エアコンの仕組み
家電のうち季節的に(夏と冬)、最も大きな消費電力を要するのがエアコンと言ってもいでしょう。冷房、暖房どちらについても大きな電力量を必要とします。そのため、エアコンの省エネ性能が年間消費電力に大きな差をもたらします。
ここでは初めにエアコンの原理について少し理解を深めておきましょう1)。
エアコンはヒートポンプの原理を利用して家屋内の冷房と暖房を実現します。冷暖房を実現する主役はエアコン内の室内機と室外機を循環する冷媒(気体と液体に相変化する物質)です。この冷媒がもつ3つの性質、すなわち①熱は温度が高い物質から低い物質に移動する、②圧力を加えるまたは減らすことにより温度が変化する、③相変化(気体と液体の間で変化すること)により熱を吸収(液体から気体になる際の蒸発熱)または放出する(液体から気体になる際の凝縮熱)ことを用いています。
もう少し具体的に言うと、冷媒が室内と室外を循環して流れていく過程で、冷房の場合は室温より低い温度で熱交換器を通過して室内の熱を奪い(①の原理)、さらに液体から気体に相変化して大量の熱の吸収する(③の原理)ことで、室内を冷やします。また、暖房の場合は冷媒が室温より高い温度で室内の熱交換器を通過して熱を放出し(①の原理)、気体から液体になることで熱を放出して(③の原理)暖房の効果を高めます。冷房の原理は冷蔵庫や冷凍庫に使われている原理(蒸気圧縮冷凍サイクル)と同じであり、暖房の場合の原理は電気温水器などにも使われています。
下図にエアコンの冷房、暖房のそれぞれの原理を示します。冷房の場合、圧縮機が冷媒を圧縮して高温、高圧の気体にして(②の原理)、室外機の熱交換器(凝縮器)で放熱し(①と③の原理)ます。そして、さらに冷媒を減圧器で圧力を下げ低温(②の原理)になった液体から気体になる過程で室内の熱交換器(蒸発器)で熱を吸収(①、③の原理)して室内を冷やします。
暖房の場合はこの流れが逆になり、圧縮機で高温高圧にした気体(②の原理)を室内の熱交換器で放熱します(①、③の原理)。冷却されて液体となった冷媒を減圧器を通して温度を下げ(②の原理)、液体から気体となる際に室外機で熱吸収(①、③の原理)することで暖房のサイクルを実現します。この暖房、冷房の切り替えに用いられるのが四方弁です。
この圧縮機に用いられるのがコンプレッサーですが、コンプレッサーを稼働させる動力がエアコンの主要なエネルギーになります。エアコンの能力(エネルギー消費効率)を表す指標として、これまでCOP(Coefficient Of Performance:成績係数)が用いられていました。COPは冷房の場合、室内で熱を吸収する能力(kWで表します)を消費したエアコンの電力(主としてコンプレッサーの動力です)で除して求めます。このCOPがエアコンのエネルギー消費効率(省エネ性能)を表す指標として用いられていました。
しかし、この指標は外気の温度等の条件によって異なることや冷房と暖房で異なる数値を示すため、最近ではエアコンのエネルギー消費効率は後に説明するAPF(通年エネルギー消費効率)に変わってきています4)。APFは冷房、暖房の両方を考慮した1つの指標で表すことができます。
エアコンの省エネ基準
エアコンの省エネ性能はトップランナー制度で示された省エネ基準達成率で表されますが、小売事業者が表示する多段階評価値と省エネ基準達成率の関係は以下の通りです5)。この省エネ基準はエアコンの場合、通年エネルギー消費効率(APF:Annual Performance Factor)を基に設定されています。このAPFについて説明しておきましょう。
表-1 多段階評価値の省エネ基準達成率(目標年度2026年度)
多段階評価 | 省エネ基準達成率 |
---|---|
★★★★★ | 121%以上 |
★★★★ | 114%以上121%未満 |
★★★ | 107%以上114%未満 |
★★ | 100%以上107%未満 |
★ | 100%未満 |
APFとは、「ある一定条件下でエアコンを使用したとき、1年間に必要な冷暖房負荷を、1年間でエアコンが消費する電力量(期間消費電力量)で割った数値」です。APFの数値が大きいほど、省エネ性が高くなります。ここで、冷暖房負荷とは部屋の広さ、外気温を条件として、設定された稼働時間において、設定された室内温度にするためにエアコンが除去する熱量(冷房の場合)と付加する熱量(暖房の場合)の合計のことを指しています。
APF= エアコンが稼働する期間の冷暖房負荷/当該エアコンの期間消費電力量
エアコンのAPFの基準値はエアコンの能力により異なっています。下表にエアコンの能力別の部屋の広さの目安とAPF基準値(2026年度までの目標値)を示しています(家庭用の直吹き形で壁掛けのもの、寸法規定タイプ。詳細は本サイトの「エアコンのエネルギー消費効率」をご確認ください)。エアコンの能力が高くなるほどAPF基準値は低下していく傾向にあります。
表-2 エアコン能力別の基準エネルギー消費効率(目標年度2026年度)
能力(kW) | 部屋の広さの目安 | APF基準値 | 備 考 |
---|---|---|---|
2.2 | 6畳 | 5.8 | 告示第2表による |
2.5 | 8畳 | 5.8 | 〃 |
2.8 | 10畳 | 5.8 | 〃 |
3.2 | 12畳 | 5.8 | 〃 |
4.0 | 14畳 | 4.9 | 〃 |
5.0 | 16畳 | 5.5 | 告示第3表による |
5.6 | 18畳 | 5.0 | 〃 |
6.3 | 20畳 | 5.0 | 〃 |
7.1 | 23畳 | 4.5 | 〃 |
出所)1999年通商産業省告示第190号(制定・廃止)「エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2019年経済産業省告示第46号
そのため、3.2kWと7.1kWのエアコンでAPFが同じ6.0であったとしても、3.2kWは省エネ基準達成率が103.4%なので多段階評価値は「星2つ」、7.1kWはそれが133.3%なので「星5つ」ということになります。そのため、多段階評価値だけではなく、APFにも着目してエアコンを選んだほうが良いでしょう。
※エアコンの省エネ基準が2022年5月の経産省告示で改定されたため、以下に変更部分を記載します。
エアコンの省エネ基準は2022年5月に改定され、さらに厳しい値に変更されています。 本改定の目標年度は2027年度です。 従来の家庭用エアコンの省エネ基準値はエアコン能力により細かく区分されていましたが、改定により冷房能力2.8kW以下はAPF6.6(寒冷地は6.2)、同じく2.8kW超はAPF6.6(同じく寒冷地は6.2)を上限とする冷房能力の関数で設定されることになりました。
表-3 エアコン能力別の基準エネルギー消費効率(目標年度2027年度)
冷房能力 | 仕様 | 区分名 | 基準エネルギー消費効率又はその算定式 |
---|---|---|---|
2.8kW以下 | 寒冷地仕様以外のもの | Ⅰ | E=6.6 |
寒冷地仕様のもの | Ⅱ | E=6.2 | |
2.8kW超28.0kW以下 | 寒冷地仕様以外のもの | Ⅲ | E=6.84-0.210×(A-2.8) ただし、E = 6.6を上限、E = 5.3を下限とする。 |
寒冷地仕様のもの | Ⅳ | E=6.44-0.210×(A-2.8) ただし、E = 6.2を上限、E = 4.9を下限とする。 |
E:基準エネルギー消費効率(APF:通年エネルギー消費効率) A:冷房能力(kW)
注2)区分名「Ⅲ」であってその基準エネルギー消費効率が6.6以上又は5.3以下の場合は、それぞれ、6.6又は5.3とし、区分名「Ⅳ」であってその基準エネルギー消費効率が6.2以上又は4.9以下の場合は、それぞれ、6.2又は4.9とする。
出所)エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判
断の基準等、1999年3月31日通商産業省告示第190号(廃止・制定)、最新改定2022年5月31日、経済産業省告示第128号
エアコンの省エネ技術
ところで、これまでのエアコンの省エネ法に基づくエネルギー消費効率の改善状況は15%または16%台にとどまっています(下の表に示すようにテレビや冷蔵庫などと比べてやや小幅な改善率です)。
表-3 家電別のエネルギー消費効率の改善状況
機 器 名 | エネルギー消費 効率の改善率 | 備 考 |
---|---|---|
エアコン(家庭用直吹き・壁掛け4kW以下) | 16.3% | 2005年度→2010年度 |
エアコン(家庭用直吹き・壁掛け4kW超) | 15.6% | 2006年度→2012年度 |
照明器具(蛍光灯器具) | 14.5% | 2006年度→2012年度 |
テレビ(液晶・プラズマ) | 60.6% | 2008年度→2012年度 |
電子計算機 | 85.0% | 2007年度→2011年度 |
磁気ディスク装置 | 75.9% | 2007年度→2011年度 |
電気冷蔵庫(家庭用) | 43.0% | 2005年度→2010年度 |
電気冷蔵庫(家庭用) | 24.9% | 2005年度→2010年度 |
電気便座 | 18.8% | 2006年度→2012年度 |
それは、エアコンの省エネ技術がかなり進んできており、省エネ技術の向上も限界に近付きつつあるというのが現状のようです。
前述したエアコンの原理の図に示した各種の機械設備(エアコンを構成する圧縮機、減圧器、熱交換器、四方弁)について、以下のような性能向上により省エネ化が行われています3)。電力は主に圧縮機を作動させるためと熱交換器でのファンを回す動力などに使われるため、圧縮機と熱交換器の性能向上が図られています。また、省エネのために各種の損失を軽減させる工夫も見られます。この中にはインバータの導入などは含まれておりません。それは既にすべてのエアコンが採用しているためと思われます。
①圧縮機の性能向上(R32新冷媒対応、機械損失・熱量損失の低減、圧縮機モータ
の効率向上
②送風系の性能向上(ファンの翼形状の適正化、モータ駆動回路の高効率化等)
③弁の性能向上(四方弁の熱伝導と損失低減等)
④熱交換器の性能向上(大型化による前面面積の拡大による伝熱性能の向上等)
一方、エアコンの省エネについて機械装置のハード的な改善による方法が限界に近付きつつあるのに対して、最近ではソフト的な省エネ技術が採用されるようになりました3)。資源エネルギー庁の資料によるソフト的な省エネ手法を下表に整理しました。これは、省エネラベリング制度の指標であるAPFには反映しませんが、実際の消費電力には影響があるものと想定されています。これらのソフト的な省エネ技術にも着目して購入の判断をされたらどうかと思います。
表-4 ソフト的な省エネ技術の例
機 能 | 機能の一例 | 機種と機能の名称 |
---|---|---|
学習や予測を主とした機能 | 部屋の性能と帰宅時間などを学習し、⽴ち上げ制御や、外出前に温度をゆるめる温度シフト制御等で省エネ。 | シャープAY-J40X2「クラウドAI」 パナソニックCS-408CX2「おへや学習機能」 ⽇⽴RAS-XJ40J2「AIこれっきり運転」 三菱電機MSZ-FZ6318S「先読み運転」 |
人のセンシングを主とした機能 | ⼈感センサーで⼈のいる場所に集中的に気流を吹き分け、快適と省エネを両⽴して⾃動運転。 | ダイキンRXシリーズ「快適エコ⾃動運転」 東芝RAS-E406DRH「ecoモード」 三菱重⼯SRK40SW2「エコ運転」 |
不在時オフを主とした機能 | センサーで⼈の不在を検知すると、運転パワーをセーブまたは停止する不在省エネ運転。 | 東芝RAS-E406DRH「不在節電機能」 パナソニックCS-408CX2「不在省エネ運転」 富⼠通ゼネラルAS-X40H2「不在ECO」 三菱重⼯SRK40SW2「不在時ひかえめ運転」 |
部屋のセンシングを主とした機能 | 温度センサーで計測した⽴体的な部屋温度とハイブリッド気流によって、運転のムダを省き、快適性と省エネ性を向上。 | 富⼠通ゼネラルAS-X40H2「3D温度センサー」 シャープAY-J40X2「エコ⾃動運転」 パナソニックCS-408CX2「ひとものセンサー」 |
送⾵とのハイブリッドを主とした機能 | 温度・湿度センサーでお部屋の状況をチェックしPMVや体感温度に合わせて⾃動で送⾵に切り替える「快適⾃動運転」 | 三菱重⼯SRK40SW2「快適⾃動運転」 三菱電機MSZ-FZ6318S「ハイブリッド運転」 |
自動掃除を主とした機能 | エアコン内部の「⾃動お掃除」で省エネ性能をキープ | 東芝RAS-E406DRH「⾃動お掃除」 |
まとめ
エアコンの仕組みは室内外を循環する冷媒の吸熱と放熱の機能を使って冷暖房するものです。エアコンの電力は冷媒を圧縮するコンプレッサーを稼働させる動力が中心ですが、この消費電力(W)と部屋の熱量の移動量(熱量をWに換算)の比率がエネルギーの利用効率であり、エアコンは極めて効率の高い性能を有しています。
エアコンのエネルギー消費効率はAPF(通年エネルギー消費効率:冷房と暖房の熱量負荷を期間内の消費電力量で除したもの)を用いています。エアコンの省エネ基準はその能力別に決められており、エアコンの能力が高くなるほどAPF基準値は低下して設定される傾向にあります。一方、多段階評価値はAPFの基準値に影響を受けるので、省エネ性能を判断する場合はエアコンの能力別に多段階評価値を見るか、異なる能力を比較する場合はAPF値を確認するのが良いでしょう。
エアコンの省エネ性能はかなり進んできており、省エネ技術の向上も限界に近付きつつあるというのが現状のようです。圧縮機の性能向上や熱交換器の大型化などで熱損失を防止するなどの対策を採用していますが、近年ではセンサーを使ってエアコンの自動制御を行うことで省エネを図る(ソフト対策)傾向にありますので、それらにも注目してエアコンを選ばれるのが良いと思います。
<参考文献>
1)安達勝之、佐野洋一郎、絵解きでわかる熱工学、オーム社、2005
2)資源エネルギー庁、省エネ性能カタログ(家庭用)2020年版
3)資源エネルギー庁、第2回総合資源エネルギー調査会(省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、エアコンディショナー及び電気温水機器判断基準ワーキンググループ、資料4、2019年12月18日
4)1999年通商産業省告示第190号(廃止・制定)「エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2019年経済産業省告示第46号
5)2006年経済産業省告示第258号(制定)「エネルギー消費機器の小売の事業を行う者その他その事業活動を通じて一般消費者が行うエネルギーの使用の合理化につき協力を行うことができる事業者が取り組むべき措置」、最終改定2020年経済産業省告示第243号