製品のライフサイクルのGHG排出量の分析について、前回の乗用車に続いて今回は電子機器をとりあげます。電子機器とはパソコンやプリンタ(複合機)などの機器を指します。これらの機器はあまり電気を消費しないことが分かっていますが、機器の生産過程では結構なGHGの排出が行われていることが分かります。
近年、カーボン・フット・プリントという言葉がよく目につくようになりました。カーボン・フット・プリントとは英語でCarbon foot print of products (CFP) の略であり、直訳すると「炭素の足跡」となり、その意味は製品やサービスに係るCO2排出量のことを指しています(CFPではGHGをCO2に換算して用いていますので、以降ではCO2の用語を用います)。
このCFPはまさに、これまで対象としてきた製品のライフサイクル全体のCO2排出量を意味します。このCFPは家電製品だけでなく、食料品、衣料品、生活用品などの製品に加えて、サービスなどにも使われます。具体的には、印刷・出版、土木建築、クリーニングなどの生活関連サービスなど多岐にわたります。
CFPの目的は、どの商品のCO2排出量が多く、どの商品が少ないのかを消費者にもわかるように「見える化」することで、脱炭素・低炭素の商品、サービスを選択しやすくすることで、脱炭素社会の実現に貢献することです。
本報告では、電子機器を対象にこのCFPを表示している製品を中心に取りまとめていきます。まず、CFPの算定方法に関する世界の動向を整理した上で、CFPの事例を紹介します。この算定方法はこれまで紹介してきたLCA(Life Cycle Assessment)と同様の手法ですが、その手法の標準化という観点で再整理しています。
これは製品間の比較をするのに異なった手法で評価されたCFPでは役に立たたないため、標準化を行うことが必要になるからです。この標準化の試みは始まったばかりでまだその信頼性は十分ではないようです。しかし脱炭素化に向けた企業の努力の跡を垣間見ることができましたので、以下に報告します。
<本報告のコンテンツ> ■カーボン・フット・プリントの算定手法 (1)GHG排出量算定に関する国際標準化の動き (a)GHGプロトコル (b)CFPに関するISO14067 (2)日本の動向 (a)日本版CFPガイドライン (b)CFP算定に関する認証機関 ■電子機器のCFPの事例 (1)パソコン (a)CFPを公表している企業とその算定方法 (b)Apple (c)Dynabook (d)DELL Technologies (e)3社の比較 (2)複合機 (a)キャノン (b)ブラザー工業 ■おわりに |
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カーボン・フット・プリントの算定手法
(1)GHG排出量算定に関する国際標準化の動き
(a)GHGプロトコル
2000年以降の地球温暖化防止への動きの加速の中で、公共部門や企業における活動により生じるGHG排出量の削減のために、GHG排出量の定量化に世界中の関心が集まっていました。企業などが実施しているGHG排出量の算定手法はまちまちで、算定の範囲なども統一が取れていませんでした。
具体的には、当初の算定の範囲は自社での直接的な活動におけるGHG排出量のみでした。しかし、事業活動は購入や販売を通じてサプライチェーンで繋がっており、当該事業者のみの排出量の把握だけでは削減ポテンシャルが明確になりません。また、製品の販売を考えた場合に、省エネルギー型の製品やGHG排出量の少ない製品の販売による貢献が自社の排出量の評価に反映されないという課題もありました。
その動きによりGHG算定手法の標準化を試みたものがWRIとWBCSDが提唱したGHGプロトコルです。WRIとは米国の環境NGOである「世界資源研究所」(World Resources Institute, WRI)であり、WBCSDとは「持続可能な発展のための世界経済人会議」(World Business Council for Sustainable Development, WBCSD)を指します1)。
これらの組織を中心に事業者、行政組織、NGO、学術組織など様々な利害関係者が参加し、その合意に基づいてGHGの算定・報告基準を作成したものがGHGプロトコルでした。この算定方法を示したものが2011年に公表された「GHGプロトコル-製品のライフサイクル会計と報告基準」(Greenhouse Gas Protocol- Product Life Cycle Accounting and Reporting Standard)です2)。
GHGプロトコルでは排出量をサプライチェーン全体に広げて評価し、評価手法の標準化を行いました。このサプライチェーン全体の評価のイメージを図-1に示しています。これまで自社のみの評価ではSCOPE1(直接排出)とSCOPE2(電気等の使用による間接排出)の範囲でしたが、SCOPE3の上流(素材調達等)、下流(販売、使用、廃棄)を含めることで上記の課題を解決したのです。
このサプライチェーンとは原材料の調達、輸送、製造、販売、使用、廃棄・リサイクルの全体を含むものです。そして、製品ごとにこれらのGHG排出量を算定したものをカーボン・フット・プリント(CFP:Carbon Foot Print of products)と呼ぶようになりました。
(b)CFPに関するISO14067
ISO(国際標準化機構)ではライフサイクルアセスメント(LCA)に関する評価システムについて1997年にISO14040として発行し、その後見直しを行って2006年に14040(環境マネジメント-LCA-原則及び枠組み)と14044(環境マネジメント-LCA-要求事項及び指針)にまとめました。
その後ISOでは、GHG排出量の算定に特化した評価システムISO14064を2006年に発行しましたが、これは製品に対するGHG排出量(CFP)ではなく、組織とプロジェクトに関するGHG排出量の評価システムでした。
そしてCFPの国際標準化に関する議論は、ヨーロッパではイギリスが2008年からPAS2050に基づきプロジェクトを開始したことをきっかけに、他国においても制度の検討が開始される中、国際標準化に関するニーズが高まった結果として、本格的に始まりました3)。
2008年1月のISO/TC207に関するメキシコ・シティ会合で、CFP制度の国際標準化を議論するワーキンググループが設置され、同年6月のボゴタ会合でCFP制度の国際標準化作業開始の提案が行われ、同年11月にCFP制度に関する国際規格であるISO14067の開発が開始されました。
様々な検討会議を経て、2013年に国際規格(ISO14067:2013)、「温室効果ガス-製品のカーボン・フット・プリント-定量化の要件とガイドライン」が作成、発行されました。そして、2018年には最初の改定が行われ国際規格(ISO14067:2018)が最新の規格なっています(2024年2月現在)。
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(2)日本の動向
(a)日本版CFPガイドライン
日本においては、2006年から地球温暖化対策推進法に基づき、GHGの多量排出者に組織におけるGHG排出量を算定し、国に報告することが義務付けられています。国内の実態を踏まえて策定した「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」にその算定方法が示されています3)。
これは、事業活動全体のGHG排出量を求めるもので、個々の製品に関するCFPではありません。また、GHGの多量排出者のみに提出を義務付けるものであり、全ての事業活動を対象にしていません。GHG排出量の算出に当たっては原材料毎のGHG排出原単位などのデータや算定方法の簡略化法も示されています。
日本での製品毎のCFPの定量化については、前述のような世界的な動きの中でグローバル企業が個別に製品のCFPを自主的に公表するという時期が続いていました。最近になって経済産業省と環境省から「カーボンフットプリントガイドライン」及び別冊「実践ガイド」(2023年)が公表されて、日本版のCFP算定の標準が示されました4)5)。
本ガイドラインはCFPに取り組む事業者に対して、ISO14067(2018)及びGHG Protocol product standard(GHG ProtocolのCFP版)に整合し、用途に応じたCFPの算定を行うための要求事項と、考え方及び実施方法を解説しています。
本ガイドラインを活用することで、算定者が製品間のCFPを比較しない前提であれば、基礎要件を用いて、国際標準に整合した算定ができます。また、比較されることが想定される場合に必要になる製品別算定ルールに盛り込むべき事項についても示しています。
残念ながらその算定手法での明確な標準化システムが確立されたとは言えないようです。これはISO14067の内容が明確でないことも一因であり、他に公表されている指針なども実用的なマニュアルとは言えないことから、現在もその標準化の手続きが続けられているというのが現実のようです6)。
(b)CFP算定に関する認証機関
日本版ガイドラインが出る前からCFPの算定に対する自主的な活動が行われていましたが、比較的多くの企業が参加している取り組みとしてサステナブル経営推進機構(SuMPO:Sustainable Management Promotion Organization)の取り組みがあります。
SuMPOは2019年に設立され、環境ラベルとしての「エコリーフ」と「CFP」の環境宣言を行った製品の認証を行っています。「エコリーフ」は複数の環境側面を対象とした環境宣言を行うものであり、GHG排出量以外に酸性雨、富栄養化、資源消費なども含んでおり、「CFP」はGHG排出量のみが対象です。
SuMPOの説明によれば、CFPに登録した製品は「企業が独自で構築した算定・検証の仕組み(算定システム)をSuMPOが妥当性を認証する」ことにより、その算定値は客観的に評価されたものと言うことがきできます。経産省、環境省のガイドラインが製品間の比較を保証していないのに対して、本機構では算定手法の認定を行っていることから、一歩進んだ取り組みということができます。
CFPの登録事業者は84事業であり、製造業、土木・建築業、印刷、サービスなど幅広い産業の事業者が参加し、登録されている製品数は522件となっています(2024年2月12日時点)。本制度は始まって間もないためか、参加企業数、登録製品数はあまり多くはなく、これからの拡大が期待されます。
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電子機器のCFPの事例
(1) パソコン
(a)CFPを公表している企業とその算定方法
パソコンは日本の省エネ規制により消費エネルギーは大きく削減されてきています(「コンピュータ(1)-省エネ性能」を参照ください)。消費電力に関するCO2排出量は大きく削減されてきましたが、ライフサイクル全体のCO2排出量はどうなのでしょうか。
前述したSuMPOで認証されたパソコン製品は現在のところありません。ただし、グローバル企業として以下の企業ではパソコン製品のCFPを算定して、公式Webサイトに公表しています。
・Apple
・Dynabook
・DELL Technologies
まず3社のCFP算定の方法について整理したものを表-1に示します。算定に際して準拠したガイドラインはISO14040(LCAの評価システム)が中心であり、AppleはISO14067(CFPの評価システム)も含めて参考にしているようです。
表-1 ノートパソコンのCFP算定の条件
項 目 | Apple | Dynabook | DELL Technologies |
---|---|---|---|
準拠ガイドライン | ISO 14040、ISO 14044、ISO 14067 | ISO14040:2006、ISO14044:2006 | ISO14040:2006、ISO14044:2006 |
製品の使用年数 | 4年 | 5年 | 4年 |
生産地 | 記載なし | 中国 | 中国 |
使用地 | 記載なし | 日本 | EU |
算定ソフト | 記載なし (Apple社独自ソフト?) | LCA for Expert (GaBi) | PAIAモデル、Ver1.3.2.2022 |
算定データ | 自社収集データ及び業界平均データ | Extension database XI electronics | MIT's Materials System Laboratory |
第3者機関からの認証 | ドイツのフラウンホーファー研究所 | ソフトウエアの認証 DEKRA社(欧州) | 記載なし |
PAIA (Product Attribute to Impact Algorithm) :MIT材料システム研究所がアリゾナ州⽴⼤学およびカリフォルニア⼤学バークレー校と協⼒して開発した製品クラスの炭素影響を効率的に推定するLCAツール。
出所)それぞれの公式WebサイトのCFP算定根拠より。
CFP算定における製品の使用年数はAppleとDELLは4年、Dynabookは5年を想定しています。また、製品の生産地についてはDynabookとDELLは中国、Appleは記載がありませんが、複数の国で生産していると考えられます。製品の使用地についてはDynabookは日本、DELLはEUですが、Appleは記載がありません。これらは製品の輸送と電力消費におけるCFPに影響があります。
また、CFPの算定に用いたソフトとデータとして、Dynabookは「LCA for Expert (GaBi)」のソフトウエアとデータを使用しており、DELLは「PAIAモデル、Ver1.3.2.2022」を使用しています。いずれも欧州、米国ではよく使用されているソフト及びデータベースと考えられます。
一方、Appleは自社のサプライチェーンで測定されたデータを中心に計算されており、測定できないものは業界平均を用い、その算定手法はドイツのフラウンホーファー研究所の認証を受けているとされています。以下では、3社の製品のCFPの算定結果を紹介します。
(b)Apple
Apple社は全てのデバイスに関するCFPの情報を提供しています。一例として、Macbook proの機種別のCFP値を図-2に示します7)。図-2では、2023年度に生産された6機種について4種のプロセス(生産、輸送、使用、廃棄)ごとのCFPを示しています。算定における詳細は省略しますが、Macbook proの使用年数は4年を仮定しています。
これを見ると輸送と廃棄のCFPは小さく(全体の5%以下)、生産が73%、使用が22%程度です(6機種平均値)。すなわち、使用時のGHG排出量の3.5倍が生産時に排出されていることが分かります。
CFPの値はディスプレイの大きさ、CPUや補助記憶装置の能力などにより変わると考えられます。ディスプレイの大きさが16インチのものは14インチと比較して2割ほど大きい(Macpro16-M3pro512GBとMacpro14-M3pro512GBとの比較)ことがわかります。また、CPUの能力(M3pro>M3>M2)や補助記憶装置の能力(512GB>256GB)とも関係があるように見えます。
次にMacbook pro(ディスプレイサイズ15または16インチ、補助記憶装置256GB)の製造年度別のCFPを比較したものを図-3に示します。これを見ると年度が進むごとにCFP値が低下していることが分かります。2015年以前はCFPは700kg-CO2以上でしたが2023年は300kg-CO2以下となっています。
Appleの商品説明では、パソコンの筐体、基板、バッテリーなどの素材をリサイクルして素材調達におけるGHG排出量を削減していることが記載されています。製品の脱炭素化に向けて、最新の16インチMacBook Proでは以下の対策が取られています。
・筐体に100%再生アルミニウムを始め、全体で36%の再生素材を使用
・ファイバー素材の割合は100%(パッケージからプラスチックを排除する取組の結果)
・木材繊維の100%が再生素材または責任ある方法で調達された素材
・製造に使用する電力の40%がクリーンエネルギー
・製品の輸送に低炭素な輸送手段を選択(航空機ではなく船舶、鉄道)
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(c)Dynabook
DynabookもノートパソコンのCFPを公表しており、その一例を図-4に示します8)。図-4を見ると、どの機種もCFPは150~200kg-CO2の範囲にあり、特にCPUの種類の影響が大きいようであり(インテルCORE i7-1270Pと1260Pの差異)、画面サイズの影響は小さいように見えます。
また、プロセス別にはどの機種も生産が約5割、輸送が2割、使用が3割という割合(廃棄は1%未満)になっています。DynabookのCFPの算定根拠は、生産地が中国、使用地は日本であるため、輸送の割合が多いのは中国から日本国内への輸送に多くのGHGを排出するためと考えられます。
Dynabookは重量と年間消費電力量についても公表しています(年間消費電力量はENERGY STAR※に準拠しています)。そこで、重量当りの生産CFPと消費電力量当りの使用CFPの値を以下の計算式により算定してみました。
※ENERGY STAR: Program Requirements Product Specification for Computers Version 8.0
ENERGY STAR は米国環境保護庁の登録商標です。
製品の重量当たりの生産CFP(kg-CO2/kg)=生産CFP/製品の重量
消費電力量当りの使用CFP(kg-CO2/kWh)=使用CFP/(年間消費電力量×5年)
図-5に製品重量と重量当り生産CFPを示します。図-5よりi7-1270PのCPUを使用した製品の重量(青棒)が2kg前後と重くなっています。しかし重量当りの生産CFP(青折れ線)は50kg-CO2/kgと小さくなっています。重量が重くなってもCFPの上昇量を低減できているといえます。
図-6に年間消費電力量と消費電力量当りの使用CFPを示します。i7-1270PのCPUを使用した製品の消費電力量(緑棒)がやや大きく、消費電力量当りの使用CFP(緑折れ線)は0.5 kg-CO2/kWh程度で一定です。
パソコンの使用地が日本であることから日本の電力のCO2排出係数が使われていると想定されます。なお、この電力のCO2排出係数には施設の建設に伴うCO2排出量は含んでいないようです(「ライフサイクル全体のGHG排出量の分析(3)-乗用車」の表-8を参照ください)。
(d)DELL Technologies
DELLのノートパソコンについてのCFPの例を図-7に示します9)。プロセス別のCFPの割合は、生産が約84%、輸送が3.5%、使用が12.5%、廃棄は1%未満です。生産CFPは使用CFPの約7倍となっており、これまでの事例では最も大きな割合となっていました。
DELLは生産CFPの内訳についても公表しています。図-8に生産CFPの構成比を示します。図-8より、ディスプレイが全体の約5割、基板が27%、電源が10%、バッテリーは3%程度などとなっています。今回対象としたノートパソコンにおいては、ディスプレイと基板の生産CFPが全体の3/4を占めていることが分かります。
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(e)3社の比較
冒頭に示したように、3社のCFP算定の条件は異なっています。ただし、CFPの目的の1つは製品の比較を行うことでした。そのため、ここでは3社の製品のCFPの値を並べて、GHG排出量の比較に利用できそうかを確認してみたいと思います。
表-2に3社の代表的なノートパソコンの性能仕様を示します。条件をそろえるため、生産された年は最新(2023年または2022年)、ディスプレイサイズ15.6インチ(Appleのみ16.2インチ)、最新のCPUのものを選定しました。
製品の重量と年間消費電力量も示されていますが、Macbookは年間の消費電力量は不明です。DynabookとMacbookの重量は同程度でDELLよりも重く(1.3倍)、DynabookはDELLの消費電力量の1.15倍となっています。
表-2 3社の代表的ノートパソコンの性能仕様と算定されたCFP
メーカー | Apple | Dynabook | DELL | |
---|---|---|---|---|
型式 | MacBook pro | TECRA A50-K | Latitude 5540 | |
ディスプレイ (inch) | 16.2 | 15.6 | 15.6 | |
CPU | M3pro | i7-1270P | i7-1355U | |
メモリ(GB) | 18 or 36 | 32 | 16 | |
補助記憶装置(GB) | 512 | 256/512 | 512 | |
重量 (kg) | 2.14 | 2.1 | 1.62 | |
年間消費電力量 (kWh/年) | - | 20.5 | 17.9 | |
CFP (kg-CO2) | 生産 | 194.3 | 103 | 272 |
輸送 | 20.3 | 35 | 12 | |
使用 | 75.4 | 52 | 36 | |
廃棄 | 0 | 1 | 2 | |
計 | 290 | 191 | 322 | |
CFP (%) | 生産 | 67 | 54 | 85 |
輸送 | 7 | 18 | 4 | |
使用 | 26 | 27 | 11 | |
廃棄 | 0 | 1 | 1 | |
合計 | 100 | 100 | 100 | |
製造年 | 10/30/2023 | 5/6/2022 | 3/1/2023 |
図-9に3社の代表的なノートパソコンのCFPを比較したものを示します。図-9(a)にCFPの値、図-9(b)にプロセス別の構成比を示しますが、かなり異なっていることが分かります。図-9(a)よりトータルのCFPはDynabookが200kg-CO2程度で最も少なく、DELLは300kg-CO2を超えて最も大きくなっています。
プロセス別のCFPを見ると、Dynabookの生産CFPが最も少なく(103kg-CO2)、次いでMacbook(194kg-CO2)、DELLは最も大きく(272kg-CO2)なっています。輸送CFPはDynabookが最も大きく35kg-CO2、DELLが最も少なく12kg-CO2です。さらに使用CFPはAppleが75kg-CO2、Dynabookは52kg-CO2、DELLが36kg-CO2でした。
これらのCFP値の傾向を明確にするため、プロセス別のCO2排出原単位を整理したものを表-3に示します。原単位はプロセスごとのCO2の排出に最も影響する要因を使用します。具体的には生産CFPには製品重量、輸送CFPには輸送距離、使用CFPには消費電力量です。
表-3 3社のCFPの算定値によるCO2排出原単位の比較
評価項目 | Apple | Dynabook | DELL | 他の影響要因 | 評 価 | |
---|---|---|---|---|---|---|
生産 | 製品重量(kg) | 2.14 | 2.1 | 1.62 | ・筐体等の材質、再生材の使用に よりCO2排出原単位は異なる ・Appleは再生材を36%使用 ・他社の再生材使用率は未確認 | 整合を確認 できない |
CFP(kg-CO2) | 194.3 | 103 | 272 | |||
重量当りCFP (kg-CO2/kg) | 90.8 | 49.0 | 167.9 | |||
輸送 | 輸送距離(100mile) | - | 11.1 | 57.6 | ・航空機、船舶によりCO2排出 原単位が異なる ・2社の輸送手段は未公表 | 整合を確認 できない |
CFP(kg-CO2) | - | 35 | 12 | |||
距離当りCFP (kg-CO2/100mile) | - | 3.2 | 0.2 | |||
使用 | 年間消費電力量(kWh/年) | - | 20.5 | 17.9 | ・電力のCO2排出係数は日本と EUで1~2割程度異なる | 概ね整合 |
使用年数(年) | - | 5 | 4 | |||
総消費電力量(kWh) | - | 102.5 | 71.6 | |||
CFP(kg-CO2) | - | 52 | 36 | |||
消費電力量当りCFP (kg-CO2/kWh) | - | 0.507 | 0.503 |
製品の重量当りの生産CFPを比べると、DynabookとDEELLの値には3倍以上の差があります。筐体の材質や材料に再生材を使用している割合によってもこの値は変動しますが、3倍以上の差が生じるのはやや説明しにくいです。
また輸送距離当りの輸送CFPもDynabookとDELLでは16倍の差があります。これも航空機と船舶によって原単位が変動すると考えられますが、Dynabookは中国から日本への輸送、DELLは中国からEUへの輸送と考えると、輸送CFPはDynabookが小さくなるはずで、これも整合していないと考えられます。
一方、消費電力量当りの使用CFPを比較すると、DynabookとDELLのどちらも0.5kg-CO2/kWhとなっています。Dynabookの使用地は日本、DELLのそれはEUを想定しており、CO2排出係数は1~2割程度異なると考えられますが、これは概ね整合していると考えられます。
今回整理したノートパソコンの性能仕様は非常に大雑把なものなので、ここに示されなかった仕様がCFPの値に影響を与えていると思われます。しかし、今回整理した仕様だけを考慮すると、算定されたCFPをもとに異なる会社の製品の評価を行うことは難しいと言わざるをえません。
この原因はCFPを算定した手法や使用したデータが統一されていないためと考えられます。ISO14067や各種のガイドラインの改良、データベースの共通化などが期待されます。ただし、現状でも同一メーカーの製品のCFPを比較することは可能と考えられます。
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(2)複合機
複合機とはプリンター、コピー、スキャナー、FAXという複数の機能を備えた電子機器のことです。印刷の方法によりインクジェット(IJ:Ink Jet)方式とレーザー方式(電子写真方式、EP:Electrophotographyともいう)があります。
IJ方式はプリンターヘッドから紙にインクを吹き付けて印刷するものです。EP方式は粉末トナーを用いてドラムにトナーを付着させて印字します。前者は印刷枚数が少ない家庭用に、後者は印刷枚数が多いオフィス用に使用されています。印刷原理が異なるので、CFPも大きく異なります。
複合機の消費電力量は日本の省エネ規制、Energy starなどの規制を受けて、毎年大きく減少しており、それに関連するCO2排出量も削減されています(「複合機(1)-省エネ性能」を参照ください)。しかし、ライフサイクル全体のCO2排出量はどうなのでしょうか。
複合機は前述したSuMPOの認証を受けた製品が多数あります。認証を受けた企業はキャノン、ブラザー工業、コニカミノルタ、リコー、セイコーエプソンなどです。ただし、登録された製品はほとんどがオフィス向けの大型の機種であり、ヨーロッパや北米向けの輸出品でした。
ここではSuMPOの登録データから、キャノンとブラザー工業の小型の複合機製品のCFPを紹介します10)。
(a)キャノン
ここでは、家庭用の機器として使えるキャノンが認証を受けた複合機のCFPを図-10に示します。ここで示した機種はインクジェット方式(IJ方式)の印刷機能を持つ複合機で、CFP算定の条件は製品の使用年数5年、総印刷枚数7,200枚です。
出所)SuMPO:公式Webサイト、SuMPO環境ラベルプログラム、宣言製品一覧
図-10 複合機のプロセス別カーボンフットプリント(キャノン製品)
トータルのCFPはPRO-300を除いて100~150kg-CO2です。複合機のプロセス別CFPは「生産」を「原料調達」と「製造」(製品及び部品の組立)の2つに細分化して示しています。
CFPのプロセス別の内訳はどの機種も原料調達と製造(これまでの生産)で半分以上を占めます。使用・維持管理はTR7820、TS7720、PRO300は3割程度を占めます。複合機の使用・維持管理CFPはプリンターのインクカートリッジの交換に関するCFPも含まれます。
一方、GXシリーズの使用・維持管理CFPは5%程度と非常に小さくなっています。これは消費電力が少ないことや、7200枚の印刷をするのにインクカートリッジの交換が不要なタイプと想定されます。ここで注意すべきことは、使用時のGHG排出の20倍のGHGが全体プロセスから排出されることです。
廃棄・リサイクルは2割程度と比較的大きな割合を占めています。これは、ノートパソコンに比べて大きな割合となっており、筐体が大きいことと処理・処分が難しい素材が含まれているため廃棄・リサイクルのCFPが大きくなっている可能性があります。
これら製品のCFP算定条件の特徴は、印刷枚数が7,200枚という非常に少ないことです。EP方式の複合機では100万枚単位の印刷数を想定している機種(オフィス用)もあり、使用・維持管理時のCFPが大きくなってきます。
(b)ブラザー工業
ここでは、ブラザー工業の複合機の事例を示します。ブラザー工業の製品はEP方式で全てオフィス用ですが、そのうち印刷枚数が少ない製品(MFC-L**CDW)のCFPを図-11に示します。
出所)SuMPO:公式Webサイト、SuMPO環境ラベルプログラム、宣言製品一覧
図-11 複合機のプロセス別カーボンフットプリント(ブラザー工業製品)
この製品の全体のCFPはどの機種も400kg-CO2を超えています。また使用・維持管理時のCFPが全体の約4割を占めています。これは、印刷方式がEP方式であることと、印刷枚数48,000枚(使用年数5年)であり、キャノンの印刷枚数の6.7倍となっているためです。
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おわりに
今回は、電子機器のライフサイクルGHGを整理しました。製品ごとのライフサイクルGHGを算定したものをカーボンフットプリント(CFP)と呼び、製品のCFPを環境性能として公表して製品の購入を促進する動きがあります。
製品間のCFPを比較するにはその算定手法の統一性が問題になります。そこで、CFPを算定するための標準化の動向についても整理しました。LCAの評価システムはISO14040/14044に規定されていますが、最近CFP用にISO14067が発行されました。
ISO14067で規定されたCFPの算定方法については、まだ発行されて間もないためか実用的なガイドラインとは言えないようで、実務的には依然として課題が残されているようです。そのため、日本では経済産業省と環境省で日本版ガイドラインを公表しましたが、製品間の比較に用いるには十分な内容になっていないようにみうけられました。
また、日本ではCFPの算定方法が規格に準拠していることを認証するシステムを立ち上げています。その認証組織の一つがサステナブル経営推進機構(SuMPO)です。本機構は環境ラベルの宣言を行った企業のCFP算定の支援も行い、認証した製品の登録も行っています。
今回は、電子機器のうちパソコン(ノートパソコン)と複合機を取り上げ、公表されたCFPを整理しました。ノートパソコンについてはSuMPOで認証された製品はありませんでしたが、企業が個別で算定したCFPを公表しているAppe、Dynabook、DELLの3社の製品を整理しました。これらは企業独自または第三者の提供するソフトとデータを用いて算定したものです。
算定されたCFPのプロセス別(生産、使用、輸送、廃棄)の内訳から、製品の生産CFPは使用CFPの3倍から7倍であることが分かりました。つまり、いくら省エネ型のパソコンを使用しても全体プロセス(生産から廃棄まで)ではその4倍から8倍のGHGが排出される可能性があるということです。
3社のCFPの算定方法(使用したソフトとデータベース)は異なっており、プロセス別のCFP原単位(製品重量当りの生産CFPなど)も大きく異なっていました。これらの結果より、現状では相互の製品のCFPを比較をすることは難しいと判断されました。
今回調査した企業においては、環境報告書において組織のGHG排出量を算定、公表しており、脱炭素社会に向けて削減目標を設けて対策を講じていました。特に、GHG排出量が最も多い素材の調達で再生材量を原料とし、組立において再生エネルギーを使用して製造することなどが行われていました。
次に、複合機はSuMPOで登録された機器が多くありました。しかし家庭用の機器での登録は少なく、ほとんどがオフィス用の機器でした。そのうち、キャノン製とブラザー工業の小型複合機のCFPを整理しました。
キャノンのインクジェット方式の複合機で総印刷枚数7,200枚の製品は、使用時のCFPが全体CFPの3割程度と5%程度の2種類がありました。この違いは印刷用のインクカートリッジの交換に関係していると考えられました。
このように複合機の省エネが進んでいることは事実ですが、省エネ製品の場合には、使用時に排出されるGHG排出量の20倍のGHGが全体プロセスから排出されることがあることに留意する必要もあると思われます。
またブラザー工業のEP式複合機(オフィス用)で総印刷枚数48,000枚の製品は、使用CFPが全体CFPの4割を占めていました。オフィス用の中型以上の複合機では使用CFPも大きくなることが分かりました。
以前にパソコン、複合機の消費電力量を整理してその省エネ性能を確認しましたが、今回整理したプロセス別のCFPを把握したことで、製品のライフサイクルにおけるGHG排出量が使用時の排出量を大きく上回ることが明らかになりました。
そのため、使用CFPに影響する消費電力量だけでなく他のプロセス(素材の調達や生産、廃棄・リサイクル)にも留意すべきということが分かりました。脱炭素化に向けて努力している企業を応援するためにも、製品選定においてはCFPを確認して購入することが重要です。
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<参考文献>
1)World Resource Institute, World Business Council for Sustainable Development: Greenhouse Gas Protocol- Product Life Cycle Accounting and Reporting Standard, 2011.
2) サステナブル経営推進機構:公式Webサイト、環境ラベルプログラム、CFPプログラム、2024年2月8日閲覧
3) 経済産業省、環境省:サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドラインVer1.0、2012年3月
4) 経済産業省、環境省:カーボンフットプリント ガイドライン、2023 年3月
5) 経済産業省、環境省:カーボンフットプリント ガイドライン(別冊)CFP 実践ガイド、2023 年5月
6) 経済産業省:サプライチェーン全体でのカーボンフットプリントの算定・検証等に関する背景と課題、2022年9⽉22⽇
7) Apple社:公式Webサイト、製品環境報告書(2024年2月12日閲覧)
8) Dynabool社:公式Webサイト、LCA/PCFレポート(2024年2月12日閲覧)
9) DELL Technologies:公式Webサイト、気候変動対策、製品の二酸化炭素排出量(2024年2月12日閲覧)
10)サステナブル経営推進機構(SuMPO):公式Webサイト、SuMPO環境ラベルプログラム、宣言製品一覧