冷蔵庫はどこの家庭でも少なくとも1個はあり、その役割上1年中稼働している家電機器です。そのため、気が付かないうちに多くの電力を消費しており、家庭ではエアコンに次いで2番目に多くの電力量を消費しています。家庭の消費電力量に占める割合は夏季では18%、冬季では15%です1)。
近年では省エネ機能が盛り込まれ、15年前の機種と比べると約6割、10年前と比べると約4割の消費電力量が削減されています。早くから省エネ法の規制対象となっており、厳しい省エネ基準が課されてきた効果が表れている家電機器の1つです(1999年省エネ法の対象)。
しかし、冷蔵庫の大型化、高機能化に伴って消費電力量も多くなっていくことが想定されますので、使い方を工夫して省エネに努めることが必要です。冷蔵庫は省エネ機能が向上している新型に買い替えることが一番効果的ですが、毎日の気配りが省エネにつながります。
また、製品の製造、廃棄時にもエネルギーが消費され、二酸化炭素が排出されています。さらに、かつて冷蔵庫には温室効果が大きな冷媒が使われていたため、古い機種の買い替え時には冷媒が漏洩することがないよう留意することも必要です。
ここでは、冷蔵庫の原理と特徴、省エネ基準、省エネ対策の事例について解説します。また、冷蔵庫の使用時のみでなく製造時や廃棄時も含めた二酸化炭素排出量を分析したLCA事例も示します。
<本報告のコンテンツ> ■原理と特徴 (1)原理 (2)特徴 ■省エネ基準(基準エネルギー消費効率) (1)目標年度2010年度までの省エネ基準 (2)目標年度2021年度以降の省エネ基準 ■省エネ対策の事例 (1)ドアの開閉回数と開閉時間を減らす (2)庫内での食材等の詰め込み方の工夫 (3)設定温度、省エネ機能の利用 (4)効率を低下させない設置場所 (5)新機種に買い替える ■LCA分析の事例 (1)LCAの分析方法 (a)エネルギー起源の二酸化炭素排出量 (b)冷媒の漏洩によるGHG排出量 (2)エネルギー起源の二酸化炭素排出量の分析結果 (a)比較対象の冷蔵庫の諸元 (b)素材調達、製造、輸送、使用、廃棄の計算条件 (c)LCA分析結果 <参考となる本サイトの記事> |
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原理と特徴
(1)原理
冷蔵庫はエアコンと同様にヒートポンプの原理で対象物を冷却します。庫内を冷やすのは冷媒の働きです。図-1のように冷媒が圧縮、凝縮(熱交換)、減圧、蒸発(熱交換)と循環している過程で、蒸発器での熱の吸収により冷却効果を得ることができます。
ヒートポンプは以下の3つの物理現象を利用して熱を移動させます。
① 熱は温度が高い物質から低い物質に移動する
② 圧力を加えるまたは減らすことにより温度が変化する
③ 相変化(気体と液体の間で変化すること)により熱を吸収(液体から気体になる際の蒸発熱)または放出する(液体から気体になる際の凝縮熱)
具体的な各過程における冷媒の機能は以下の通りです。
(1)冷媒は圧縮機によって圧縮されて、高温・高圧の気体になる(②の原理)
(2)冷媒は凝縮器(冷蔵庫外の熱交換器)で液体になり、熱を放出する(①と③)
(3)冷媒は減圧器(膨張弁)で減圧されて低温、低圧の液体となる(②の原理)
(4)冷媒は蒸発器(冷蔵庫内の熱交換器)で気体となり、熱を吸収する (①と③)
このように、冷蔵庫の内部にある蒸発器により冷却を実現するのですが、庫内は製氷室、野菜室、冷蔵室、冷凍室など温度の異なる貯蔵室に仕切られているため、冷気をファンにより温度コントロールしています。
冷蔵庫の主要な動力は圧縮機であり、コンプレッサーを用いて圧縮します。冷蔵庫の負荷(熱を除去する量)は外気温度、庫内の冷却物の量、扉の開閉頻度等によって変わるため、庫内にセンサーを設けてコンプレッサーの運転を制御します。従来はコンプレッサーの運転をON-OFF制御していましたが、最近は省エネのためインバータによる回転数制御を行う機種が増えてきました。
(2)特徴
冷蔵庫はその役割上毎日稼働するため、家庭の消費電力量に大きな影響を与えます。定格消費電力は小さくても24時間稼働していますので、1日の消費電力量は多くなります。これは定格消費電力が大きくても使用時間が短いドライヤーや電気ケトルなどとは異なるものです。
冷蔵庫も省エネ技術が進んでおり、過去20年間の年間消費電力量の変化は著しいものがあります。図-2は2000年から2020年に販売された冷蔵庫の年間消費電力量を示しています。2005年の685kWhから2020年は約270kWhと実に約6割減少しています2)。10年前と比べても4割以上の省エネとなっており、新しい製品に買い換えることで大きな省エネ効果が得られます。
このような省エネができたのは、表-1のような省エネ技術を導入したためです。その主要な技術としてインバータ制御と断熱材の性能向上といった対策があります3)。
表-1 冷蔵庫の省エネ技術
省エネ対策 | インバータ制御 | 断熱材 |
---|---|---|
省エネの 仕組み | コンプレッサーなどの回転数を変化させ効率よく運転する技術。庫内の温度に応じて冷却能力を効率良く制御し、省エネを行う。 | 断熱効果の高い高性能断熱材の仕様により、庫外からの熱の侵入を防止し、コンプレッサー等の運転を軽減させて省エネを行う。 |
説明図 |
インバータ制御とはコンプレッサーの回転数制御を行うことです。一般的にコンプレッサーは風量を調節するのに台数を変えたり、バルブまたはダンパにより絞り運転をしたりします。しかし、この制御方法では動力を大きく減らすことはできません。
例えば、ダンパを使って風量を60%まで低減させる場合の動力は76%程度必要です。これは、ダンパでの制御は動力の損失が大きいためです。しかし、インバータを使ってコンプレッサーの回転数を調節すると流量を60%まで低減させる場合の動力は25%で済むのです(表-1の左側)。
このため、インバータを利用したコンプレッサーを有する家電製品は省エネが可能となるのです。インバータを導入できる家電製品は、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などです。冷蔵庫はインバータの導入により大幅に消費電力を削減してきました。
さらに省エネを達成するために冷蔵庫の壁に高性能断熱材を導入して熱の侵入を防ぎ、コンプレッサーの負担を減らします。表-1に示すように、従来の発泡断熱材に加えて真空断熱材を外壁側に配して断熱効果を高めています。断熱材が厚くなると冷蔵庫の貯蔵容積が小さくなるため断熱材を薄くする手法や、高性能の断熱効果を持つ素材を開発するなどが行われています。
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省エネ基準(基準エネルギー消費効率)
冷蔵庫の省エネ基準(基準エネルギー消費効率)は以前は2010年度までを目標年度とする基準値が設定されていましたが、2019年の経済産業省告示改定により2021年度以降を目標年度とする基準値に改定されました。
(1) 目標年度2010年度までの省エネ基準
2010年度目標の冷蔵庫は既に生産が行われていないと思われますので、ここでは省略します。旧機種の省エネ基準が必要な場合は本サイトの「冷蔵庫のエネルギー消費効率」を参照ください。
(2)目標年度2021年度以降の省エネ基準
冷蔵庫の省エネ基準の指標は年間消費電力量です。表-2に示すように省エネ基準(基準エネルギー消費効率:E)は、冷蔵庫の調整内容積(V)の関数で算定されます4)。ここで、調整内容積とは「各貯蔵室の定格内容積に調整内容積係数を乗じた数値の総和」のことを言います。
表-2 冷蔵庫の省エネ基準の算定方法
区分名 | 冷蔵庫の種類 | 冷却方式 | 定格容積(L) | 基準エネルギー消費効率の算定式 |
---|---|---|---|---|
a | 冷蔵庫及び冷凍冷蔵庫 | 冷気自然対流方式 | - | E=0.735・V+122 |
b | 冷気強制循環方式 | 375L以下 | E=0.199・V+265 | |
c | 375L超 | E=0.281・V+112 | ||
備考:E及びVは、次の数値を表すものとする。 E:基準エネルギー消費効率(kWh/年) V:調整内容積(各貯蔵室の定格内容積に調整内容積係数を乗じた数値の総和であって、次に掲げる算定式により算出し、小数点以下を四捨五入した数値)(L) V=∑Kci×Vi (i=1~n) Kci:調整内容積係数(次の表の左欄に掲げる貯蔵室の種類ごとに右欄に掲げる数値) Vi:定格内容積(次の表の左欄に掲げる貯蔵室の種類ごとの数値)(L) n:冷蔵庫及び冷凍冷蔵庫の貯蔵室数 <貯蔵室の種類> <調整内容積係数 Kci> パントリー 0.38 セラー 0.62 冷 蔵 1 チラー 1.1 ゼロスター 1.19 ワンスター 1.48 ツースター 1.76 スリースター又はフォースター 2.05 |
これは各貯蔵室の設定温度が異なるため、必要となる冷蔵負荷が変わるためです。調整内容積係数はその設定温度に応じて冷蔵室(係数は1)の容積の何倍になるかを示すものであり、この係数を貯蔵室容積に乗じたものを合計して、調整内容積を算定します。
標準的な冷蔵室の設定温度は4℃、セラーは12℃、ツースターは-12℃などであり(JISで決められています)、この設定温度に応じて各貯蔵室の調整内容積係数が設定されています(詳細は本サイトの「冷蔵庫のエネルギー消費効率」を確認ください)。
省エネ基準は冷却方式の種別、すなわち冷気自然対流方式と冷気強制循環方式によって異なっています。さらに、冷気強制循環方式は定格容積が375L以下と375L超によって異なる算定式となっています。それをグラフで示すと図-3となります。
自然対流方式の省エネ基準は調整内容積が小さい時は強制循環方式より小さい値ですが、調整内容積が300Lを超えると逆転して大きくなります。これは、冷気を強制的に循環させない場合は容量が大きくなるにつれてコンプレッサーの能力を大きくする必要があるためです。
さらに、強制循環方式では定格容積が375Lを超える場合は、省エネ基準値が大きく低下する算定式となっています。これは定格容積が375Lを超える場合はインバータを導入することが一般的になり、そのため消費電力量を抑えることが可能になるためです。
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省エネ対策の事例
冷蔵庫の省エネ対策は、冷蔵庫を使用する際の毎日のちょっとした気遣いが重要です。多くの製品は温度設定が可能であり、省エネ機能に配慮した製品もありますので、それらに留意した省エネ対策を心がけましょう。冷蔵庫の省エネ対策は以下の6項目です。
① ドアの開閉回数と開閉時間を減らす
② 庫内での食材等の詰め込み方の工夫
③ 設定温度、省エネ機能の利用
④ 効率を低下させない設置場所
⑤ 新機種に買い替える
(1)ドアの開閉回数と開閉時間を減らす
資源エネルギー庁のサイトでは、冷蔵庫の開閉回数と開閉時間の違いによる消費電力量の違いを公表しています。冷蔵庫を12分ごとに25回、冷凍庫を40分ごとに8回の開閉を行い、開放時間はいずれも10秒とした場合(旧JIS開閉試験)とその2倍の回数を行った場合の比較では、年間で電気10.40kWhの省エネ、二酸化炭素削減量5.1kg、約320円の節約となるとされています5)。
図-4に本サイトで消費電力量の実測を行った結果を示しています。この冷蔵庫は電動で開閉するため、その際に電気を使います。また、開閉時に庫内の温度が上がるため、その温度を改善するための電力が消費されることになります。そのため、なるべく開閉回数と開閉時間を少なくすることが省エネに繋がります。
また、資源エネルギー庁のサイト情報では、冷蔵庫を開けている時間を20秒間から10秒間に短縮した場合、年間で電気6.10kWhの省エネ、二酸化炭素削減量3.0kg、約190円の節約になるとされています5)。
※電気の単価は31円/kWh、二酸化炭素排出係数は0.488kg-CO2/kWhと仮定しています。
(2)庫内での食材の詰め込み方の工夫
庫内の詰め込み方にも工夫が必要です。まず、冷蔵室は食品を詰め込み過ぎないようにすることが必要です。食品を詰め込みすぎると、冷気の流れが妨げられ庫内が均一に冷えなくなり、冷却力も低下し、余分に電力を消費してしまいます6)。
冷蔵室は図-5に示すように詰め込み過ぎず、庫内を整理して取り出しやすくします。一方、冷凍室はなるべく多く詰め込む方が電力消費が抑えられるようです。また、調理したての熱いものをそのまま冷蔵庫に入れると庫内温度が上昇し、周りの食品温度も上げてしまうため、暑いものは冷ましてから入れると省エネになるようです6)。
(3)設定温度、省エネ機能の利用
最近の冷蔵庫では、温度設定を変える機能が付いている機種も多く、例えば冷蔵温度と冷凍温度を「強」、「中」、「弱」の3段階に調節ができます。温度設定の「中」は、庫内温度が-18℃~-20℃であり、「強」は「中」より2~3℃低め、「弱」は「中」より2~3℃高めに設定されています7)(東芝VEGETA GR-S470-GZの事例)。
また「自動節電」機能もあり、これを選択すると約10%の節電が行われます。また、冷蔵室、野菜室、製氷室、冷凍室の全てのドアの開閉が24時間以上ない場合は、自動的に約20%の節電に切り替わる機能もあります(右図、前述の冷蔵庫の例)。長期間外出するときにはこの節電機能が有効です。
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(4) 効率を低下させない設置場所
冷蔵庫の原理はヒートポンプですので、冷媒の熱交換が行われやすくする必要があります。そのため、多くの製品のカタログには冷蔵庫と他の家具(壁)とのすき間を開けるように説明されています。以前は熱交換器が背面についていたので、壁との距離を開けるように求められていましたが、最近は熱交換器がサイドに設置されているため、背面の壁の距離に配慮する必要はなくなりました。
先述の東芝冷蔵庫のカタログには、左右に5mm以上、上部に50mm以上のすき間を開けるよう記載されています7)。日本電機工業会のサイトでは、左右、上部の隙間をあけて設置した場合、隙間をあけずに設置した場合と比べ、約5%の省エネになった例が記載されています6)。
また、庫外の熱交換器では高温の冷媒を冷やすことになるので、温度が低い場所に設置する方が有利です。そのため、夏場の日の当たる場所などを避けることが省エネにつながります。冬季にはこのような問題はなくなりますが、冷蔵庫は1年中同じ場所に置いておくので、夏場の条件に配慮しておくことが必要です。
(5) 新機種に買い替える
図-1に示したように、10年前の製品に比べて省エネ性能は4割以上向上しています。そのため、新しく買い替えると省エネが可能となります。
その際は、小売店で製品に記載してあるラベルを見て判断することが有効です。小売事業者は法律によって製品の省エネ性能を表示することになっており8)、その表示方法は経済産業省告示より図-6のような省エネラベル(内容とデザイン)が決められています。
図-6の大きなラベルには、多段階評価点、省エネ基準達成率、年間消費電力量、目安の電気料金が表示されていますので、それを比較して製品を選択することが有効です。多段階評価点とは最高点を5.0、最低点を1.0とした41段階の評価方法です。
小売事業者での冷蔵庫の多段階評価点を算定する方法は下のコラムのとおりです8)。なお、小売事業者での多段階評価点の算定方法は本サイトの「小売事業者の省エネラベル表示制度」に記載してありますので参照ください。
<多段階評価点の計算> 東芝VEGETA GR-S470-GZを例に説明します。仕様は以下の通りです。 冷気強制循環方式、定格容積:465L、調整内容積:543L、年間消費電力量:235kWh/年 この冷蔵庫の多段階評価点は以下の通りです。 省エネ基準=0.281・543+112=265 kWh/年 (表-2を参照) 多段階評価点=2+2.5/61・(多段階評価比率-100) ここで、多段階評価比率を算定する方法は以下の通りです。 多段階評価比率=(0.199・調整内容積+265)/年間消費電力量・100 =(0.199・543+265)/235・100=158% (切捨て処理) この結果より、多段階評価点を計算すると、以下の通りです。 多段階評価点=2+2.5/61・(158-100)=4.3 (切捨て処理) |
表-1に示したように、インバータを搭載している冷蔵庫は省エネが期待できます。インバータの有無による冷蔵庫の消費電力量の違いを図-7に示します。これは日本で販売されている製品のうち、省エネ区分のタイプb(冷気強制循環方式、定格容積 375L以下)の冷蔵庫の調整内容積別の消費電力量を示したものです9)。
図-7に示すようにインバータ無しの冷蔵庫は調整内容積が大きくなると消費電力量が大きくなるのに対して、インバータ有りのものはその増加割合が小さいことが分かります。調整内容積が300Lを超えてくると50~100kWhの差が生じるため、この程度の容積の製品を購入する際にはインバータの有無を確認することで、省エネ性能の高い製品を選ぶことができます。
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LCA分析の事例
(1) LCAの分析方法
(a)エネルギー起源の二酸化炭素排出量
エネルギー起源の二酸化炭素排出量の算定方法は以下の算定式によります。
<製造・廃棄時の二酸化炭素排出量>
素材、製品の重量(kg)×製造・廃棄時の二酸化炭素排出原単位(kg-CO2/kg)
<1次エネルギー使用による二酸化炭素排出量>
1次エネルギー使用量(E)×1次エネルギーの二酸化炭素排出係数(kg-CO2/E)
(b)冷媒の漏洩によるGHG排出量
冷蔵庫もエアコンと同様に冷媒のGHG排出量については、政府が公表しているGHG排出インベントリに掲載されています10)。その計算式を示すと以下の通りです。冷蔵庫の冷媒の充填量は0.125kg、使用時漏洩率も0.3%/年とエアコンと比較して非常に小さいものです。
<使用時のGHG排出量>
製品の冷媒充填量(0.125kg)×使用時漏洩率(0.3%/年)×冷媒の地球温暖化係数×使用年数(年)
2021年の日本全体の家庭用冷蔵庫から排出されたGHGは1千t/年と算定されており、家庭用エアコンの1/10,000と、非常に小さなものです。これは冷蔵庫の冷媒がHFC-134a(GWP=1,430)からイソブタン(GWP=3)に既に変更されていることも一因です。
従ってここでは冷媒の漏洩によるGHG排出量の試算結果は省略します。ただし、古い冷蔵庫の廃棄の際はその漏洩に留意する必要があります。家電リサイクル法に従った廃棄方法を遵守することで冷媒の漏洩を防止することができます。
(2) エネルギー起源二酸化炭素排出量の分析結果
(a)比較対象の冷蔵庫の諸元
冷蔵庫のLCAについては、日本電機工業会が公表した報告書の分析結果を紹介します11)。本報告書では表-3に示すように1999年度の製品と2010年の製品を比較しています。定格内容積とドア数、質量も異なっており、この年度の最も売れ筋の製品を比較しています。
同様に冷媒もHFC134a(GWP=1,430)とR600a(イソブタン、GWP=3)と異なっており、断熱材も新製品では性能が向上しています。なお、本報告書では冷媒のGHG排出量は算定していません。
表-3 比較した冷蔵庫の性能仕様
1999 年度製品 | 2010 年度製品 | |
---|---|---|
定格内容積 | 約400L | 501L |
ドア数 | 4 ドアまたは5 ドア | 6 ドア |
年間消費電力量の測定方法 | JIS C 9801:1999 | JIS C 9801:2006 |
販売時期 | 1999 冷凍年度 | 2010 冷凍年度 |
(1998/10 ~ 1999/9) | (2009/10 ~ 2010/9) | |
冷媒 | HFC134a(代替フロン) | R600a(イソブタン) |
断熱材発泡剤 | シクロペンタン | |
断熱材 | 発泡ウレタン | 発泡ウレタン+真空断熱材 |
製品質量(包装材含む) | 85.1kg(5 社平均) | 102.5kg(3 社平均) |
(b)素材調達、製造、輸送、使用、廃棄の計算条件
電機工業会参加の各社の製品の製造情報を基に、以下の通り各段階別の素材、部品、製品の平均重量と各段階での1次エネルギー消費量を算定しています。
・調達段階:構成する素材と部品の重量を算定し、その平均値を算出。
・製造段階:製品組み立て段階のエネルギー(電力、都市ガス、LPG、灯油、重油、上下水道、エアー、蒸気)の投入量の実績データより平均値を算出。
・輸送段階:表-4に示すように、製造拠点から物流拠点、小売店を経て、購入者までのルートを設定し、ルート別にトラックの積載可能量、積載率、輸送距離を算定。
表-4 輸送における計算条件
製造拠点 | 輸送区分 | 輸送手段名称(積載率) | 輸送距離(km) |
---|---|---|---|
国内製造シナリオ | 製造拠点→物流拠点 | 10 tトラック(40 %) | 500 |
物流拠点→小売店 | 4 tトラック(60 %) | 15 | |
小売店→購入者 | 軽トラック(41 %) | 5 | |
海外製造シナリオ | 製造拠点→港湾 | 10 tトラック(40 %) | 100 |
海上輸送 | 船舶 | 注) | |
国内港湾→物流拠点 | 10 tトラック(40 %) | 500 | |
物流拠点→小売店 | 4 tトラック(60 %) | 15 | |
小売店→購入者 | 軽トラック(41 %) | 5 |
出所)日本電機工業会、環境技術専門委員会LCA-WG:冷蔵庫のライフサイクル・インベントリ分析報告書、2013年3月
・使用段階:国内にて使用されると仮定し、年間消費電力量は各社の対象冷蔵庫のカタログ値の平均値(287 kWh/ 年)を採用。使用年数は「家電製品の使用実態と消費者の意識調査報告書」(家電製品協会)に基づいて10.4 年と設定。
・廃棄、リサイクル段階:金属(鉄、銅、アルミ)95%およびプラスチック20 %が素材回収・再利用されると仮定。リサイクル処理にかかるエネルギーはリサイクルプラントの年間使用電力量を年間処理量で除して算定。
分析に使用した原単位については、以下の通りです。
・LCAソフトウェア「MiLCA」に搭載されているLCIデー タベース「IDEA ver.1.0」12)の原単位を使用。
・電子回路基板については、日本電機工業会、重電・産業システム機器LCA検討WGにて試算された原単位13)を使用。
(c)LCA分析結果
LCAの分析結果を表-5に示します。まず2010年製品の二酸化炭素排出量の計算結果は以下の通りです。
・ライフサイクル全体における二酸化炭素排出量は約1,709kg-CO2。
・ライフサイクル段階毎では使用段階が約1,382kg-CO2と全体の約81% を占める。
・次いで調達(素材)段階が大きく、約326kg-CO2で約19 %を占める。
・調達(部品加工)段階(約27kg-CO2)と製品製造段階(約26kg-CO2)は同程度。
・回収輸送段階は約3.2kg-CO2であり、他の段階と比較すると小さい。
表-5 二酸化炭素排出量の算定結果
ライフサイクル段階 | 二酸化炭素排出量(kg-CO2) | |
---|---|---|
1999 年度製品 | 2010 年度製品 | |
調達(素材) | 295.2 | 325.5 |
調達(部品加工) | 23.5 | 27.1 |
製品製造(組立) | 22.2 | 26.1 |
製品輸送 | 9.1 | 11 |
使用 | 3,828.0 | 1,382.0 |
回収輸送 | 2.7 | 3.2 |
処理・処分 | 7 | 8.4 |
リサイクル控除 | -68.7 | -74.3 |
合計 | 4,119.1 | 1,709.0 |
次に1999年度と2010年度の製品の二酸化炭素排出量を比較すると以下の通りです(図-8)。
・調達段階では、2010年度製品は1999年度製品から約10%増加。これは定格内容積の増加により質量が約20%増加しているため。
・使用段階では約64%減少。真空断熱材の採用等により、使用段階の省エネ性能が大きく向上。
・ライフサイクル全体で比較すると、2010年製品は1999年製品より約59%減少。
2010年製品の素材の重量と二酸化炭素排出量の構成比率を図-9に示します。電気回路基板は重量が全体の0.5%であるのに対し、二酸化炭素排出量は17%と大きくなっており、その影響が大きいことが分かります。高機能化することで電子回路基板が増え、二酸化炭素排出量が増加していくことが想定されます。
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<参考となる本サイトの記事>
■冷蔵庫の省エネ基準
「冷蔵庫のエネルギー消費効率」
■小売店での省エネ情報
「小売事業者の省エネラベル表示制度」
■冷蔵庫の省エネ情報
「冷蔵庫(1)-省エネ性能」
「冷蔵庫(2)-インバータの省エネ効果」
■節電対策
「【家庭の省エネ対策】一日中稼動している冷蔵庫の節電対策 6選」
■LCA分析
「ライフサイクル全体のGHG排出量の分析(2)-冷媒を利用しているエアコンと冷蔵庫」
<スポンサーサイト>
<参考文献>
1)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、家庭でできる省エネ、家電製品別の電力消費割合を知ろう!
2)環境省:省エネ製品買換えナビゲーション、「しんきゅうさん」
3)一般社団法人日本電気工業会:公式Webサイト、製品分野別情報、電気冷蔵庫、省エネのポイント
4)1999年通商産業省告示第704号(制定)、電気冷蔵庫のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等、最終改定2019年経済産業省告示第46号
5)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、家庭向け省エネ関連情報、無理のない省エネ節約、冷蔵庫
6)電気事業工業会:製品分野別情報、家電製品・機器情報、電気冷蔵庫、省エネのポイント/上手な使い方
7)東芝ライフスタイル(株):東芝GR-V470GZ、取扱説明書
8)2006年経済産業省告示第258号(制定)「エネルギー消費機器の小売の事業を行う者その他その事業活動を通じて一般消費者が行うエネルギーの使用の合理化につき協力を行うことができる事業者が取り組むべき措置」、最終改定2021年経済産業省告示第194号
9)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、電気冷蔵庫、閲覧日2021年7月29日
10)温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)編、環境省監修:日本国温室効果ガスインベントリ報告書、2023年版
11)日本電機工業会、環境技術専門委員会LCA-WG:冷蔵庫のライフサイクル・インベントリ分析報告書、2013年3月
12)産業技術総合研究所、産業環境管理協会: MiLCA LCIデータベース、IDEA, ver.1.0、社団法人 産業環境管理協会(更新 2012-7-18)
13)日本電機工業会 重電・産業システム機器 LCA検討WG:電気学会全国大会 講演論文集、2007年8月