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調理機器

調理器具の比較(3)-ピザを焼く

 今回は、調理器具の比較の3回目として冷凍ピザを2つの調理器具を用いて焼き上げ(あたため)、その際のエネルギー消費量について分析します。

 これまで、様々な調理器具を取り上げてきましたが、今回はオーブントースターとガスコンロのグリルを取り上げます。使用するエネルギーは電気と都市ガスです。これまでもこの2つのエネルギーの消費量を分析してきましたが、今までは主に水を温める(沸騰させる)という機能に着目してきました。今回の調理の対象はピザなので、高温で焼くという視点からエネルギー消費量を分析することになります。

 今回は、新しくオーブントースターを取り上げていますが、これはヒーターを使った電気器具です。ヒーターはコイル状の電熱線を石英ガラスのパイプに通したもので、赤外線によって食品を温めます。電気ストーブや電気ケトルも同じ電熱線を使った製品です。オーブントースターだけでなく、ヒーターを使っている電気製品は省エネ法の対象にはなっていません。

 電子レンジのグリルやオーブンにもヒーターが使われており、オーブントースターと同じ原理の調理器具となっています。電子レンジの検討において、冷凍のミニバゲットのあたためでオーブン加熱時の消費電力量を計測しています(「電子レンジ(2)-加熱モード別の消費電力」を参照ください)。今回は、ヒーターのグリル機能(高温で表面から焼きあげる)に着目します。

 これまでの水のあたためと異なって、食品のあたためには熱効率という指標を計測することが難しいので比較しにくいですが、調理器具の使用法に記載されている調理方法に則ってあたためを行い、消費エネルギーの比較をしてみましたので、報告します。

消費エネルギーの測定方法

(1)測定対象の調理器具

 測定対象の調理器具はオーブントースターとガスコンロのグリルです。オーブントースターは基本機能としてのトースターにオーブン機能を付加したものです。トースターもグリルも高火力で食品の表面を加熱し、焦げ目をつける調理法です。

 一方、オーブンは遠赤外線を使って時間をかけて蒸し焼きにする調理法です。遠赤外線を使って熱の対流を起こしながら、食材の中まで火を通す方法のため効率よく内部まで熱を浸透させることができます。

 今回は、オーブントースターの機能のうちトースターの機能を使ってピザを焼き上げ(あたため)ます。ガスコンロも同じ機能であるグリル部を用います。以下にそれぞれの調理器具の仕様と、ピザを温める際の調理法を示します。

<オーブントースター>

 まず、計測に用いたオーブントースターは下表に示すように象印マホービン株式会社のET-GM30です。消費電力は1,300Wで庫内容積は約7.2L(寸法による計算)です。オーブントースターは省エネ法の対象にはなっていないため、省エネ基準はありません。

表-1 オーブントースターの仕様

   項   目  内   容  外 観 写 真
メーカー象印マホービン株式会社
品番 ET-GM30
トレー内寸(約cm) 25.5×25.5
タイマー  30分
消費電力(W)  1,300
外形寸法 幅×奥行×高さ(約cm) 39.5×34.5×22.5
庫内寸法 幅×奥行×高さ(約cm)  27×29.5×9
本体質量(約kg)    5
出所)象印マホービン株式会社、ET-GM30、取扱説明書

 本製品には上に2本、下に3本の赤外線ヒーターが設置されており、「上2本、下2本」の作動時は1,100W、「上2本、下3本」の作動時は1,300Wとなると取扱説明書に記載されています。

 また、マイコンが搭載されていて、以下の調理(焼き上げ、あたため)が自動でできます。今回はこのうちの「トースト/ピザ」メニューをつかってあたためます。
● トースト、冷凍トースト、サクふわトースト
● ピザ(冷蔵、冷凍)
● フライあたため、ロールパンあたため

 下図に操作部のメニューを示します。「冷凍」キーはピザなどのあたために、冷凍ピザか冷蔵ピザかを選択するキーです。「サクふわトースト」キーは、トーストの「表面をサクっと中身をふわっとした食感」に焼くキーです。「焼き色」キーはトーストの表面の色(淡、中、濃の3択)を選択するキーですが、ピザを焼く場合にはピザの大きさを選択するキーでもあります。

 なお、本製品はオーブンの機能も有しており温度設定も可能ですが、今回の測定ではグリル機能(トースター)のみを使うため、その詳細は省略します。

<オーブントースターの操作メニュー>

 「焼き色」のキーを使ってピザの大きさを指定する場合は、本製品の取扱説明書によると、調理時間の目安は下表の内容となっています。下表に示すように、直径が3インチのピザを焼く場合(「焼き色」キー「淡」)は、冷蔵ピザは4分、冷凍ピザは8.5分であり、直径が大きくなるにつれて調理時間も長くなっています。冷凍ピザが解凍され(冷蔵)、直径9インチの場合(「焼き色」キーの「濃」)は、6分間のあたためとなります。

表-2  ピザのあたためのための調理時間の目安

焼き色ピザの大きさ冷凍、冷蔵調理時間
直径3インチ(直径8cm)2枚の場合冷蔵4分
冷凍8.5分
直径6インチ(直径15m)1枚の場合冷蔵4.5分
冷凍11分
直径9インチ(直径23m)1枚の場合冷蔵6分
冷凍14分
出所)象印マホービン株式会社:ET-GM30、取扱説明書

<ガスコンロ>

 ガスコンロは下表に示すようにリンナイ株式会社の両面焼きグリル付き3口コンロ、RHS31W23L9Rです。本製品はシステムキッチン用の組込式(ビルトインタイプ)のガスコンロで、製品名の通りこんろが3つ、グリルが1つ 装備されています。

表-3  測定対象のガスコンロの仕様

 左右コンロの熱量は4.2kW、後ろコンロは1.27kW、グリルは2.52kWです。今回はこのグリルを使って焼き上げます。ガスコンロは省エネ法の対象となっており、本製品のグリル部の省エネ基準達成率は105%(ガス消費量214Wh)です。

 なお、グリル部の省エネ基準は1回の調理におけるガス消費量を熱量単位(Wh)で表したものです。省エネ基準やガス消費量の測定方法については、本サイトの「ガスコンロのエネルギー消費効率」を参照ください。

 本製品の取扱説明書では、ピザを焼くのはやや大きめのワイドグリルクッキングプレートにアルミ箔を載せ、その上にピザを載せて、「上火:強、下火:強」で5分焼くとあります1)

    項  目          内 容
メーカーリンナイ株式会社
品名両面焼きグリル付き3口 ガスビルトインコンロ
型式RHS31W23L9R
質量25kg
外形寸法高さ269mm×幅596mm×奥行539mm
電源DC3.0V(単一形アルカリ乾電池1.5V×2個)
ガス消費量左/右コンロ 4.2kW
後ろコンロ 1.27kW
グリル 2.52kW
全点火時 11.2kW
省エネ基準達成率コンロ部 100% (熱効率55.6%)
グリル部 105% (ガス消費量214Wh)
安全機能調理油過熱防止装置、立消え安全装置、コンロ消し忘れ消火機能、グリル消し忘れ消火機能、焦げ付き消火機能、点火ロック、感震停止機能、中火点火機能、グリル加熱防止センサー、高温自動温度調節機能、コンロ・グリル操作ボタン戻し忘れお知らせ機能
点火方式連続放電点火式
出所)リンナイ株式会社、ガスビルトインコンロ、RHS31W23L9R、取扱説明書

(2) 消費エネルギーの測定方法

<焼き上げるピザ>

 焼き上げるピザは株式会社PIZZAREVOの冷凍ピザ(水牛モッツアレラのマルゲリータ)です。本製品は直径9インチ(23cm)、質量は270gです。省エネのため自然解凍した後で、それぞれの調理器具で加熱します。

<オーブントースター>

 取扱説明書に従って、操作メニューの「トースト/ピザ」キーを押し、「焼き色」キーを「濃」にセットします(表-2に示すように直径9インチ(23cm)のピザは「濃」を選択します)。解凍を行っているので、冷蔵ピザを選択します。

<ガスコンロ>

 取扱説明書に従って、ワイドグリルクッキングプレートにアルミ箔を載せ、その上にピザを載せます。グリルボタンから「上火:強、下火:強」を選び、タイマーで5分をセットします。

 なお、電力計はラトックシステム(株)のRS-WFWATTCH1です(下表参照)。消費電力量は毎分の積算値を採用しています。

表-4  電力モニター(ワットチェッカー)の仕様

 項 目  内   容     外 観 写 真
メーカー名ラトックシステム株式会社
製品名・型番RS-WFWATTCH1
電源100V
測定範囲1~1,500W
測定項目毎秒の電圧、電流、消費電力
毎分の積算電力量、電気料金、CO2排出量
データ保存CSV形式
通信方法Wifi
出所)ワットチェッカーRS-WFWATTCH1、取扱説明書

 また、都市ガスの消費量は下表に示すガスメータから読み取ります。ガスメータでの読み取りはL(リットル)単位ですが、ビデオカメラで撮影した秒単位の映像を確認することで、0.1L単位のガス消費量を推計します。詳細は、「ガスコンロ(2)-ガス消費量の測定」を確認ください。

表-5 ガスメータの仕様

 項  目    内   容   写  真
メーカー名東京ガス株式会社
製品名・型番通信機能付きマイコンメーター JO型
表示ガス消費量積算値
最小読み取り値0.001m3
最大圧力3.5kPa
最大流量4m3/h
機能過大流量遮断、圧力低下遮断、感震遮断、継続時間オーバ―遮断、微小もれ疑い警報
出所)東京ガス株式会社、公式Webサイト

エネルギー消費量の測定結果

 それぞれの調理方法で焼き上げた際のエネルギー消費量は下表の通りです。オーブントースターは下図に示すように1,300Wが6分続いて終了しています。消費電力量は125.9Wh、熱量は453.2kJでした。

表-6  ピザ焼きに要したエネルギー消費量と熱量

 項  目オーブントースターガスコンロ、グリル部
調理法ピザ(冷蔵)、
焼き色 「濃」
グリル上:「強」
グリル下:「強」
定格熱量(W)1,3002,450
実測熱量(W)1,3002,360
焼き上げ時間約6分約5分
消費電力量(Wh)125.9
ガス消費量(L)15.8
加えた熱量(kJ)453.2707.8
注)都市ガスの発熱量は環境省資料より44.8MJ/m3を使用。

 次に、ガスコンロのガス消費量(累積値)の推移を下図に示します。1分間当りのガス消費量は3.2Lであり、それが5分間継続しています。ガスコンロのグリルの能力は2,450Wですが、実際の熱量は2,360W(3.16×60×44.8/3.6)でした。このことから、本測定時のグリルの実熱量は定格熱量の96%であることが分かります。

 そして、上図から分かる通り、焼き上げに要したガス消費量は15.8L加えた熱量は707.8kJでした。都市ガスの発熱量は環境省資料より44.8MJ/m3を使用しています3)。熱量についてはガスコンロの方が1.5倍以上の熱量(707.8/453.2=1.56)になっています。

 以上の測定結果より、ピザがそれぞれの調理器具から受けた熱量を試算してみます。ガスコンロの熱効率を「こんろ部」の省エネ基準値である55.6%と仮定し、トースターの熱効率を90%と仮定すれば、下の計算の通りほぼ同程度の熱をピザが受けたことになります。

 ピザがトースターから受けた熱量=453.2×0.90=408kJ
 ピザがガスコンロから受けた熱量=707.8×0.556=394kJ

コスト、二酸化炭素排出量の比較

 ここでは、オーブントースターとガスコンロ(グリル部)のランニングコストと二酸化炭素排出量を比較します。下表にその結果を示しています。ランニングコストについては、オーブントースターは4.2円、ガスコンロは2.7円でした。また、二酸化炭素排出量はオーブントースターは0.056kg-CO2、ガスコンロは0.035kg-CO2でした。オーブントースターはコスト、二酸化炭素排出量ともにガスコンロの約1.6倍となっています。

 前回の報告でも示した通り、電気の熱量当り単価は都市ガスの2.42倍(これは1か月の電気使用量400kWh、ガス使用量50m3の場合の2022年1月から5月の実績単価から計算しています)、熱量当りの二酸化炭素排出量は2.49倍(東京電力エナジーパートナー㈱の2021年実績より計算)です。そのため都市ガスの熱量が電気のそれの1.5倍だとしても電気のコスト、二酸化炭素排出量が不利なことは予想できます。現状の電源構成ではこのような結果になることは仕方がありませんが、今後は再生可能エネルギーへのシフトが行われることで電気の二酸化炭素排出量は改善していくものと思われます。

表-7 コスト、二酸化炭素排出量の比較

項  目オーブントースター Aガスコンロ B倍率 A/B
熱量エネルギー使用量(Wh, L)125.9 Wh15.8 L
エネルギーの熱量(kJ)453.2707.80.64
ランニングコスト熱量当り単価(円/MJ)
9.173.792.42
ランニングコスト(円)4.22.71.56
二酸化炭素排出量熱量当り二酸化炭素排出量(kg-CO2/MJ)0.12420.04992.49
二酸化炭素排出量kg-CO20.0560.0351.60
注)都市ガスの体積当りの熱量:44.8MJ/m3(環境省資料による)。
<熱量当りエネルギー単価>
 電気:東京電力エナジーパワー㈱の40A契約の400kWh/月の使用時における単価(2022年1月から5月の平均値)を熱量当たりに換算
 都市ガス:東京ガス㈱の13A・45MJの契約で50m3/月の使用時における単価(2022年1月から5月の平均値)を熱量当りに換算
<熱量当り二酸化炭素排出量>
 電気:東京電力エナジーパワー㈱の消費電力量当りの排出係数(2021年実績)を熱量当りに換算
 都市ガス:環境省、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の算定方法・排出係数一覧より

 ここで参考のため、以前の報告で検討した「水を沸騰させる」場合と今回検討した「ピザを焼く」場合の電気と都市ガスの消費エネルギーの比較を行った結果を下表に示します。どちらの調理法でも都市ガスはガスコンロを使っています。ただし、「ピザを焼く」場合はグリル部を用い、「水を沸騰させる」場合は、こんろ部を使っています。

 一方、電気の場合は「ピザを焼く」場合はオーブントースターを使い、「水を沸騰させる」場合は、IH調理器を使っています。「ピザを焼く」場合は、それぞれの製品の推奨調理法を使っていますが、「水を沸騰させる」場合は、調理器具のセンサーが100℃を検出して自動的に加熱を停止しています。

表-8 電気と都市ガスの調理方法別のエネルギー消費等の相違

項  目単位ピザを焼く水を沸騰させる
オーブン
トースター A
ガスコンロ
グリル部 B
倍率
A/B
IH調理器
A
ガスコンロ
こんろ部 B
倍率
A/B
熱量kJ453.2707.80.64543.2784.00.69
ランニング
コスト
4.22.71.565.03.01.67
二酸化炭素
排出量
kg-CO20.0560.0351.600.0670.0391.72
 注)以下の単価と係数を使用しています。
・熱量当り料金単価は都市ガス3.79(円/MJ)、電気9.17(円/MJ)
・熱量当り二酸化炭素排出量は都市ガス0.0499(kg-CO2/MJ)、電気0.1242(kg-CO2/MJ)

 上表には、それぞれの都市ガスに対する電気の比率(電気A/都市ガスB)を示しています。エネルギー消費量(熱量単位)については、「ピザを焼く」場合の比率は0.64倍、「水を沸騰させる」場合のそれは0.69倍となっています。

 また、ランニングコストについては、「ピザを焼く」場合の比率は1.56倍、「水を沸騰させる」場合のそれは1.67倍です。さらに、二酸化炭素排出量は、「ピザを焼く」場合の比率は1.60倍、「水を沸騰させる」場合のそれは1.72倍です。「ピザを焼く」場合の方が、電気と都市ガスの差異はわずかに小さくなっています、都市ガスの方が有利であることは変わりません。

まとめ

 今回は、オーブントースターとガスコンロ(グリル部)を対象に、ピザを焼く際のエネルギー消費等について検討しました。

 対象としたオーブントースターは象印マホービン株式会社のET-GM30で、消費電力は1,300Wです。オーブントースターは省エネ法の対象となっていません。本製品はマイコンによる自動調理機能が付いており、トーストやピザなどの自動焼き上げが可能です。

 また、対象としたガスコンロはリンナイ株式会社の両面焼きグリル付き3口コンロ、RHS31W23L9Rであり、グリルの熱量は2.52kWです。ガスコンロは省エネ法の対象であり、本製品のグリルは省エネ基準達成率105%です。

 これらの調理器具について、製品の取扱説明書にある調理方法を用いて加熱しました。まず、オーブントースターについては9インチのピザを焼く場合は、消費電力1,300Wで6分間の調理を推奨しています。また、ガスコンロについては上火、下火ともに「強」に設定し、5分間の加熱が推奨されています。

 今回対象とした冷凍ピザ製品は9インチ、270gの製品です。まず、冷凍ピザを自然解凍し、その後上記の調理方法でピザの焼き上げを行い、エネルギー消費量を測定しました。オーブントースターの消費電力量は125.9Wh、熱量は453.2kJでした。一方、ガスコンロのガス消費量は15.8L、加えた熱量は707.8kJでした。

 これらの結果より、熱量についてはガスコンロの方が1.5倍以上多くなっていました。一方、ランニングコストについては、オーブントースターは4.2円、ガスコンロは2.7円でした。また、二酸化炭素排出量についてはオーブントースターは0.056kg-CO2、ガスコンロは0.035kg-CO2でした。オーブントースターはコスト及び二酸化炭素排出量ともにガスコンロの約1.6倍となっていました。

 電気の熱量当り単価は都市ガスの2.42倍(1か月の電気使用量400kWh、ガス使用量50m3の場合の2022年1月から5月の実績より計算)、熱量当りの二酸化炭素排出量は2.49倍(東京電力エナジーパートナー㈱の2021年実績より計算)ですので、現状の電源構成ではこのような結果になることは予想できますが、今後は再生可能エネルギーへのシフトが行われることで電気の二酸化炭素排出量は改善していくものと思われます。

<参考文献>
1)リンナイ株式会社:ワイドグリル用クッキングプレート使いこなしBOOK
2)象印マホービン株式会社、ET-GM30、取扱説明書
3)環境省:温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の算定方法・排出係数一覧