前回はガスコンロを取り上げて、省エネ法における省エネ基準と現在採用されている省エネ技術について整理しました。また、資源エネルギー庁の省エネ製品情報サイトより生産・販売されている製品の省エネ性能を確認しました。その結果、こんろの省エネ基準である熱効率は最大でも56.3%であり、その製品の省エネ基準達成率も最大でも110%程度と省エネが大きく改善していく傾向ではないこと分かりました。
ガスコンロは省エネ法上はガス調理器と呼ばれ、調理機能としてこんろ、グリル、オーブンの3種が組み込まれているものがあります。以前の報告でIH調理器を取り上げていますが、そのビルトインタイプのIHクッキングヒーターは組込型ガスコンロと同様の機能を有しています。オール電化の住宅では組込型ガスコンロの代わりに、IHクッキングヒーターが設置されており、これらのエネルギー消費の特性を比較することも重要です。
今回は具体のガスコンロ製品の仕様を整理し、省エネ性能と省エネに役立つ機能を整理します。そして、そのガスコンロを対象として、IH調理器の消費電力を測定したのと同様の方法(「IH調理器(2)-消費電力の測定」を参照)でガス消費量を測定し、IH調理器と熱効率などの省エネ性能やコスト、二酸化炭素排出量を比較しましたので報告します。
ガス消費量の測定方法
(1) 測定対象のガスコンロ
今回測定の対象としたガスコンロの仕様を下表に示します。リンナイ株式会社の両面焼きグリル付き3口、ガスビルトインコンロ、RHS31W23L9Rです。本製品の火力構成は左右コンロが4.2kW、後ろコンロが1.27kW、グリルが2.52kWです。前回報告した通り、バーナの火力構成では最も普及しているタイプです。
表-1 測定対象のガスコンロの仕様
項 目 | 内 容 | |
---|---|---|
メーカー | リンナイ株式会社 | |
品名 | 両面焼きグリル付き3口 ガスビルトインコンロ | |
型式 | RHS31W23L9R | |
質量 | 25kg | |
外形寸法 | 高さ269mm×幅596mm×奥行539mm | |
電源 | DC3.0V(単一形アルカリ乾電池1.5V×2個) | |
ガス消費量 | 左/右コンロ | 4.2kW |
後ろコンロ | 1.27kW | |
グリル | 2.52kW | |
全点火時 | 11.2kW | |
省エネ基準達成率 | コンロ部 | 100% (熱効率55.6%) |
グリル部 | 105% (ガス消費量214Wh) | |
安全機能 | 調理油過熱防止装置、立消え安全装置、コンロ消し忘れ消火機能、グリル消し忘れ消火機能、焦げ付き消火機能、点火ロック、感震停止機能、中火点火機能、グリル加熱防止センサー、高温自動温度調節機能、コンロ・グリル操作ボタン戻し忘れお知らせ機能 | |
点火方式 | 連続放電点火式 |
本製品の省エネ区分は、こんろ部は「組込形」で「バーナ数3口」ですので「区分F」です。また、グリル部は「両面焼き」で「水なし」ですので、「区分L」となります。本製品の省エネ基準達成率を資源エネルギー庁のデータ1)より確認すると、こんろ部は100%、グリル部は105%です。そのため、本製品のこんろ部の熱効率は55.6%です(ガスコンロの省エネ区分、省エネ基準については「ガスコンロ(1)-省エネ性能」を参照ください)。
本製品は日本ガス協会が推奨している「Siセンサーこんろ」であり、温度センサーを使ったいろいろな安全対策が装備されています2)。過熱防止、消し忘れ消火機能、高温自動温度調節機能などにより安全性と同時に省エネ性の向上が図れます。
火力は写真のように操作ボタンにより5段階に調節が可能であり、その火力レベルをランプによって表示します。右の写真は火力レベル3を示しています。取扱説明書には火力レベル別のガス消費量または熱量は記載されていません。ここでは、火力レベル別のガス消費量についても測定します。
このほか、こんろ部、グリル部での調理を容易にする操作スイッチがあります。スイッチの機能を下表に示します。左右の高火力こんろ(ガス消費量4.2kW)は湯沸かしと温度設定、タイマー設定が可能です。後ろコンロ(ガス消費量1.27kW)は炊飯とタイマー設定ができます。グリルは魚焼きに加えて、各種の料理のあたためができ、焼き加減とタイマーの設定が利用できます。
表-2 対象ガスコンロの調理スイッチ
操作場所 | スイッチ名 | 調理の内容 | |
---|---|---|---|
こんろ | 左/右こんろ | 湯沸かしスイッチ | お湯を沸かす |
タイマースイッチ | 煮物をするときのタイマー | ||
温度設定スイッチ | 揚げ物をするときの温度設定 | ||
高温炒めスイッチ | 炒め物、煎り物、炙りもの調理 | ||
後ろこんろ | 炊飯スイッチ | ごはん、おかゆを炊く | |
タイマースイッチ | 煮物をするときのタイマー | ||
グリル | 魚オートスイッチ | 魚を焼く | |
焼き加減スイッチ | 強め、標準、弱めの3オプション | ||
ココットプレートメニュースイッチ | 干物、切身、姿焼き、トースト、焼き魚、タイマー、あたためのオプション |
(2) 測定方法
ここでは、水を沸かす際のこんろ部のガス消費量を測定します。測定方法はIH調理器で行った方法と同じ方法で行いました。
本測定では、「湯沸かし」スイッチを使ってお湯を沸かします。前述の操作ボタンの「湯沸かし」スイッチを押して測定を開始します。水の初期温度、容量、容器、測定項目、運転モードは以下の通りです。また、下図に実験装置の写真を示しています。
●水の初期温度:20℃
●水の最終温度:100℃(自動的に停止)
●水の容量:1,000mL
●容器:WMF、フュージョンテックミネラル、ローキャセロール20cm(表-3参照)
●測定項目:水温、ガス消費量
●ガスコンロの運転モード:「湯沸かし」スイッチ
容器はIH調理器にも対応しているヒュージョンテックブランドのホーロー鍋です。主材料は鉄ホーローですが、表面はガラス・セラミックの混合物で被覆されています。遠赤外線放射率が高いため加熱効果が高く、さらに熱伝導率と蓄熱性も高いとされています。
表-3 水を沸かす容器の仕様
項 目 | 内 容 | 外 観 写 真 |
---|---|---|
メーカー名 | WMF | |
型式 | フュージョンテックミネラル ローキャセロール20cm RQ |
|
表面加工 | 本体 : ガラス、セラミック融合被覆 フチ: クロムメッキ |
|
材質 | 本体 : ホーロー用鋼板、蓋:ガラス 取手・つまみ:ステンレス鋼(クロマーガン製) |
|
寸法・質量 | 内径: 20cm、外径: 21.5cm 全高(ふた込み): 13.5cm、深さ: 8cm |
|
質量 | 重さ:1.7kg(蓋を含めない) |
水温の測定機器は下表の通り、AD-5326TTの外部センサ(サーミスタ)を用い、1分ごとに計測した値を保存します。なお、精度は40℃未満で±1.0℃、70℃以上では±3.0℃の誤差があります。外部センサを上部から容器の壁面、底面に接しないように吊るして測定します(写真参照)。
表-4 温度計(AD-5326TTの外部センサー)の仕様
項 目 | 内 容 | 写 真 |
---|---|---|
メーカー名 | 株式会社エー・アンド・デイ | |
製品名・型番 | 温度データロガー、AD-5326TT | |
測定範囲 | -40.0~90.0℃ | |
測定精度 | ±1.0℃(40℃未満) ±2.0℃(40~69.9℃) ±3.0℃(70℃以上) |
|
センサ | サーミスタ | |
測定間隔 | 30秒毎 | |
記録間隔 | 1分~12時間の間隔で設定可能 |
また、都市ガスの消費量は表-5に示したガスメータから読み取ります。ビデオカメラを用いて表示部を撮影し、秒単位のガス消費量の積算値を把握します。
表-5 ガスメータの仕様
項 目 | 内 容 | 写 真 |
---|---|---|
メーカー名 | 東京ガス株式会社 | |
製品名・型番 | 通信機能付きマイコンメーター JO型 | |
表示 | ガス消費量積算値 | |
最小読み取り値 | 0.001m3 | |
最大圧力 | 3.5kPa | |
最大流量 | 4m3/h | |
機能 | 過大流量遮断、圧力低下遮断、感震遮断、継続時間オーバ―遮断、微小もれ疑い警報 |
ガス消費量は1L単位でしか把握できませんが、下図に示すような補間計算により1分毎のガス消費量を0.1L単位で推計します。
ガス消費量の測定結果
(1) 火力レベル別のガス消費量
ここでは、まず火力レベル別のガス消費量を測定しましたので、その結果を下表に示します。火力レベルごとのガスメータの指針値が1L増加する平均時間を計測し、その値を基に時間当りのガス消費量及び熱量を算定しました。
表-6 火力レベル別のガス消費量、熱量
火力レベル | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|
1Lのガスの消費に要する時間 (1) (min) | 1.86 | 0.96 | 0.61 | 0.35 | 0.23 |
1分間のガス消費量 (2)=1/(1) (L/min) | 0.54 | 1.04 | 1.64 | 2.86 | 4.35 |
1時間のガス消費量 (3)=(2)×60 (L/h) | 32.3 | 62.5 | 98.4 | 171.4 | 260.9 |
時間当り熱量 (4)=(3)×44.8 (kJ/h) | 1,447 | 2,800 | 4,408 | 7,679 | 11,688 |
熱量 (5)=(4)/3.6 (W=J/s) | 400 | 780 | 1,220 | 2,130 | 3,250 |
この測定ではビデオ映像と計測時刻より1Lのガス消費に要する時間を秒単位で把握し、5個以上のデータを基に火力レベルごとの平均値を算定しています。
測定の結果、1分間のガス消費量はレベル1から順に、0.54L/min、1.04L/min、1.64L/min、2.86L/min、4.35L/minでした。その結果、ガス熱量は順に400W、780W、1,220W、2,130W、3,250Wとなりました。最大のレベル5でも本ガスコンロ製品の能力である4.2kWを1kW程度下回っています。スイッチON時の初期火力レベルはレベル3(1,220W)であり、この火力で料理をすることが多いと考えられます。
(2) 湯沸かしの測定結果
前述した測定方法に基づき、1L、20℃の水を沸騰させる際のガス消費量及び水温を計測した結果を以下に示します。「湯沸かし」スイッチを押すと自動的に火力が設定され、100℃に達した時に自動的にガスが停止しました。
下図に水温とガス消費量(累積値)の測定結果を示します。計測開始の1分後にスイッチONにしており、水温はスイッチONの7分後(計測後8分後)に概ね100℃に達しています。
この間の1分間のガス消費量は約2.5Lでした(下図参照)。この消費量は表-6に示した火力レベル別のガス消費量からみると、レベル4の消費量(2.86L/min)をやや下回る数値となっています。この時の熱量は1,870W(2.5×60×44.8/3.6)です。そして、下図に示すように湯沸かしに利用された全体のガス消費量は17.5Lでした。
次に、このガスコンロの熱効率を算定します。熱効率は以下の式で算定されます。
熱効率(%)=水等が受けた熱量/ガスコンロが与えた熱量×100
この式を用いて、測定開始後4分(約50℃)、7分(約80℃)、沸騰時(100℃、加熱停止時)までのそれぞれの熱効率を算定すると下表の通りです。ここでは、水が受けた熱量だけでなく鍋が受けた熱量についても考慮することにします。下表の熱効率の計算では、「水のみ」の場合と「水と鍋」の場合の2種類を算定しています。
表-7 熱効率の算定結果
項 目 | 単位 | 4分後 | 7分後 | 沸騰時 | |
---|---|---|---|---|---|
上昇温度 | 初期温度(1) | ℃ | 20.0 | 20.0 | 20.0 |
加熱後温度(2) | ℃ | 51.7 | 84.6 | 100.0 | |
上昇温度 (3)=(2)-(1) | K | 31.7 | 64.6 | 80.0 | |
与えた熱量 | ガス消費量 (4) | L | 7.5 | 14.7 | 17.5 |
加熱による熱量 (5)=(4)×44.8 | kJ | 336.0 | 658.6 | 784.0 | |
水が受けた熱量 | 水の質量 (6) | kg | 1 | 1 | 1 |
水の熱容量 (7) | kJ/(kg・K) | 4.19 | 4.19 | 4.19 | |
水が受けた熱量 (8)=(3)×(6)×(7) | kJ | 132.8 | 270.7 | 335.2 | |
鍋が受けた熱量 | 鍋の質量 (9) | kg | 1.7 | 1.7 | 1.7 |
鍋の熱容量 (10) 注) | kJ/(kg・K) | 0.448 | 0.448 | 0.448 | |
鍋が受けた熱量 (11)=(3)×(9)×(10) | kJ | 24.1 | 49.2 | 60.9 | |
合計熱量 (12)=(8)+(11) | kJ | 156.9 | 319.9 | 396.1 | |
熱効率 | 水のみ (13)=(8)/(5)×100 | % | 39.5 | 41.1 | 42.8 |
水と鍋 (14)=(12)/(5)×100 | % | 46.7 | 48.6 | 50.5 |
・鉄の1モル当り熱容量:25J/(mol・K)(25℃の時)
・鉄の1モル当り質量:55.845g/mol
鍋の1g当り熱容量=25/55.845=0.448J/(g・K)
計算の一例として、100℃まで上昇した場合の熱効率の計算過程を示します(この計算はIH調理器における熱効率の計算と同じです)。
水を沸かす熱量は、20℃の水を100℃まで上昇させた熱量であるので、以下で算定されます。 水が受けた熱量=質量1kg×温度差(100℃-20℃)×水の熱容量(4.19kJ/(kg・K))=335.2kJ 一方、ガス消費量を熱量(J:ジュール)に換算すると、 ガスコンロが与えた熱量=17.5L×44.8(kJ/L)=784.0 kJ 従って、熱効率は以下になります。 水のみ加熱する熱効率(%)=335.2/784.0×100=42.8% 次に、鍋への加熱熱量についても計算します。まず、鍋の熱容量を算定します。 鉄の1モル当り熱容量は25J/(g・K)(25℃)、鉄は1モル55.845gより(理科年表2022より)、 鉄の1kg当り熱容量=25/55.845=0.448 kJ/(kg・K) となります。したがって、鍋を温める熱量は以下となります。 鍋が受けた熱量=質量1.7kg×温度差(100-20)K×0.448 kJ/(kg・K)=60.9 kJ これらから、水と鍋が受けた熱量の合計は以下となります。 水と鍋が受けた熱量=335.2+60.9=396.1 kJ 従って水と鍋を考慮した熱効率は以下となります。 水と鍋を考慮した熱効率=396.1/784.0=50.5% |
以上の計算を3つの経過時間ごとに行った結果が表-7です。熱効率は経過時間で異なっていることが分かります。測定開始4分後(加熱3分後)の水のみの熱効率は39.5%、鍋も考慮した場合は46.7%です。同様に測定開始7分後(加熱6分後)は、それぞれ41.1%、48.6%でした。
ここで、JIS S2103(2019)の「家庭用ガス調理機器」では調理器具の熱効率は50℃まで温めた場合の熱効率を計測するとされており、測定開始後4分(加熱3分後)がそれに近い値と言えます。この結果は、本製品のスペック値である熱効率55.6%とはやや差があります。
これは、今回の簡易な測定法に問題があるようです。具体的には以下の点が挙げられます。
● ガス量はL(リットル)単位までしか測定できないため、測定精度に難がある。
● JIS S2103ではガスの能力(kW)により、試験用鍋の半径、深さ、質量等が決められており、今回の測定ではそれに従っていない。
● 試験用の鍋の蓋、かくはん機、温度計の設置についても詳しく決められており、特に蓋をしていないことが結果に大きな影響があったと考えられる。
以上のことを考慮しても、一般的に家庭で料理をする場合、JIS基準に従って料理をするわけではないので、今回の測定値は普通の料理をする際の熱効率とみなしても良いと考えられます。
(3)IH調理器との比較
今回の測定方法と同じ手法で行ったIH調理器での熱効率の測定結果を下表に比較して示しました。下表のようにガスコンロの熱量は1,870W、IH調理器のそれは1,300Wです。沸騰までの時間はガスコンロ、IH調理器ともに約7分でした。
また、熱効率についてはIH調理器が1.4倍~2.0倍高いようです。前回の報告(「調理器具の比較(2)-レトルト食品のあたため」)で、IH調理器の熱効率を85%、ガスコンロの熱効率を55.6%(区分Fの省エネ基準)と想定し、その比率を1.5倍(85/55.6)程度と計算しましたが、実際の測定結果からはそれ以上の差があるようです。
表-8 ガスコンロとIH調理器の熱効率等の比較
項 目 | ガスコンロ A | IH調理器 B | 倍率 B/A | |
---|---|---|---|---|
加熱した熱量(W) | 1,870 | 1,300 | 0.70 | |
沸騰までの時間(分) | 約7分 | 約7分 | - | |
50℃の熱効率 (%)注) | 水のみ | 39.5 | 79.8 | 2.02 |
水+容器 | 46.7 | 94.3 | 2.02 | |
80℃の熱効率 (%)注) | 水のみ | 41.1 | 64.5 | 1.57 |
水+容器 | 48.6 | 76.2 | 1.57 | |
沸騰時の熱効率 (%)注) | 水のみ | 42.8 | 61.7 | 1.44 |
水+容器 | 50.5 | 72.9 | 1.44 |
「50℃」:ガスコンロは51.7℃、IH調理器は48.3℃、「80℃」:ガスコンロが84.6℃、IH調理器は78.2℃
また、下図に示すようにガスコンロの熱効率は温度が上昇するにつれてわずかに上昇していますが、IH調理器のそれは温度が上昇するにつれて減少していきます。IH調理器の場合において温度が上昇すると熱効率が低下するのは、測定時に容器に蓋をしていないため、温度が上昇すると沸点前でも蒸発する水分子が増加していき、気化熱を奪っていくためと考えられました。
ガスコンロの熱効率の測定ではその現象は見られません。これは、IH調理器とガスコンロの水を沸かす仕組みが異なるためと想定されます。IH調理器は渦電流により容器(鍋)の金属自体を発熱させるため早期に熱が伝わり、蒸発による気化熱の影響が強く出てくるものと考えられます。
一方、ガスコンロの場合は初めに容器を温め、その後容器を通して水を温めるため容器の熱容量の影響が大きく、蒸発による気化熱による損失の影響が相対的に小さいためと考えられます。IH調理器の加熱3分後の「水と鍋」を温める熱効率が90%を超えていることから、IH調理器では容器への加熱を熱効率算定に考慮するべきかどうかが問題となるように思います。
これらの測定は非常に簡易な方法であり、測定誤差や想定できない他の要因が含まれるため、これ以上の詳細な考察はできません。今後さらに、測定方法の改善も行いながら、検討していきたいと思います。
次に、ガスコンロとIH調理器の1Lの水を沸騰させるためのランニングコスト、二酸化炭素排出量を比較した結果が下表です。ガスコンロの加熱に要した熱量は784.0kJ、IH調理器は543.2kJであり、IH調理器はガスコンロの7割程度です。しかし、IH調理器の熱量当り単価、熱量当り二酸化炭素排出量がガスコンロのそれぞれ2.42倍、2.49倍となっており、ランニングコスト、二酸化炭素排出量ともに、ガスコンロの方が有利であるといえます(熱量当りの単価等については「調理器具の比較(2)-レトルト食品の温め」を参照ください)。ただし、今後の電源構成の改善によっては二酸化炭素排出量は逆転することも想定されます。
表-9 ガスコンロとIH調理器のランニングコスト、二酸化炭素排出量の比較
項 目 | ガスコンロA | IH調理器 B | 倍率 B/A | |
---|---|---|---|---|
熱量 | 使用エネルギー量(m3,Wh) | 17.5 | 150.9 | - |
加熱した熱量(kJ) | 784.0 | 543.2 | 0.69 | |
ランニング コスト | 熱量当り料金単価(円/MJ) | 3.79 | 9.17 | 2.42 |
料金(都市ガス、電気) (円) | 3.0 | 5.0 | 1.67 | |
二酸化炭素 排出量 | 熱量当り二酸化炭素排出量(kg-CO2/MJ) | 0.0499 | 0.1242 | 2.49 |
二酸化炭素排出量 (kg-CO2) | 0.039 | 0.067 | 1.72 |
・都市ガス料金単価、電気料金単価は2022年1月から5月の平均(詳細は「調理器具の比較(2)-レトルト食品の温め」参照)
・熱量当り二酸化炭素排出量については、電気は東京電力エナジーパートナーの2021年排出係数実績、都市ガスは上記の環境省報告による。
(4)火力を変えた場合の熱効率の相違
次に、以上の測定は「湯沸かし」スイッチによる火力レベル4に近い加熱により水を沸騰させたものでしたが、火力レベルを下げて熱損失を少なくさせた場合について追加で検討してみました。
採用した火力レベルはレベル3(1,220W)です。「湯沸かし」スイッチの場合の火力は1,870Wですので、約65%の熱量です。そのガス消費量の測定結果を下図に示します。下図から火力レベル3の沸騰までの時間は加熱後10分程度であり、「湯沸かし」スイッチの場合より3分ほど長くなりました。そして湯沸かしに要したガス消費量は17Lであり、若干は少なくなったものの大きな差異はありませんでした。
この時の沸騰までの熱効率は、「水のみ」は43.9%、「水と鍋」は51.9%であり、1%~1.4%の改善でした。この程度の熱効率の改善では、時間の節約から「湯沸かし」スイッチを使う方が得策と言えそうです。
まとめ
今回は、具体のガスコンロを用いて、水を沸騰させる際のガス消費量の測定を行い、IH調理器との熱効率等の比較を行いました。
測定の対象としたガスコンロは、リンナイ株式会社のビルトインガスコンロ、RHS31W23L9Rです。本製品の火力構成は左右コンロが4.2kW、後ろコンロが1.27kW、グリルが2.52kWです。省エネ区分はこんろ部が「区分F」、グリル部が「区分L」であり、省エネ基準達成率はそれぞれ100%、105%です。
ここでは、20℃の水1Lを沸騰させる際の水温とガス消費量を測定しました。水を温める容器はIH調理器で測定したものと同じ鍋(WMF製)です。ガスコンロの運転モードは「湯沸かし」スイッチを使い、沸騰した際に自動的にガスが停止します。
測定の結果、ガス消費量は1分間に約2.5L消費されており、熱量は1,870Wです。沸騰までにかかった時間は約7分であり、湯沸かしに要したガス消費量は17.5Lでした。この結果より、沸騰までの熱効率は水のみを考慮した場合は42.8%、鍋も考慮した場合は50.5%でした。スペック値は55.6%ですので、やや低い値となっています。
次に、以前に検討したIH調理器の熱効率と比較を行いました。加熱した熱量はガスコンロは1,870W、IH調理器は1,300Wです。沸騰までの時間はガスコンロ、IH調理器ともに約7分でした。熱効率の計算結果は、3つの水温別(50℃、80℃、100℃)に、IH調理器が1.4倍~2.0倍高い結果となりました。これは、スペック値で計算した1.5倍(85%/55.6%)よりも若干大きな差となっています。
前回の報告で、ガスコンロとIH調理器のコスト、二酸化炭素排出量を比較したところ、IH調理器がそれぞれ2.42倍、2.49倍の数値となっていました。そのため、現状の電源構成ではコスト、二酸化炭素排出量ともに、ガスコンロの方が有利であることに変わりはありませんが、今後の電源構成の改善によっては二酸化炭素排出量は逆転することも想定されました。
さらに、ガスコンロでの水の沸騰の際の熱量は1,870Wでしたが、熱効率を上げるために熱量を下げた場合の熱効率を測定しました。火力レベル3(1,220W)を用いて測定した結果、沸騰までの時間は加熱後10分程度で3分ほど長くなりました。また、湯沸かしに要したガス消費量は17Lであり、若干は少なくなったものの大きな差異はありませんでした。この時の熱効率は1%~1.4%の改善であり、この程度の熱効率の改善では、時間の節約から「湯沸かし」スイッチを使う方が得策と言えます。
次回以降は、これまでに検討してきた調理器具を使って様々な調理をした時のエネルギー消費量等の比較を行っていく予定です。
<参考文献>
1) 資源エネルギー庁:省エネ型情報サイト、ガスコンロ、2022年5月6日閲覧
2) 日本ガス協会:公式Webサイト、Siセンサーコンロ