前回まで4回にわたり、暖房器具であるストーブに関して取り上げてきました。昨年末からエアコンの暖房器具としての特性を整理したのち、消費エネルギーに影響する建築材料を取り上げ、それに関連した室内の空気質(温度、湿度、二酸化炭素濃度)の健康への影響などの検討にも発展していきました。省エネの観点から外れる部分も多くなりましたが、当サイトの趣旨が「明るく健康的な持続可能社会を目指す」ことなので、ご了承ください。
今回から調理器具(給湯器具を含む)に移ります。調理器具の第1回目のテーマは電子レンジです。電子レンジは二人以上世帯で97.8%、単身世帯でも92.4%保有しており、日本中に広く普及している家電製品と言えます1)。省エネ法施行令の特定エネルギー消費機器29品目の1つとなっており、省エネ基準も設定されています。
今回の検討では、まず電子レンジの原理やエネルギー消費の特徴を整理します。次に、国が設定した基準エネルギー消費効率(省エネ基準)を整理し、現状で製造・販売されている製品の省エネ性能を把握します。
電子レンジの原理とエネルギー消費の特性
電子レンジはマイクロ波(電波の1種)を食品にあてて、食品に含まれる水分子を振動・回転させることで温度を上げるものです。マイクロ波の周波数は2,450MHz(1秒間に24億5千万回振動)であり波長が短いためマイクロ波と呼ばれます。マイクロ波はマグネトロンを用いて発生させます2)。マイクロ波を使って加熱することを誘電加熱(dielectiric heating)と言います。
電子レンジが使うマイクロ波とオーブントースターなどが使う赤外線は波長が異なり、性質も異なります。オーブントースターでは赤外線が食品の表面を加熱しますが、電子レンジではマイクロ波が食品の表面だけでなく内部まで到達して加熱します。また、マイクロ波は陶器やガラスを透過して中の食品を温めますが、金属には反射するため金属内の食品は温まりません。
電子レンジは下図に示すようにターンテーブル式とフラットテーブル式があり、前者は食品を回転させることで加熱ムラを少なくしています。一方、フラットテーブル式は、アンテナを回転させることで、電波を効率よく拡散させ、加熱ムラを少なくしています。また、ターンテーブルがなく、庫内がフラットなため、容量いっぱいにスペースを使うことができます2)。
ところで、他の調理器具として電磁調理器がありますが、これは装置内部に配置されるコイルに流れる電流により、所定の種類の金属製の調理器具を自己発熱させるための器具です。この加熱原理は誘導加熱(induction heating、IH)といい、IH調理器とも呼ばれます3)。
電子レンジには、温めるだけの単機能レンジとオーブン加熱を備えたオーブンレンジがあります。最近では、さまざまな加熱機能を備えたオーブンレンジが主流になっており、加熱方法には下表のようなものがあります4)。
表-1 電子レンジの加熱種類
加熱方式 | 加熱の内容 | 調理例 |
---|---|---|
レンジ加熱 | レンジ加熱は、マイクロ波によって、食品全体を短時間で加熱する機能です。 | 調理例:食品のあたため(ごはん、おかず、お弁当、牛乳、酒)や解凍等 |
オーブン加熱 | オーブン加熱は、庫内全体を一定温度に保ち食品を焼く機能です。加熱方式は大きく2種類ありヒーターの熱をファンで庫内全体に循環させて加熱する「熱風循環方式」と庫内上部と下部のヒーターを備えて輻射熱により加熱する「上下ヒーター方式」があります。 | 調理例:グラタン、ケーキ、クッキー、パン等 |
グリル加熱 | グリル加熱は、庫内上部などのヒーターで食品の表面を香ばしく焼き上げる機能です。 | 調理例:焼き魚、グラタン、ハンバーグ等 |
スチーム加熱 | スチーム加熱は、蒸気によって食品を蒸す機能です。調理によってスチームのみで加熱する他、レンジ加熱やオーブン加熱と組み合わせる場合があります。 | 調理例:茶碗蒸し、シュウマイや中華まんのあたため等 |
電子レンジのエネルギー収支を示したものを下図に示します4)。下図では、温めに使われる消費電力が530Wの時に、全消費電力量が980Wとなることを示しています。そして、その温め以外の消費電力450W(=980-530)の内訳を下図に示しています(下図では損失と表現されていますが、損失だけでなく装置を有効に働かせる電力を含みます)。電子レンジの電力損失は「給電の損失」、「付属電気部品の消費電力」、「高圧トランス損失」、に大別されます。
出所)経済産業省、総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会、電子レンジ判断基準小委員会、最終取りまとめ、この資料中の図を基に作図。
「給電の損失」とは主としてマグネトロンを稼働するための消費電力であり、その値は330W(総消費電力の34%)です。「付属電気部品の消費電力」とは庫内の照明やターンテーブル、冷却ファンの動力であり、合計で50W程度(同じく5%)消費しています。さらに、「高圧トランス損失」とは電圧を変換するときに生じる損失を指し、その値は70W程度(同じく7%)とされています。マグネトロンのエネルギー効率の改善は1960年代から継続して行われてきましたが、この50年間で63%台から73%まで約10%の改善が行われていますが、さらなる効率の向上は難しいように思われます。
電子レンジによる食品の加熱のために使われる電力(530W)と総消費電力(980W)から、電子レンジの熱効率は54%(=530/980)と言えます。この数値を見るとあまり熱効率は高くないように思われますが、電子レンジの食品への加熱原理が水分子に直接作用するものであるため、単純に評価することはできません。
そこで、他の調理器具との調理に要する時間や消費エネルギーの比較を行った文献を探してみました5)6)。まず、電子レンジとガスコンロの比較を行った結果は下表の通りです5)。これを見ると、電子レンジの調理時間がガスコンロの半分以下、場合によっては1/5程度になっています。また、費用は酢豚の解凍・加熱といちごジャムを除いて大幅に安くなっています(費用は論文発表時のものです)。
表-2 電子レンジとガスコンロの調理時間、費用の比較
調理内容 | 調理方法 | 時間(分) | 費用(円) | 味 |
---|---|---|---|---|
ごはん再加熱 (2杯、400g) | 電子レンジ | 3 | 1.5 | ◎ |
ガスコンロ | 15 | 5.4 | 〇 | |
肉だんご再加熱 (300g) | 電子レンジ | 2.5 | 1.3 | 〇 |
ガスコンロ | 14 | 3.1 | 〇 | |
酢豚解凍・加熱 (250g) | 電子レンジ | 9 | 4.9 | 〇 |
ガスコンロ | 14 | 3.7 | 〇 | |
肉まん解凍・加熱 (2個、300g) | 電子レンジ | 4 | 2 | 〇 |
ガスコンロ | 20 | 7 | ◎ | |
しゅうまい解凍・加熱 (12個、225g) | 電子レンジ | 5 | 2.7 | ◎ |
ガスコンロ | 14 | 6.6 | 〇 | |
とりの酒蒸し(200g) | 電子レンジ | 4 | 2.1 | 〇 |
ガスコンロ | 18 | 7.8 | 〇 | |
赤飯 (2 杯) | 電子レンジ | 14 | 7.2 | ◎ |
ガスコンロ | 42 | 14.9 | ◎ | |
じゃがいもゆで (2個、300g) | 電子レンジ | 8 | 4.3 | ◎ |
ガスコンロ | 40 | 15.7 | 〇 | |
こまつなゆで (2個、300g) | 電子レンジ | 2.5 | 1.4 | 〇 |
ガスコンロ | 7 | 4.9 | ◎ | |
いちごジャム (200g) | 電子レンジ | 18 | 10.1 | ◎ |
ガスコンロ | 23 | 5 | ◎ |
出所)肥後温子:電子レンジと調理加工、調理科学、Vol.21、No.2、1988
次に、電子レンジと蒸し器、ガスオーブンの3種についてバッター生地の凝固時間を比較することで、その調理時間と消費エネルギーを比較した論文があります6)。バッター生地とはとんかつなどのフライ(揚げ物)を作るときに使う、小麦粉・卵・水(または牛乳)などを混ぜた衣の生地のことです。論文によれば下図に示すように、完全凝固までの凝固時間とエネルギー量について、電子レンジは蒸し器とガスオーブンに比べて極めて短時間で凝固し、非常に省エネルギーであったと報告されています。
これらのことから、電子レンジの特徴は調理時間が短いため、消費エネルギー量も少なくなるということと思われます。なお、電子レンジと他の調理器具との消費エネルギーの実測値による比較は次回に報告したいと思います。
基準エネルギー消費効率(省エネ基準)
電子レンジは省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)施行令(1979年政令第267号)の第18条第20号に掲げられた特定エネルギー消費機器の1つです。その省エネ基準(基準エネルギー消費効率)は2006年経済産業省告示第63号(制定)「電子レンジのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2019年経済産業省告示第46号に示されています。
電子レンジは「機能」、「加熱方式」、「庫内容積」に着目して区分されています。「機能」はオーブン機能の有無により2区分、「加熱方式」はヒーターの露出の有無及び熱風循環加熱方式により3区分、「庫内容積」は30L未満、30L以上の2区分に分類されています。そしてこれらの組み合わせにより、全体で6区分となっています。
電子レンジの基準エネルギー消費効率(省エネ基準)は年間消費電力量(kWh/年)により設定されています。「区分A」の単機能レンジ(オーブン機能を有するもの以外)の基準エネルギー消費効率は60.1(kWh/年)です。オーブン機能を有する「区分B」から「区分F」まではそれよりやや大きな年間消費電力量が設定されています(70.4~79.6kWh/年)。加熱方式が同じでも庫内容積が大きなものは基準エネルギー消費効率が大きくなっています。このように、電子レンジの年間消費電力量は他の家電製品に比べて、それほど大きなものではないようです。
なお、エネルギー消費効率である年間消費電力量の測定方法は、この告示で詳細に決められています。測定方法を簡単に言うと、水を食品に見立てて(疑似負荷)、その食品の重量(容器を含む)と加温する温度を設定して消費電力量を測定し、これに年間の調理回数を乗じて計算するようになっています。測定方法の詳細は、本サイトの「電子レンジのエネルギー消費効率」に示していますので参考にしてください。
表-3 電子レンジの基準エネルギー消費効率
区 分 | 基準エネルギー消費効率 | |||
---|---|---|---|---|
機 能 | 加熱方式 | 庫内容積 | 区分名 | (kWh/年) |
オーブン機能を有する もの以外(単機能レンジ) | - | - | A | 60.1 |
オーブン機能を有するもの (オーブンレンジ) | ヒーターの露出があるもの (熱風循環加熱方式のものを除く) | 30L未満のもの | B | 73.4 |
30L以上のもの | C | 78.2 | ||
ヒーターの露出があるもの以外 (熱風循環加熱方式のものを除く) | 30L未満のもの | D | 70.4 | |
30L以上のもの | E | 79.6 | ||
熱風循環加熱方式のもの | - | F | 73.5 |
電子レンジ製品の省エネ状況
経済産業省資源エネルギー庁の省エネ製品情報サイトに掲載されている電子レンジ製品について、省エネ基準の達成状況を把握します。下表及び下図に省エネ区分別、省エネ基準達成率別の製品数を示しています(閲覧日2022年3月23日)。
まず、製品数は全区分合計で461製品であり、そのうち「区分B」が180製品で最も多く、次いで「区分A」が150製品、「区分F」が78製品などとなっています。なお、「区分C」の製品はありませんでした。
次に、省エネ基準達成率を見ると、100%が最も多く(227製品)、次いで101%(92製品)などとなっています。110%を超える製品が13製品(全体の2.8%)あるほか、基準を達成していない製品(100%未満)が8製品(全体の1.7%)あります。
表-4 省エネ区分別、省エネ基準達成率別の製品数
省エネ基準達成率/区分 | A | B | D | E | F | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
100未満 | 8 | 0 | 0 | 0 | 0 | 8 |
100 | 79 | 108 | 28 | 7 | 5 | 227 |
101 | 39 | 41 | 4 | 1 | 7 | 92 |
102~103 | 20 | 5 | 5 | 2 | 17 | 49 |
104~105 | 3 | 6 | 0 | 5 | 22 | 36 |
106~110 | 1 | 20 | 0 | 1 | 14 | 36 |
110超 | 0 | 0 | 0 | 0 | 13 | 13 |
合計 | 150 | 180 | 37 | 16 | 78 | 461 |
省エネ基準 | 60.1 | 73.4 | 70.4 | 79.6 | 73.5 |
省エネ区分別に省エネ基準の達成率別の構成比を見ると、下図のように最も省エネ基準の達成率が高いのは「区分F」であり、達成率が110%超の製品が13製品(17%)あります。一方、「区分A」は省エネ基準を達成していない製品が8製品(5%)あり、達成率101%以下が8割以上となっています。
次に、電子レンジは庫内容積により使われるエネルギー量も変わると思われますがその状況を見てみます。一例として、「区分A」の製品について、庫内容積別の省エネ基準達成率別の製品数を下図に示します。「区分A」は庫内容積が17L(リットル)から23Lまで6種類の製品があります。庫内容積が17Lの製品が最も多く、その省エネ性能は省エネ基準100%の製品が6割以上を占めています。庫内容積が18Lと20Lの製品に省エネ基準100%未満の製品があることが分かります。庫内容積と省エネ基準達成率の間にはあまり関係性は見られません。
次にメーカー別に省エネ基準達成率別の製品数及び省エネ基準達成率の平均値を示したものが下表です。製品数(Totalの欄)では山善、シャープ、日立、東芝が多くの製品(50以上)を提供しています。
一方、三菱電機は製品数は少ない(4製品)ものの省エネ基準達成率の平均値は119.0%と高くなっています。これは全ての製品が「区分F」であることが原因です。そのほか、日立、パナソニック、シャープ、東芝が省エネ基準達成率の高い製品(全製品の平均値が102%以上)を提供していることが分かります。
まとめ
今回は調理器具の省エネ性能の検討の第1回目として電子レンジを取り上げました。
電子レンジはマイクロ波を使った「誘電加熱」という方法で食品に含まれる水分を加熱することで、食品を内部まで加熱します。ガスコンロやトースターのような食品の表面を加熱するものとは異なっています。マイクロ波はマグネトロンという装置により発生されます。なお、電磁調理器(IH調理器)は、「誘導加熱」という方法で加熱します。これは装置内部に設置されたコイルに流れる電流により、ある種類の金属製の調理器具を発熱させて食品を加熱するものであり、電子レンジとは原理が全く異なっています。
電子レンジの総消費電力のうち食品の加熱に使われる熱量は約54%(熱効率)であり、残りはマグネトロンの稼働、庫内の照明やターンテーブル、冷却ファンの動力、高圧トランスの損失に消費されます。省エネの技術はマグネトロンにおける電力損失を低減させることですが、この50年間で10%程度効率を向上させてきましたが、これも技術的に限界に近付きつつあるようです。
電子レンジの加熱効果の特徴は短時間で調理ができることであり、そのため消費するエネルギーは他の調理器具より省エネとなっています。ガスコンロ、蒸し器、ガスオーブンとの比較では、調理時間が1/2から1/5程度であり、その結果消費エネルギーも大幅に少なくなっていました。
省エネ法の告示により省エネ基準(基準エネルギー消費効率)が設定されています。「機能」、「加熱方式」、「庫内容積」に着目した6区分ごとに省エネ基準が設定されています。なお、電子レンジのエネルギー消費効率は年間消費電力量です。告示により年間消費電力量の測定方法が詳細に決められています。最大の省エネ基準値である「区分E」のそれは79.6kWh/年ですので、他の家電製品に比べてそれほど大きな消費電力ではないようです。
現在の電子レンジ製品の省エネ性能を分析した結果、省エネ基準達成率は多くの製品が100%前後にとどまっています。110%を超える製品は全体の2.8%と非常に少ないことが分かります。メーカー別には省エネ基準達成率が高い製品を提供している企業もあるので、資源エネルギー庁、省エネ製品情報サイトや、製品に表示されている省エネ基準達成率を確認して賢い製品選びをお勧めします。
次回は電子レンジの実際の消費電力量の測定を通じて、他の調理器具との比較なども行いながら、その省エネ上の特徴をさらに具体的に検討していく予定です。
<参考文献>
1) 総務省統計局:平成26年全国消費実態調査、主要耐久消費財に関する結果の概要、2015年7月31日
2) 日本電気工業会:製品分野別情報、家電機器、オーブンレンジ・電子レンジ、電子レンジの仕組み、https://www.jema-net.or.jp/Japanese/ha/renji/mechanism.html
3) ウィキペディア:電磁調理器、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E7%A3%81%E8%AA%BF%E7%90%86%E5%99%A8
4) 家電製品協会、省エネ家電deスマートライフ: 電子レンジを買換えて省エネ、https://shouene-kaden2.net/try/point_select/micro_oven.html
5) 肥後温子:電子レンジと調理加工、調理科学、Vol.21、No.2、1988
6) 肥後温子、阿部廣子、和田淑子:加熱調理法別のエネルギー消費量比較手段としてのバッターテストの有効性、日本調理科学会誌、Vol.40、No,4、2007.
7) 経済産業省、総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会、電子レンジ判断基準小委員会、最終取りまとめ
8) 2006年経済産業省告示第63号(制定)「電子レンジのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2019年経済産業省告示第46号
9) 資源エネルギー庁、省エネ製品情報サイト、電子レンジ、閲覧日2022年3月23日