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調理器具の比較(5)-まとめ

 今回は、これまで検討してきた調理器具の加熱原理の特徴やエネルギー消費量の測定結果等を整理し、個別の調理における効率性、コスト、二酸化炭素排出量のとりまとめを行います。

 電気をエネルギー源とする調理器具としてこれまで電子レンジ、IH調理器、オーブントースター、電気ケトルを取り上げてきました。また、都市ガスをエネルギー源とする調理器具はガスコンロを対象としました。電子レンジには、レンジ機能とグリル、オーブン機能があり、前者はマイクロ波による加熱ですが、後の2つはヒーター(電熱線)による加熱です。ヒーターの加熱はオーブントースター、電気ケトルも同じ原理です。

 省エネ法では、水を温める際には熱効率を指標としていますが、これまで水を温める目的の調理器具については消費エネルギーを計測し算定してきました。今回のとりまとめを行う過程で、熱効率の測定方法を規定しているJIS S2103(2019)の内容を再度確認して、正確な測定方法が分かりましたのでそれに従って修正も行いました。また、電気ケトルも新たに温める水量を変更して、再度熱効率の算定を行っています。

 食品のあたためは、熱効率を計測する方法が確立されていません。従ってこれまでの通り、製品に記載のあるあたため方法(加熱レベルと加熱時間)に従って測定した熱量を比較することにします。今回のとりまとめから、それぞれの調理器具ごとに効果的な調理(加熱)分野があり、それらの特徴を理解して使い分けることによって、省エネを達成できることが分かります。

 一方、これまでの報告では、コスト(ランニングコスト)と二酸化炭素排出量についても算定してきました。お気づきの方も多いと思いますが、コストはエネルギーの使用量の多寡によって単価(使用量当り料金)が変わってきます。今回は、電気と都市ガスについて異なる月使用量の単価を設定して、調理器具別の電気と都市ガス料金の比較を行い、コストの分析を行います。

 さらに、電気の二酸化炭素排出量は現状の日本の電源構成による二酸化炭素排出係数をもとに算定しています。現状は化石燃料が多くを占める電源構成となっていますが、将来的には再生可能エネルギーが増加していくことが予想されます。そのため、電源構成の変化に伴う二酸化炭素排出係数が変わった場合の分析を行います。

 これらの検討によって、エネルギー使用量が異なる世帯でもコストの傾向を把握できるようになり、また将来の電源構成の変化によって二酸化炭素排出量の変化も把握できることになり、将来にわたってのエネルギー使用の賢い選択を可能とする情報の一部を提示できたのではないかと考えています。

調理器具別の加熱原理とエネルギー消費量

(1)調理器具別の加熱原理と特徴

 調理器具の加熱原理については、これまで水のあたために関する電気製品について、その特徴等を整理してきました(「調理器具の比較(1)-水のあたため」を参照ください)。今回は、ガスコンロも加えて、調理全般に関する特徴を整理しましたので、下表に示します。

 記載内容の詳細については、表中の調理器具の文字をクリックすると加熱原理等の記載があるサイトに飛びますので、ご確認ください。

表-1 調理器具別の加熱原理と特徴

項目    電子レンジ   IH調理器   ヒーター   ガスコンロ
加熱の原理マイクロ波により水分子を振動・回転させて温度を上昇させ、食品を加熱する。装置内部に配置されるコイルに流れる電流により、所定の種類の金属製の調理器具を自己発熱させることにより食品を加熱する。電熱線に電気を通して熱抵抗で生じたジュール熱により対象物を温める。トースター、電子レンジのグリル、オーブンに使われている。ガス(都市ガス、プロパンガス)の燃焼熱により対象物を温める。
省エネ法対象対象対象外対象外対象
熱効率55%前後 注1)80~90%(公表 90%)注2)90%程度 注3)50%前後(省エネ基準最大56.3%)注4)
利点お湯を沸かさなくても直接野菜の水分の温度を上昇させることができるため、野菜などの下ごしらえに使える。レトルト食品、冷凍食品のあたために最適。熱効率は高い。センサーを用いた様々な省エネの機能が付加されているので、効率的な調理が可能。熱効率はかなり高い。火力の調節が容易なので、オーブンで温度を一定に保つことができる。トーストやピザなどのように、高熱による焦げ目をつける調理が得意。IH調理器では使えない土鍋、陶器やアルミや銅などの鍋も使用できる(IH調理器ではアルミ、銅が使える機種もある)。炙りや鍋振り料理なども可能。
欠点マグネトロンの稼働、高圧トランスでの損失等に電力を消費するため、熱効率は低い。IH調理器に使える容器(鍋等)は鉄やステンレスに限定されており、土鍋や陶器などの容器は使えない。アルミや銅の鍋も使える機種が開発されているが、省エネの面では難がある。鍋料理、煮込み料理のような水を多量に使い、長時間かかる調理にはIH調理器やガスコンロが有利か。電気ケトルのような少量の水を温めるのは効率的だが、保温する場合はエネルギーを多く消費する。熱効率は低い。ただし、1次エネルギーの消費量(化石燃料)で比較すると電気製品より効率が高い。火災や引火、不完全燃焼などによる一酸化炭素中毒の危険がある。
注1) 電子レンジの熱効率は、エネルギー収支(経済産業省、資源エネルギー調査会エネルギー基準部会、電子レンジ判断基準小委員会、最終とりまとめ)より。
注2) 公表の熱効率は、日本電機工業会、製品分野別情報のIHクッキングヒーター、「電気を無駄なく生かす」パンフレットによる。
注3) 本報告の付録参照。電気ケトルの800mL、20℃から50℃水温上昇した場合の熱効率91.5%
注4) 2006年経済産業省告示第63号(制定)「電子レンジのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2019年経済産業省告示第46号

(2)消費エネルギーの計測結果の整理

 これまで検討してきた水の加熱、レトルト食品、ピザ、焼飯のあたためについて、調理器具別に加熱した熱量を整理すると下表の通りです。下表には、食品の質量、温度変化、調理器具別の加熱熱量を示しています。表中の加熱熱量の数字をクリックすると、測定を行ったサイトに飛びますので、ご確認ください。

表-2 調理器具の調理別加熱熱量の比較

  項   目水のあたため湯沸かしレトルト食品ピザ焼飯
食品の質量 (g)2001,000200(+700g)270240
温度変化 18℃→80℃20℃→100℃20℃→100℃20℃→100℃以上5℃→100℃以上
熱量(kJ)電子レンジ14883253
IH調理器119543803
電気ケトル72
オーブントースター453
ガスコンロ7841,209708336
注)ガスコンロについては、ピザ焼きのみグリル(能力2.42kW)を使用し、他は左こんろ(能力4.2kW)を使用。レトルト食品については、IH調理器とガスコンロは700mLの水を沸かす熱量が加わっています。
出所)上記の計測結果の詳細は、該当する数字にリンクしたサイトをご確認ください。

 次に実測に基づく熱効率について整理します。「家庭用ガス調理器」の熱効率を計測する基準であるJIS S2103 (2019)の記述では、「初温から50℃±0.5℃上昇した時」とされています。これまでの報告ではこの記述を「50℃まで上昇した時」と解釈してきましたが、これはミスリードでした。すなわち、20℃から水を温めたとき50℃上昇すると70℃となり、この温度までの熱量を計測することが必要と分かりました。

 幸いなことに、これまでの計測では、1分ごとの消費電力量と温度を測定していますので、その記述に従って読み取り値を変更しました。その結果を下表に示します。電気ケトルはセンサーにより50℃の上昇温度を設定できていますが、IH調理器とガスコンロは1分ごとの測定のため、50℃に近い温度上昇の値になっています。

表-3 調理器別の熱効率の測定結果

 項   目IH調理器電気ケトル(ヒーター)ガスコンロ
測定した製品シャープ株式会社
RE-F23A
T-fal
電気ケトルAprecia
リンナイ株式会社
RHS31W23L9R
定格消費エネルギー(W)1,4001,2504,200
測定時消費電力、熱量(W)1,3001,2801,940
消費電力量、総熱量(Wh)83.850.9153.1
省エネ基準達成率(%)省エネ法対象外省エネ法対象外104.0
スペック上の熱効率(%)9090前後55.6「区分F」
実測熱効率
(%) 注)
水のみ65.391.542.3
水+容器77.150.1
測定の条件水の容量1,000mL800mL1,000mL
温度上昇20℃→67℃20℃→70℃20℃→75.7℃
容 器1.7kgの鉄ホーロー鍋電気ケトル本体1.7kgの鉄ホーロー鍋
蓋 等蓋なし蓋あり蓋なし
注)JIS S2103(2019)「家庭用ガス調理器」の熱効率の計測方法に則り、初温から50℃上昇した時の熱効率を算定。

 今回の算定値は、「上昇温度50℃」としているため、以前算定した値とは若干異なっています。また、電気ケトルについては、新たに800mLの水のあたためを行って算定しています(本報告の付録を確認ください)。

 上表の測定においては、電気ケトルの場合のみ水が800mL、蓋をして温めているのに対して、IH調理器とガスコンロは水1,000mL、蓋なしで温めています。これらの違いはあるものの、電気ケトルの熱効率は90%を超えており、非常に高いことが分かります。一方、ガスコンロの熱効率は水と容器の両方を考慮しても50%程度となっており、低い値となっています。

 これらの結果より、調理器具別の特徴を取りまとめると以下の通りです。

●水を温める場合は、少量の場合は電気ケトルが最も効率的であり、時間も早い。
●レトルト食品の調理はお湯を沸かす必要がなく直接加熱できる電子レンジが最も効率的。
●電子レンジは冷凍食品のあたためも効率的(ピザ焼きのオーブントースターとの比較)
●ガスコンロは冷凍焼飯などの炒める調理は熱が伝わりやすく効率的(ピザと焼飯の比較)。
●IH調理器は鍋自体を温めるので、鍋料理や煮込み料理などに効率的(1Lの湯沸かしより)
●ただし、電気は現状の電源構成ではコスト、二酸化炭素排出量面で都市ガスより不利。

 まず、水を温める場合は、少量の場合は電気ケトルが最も効率的であり、短時間で沸かすことができます。これまで販売されてきた電気ポットは、湯沸かしと保温の機能がありましたが、保温に電気を要するため、長時間の保温の場合は省エネとは言えません。最近では少量の水をその都度沸かす電気ケトルが良く売れているようです。

 電子レンジの特徴はマイクロ波が食品の水分に直接作用して加熱できることから、レトルト食品のあたためではお湯を沸かす必要がなく、他の調理方法に比べて圧倒的に効率的でした。また、電子レンジの冷凍食品のあたためにも非常に効率的であることが分かります(表-2の冷凍焼飯のあたためとピザをオーブントースターで焼いた場合の消費電力との比較)。他の文献では、野菜の下ごしらえも同様であり、お湯で茹でるよりも効率的と記載されています1)

 一方、ガスコンロは冷凍焼飯などの「炒める」調理は熱が伝わりやすく効率的であることが実測値からも分かります(表-2のピザと焼飯の熱量の比較)。また、IH調理器ではできない「炙る」、鍋振り料理なども可能です。

 さらに、IH調理器は鍋自体を素早く温めるので熱効率が高く、多量な水や食品を使って料理する鍋料理や煮込み料理などに効率的と言えます(表-3の1Lの湯沸かしの熱効率の比較)。

 ただし、これまでの検討では、電気は現状の電源構成ではコスト、二酸化炭素排出の両面で都市ガスより不利とされています。これについては、以下でさらなる分析を行いましたので報告します。

コストと二酸化炭素排出量の感度分析

(1) コストの感度分析

 これまでは電気と都市ガスの料金単価は、下表に示す条件で設定していました。

 まず、電気は東京電力エネジーパートナー㈱の「従量電灯B」の契約で、月使用量400kWh/月を仮定しています。そして、その単価は2022年1月~5月の平均値から算定したものでした。一方、都市ガスは東京ガス㈱の「ずっともガス、13A 45MJ」の契約で、月使用量50m3/月を仮定しています。単価は電気と同じ2022年1月から5月の平均値から算定しました。

表-4  電気と都市ガスの料金単価算出の条件

 項  目  電   気  都市ガス  
小売事業者東京電力エネジーパートナー㈱東京ガス㈱
契約従量電灯B、40Aずっともガス、13A 45MJ
月使用量400kWh/月50m3/月
実績期間2022年1月~5月2022年1月~5月
出所)
電気:東京電力エナジーパートナー(株)、電気料金プラン一覧、https://www.tepco.co.jp/ep/private/plan/standard/kanto/index-j.html
都市ガス:東京ガス㈱、ガス料金表、https://e-com.tokyo-gas.co.jp/ryokin/?tik=1&ym=202204

 ここで、電気とガスの料金の算定方法を具体的に示すと下表の通りです。下表では、電気の月使用量が200kWhの場合の計算例を示しています。電気の従量料金単価は使用量ランクごと設定されており、それぞれの使用量ランクごとの使用量に乗じて従量料金が算定されます。燃料費調整額は原料となる原油の価格の変動により調整されるものであり、毎月変動します。また、再生可能エネルギー促進賦課金は再生可能エネルギーの普及に利用されるもので、1年間は同じ単価が使われます。

表-5  電気料金の単価算出法

費   目金額
月電力使用量 (kWh)200
基本料金 (円)1,144
従量料金
(円/kWh)
120kWhまで19.882,386
120kWh~300kWhまで26.482,118
300kWh以上30.570
合計4,504
燃料費調整額(円/kWh)2.74548
再生可能エネルギー促進賦課金(円/kWh)3.45690
料金合計 (円)6,886
料金単価 (円/kWh)34.4
注)上記の料金体系は東京電力エネジーパートナー㈱の「従量電灯B」の2022年5月のものです。
出所)東京電力エナジーパートナー(株)、電気料金プラン一覧、https://www.tepco.co.jp/ep/private/plan/standard/kanto/index-j.html

 また、下表に都市ガスの料金の算定方法を示します。下表では、月使用量が50m3の場合の計算例を示しています。

表-6  都市ガス料金の単価算出法

費   目金額
月ガス使用量 (m350
基本料金 (円)1,056
従量料金(円) 0~10m3187.330
 11~80m3157.637,881.5
 81~200m3155.430
 合計7,881.5
料金合計 (円)8,937.5
料金単価 (円/m3)178.8
注)料金体系は、東京ガス㈱の「ずっともガス、13A 45MJ」、従量料金単価は2022年5月のものです。
出所)東京ガス㈱、ガス料金表、https://e-com.tokyo-gas.co.jp/ryokin/?tik=1&ym=202204

 都市ガスの従量料金の計算方法は、電気と違って該当する使用量ランクの単価を使用量に乗ずるだけです。上記の例の50m3の場合は、該当する単価は157.63円/m3(2022年5月の単価)なので、これに50m3を乗じて7,881.5円となります。

 これらの料金の計算法をもとに、月の使用量を変えた場合の単価の変化を見たものが下図です。電気料金単価が月使用量によってほとんど変わらない(33~36円/kWh)のに対し、都市ガス料金単価は月使用量が多くなると下がっていきます。これは、料金体系が異なっているためです。都市ガスの月使用量が10m3の時の単価は284円/m3であるのに対し、70m3の場合は164円/m3となっています。

 これまで、コストの計算においては電気の単価33円/kWh(月使用量400kWh)、都市ガスの単価170円/m3(月使用量50m3)を使用してきましたが、ここでは電気の単価を33円/kWhで固定して、都市ガス単価を月使用量10m3から70m3の7種の単価で変動させて、調理法別の料金を計算します。表-2の実測した調理器具別の熱量に応じた料金を比較したものが下表と下図です。

 これをみると、電子レンジのレトルト食品のあたためが圧倒的に少ない料金です。そして、ガスの月使用量が10m3(単価284円/m3)の時はレトルト食品(IH調理器)とピザのあたため(トースター)による調理において、電気が都市ガスの料金を下回りますそれ以外はガスの料金が安いことが分かります。

 このことから、少量のガス使用者の場合のみ電気器具の料金が安いことになり、調理においてはコスト面では一般的に都市ガスが有利であることは変わりません(電子レンジのレトルト食品のあたためを除きます)。

表-7  調理器具別の電気、都市ガス料金の感度分析結果

調理器具料金単価湯沸かしレトルト食品 ピザ  焼飯 
電子レンジ33円/kWh0.82.3
IH調理器33円/kWh5.07.4
電気ケトル33円/kWh
オーブントースター33円/kWh4.2
ガスコンロ10m3/月284円/m35.07.74.52.1
20m3/月202円/m33.55.53.21.5
30m3/月184円/m33.25.02.91.4
40m3/月175円/m33.14.72.81.3
50m3/月170円/m33.04.62.71.3
60m3/月166円/m32.94.52.61.2
70m3/月164円/m32.94.42.61.2

(2) 二酸化炭素排出量の感度分析

 これまで二酸化炭素排出量の分析では、電気は東京電力エナジーパートナー㈱の二酸化炭素排出係数を用いていました。具体的には環境省の「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」に示された2020年の実績値から、基礎排出係数(0.447kg-CO2/kWh)を使用しています。

 上記の環境省の資料によると、小売電気事業者の中には様々な排出係数があります。福島フェニックス電力株式会社や株式会社ところざわ未来電力のように0.1kg-CO2/kWhを下回っている事業者もあります2)。これは再生可能エネルギーの導入状況によって変わっていることが想像されます。

 東京電力エネジーパートナーの電源構成は、LNG火力58%、石炭火力21%、石油火力0.5%であり、化石燃料だけで8割程度を占めています3)。原子力発電の稼働が停止している状況では化石燃料依存はやむを得ないものと思われます。

 一方、海外の二酸化炭素排出係数は下表に示すように、フランスは0.04、カナダ0.13、イギリス0.18、ドイツ0.33(単位はkg-CO2/kWh)などと低い数値が見られます。フランスは原子力の利用、カナダは水力、イギリスは新エネルギーと原子力の利用によって低減しているようです。日本も、将来的にはこのような排出係数に移行していくものと思われます。

表-8  国別の二酸化炭素排出係数と電源構成

国名排出係数電源構成 (%)
kg-CO2/kWh新エネルギー 水 力  原子力 化石燃料等
フランス0.041011709
カナダ0.138581519
イギリス0.183721744
イタリア0.302516059
ドイツ0.333841246
アメリカ0.381171963
日本0.44149671
中国0.641017568
インド0.72911377
出所)排出係数は電気事業低炭素社会協議会「電気事業における地球温暖化対策の取組み」、電源構成はIEA「Data and Statistics 2019」より作成

 そこで、ここではドイツ並みの排出係数(0.33 kg-CO2/kWh)とイギリス並みの排出係数(0.18 kg-CO2/kWh)を設定して計算してみます。現状の再生可能エネルギーの導入速度では2030年でもこの数字は難しいかもしれませんが、とりあえずこの値で感度分析を行います。結果を下表と下図に示します。

 同表のように、ドイツ並みの排出係数では都市ガスの有利性は変わらず、イギリス並みの排出係数になった場合は逆転して電気の方が二酸化炭素排出量が少なくなることが分かります。イギリス並みの排出係数になる場合は、表-8に示すように化石燃料の割合を5割以下にすることが必要と考えられますが、この10年でこのような改善ができるかどうかが課題と言えるでしょう。

 以上のことから、日本の電源構成が再エネに移行していく過程をよく見極めることで、二酸化炭素排出量の少ない調理法を選択することができると考えられます。

表-9 調理器具別の電気、都市ガスの二酸化炭素排出量の感度分析結果

   調理器具排出係数湯沸かしレトルト食品 ピザ  焼飯 
電気電子レンジ0.447kg-CO2/kWh
現状レベル
0.010.031
IH調理器0.0670.1
電気ケトル
オーブントースター0.056
電子レンジ0.33kg-CO2/kWh
ドイツレベル
0.0080.023
IH調理器0.050.074
電気ケトル
オーブントースター0.042
電子レンジ0.18kg-CO2/kWh
英国レベル
0.0040.013
IH調理器0.0270.04
電気ケトル
オーブントースター0.023
都市ガス0.0499kg-CO2/MJ0.0390.060.0350.017

(3)電気が都市ガスのコストと二酸化炭素排出量を下回る場合の分析

 最後に、各調理について電気が都市ガスのコストと二酸化炭素排出量を逆転するときの単価と二酸化炭素排出係数を計算すると以下の通りです。下表に示すように、例えば「湯沸かし」をするときに、IH調理器がガスコンロのコストを下回るのは、ガス料金単価が285円/m3以上ということが分かります。また、湯沸かしでIH調理器がガスコンロの二酸化炭素排出量を下回るのは電気の排出係数が0.259 kg-CO2/kWh以下ということになります。なお、「湯沸かし」の電気ケトルの消費電力は計測していませんが、今回測定した熱効率(91.5%)を用いて消費電力量を推計しています。

表-10 電気器具がガスコンロのコストと二酸化炭素排出量を下回る都市ガス単価と電気の二酸化炭素排出係数

調理法調理器具 熱 量 
 (Wh)
ガスコンロ
との比率
(-)
料金が逆転する
ガス料金単価
(円/m3
排出量が逆転する
CO2排出係数
(kg-CO2/kWh)
湯沸かしIH調理器150.80.6922850.259
電気ケトル 注)101.80.4671920.384
ガスコンロ217.81.000
レトルト食品電子レンジ23.10.069(28)(2.603)
IH調理器223.10.6642730.270
ガスコンロ335.81.000
ピザオーブントースター125.80.6402630.280
ガスコンロ196.71.000
焼飯電子レンジ70.30.7533100.238
ガスコンロ93.31.000
注)ガスコンロの熱量はkJ単位からWh単位に変換しています(Wh=kJ/3.6)。
・電気ケトルの消費電力量は計測していませんが、測定した熱効率(91.5%)を用いて推計しています。
・なお、レトルト食品のあたためにおいて、電子レンジは既にコストも二酸化炭素排出量もガスコンロのそれを下回っています。
注)上表の計算方法は以下の通りです。
<料金が逆転する都市ガス料金単価の計算>
・現状の都市ガス料金170円/m3
・電気と都市ガスの熱量当りの単価の比は以下の通り。9.17円/MJ÷3.79円/MJ=2.42
・「湯沸かし」におけるIH調理器とガスコンロの熱量の比:0.692(表-10参照)
・「湯沸かし」におけるIH調理器がガスコンロの料金を下回る都市ガス料金単価=170×(2.42×0.692)=285円/m3
<二酸化炭素排出量が逆転する電気の二酸化炭素排出係数の計算>
・現状の電気の二酸化炭素排出係数0.447kg-CO2/kWh
・電気と都市ガスの熱量当り二酸化炭素排出係数の比は以下の通り。0.1242kg-CO2/MJ÷0.0499 kg-CO2/MJ=2.49
・「湯沸かし」におけるIH調理器がガスコンロの二酸化炭素排出量を下回る電気の排出係数=0.447/(2.49×0.692)=0.259 kg-CO2/kWh

 これらの結果より、自分の世帯のガス料金単価と照らし合わせることで、個別の調理におけるエネルギー料金を少なくすることが可能になりました。また、今後の電源構成の変化によって変動する二酸化炭素排出係数を確認しながら、二酸化炭素排出量を最小にする調理法を選択することも可能になりました。

まとめ

 今回は、これまでの調理器具の加熱原理とその特徴を整理するとともに、実測に基づいて調理器具別の各種の調理に要した熱量を整理し、比較しました。

 その結果、以下の特徴が明らかになりました。
●水を温める場合は、少量の場合は電気ケトルが最も効率的であり、時間も早い。
●レトルト食品の調理はお湯を沸かす必要がなく直接加熱できる電子レンジが最も効率的。
●電子レンジは冷凍食品のあたためも効率的(ピザ焼きのオーブントースターとの比較)
●ガスコンロは冷凍焼飯などの炒める調理は熱が伝わりやすく効率的(ピザと焼飯の比較)。
●IH調理器は鍋自体を温めるので、鍋料理や煮込み料理などに効率的(1Lの湯沸かしより)
●ただし、電気は現状の電源構成ではコスト、二酸化炭素排出量面で都市ガスより不利。

 また、これまで検討してきたコスト(ランニング)と二酸化炭素排出量について、条件が変わった場合の感度分析を行いました。

 コストについては、月使用量を変えた場合の単価の変化を分析しました。電気料金単価が月使用量によってほとんど変わらない(33~36円/kWh)のに対し、都市ガス料金単価は月使用量が多くなると下がっていました。これは、料金体系が異なっているためです。都市ガスの月使用量が10m3の時の単価は284円/m3であるのに対し、70m3の場合は164円/m3となっていました。

 そのため、都市ガスの月使用量を変化させて調理器具別のコストを比較しました。その結果、都市ガスの月使用量が10m3(単価284円/m3)の時はレトルト食品とピザのあたためで電気が都市ガスの料金を下回りますが、それ以外は都市ガスの料金が安いことが分かりました。このことから少量の都市ガス使用者の場合のみ電気器具の料金が安いことになり、調理においてはコスト的には都市ガスが有利であることは変わりませんでした(電子レンジのレトルト食品のあたためを除きます)。

 次に、二酸化炭素排出係数についても感度分析を行いました。現状の電気の二酸化炭素排出係数は東京電力エナジーパートナー㈱の0.447 kg-CO2/kWhを使用しています。これに対して、ドイツ並みの排出係数(0.33 kg-CO2/kWh)及びイギリス並みの排出係数(0.18 kg-CO2/kWh)を設定して計算しました。

 その結果、ドイツ並みの排出係数では都市ガスの有利性は変わらず、イギリス並みの排出係数になった場合は逆転して電気の方が二酸化炭素排出量が少なくなりました。イギリス並みの排出係数になる場合は、化石燃料の割合を5割以下にすることが必要と想定されますが、この10年でこのような改善ができるかどうかが課題です。

 最後に、調理法別に電気と都市ガスのコスト及び二酸化炭素排出量を最小にするための料金単価と二酸化炭素排出係数の分析を行いました。この結果、世帯のガス料金単価と照らし合わせることで、個別の調理におけるエネルギー料金を少なくすることが可能になりました。また、今後の電源構成の変化によって変動する二酸化炭素排出係数を確認しながら、二酸化炭素排出量を最小にする調理法を選択することも可能になりました。

 次回以降はお風呂や調理に用いる給湯器を取り上げ、その消費エネルギーについて検討していきます。なお、IPCCの第6次報告書の第2部会、第3部会の報告書が既に公開されています(本サイトの「海外の地球温暖化防止に関する情報」に、既にアップしていますので参考にしてください)。そのうちの第3部会の報告書では「需要側の緩和策」が詳細に整理されています。これらは本サイトのテーマと関連するので、整理でき次第、その概要を報告することとします。

<参考文献>
1)資源エネルギー庁:省エネ性能カタログ(家庭用)、2021年版
2)環境省:温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度、算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧、2020年実績
3)東京電力エナジーパートナー㈱:東京電力エナジーパートナーの販売する電気の特性・環境負担、https://enechange.jp/utilities/tepco?area=tepco

【付録】電気ケトルの熱効率

 ここでは、電気ケトルの熱効率を算定した消費電力の測定結果を記載します。
 JIS S2103(2019)に従って、初期温度20℃から50℃上昇した際の加熱量を計測し、その際の熱効率を算定します。使用した電気ケトル(T-fal 電気ケトルAprecia)の仕様は表-3に示した通りです。

 温めた水量はこの電気ケトルのあたため最大容量である800mLです。本製品はあたための温度設定ができるため、設定温度を70℃として、加熱を開始しました。消費電力の推移は下図の通りです。加熱時間は2分27秒、消費電力量は50.9Whでした。

 これらから、本製品の熱効率は以下で計算されます。

 水が受けた熱量=0.8×50×4.19=167.6kJ
 電気ケトルが加えた熱量=50.9×3.6=183.2kJ
 熱効率=167.6/183.2=91.5%