は1W 未満(測定範囲外)であり、特に気にする必要はないようです。




まとめ

 今回は、電子レンジの実際の消費電力を測定して、加熱モード別の消費電力の測定を行いました。電子レンジの加熱方法は、レンジ加熱、オーブン加熱、グリル加熱の3種があります。レンジ加熱はマイクロ波によるものであり、オーブン加熱とグリル加熱は庫内にあるヒータを使って高温の加熱を行うものです。

 今回測定に用いた電子レンジはシャープ株式会社の加熱水蒸気オーブンレンジ(RE-F23A)です。本製品の仕様によると定格消費電力はレンジ加熱1,460W、グリル加熱730W、オーブン加熱1,430Wです。本製品を用いて、冷凍食品のたこ焼きとバゲットの2種、さらに硬くなったパンを加熱して、消費電力量を測定しました。

 たこ焼きはレンジ加熱で出力600W、3分20秒の加熱を行い、総消費電力量が60Whでした。加熱時の消費電力は1,100Wであり出力の600Wとの比は54.5%(600/1,100)であり、前回報告で示した電子レンジの一般的な熱効率(54%)とほぼ同一の値を示しました。

 バゲットの焼き上げはオーブン加熱を使いました。予熱で庫内を180℃まで上昇させ、焼き上げは12分間行いました。予熱に要した消費電力量は174Wh、焼き上げに要したそれは121Whでした。室温20℃から180℃までの予熱にかなり大きな消費電力量を要することが分かりました。

 さらに、硬くなったパンをスチーム加熱で温めました。まずスチームカップに水を入れて1分間レンジ加熱して予湿を行った後、食品を入れて通常のレンジ加熱(出力600W)を30秒間行いました。これにより乾燥を防いでパンを柔らかく温めることができました。予湿を行う消費電力は1,100Wであり、1分間の消費電力量は18Whでした。省エネのためには、予湿の時間と出来上がりの品質を良く確認して、時間を長すぎないようにすることが必要と思われます。

 これらの測定結果より、スイッチON時の電力(主として液晶表示、庫内照明)が2.5W、冷却ファン稼働時が25W、待機時が1W未満(測定範囲外)ということが分かりました。また、電子レンジの扉を開けたままにしておくとスイッチがOFFにならないため、扉を閉めておくことが省エネにつながることが分かりました。

 次回は電子レンジの他の調理方法による消費電力を測定します。そして、その後は他の調理器具についても消費電力も測定して、調理器具ごとの特徴の把握と消費電力量の比較を行っていく予定です。

<参考文献>
1) シャープ株式会社:加熱水蒸気オーブンレンジ、RE-F23A、取扱説明書
2) 資源エネルギー庁:省エネ製品情報サイト、電子レンジ、閲覧日2022年3月23日
3) ウィキペディア:電気ストーブ(電気ヒーター)