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【家庭の省エネ対策】スマホやルータはいくら?意外と知らない情報通信機器の電気代

 今回は情報通信機器の省エネ対策を取り上げます。情報通信機器とは、パソコンやプリンタなどの情報処理機器と電話機、スマートフォンやそれに関係するモデムやルータなどの通信機器を総称したものを指します。

 これらの消費電力量は一般家庭ではあまり多くはありませんが、どのくらい消費しているか気になる方も多いでしょう。スマートフォンは毎日充電しており、モデム、ルータのスイッチを毎日切る人はいないのでたいてい24時間稼働しています。この消費電力量は1個の機器当りの消費電力が少なくても数が多くなると無視できなくなります。

 家庭でのパソコンやスマートフォンは多くてもそれぞれ4、5台(家族数に依存)ですが、オフィスでは数十台になることは普通にあります。従って、その消費電力量を軽減するための対策が取られています。パソコン(コンピュータ)、磁気ディスク、複合機、ルーチング機器は既に省エネ法の対象です。

 最近では、スマートフォンの普及に伴って家庭内でのWifiの使用が一般的になり、無線用のルータが導入されています。広い家ではWifiの電波を遠くに飛ばすため無線出力が大きくなり、消費電力も多くなる傾向にあります。また、パソコンもゲームマシンなどでは処理速度を上げるために強力なCPUを使用し、グラフィック処理能力の向上も相まって消費電力量も多くなります。

 このように情報通信機器はその数や能力が将来的に増加していく傾向にありますので、いつのまにか消費電力量が増えていくことになります。ここでは、情報通信機器を以下の5つに分類して、その消費電力量の実態と省エネ対策について整理していきます。

 ① パソコン
 ② 磁気ディスク
 ③ プリンタ、複合機
 ④ スマートフォン、タブレット
 ⑤ モデム、ONU、ルータ

 そして、省エネのキーワードは以下の5つです。これらのキーワードは上記の機器毎に当てはまるので、その機器別に以下のキーワードをもとに省エネ対策を整理していきます。

 A. 省エネ型機種の選択 
 B. 待機電力に注意 
 C. デバイスの賢い選択
 D. ニーズに合った処理性能の選択 
 E. 使用をやめる・他の機器に代替する

 まず、省エネ型機種を選択する(A)ことは基本ですが、さらに待機電力に注意する(B)ことも重要です。最近の家電機器は待機電力を極力抑えた製品を開発していますが、情報通信機器は信号の待ち受け時間が長いため、スリープモードの利用やスイッチOFFを心掛けることが重要になります。

 また、テレビの節電でも説明したように、複数のデバイスを有する人はそれを賢く選択する(C)ことが省エネにつながります。パソコンのデスクトップとノートブックでは、消費電力量が異なりますので、必要とする機能に応じて選択することが必要です。

 さらに、機種選びにおいて、ニーズに対して過大な処理性能でないか判断する(D)ことも重要です。スペックの良さに飛びついて、必要でない機能が満載の機器を選択すると、余計な電力を消費します。

 最後に、その機器の使用をやめるまたは他の機器で代替する(E)という選択もあります。スマートフォンが普及するまでは写真は印刷(現像)するものでしたが、今では紙に印刷することは少なくなり、写真印刷のためのプリンタは不要になりました。つまり、使用をやめる、または代替するということも選択肢の一つです。

(1) パソコン(コンピュータ)

 パソコンは省エネ法の対象となっており、省エネ基準が決められています(省エネ法上は電子計算機として、コンピュータ全体を対象としています)。電子計算機は1999年に省エネ法の対象となり、6回目の改定が2019年に行われて、最新の基準は2022年度を目標年度としています。

 電子計算機はサーバ型とクライアント型に分けられますが、家庭で使うパソコンはクライアント型ですのでその基準について説明します。まず、省エネ基準(エネルギー消費効率)の指標は年間消費電力量です。

 パソコンのエネルギー消費効率=年間消費電力量(kWh/年)

 省エネ基準値は以下の項目の関数で設定されています。これらはコンピュータの処理能力や画面表示能力に関連し、その能力が高いほど省エネ基準値は高くなっていきます。

① CPU(中央演算装置)
② メインメモリ
③ ディスプレイサイズ、画素数
④ グラフィック
⑤ 内部電源装置

 省エネ基準の算定方法は本サイトの「コンピュータのエネルギー消費効率」に示していますので参考にしてください。ここでは、日本のパソコン専業メーカーであるマウスコンピュータの機種別の年間消費電力量の実態を示すにとどめます。表-1にマウスコンピュータのカタログからノートブック2種、デスクトップ2種、ゲームマシン1種の5種類のパソコンの性能仕様、消費電力量、省エネ区分、省エネ基準達成率等を示しています。

表-1 パソコン製品の年間消費電力量、省エネ基準達成率の事例(マウスコンピュータ製品)

モデル名mouseK5mouseK5-R7mouseCT6-HmouseDT7G-Tune XP-Z-LC
タイプノートブックノートブックデスクトップデスクトップゲームマシン
CPUインテルCore i7-
10750H
AMD-Ryzen7
4800H
AMD-Ryzen5
4500U
インテルCore i7-
10700
インテルCore i9-
11900K
コア/スレッド6/128/166/68/168/16
グラフィックスGeForce-
MX350
AMD Radeon
Graphics
AMD Radeon
Graphics
intel UHD
Graphics
GeForce-
RTX 3090
メモリ 16GB 16GB 16GB8GB64GB
ストーレージ512GB512GB512GB512GB4TB
ディスプレイ15.6インチ15.6インチなしなしなし
同上画素数1920×10801920×1080
年間消費電力量2025.136.176.4162.4
省エネ区分1212151718
省エネ基準達成率AA
A88%AA70%
標準消費電力5.27W6.52W
最大消費電力90W90W
スリープ消費電力0.65W0.74W
価格(円,税込み)131,780131,78087,780100,980549,780
出所)マウスコンピューター、公式サイト、閲覧日2021年9月
注)省エネ基準達成率の「A」は達成率100%以上110%未満、「AA」は達成率110%以上140%未満、「AAA」は達成率140%以上を示す。

 これらのパソコンの消費電力量は図-1の通り、ノートブックはディスプレイを含めてもその年間消費電力量は20~25kWh/年であるのに対して、デスクトップは36~76kWh/年で2倍から3倍程度、そしてゲームマシンは162kWh/年と7倍から8倍程度になっています。

出所)株式会社マウスコンピュータ、パソコンカタログサイト、閲覧日2021年9月23日
図-1 パソコン製品の年間消費電力量(マウスコンピュータ製品)

 表-1から分かるようにmouse CT6-HやG-Tune XP-Z-LCは省エネ基準を満たしていないので、カタログ等を確認して省エネ基準を満たす機種を選ぶことが重要です(A:省エネ型機種の選択)。なお、省エネ基準の目標年度は2022年度であり、このデータを取得したのは2021年であるため、この後の製品は基準を満たしていると想定されます。

 また、ゲームマシンであるG-Tune XP-Z-LCは年間消費電力量が162.4kWhであり、通常のパソコンの7、8倍の電力を消費します。そのため、このパソコンでネットショッピングをすると無駄に電力を使ってしまい、電気代が多額になってしまいます。したがって、用途に応じてパソコンを選択することが重要です(C:デバイスの賢い選択)

 ここで、パソコンのスペックに示される年間消費電力量の測定法について記すと下のコラムの通りです(JIS C 62623:2014で規定)。すなわち、稼働と待機状態における①オフモード、②スリープモード、③ロングアイドルモード、④ショートアイドルモード、⑤アクティブモードの5つの消費電力にそのモード別時間の年間比率を乗じて計算されます。

<年間消費電力量の測定方法(JIS C 62623:2014)>

 省エネ法で規定されている年間消費電力量(TECestimated)は以下のように、各モード別の消費電力の測定値とモード別時間の年間比率より算定されます。

TECestimated=(8760/1000)×[Poff×Toff+Psleep×Tsleep+Pidle×Tidle+Psidle×(Tsidle+Twork)]

 100%=Toff+Tsleep+Tidle+Tsidle+Twork
 Toff :製品がオフモードに費やす時間の年間比率
 Tsleep:製品がスリープモードに費やす時間の年間比率
 Tidle:製品がオン状態でありロングアイドルモード(画面表示なし)である時間の年間比率
 Tsidle:製品がオン状態でありショートアイドルモード(画面表示あり)である時間の年間比率
 Twork:製品がオン状態でありアクティブモード(画面表示あり)である時間の年間比率
 Poff:オフモードにおける平均消費電力測定値
 Psleep:スリープモードにおける平均消費電力測定値
 Pidle:ロングアイドルモードにおける平均消費電力測定値
 Psidle:ショートアイドルモードにおける平均消費電力測定値

 なお、モード別時間の年間比率は以下のような値が推奨されています(この年間比率はオフィスでの使用を想定しています)。

       Toff /Tsleep /Tidle /Tsidle /Twork
 デスクトップ 45% /5% /15% /35% /0
 ノートブック 25% /35% /10% /30% /0

 各モードの消費電力はオフモードは0に近く、アクティブモードは処理稼働時の電力です。そして、重要なのがスリープ、ロングアイドル、ショートアイドルの各モードで、これらは順に大きな消費電力となっていきます。

 ショートアイドルモードは画面表示があり、ロングアイドルモードは画面表示がなく真っ暗な状態になります。スリーブモードは電源が切れているような状態で、非常に小さな電力です。パソコン製造企業は省エネ基準を満たすために、これらの消費電力を削減して省エネ基準を達成します。

 ここで、各モード別の消費電力を測定した結果を図-2に示します。これはNECのノートパソコンNX850/LAB(15.6インチディスプレイ、1TBの磁気ディスク)を用いて測定したものです。この図より各消費電力は以下のように判断できます。

 ショートアイドル(Psidle):20W
 ロングアイドル(Pidel):15W
 スリープモード(Psleep):0.4W (カタログにあるスペック値)

出所)本サイトの「コンピュータ(2)-消費電力の測定」
図-2 パソコンの各モードの消費電力測定結果

 省エネのために重要なことは待機電力に留意して以下の設定をすることです(B:待機電力に注意)

●スリープモードは出荷時には設定されていないのでスリープモードをONにする。
●ロングアイドルモードからスリープモードへの移行時間を適切に設定する。

 パソコンで作業中に席を離れることが多いときは、スリープモードを活用することで省エネを実現できます。ただしこの移行時間間隔を短くすると、頻繁にディスプレイ電源が切れたり、スリープ状態になって作業が非効率的になったりしますので、適切な時間設定を行うことが必要です。

 さらに長時間席を外す場合は、スイッチOFFにした方が良いと思われますが、図-2から分かるようにスイッチON、OFFには最大50~70W程度(スリープ復帰よりも大きい)の電力を消費します。このため、こまめに電源をON、OFFを繰り返すと、返って電力を消費してしまう可能もあります。文献ではスイッチを切る目安は90分としています(マイクロソフト、Windows PCの節電方法)。

 なお、省エネ基準の詳細やスリープモードの設定方法などは本サイトの以下に記載していますので、参考にしてください。

 パソコンの省エネ基準:「コンピュータのエネルギー消費効率」
 パソコンの省エネ性能:「コンピュータ(1)-省エネ性能」
 パソコンの省エネ設定法:「コンピュータ(2)-消費電力の測定」

(2) 磁気ディスク

 磁気ディスクまたはハードディスクはデータを保存しておく補助記憶装置で、パソコンに内蔵されているものや外付けのものがあります。なお、補助記憶装置のうち、SDカードやUSBメモリは独自の電源供給を要しないため、ここでは対象としません。

 家庭で用いられるディスクドライブ1~3台の磁気ディスクの年間消費電力量は2.5インチのものは4.4kWh/年、3.5インチのものは14.2kWh/年程度とされています2)。そのため、家庭の消費電力量における割合は非常に少ないと言えます。

 磁気ディスクは1999年に省エネ法の対象となり、その後7回の改定が行われて最新の省エネ基準は目標年度2023年度です。磁気ディスクのエネルギー消費効率は以下の式の通りで、この数値が小さいほど省エネとなります。消費電力の測定は新告示では下のコラム内の方法とされています。

 磁気ディスクのエネルギー消費効率(W/GB)=消費電力(W)/記憶容量(GB)

<磁気ディスクの消費電力の測定方法>

 電源を入力し、ディスクが回転している状態で、直ちにデータの書き込み及び読み取りをすることが可能な状態(レディアイドルモード)で、5秒以下の測定間隔で消費電力を7200秒間測定し、平均消費電力を算出すること。

 省エネ基準の詳細は本サイトの「磁気ディスクのエネルギー消費効率」に示していますので、ここではその一例を示すにとどめます。表-2に示すように家庭で使われる磁気ディスクはディスクドライブ1台の区分Ⅰ~Ⅲであり、区分Vはデータセンターやメインフレームのサーバ用のものです。

 エネルギー消費効率は磁気ディスクの回転数(N)の関数で表されます。表-2ではNを一般的な回転数である7,200回転や5,400回転とした場合のエネルギー消費効率を計算した結果を示しています。

 データセンター等で使われる区分Vのエネルギー消費効率は0.00170 W/GBが設定されており、区分Ⅰの7,200回転のエネルギー消費効率(0.01314W/GB)と比較すると、約1/8となっています。

表-2 磁気ディスクの省エネ基準(エネルギー消費効率)の一例

区分区分の内容エネルギー消費効率N=7200N=5400
区分Ⅰディスクドライブ搭載可能数1台、ディスク枚数1枚E=exp(2.98×ln(N)-30.8)0.013140.00558
区分Ⅱディスクドライブ搭載可能数1台、ディスク枚数2~3枚E=exp(2.98×ln(N)-31.2)0.008810.00374
区分Ⅲディスクドライブ搭載可能数1台、ディスク枚数4枚以上E=exp(2.11×ln(N)-23.5)0.00857
0.00467
区分Vディスクドライブ搭載可能数12台以上、ディスクサイズ75mm超を含む構成  0.00170
注)E及びNは次の数値を表すものとする。
E:基準エネルギー消費効率(W/GB)
N:回転数(回/分)
出所)1999年経済産業省告示195号(廃止・制定)「磁気ディスク装置のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2021年告示96号

 実際に販売されている製品のエネルギー消費効率を図-3に示します。これはウエスティングハウス社の磁気ディスク製品の仕様をもとに、記憶容量別のエネルギー消費効率を示したものです。記憶容量が大きいほどエネルギー消費効率が低下する(省エネ)ことがわかります。また、回転数の違いでは回転数が小さい(処理速度が遅い)ほどエネルギー消費効率は低い(省エネ)ことが分かります。

出所)ウエスティングハウス社:公式ウェブサイト、製品情報
図-3 記憶容量とエネルギー消費効率の関係

 これらのことから、磁気ディスクの省エネを図るためには省エネ基準を満たし、記憶容量が多い機種を選択することが有効です(A:省エネ型機種の選択)。また、処理速度が遅いほど省エネとなりますので、高速の処理速度が作業上必要であるのか、省エネとのバランスを考える必要があります(D:ニーズに合った処理性能の選択)

 さらに、磁気ディスクも待機電力は大きいものがあります。図-4はテレビに接続した磁気ディスクの待機電力を示しています。測定した磁気ディスクはIO-DATA製のHDL-LA2.0(ディスクサイズ3.5インチ、記憶容量2TB)です。この測定結果より、各モード時の消費電力量は以下とみなすことができます。

 ●待機電力(テレビOFF):1.5W
 ●レディアイドル時:4.6W
 ●録画再生時:5.5W
 ●テレビ録画時:5.3W

 この待機電力はテレビの電源を切っても続くので注意が必要です。使っていない時は磁気ディスクの電源を抜いておくことが望ましいです(B:待機電力の注意)

図-4 磁気ディスクの待機電力測定結果

 ところで、最近は個人でハードディスクを購入してデータを保存するのではなく、ネットワークを介してサーバ型の記憶装置に保存する方も多いと思われます(いわゆるオンラインストレージ)。良く知られているものでは、Dropbox、Google Drive、Microsoft One Drive、Amazon Driveなどがあります。

 ある容量までは無料で、それを超えると有料になるというタイプが多いようです。パソコン、タブレット、スマートフォン等のデバイスを問わず、どこからでもアクセスできるという利点があり、セキュリティもしっかりしているようです。そのため、補助記憶装置としてオンラインストレージを用いることで省エネを図るという方法もあります(E:使用をやめる、他の機器に代替する)。表-2の省エネ基準を見ても大容量の方が省エネであるため、社会全体でのメリットがある方法と言えます。

 なお、磁気ディスクの省エネ基準、製品の省エネ性能の実態、消費電力の測定の詳細については、本サイトの以下を参照ください。

 磁気ディスクの省エネ基準:「磁気ディスクのエネルギー消費効率」
 磁気ディスクの省エネ性能:「磁気ディスク(1)-省エネ性能」
 磁気ディスクの消費電力:「磁気ディスク(2)-消費電力の測定」

(3) プリンタ、複合機

 複合機とは印刷(プリンタ)、複写(コピー機)、画像の電子化(スキャナ)、FAXの機能を持った電子機器のことです。そのため、プリンタは省エネ法上でも複合機の一種として扱われています。

 複合機は2013年に省エネ法の対象となり、その後3回の改定を経て現在は2017年度を目標年度とした省エネ基準が決められています。複合機の省エネ基準の指標は以下の通り年間消費電力量です。省エネ基準はカラー、モノクロの別に印刷速度の関数で表されます。

 複合機のエネルギー消費効率=年間消費電力量(kWh/年)

 図-5に示すように、モノクロ印刷の場合は印刷速度が22ipm(イメージ/分)までは一定値、50ipm未満とそれ以上で異なる関数となっています。カラー印刷の場合は43ipm未満とそれ以上とで異なる関数です。

 なお複合機は「国際エネルギースタープログラム」のTEC(Typical Electricity Consumption:標準的な電力消費)を遵守しており、TECの2019年度目標は0.6kWh/週です。これを年間に換算すると31.2kWh/年となり、日本の省エネ基準に比べて大変厳しい数値となっています。

出所)2013年経済産業省告示第36号(制定)「複合機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2019年告示第68号
図-5 複合機の省エネ基準

 本サイトで幾つかの複合機(キャノン製、ブラザー製)の年間消費電力量を調べたところ、上記の省エネ基準はもちろんTEC基準も満たすことが分かりました。これらのことから複合機やプリンタについてもTEC基準を持たすような省エネ型の機種を選択することが重要です(A:省エネ型機種の選択)

 また、図-5の印刷速度と消費電力量の関係から、家庭用でカラーの印刷速度43ipmを超える複合機が必要とは思えませんし、そこそこの印刷速度で消費電力量を抑えた方がよさそうです(D:ニーズに合った処理性能の選択)

 ところで、複合機の待機電力はどうなのでしょうか。待機電力を測定した一例を図-6に示します。本機はブラザー製、GMFC-J6995CDW(2017年発売)、A3印刷が可能で、印刷速度20ipm(カラー)です。

 図-6より、消費電力はアイドルモードが5.5W、スリープモードが1.4Wであり、アイドルモードからスリープモードまでの時間が5分と短くなっています。そのため、この機種の年間消費電力量は15.4kWh/年と小さな値となっています。

 これは、複合機がFAX機能を有するためスイッチを切らずに1年中ONの状態を仮定したものであり、特に待機電力を気にしなくても良いレベルと思われます。このように、複合機は近年特に消費電力が低減してきている機器と言えます。

注)ブラザー製、GMFC-J6995CDWを対象に測定
図-6 複合機の消費電力の測定結果

 なお、複合機の省エネ基準や消費電力の測定の詳細については、本サイトの以下を参照ください。

 複合機の省エネ基準:「複合機のエネルギー消費効率」
 複合機の省エネ性能:「複合機(1)-省エネ性能」
 複合機の消費電力:「複合機(2)-消費電力の測定」

(4) スマートフォン、タブレット

 スマートフォン、タブレットはパソコンと同じ情報処理機能を持ち、さらに電話と同じように通話ができる通信機能も有しています。今では、一家で家族数と同じだけの機器数が普及している可能性があり、今後もその普及が低減する様子は見られません。

 これらの機器は充電する際に電力を消費します。普通に使用していると1日で蓄電残量が少なくなるため、毎日夜間時に充電している人が多いと思います。使用されている電池はリチウムイオン電池です。リチウムイオン電池は使用するにつれて化学的経年劣化がすすみます。

 Apple社によると、「満充電回数を500回繰り返した後も蓄電容量の最大80%を維持するよう設計されている」としています。したがって、2、3年使用すると次第に使える時間が短くなってきます5)。ただし、ここでは経年劣化は考慮せずに消費電力の検討をしていきます。

 スマートフォンとタブレットの充電に要した消費電力量を測定した結果を表-3に示します。スマートフォンはApple製iPhone SE-ⅡとiPhone 11、タブレットはApple製iPad mini2とiPad 第7世代です。蓄電残量0%から100%まで充電しました。

表-3 スマートフォン、タブレットの満充電までの消費電力量

機器名  型 式画面サイズ充電時間消費電力量 充 電 器
スマートフォンApple製iPhone SE-Ⅱ4.7インチ3時間3分 11WhApple社製5W充電器
Apple製iPhone 116.1インチ2時間50分 17WhApple社製12W充電器
タブレットApple製iPad mini27.9インチ3時間50分 27WhApple社製5W充電器
Apple製iPad 第7世代10.2インチ約5時間 51WhApple社製12W充電器
注1)製品仕様はApple社公式Webサイトより。
注2)充電は充電残量0%から100%となるまでの消費電力量をラトックシステム株式会社のワット・チェッカー(RS-WFWATTCH1)を用いて計測。

 スマートフォンの消費電力はiPhone SE-Ⅱが11Wh、iPhone11が17Whです。タブレットはiPad mini2が27Wh、iPad第7世代は51Whとなっています。もし、4種の機器を1日1回充電したとすると106Whであり、1か月で3.18kWh、電気代で142円程度となります。

 iPhone SE-IIの充電時の消費電力を測定した結果を図-7に示します。使用した充電器はApple社製の5W充電器です。当初約6.2Wですが、1時間を過ぎた頃から次第に低下していきます。そして、蓄電率が90%を過ぎると1W程度まで低下するため、充電時間が3時間を要しています。

注)充電残量0%から100%まで充電。充電器はApple純正の5W充電器を使用、
図-7 iPhone SE Ⅱの充電時の消費電力

 今回の測定結果を見る限りでは、想像通りその消費電力は少なく、電気代もそれほど大きな金額ではありません。しかし、大家族でデバイスの数が増えてくると、無視できない電気代となるかもしれません。表-3にみられる通り、大画面になるほど充電量(消費電力量)が大きくなるため、適切にデバイスを選んで楽しむことが必要です(C:デバイスの賢い選択)

(5) モデム、ONU、ルータ

 インターネットが普及して信号の送受信のためにモデムとルータが普及しました。その信号伝送路は当初は電話回線であり、その後光回線(光ファイバー)に代わりました。モデムは電話回線が使われた場合に、アナログ信号とデジタル信号を相互に変換する装置です。光回線の場合で、光信号とデジタル信号を相互に変換するものをONU(回線終端装置)と呼んでいます。

 一方、ルータはモデムまたはONUにより変換されたデジタル信号をパソコンやスマートフォンに有線や無線で伝送する機能を持った装置です。当初はパソコンと有線で接続していましたが、スマートフォンの普及に伴ってWifiによる無線伝送を行うものが登場しました。多くの人が自宅でWifiを利用して無線でデジタル信号を送受信しているものと思われます。

 モデムやONUは一般的に通信事業会社から提供され、装置の機種を選ぶことはできません。ルータは個人の使用実態に合わせて選択する必要があるため、様々な種類の機種が販売されています。そのため、ルータは省エネ法の適用を受けており、省エネ基準が設定されています6)

 ルータは2009年に省エネ法が適用され、現在の省エネ基準の目標年度は2010年度です。省エネ基準(エネルギー消費効率)の指標は以下に示すように最大実効伝送速度における消費電力(W)です。省エネ基準はWAN側とLAN側のインターフェイスの種別ごとに設定されています。省エネ基準の詳細は「ルータのエネルギー消費効率」を参照ください。

 ルータのエネルギー消費効率:最大実効伝送速度における消費電力(W)

 ここではWAN側がイーサネットのみで、LAN側がイーサネットで無線付きのルータについて記載していきます。現在、インターネットの無線伝送に与えられている周波数帯は2.4GHzと5GHzであり、省エネ基準はその周波数別に無線出力の関数で表されます。詳細は下のコラムを参照ください。

<WAN側がイーサネットのみ、LAN側がイーサネットであって無線付きのルータの省エネ基準の算定方法>

 2.4GHz帯のみの無線を送信する場合:
  E=0.10×X+3.9
 5GHz帯のみの無線を送信する場合:
  E=0.15×X+3.9
 上記2波を同時に送信する場合:
  E=0.10×X+0.15×X+5.1
 
備考 E、X及びXは、次の数値を表すものとする。
  E:基準エネルギー消費効率(W)
  X:2.4GHz帯の無線出力(mW/MHz)
  X:5GHz帯の無線出力(mW/MHz)

 図-8にその無線出力による省エネ基準を示します。2.4GHzと5GHzの単独、もしくは両方を備えた機種別に省エネ基準値が決められています。具体的には無線出力が10mW/MHzの場合は、2.4GHzで4.9W、5GHzで5.4W、両方の周波数を使える場合で7.6Wとなっています(Wifiの最大出力は10mW/MHzと決められています)。

出所)2009年経済産業省告示226号(制定)「ルーティング機器のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2019年告示46号
図-8 無線付きイーサネット・ルータの省エネ基準

 ここで、家庭のモデムとルータの消費電力を測定した結果を表-4に示します。測定方法は、パソコンやスマートフォンを2名が日常的に使用している状態で1日の消費電力量(Wh)を測定し、それを基に平均消費電力(W)を算定しています。

 その結果、1日の消費電力量はモデムは142Wh、ルータは220Whでした。このことから、平均消費電力はそれぞれ5.9W、9.2Wとなります。

表-4 モデム、ルータの消費電力

機 器 提供企業 型 式  性 能最大消費
電力(W)
1日積算消費
電力量(Wh)
平均消費
電力(W)
モデムNTT東日本VH-1004E-NVDSL LANシステム91425.9
ルータソフトバンクJ18V150.002.4GHz、5GHz可能202209.2
注1)機器の仕様、最大消費電力はそれぞれのカタログより。
注2)1日積算消費電力量はパソコン、スマートフォンを日常的に使用した条件での実測値。
注3)平均消費電力は1日積算消費電力量を基に算定。
注4)消費電力はラトックシステム株式会社のワット・チェッカー(RS-WFWATTCH1)で計測

 このルータの平均消費電力と省エネ基準(7.6W)とを比較するとやや超過していますが、特別に大きな消費電力ではないので、これを変更するという選択は難しいかもしれません。なぜならインターネットプロバイダーとしてソフトバンク光を契約した場合は、ソフトバンクからこのルータが無償で提供されるからです。

 モデムとルータを合わせても1日362Whであり、1か月では10.9kWhとなり、電気代は約487円です。これまでの情報通信機器の待機電力としては若干気になるレベルではありますが、毎日スイッチをON/OFFにすることは難しいです。そのため、長期間不在にするときはスイッチOFFにするという対応が望ましいと思われます(B:待機電力に注意)

 また、ルータの無線出力は大きければ良いというものではなく、利用する居住環境に適合していて、外部に無線電波が漏れない方が望ましいと言えます(D:ニーズに合った性能の選択)。Wi-Fiは暗号化して使っているので、暗号化キーがなければ内容は分からないですが、暗号キーを入手されれば情報を把握される危険があります。

 なお、ルータの省エネ基準(基準エネルギー消費効率)の詳細については本サイトの以下を参照ください。また、情報通信用語の解説も以下の付録に示していますので、参考にしてください。

 ルータの省エネ基準:「ルータのエネルギー消費効率」

まとめ

 これまで情報通信機器として消費電力量の実態とその省エネ対策を整理してきましたが、これらの機器全体でどの程度の電気代になるか試算してみました。X氏宅(家族数2人、集合住宅)の情報通信機器を整理し、その消費電力量と電気代を計算した結果が表-5です。

表-5 情報通信機器全体の月電気代

 機 器  型  式年間消費電力量
(kWh/年)
月消費電力量
(kWh/月)
月電気代
(円/月)
パソコンNEC NX850/LAB70.35.86262.5
複合機Brother GMFC-J6995CDW15.41.2857.3
磁気ディスクElecom SDG-NY020UBK14.21.1852.9
スマートフォンiPhone SE-Ⅱ、iPhone119.40.7834.9
タブレットiPad mini2、iPad第7世代28.12.34104.8
モデム、ルータVH-1004E-N、J18V150.00130.410.87487.0
合 計267.822.31999.4
注1)パソコンと複合機はスペック値である年間消費電力量から月消費電力量を算出
注2)磁気ディスクは3.5インチの年間平均消費電力量を設定
注3)スマートフォン、タブレットは満充電に要した消費電力量(実測値)を日消費電力量として算定
注4)モデム、ルータは実測値の日消費電力量から算定
注5)電気の料金単価:44.8円/kWh(東京電力EP、スタンダードS、関東地区、400kWh/月使用時、2023年1月料金)

 消費電力量の計算根拠は表-5の注釈に記載しています。製品のスペック値や標準的な消費電力量を設定している場合と実測に基づくものがあります。情報通信機器全体の消費電力量は22.31kWh/月、1か月の電気代の合計は約1,000円、年間で約12,000円でした。この内訳はモデムとルーターが半分を占めています。

 家庭の月電気代が数万円となる昨今ではそれほど大きな金額ではありません。しかし、電気代を1円でも減らしたいと思われる方はこれまで説明した省エネ対策を検討してみてください。

<参考文献>
1)1999年通商産業省告示第194号(廃止・制定)「電子計算機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2019年経済産業省告示第69号
2)総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、電子計算機及び磁気ディスク装置判断基準ワーキンググループ、「磁気ディスク装置判断基準等のとりまとめ」、2020年8月
3)1999年通商産業省告示195号(廃止・制定)「磁気ディスク装置のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2021年告示96号
4)2013年経済産業省告示第36号(制定)「複合機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2019年告示第68号
5)Apple:公式Webサイト、iPhoneのバッテリーとパフォーマンス、
6)2009年経済産業省告示226号(制定)「ルーティング機器のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2019年告示46号