照明は夜の暗闇を照らすためにどの世帯でも必要な家電機器です。資源エネルギー庁の調査では照明の消費電力量は、夏季にはエアコン、冷蔵庫に次いで3番目、冬季ではエアコン、冷蔵庫、給湯設備に次いで4番目に多いことが分かっています1)。照明は図-1の通り、家庭の消費電力量の約1割を占めています。
ここでは、普及が進んでいるLED照明を中心に、その原理と特徴、省エネ基準、省エネ対策について解説します。また、照明器具の使用時のみでなく製造時や廃棄時も含めた二酸化炭素排出量を分析したLCA事例も示します。
<本報告のコンテンツ> ■原理と特徴 (1)原理 (2)特徴 ■省エネ基準(基準エネルギー消費効率) (1)LED電球 (2)照明器具 ■省エネ対策の事例 (1)既存の蛍光灯をLEDに交換 (2)省エネ性能の高いLEDの選択 (3)こまめに消灯を心がける (4)省エネモードなどの利用 (5)自動制御型の照明器具の利用 ■LCA分析の事例 (1)LCA分析方法 (2)LCA分析結果 (3)積み上げ法によるLCA事例 <参考となる本サイトの記事> |
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原理と特徴
(1)原理
照明は時代を追って白熱電球、蛍光灯、LED照明へと変化してきました。既に白熱電球の生産は終了しており、蛍光灯もまもなく生産が終了すると思われます(2023年夏時点)。
LED照明は蛍光灯や白熱電球に代わって照明の主流となりました。それはエネルギーの消費量が極めて少ないからです。LEDとは発光ダイオード(light emitting diode: LED)のことで、順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子のことです2)。これを照明として利用したのがLED照明です。
LEDの発光の仕組みを図-2に示します。LEDの発光部には半導体(電気を通す導体と、通さない絶縁体の間に位置するもの)が使われており、電気の(+)が動くp型半導体と(-)が動くn型半導体を合わせて通電することで(+)と(-)が衝突し接合面が発光します。
p-n接合部では電子がエネルギーの高い伝導帯からエネルギーの低い価電子帯に落ちて発光し、このエネルギー差が大きいほどよりエネルギーの高い光(波長の短い光)が放出されます。エネルギー差は半導体の材料で異なっていますので発光させたい色に合うエネルギー差の材料を選んで作ります。
LEDの色の開発の歴史を表-1に示します。赤色LEDや黄色LEDは1972年ころまでに開発され、主として信号などの明かりとして利用されてきました。1990年代に入って青色LEDや緑色LEDが開発され、光の三原色がそろうことで白色LEDが実用化されたのは1997年です。そのため、比較的新しい照明材料ということができます。
表-1 LED開発の歴史
西暦年 | 開発内容 |
---|---|
1962年 | 赤色LEDの開発 |
1972年 | 黄色LEDの開発 |
1993年 | 青色LEDの開発 |
1995年 | 緑色LEDの開発 |
1997年 | 白色LEDの開発 |
(2)特徴
LED照明は白熱電球を代替するLED電球、蛍光灯を代替するLEDシーリングライトやLED直管蛍光灯などの製品があります3)。
照明の明るさを表す指標は全光束(lm:ルーメン)です。全光束とはある面を通過する光の明るさを表す物理量です。これまでの一般的な白熱電球とLED電球の全光束との関係を表-2に示します。これまで使ってきた40形(W)は485lm、60形(W)は810lm、100形(W)は1,520lmの明るさに対応しています4)。
表-2 一般電球とLED電球の全光束の関係
No. | 一般電球 | LED電球の全光束 |
---|---|---|
1 | 20形 | 170lm以上 |
2 | 30形 | 325lm以上 |
3 | 40形 | 485lm以上 |
4 | 60形 | 810lm以上 |
5 | 80形 | 1,160lm以上 |
6 | 100形 | 1,520lm以上 |
同じ全光束を持つ3種の照明について、エネルギー効率、寿命、価格を比較したものを表-3に示します3)。810lmの明るさのLEDの消費電力は7.2W、白熱電球(54W)の約13%、蛍光灯(12W)の60%となっています。
表-3 LED電球と他の電球との比較
白熱電球 | 電球形蛍光ランプ | LED電球 | |
---|---|---|---|
写真 | |||
エネルギー消費効率 | 15 lm/W (54W、810lm) | 67.5 lm/W (12W、810lm) | 112.5 lm/W (7.2W、810lm) |
寿命 | 1,000~2,000時間 | 6,000~12,000時間 | 40,000時間 |
価格帯 | 100円~200円 | 700~1,200円 | 900~1,700円 |
照明のエネルギー消費効率は全光束(lm)を消費電力(W)で除した値を使います(単位はlm/W)。白熱電球のエネルギー消費効率は15lm/Wに対してLED電球のそれは112.5lm/Wです(参考文献3に示された当時の値)。
また、LEDは長寿命と言われており、白熱電球の約1,000~2,000時間、蛍光灯の約6,000~12,000時間に対し約40,000時間とされています。LEDの欠点として価格が高いことが挙げられていましたが、近年では価格も低下しておりその費用効果は高くなっています。
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省エネ基準(基準エネルギー消費効率)
LED照明は以下の2種類の機器に関する省エネ基準があります。
・照明器具
・電球
照明器具は1999年に蛍光灯器具のみを対象として省エネ基準(基準エネルギー消費効率)が決められ、その後2019年度に省エネ法施行令が改正になり、LED電灯器具が加わりました。
電球については、2013年度に省エネ法の対象機種となり一部の種類、形状が対象でしたが(目標年度2017年度)、その後2019年の省エネ法改正により特殊なものを除いてほぼ全部の電球(LED電球を含む)が対象になりました。
(1)照明器具
2019年に改正された省エネ基準は以下の通り、蛍光灯器具とLED電灯器具で異なる算出方法となりました5)。蛍光灯器具のエネルギー消費効率は、改正前は消費電力量あたりの「照明器具の光源の明るさ(全光束)」としていましたが、新たな基準では消費電力量あたりの「照明器具の明るさ(照明器具全光束)」に変更になりました。これを固有エネルギー消費効率と呼んでいます。
〈蛍光灯器具〉
固有エネルギー消費効率(lm/W)=全光束(lm)×器具効率/消費電力(W)
〈LED電灯器具〉
固有エネルギー消費効率(lm/W)=定格光束(lm)/定格消費電力(W)
上記の通り、蛍光灯の場合のみ「照明器具の明るさ」は、「照明器具の光源の明るさ(全光束)」に器具効率を乗じて算定することになりました。LED電灯器具はこれまで通り、光源の明るさ(全光束)を消費電力で除して算定されます。
省エネ基準(基準固有エネルギー消費効率)は光源色区分別に表-4の通り設定されています。電球色や温白色は省エネ基準は50lm/Wであり、他の光源色は100lm/Wとなっています。目標年度は2020年度以降の各年度です。
表-4 照明器具の光源色区分別の省エネ基準(基準固有エネルギー消費効率)
区分番号 | 光源色区分 | 基準固有エネルギー 消費効率(lm/W) | 目標年度 |
---|---|---|---|
1 | 昼光色・昼白色・白色 | 100.0 | 2020年度以降の各年度 |
2 | 温白色・電球色 | 50.0 | 2020年度以降の各年度 |
(2)LED電球
LED電球の省エネ基準の指標は、全光束(lm)を消費電力(W)で除したものです6)。
エネルギー消費効率(lm/W)=全光束(lm)/消費電力(W)
LED電球のエネルギー消費効率の目標(省エネ基準)は表-5のとおりです。光源色により2種類の基準値が設定されています。昼光色・昼白色・白色は110.0(lm/W)、温白色・電球色は 98.6(lm/W)です。なお、蛍光ランプは2026年度までの基準値がありますが、2027年度以降LED電球の基準値と同じ基準値となります。
表-5 電球の光源色区分別の省エネ基準(基準エネルギー消費効率)
区分番号 | 光源色区分 | 基準エネルギー 消費効率(lm/W) | 目標年度 |
---|---|---|---|
1 | 昼光色・昼白色・白色 | 110.0 | 2027年度以降の各年度 |
2 | 温白色・電球色 | 98.6 | 2027年度以降の各年度 |
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省エネ対策の事例
照明に関する省エネ対策のポイントは以下の5点です。蛍光灯からLEDへの交換や省エネ性能の良いLEDを選択することが重要です。また、照明機器の省エネモードを利用することやこまめに消灯するなどの配慮も必要です。
① 既存の蛍光灯をLEDに交換
② 省エネ性能の高いLEDの選択
③ こまめに消灯を心がける
④ 省エネモードなどの利用
⑤ 自動制御型の照明器具の利用
(1)既存の蛍光灯をLEDに交換
LEDはその寿命も40,000時間(蛍光灯は最大でも12,000時間)と長期化しており、価格も低下してきていますので、取り換えの費用効果は高いものがあります。
LED電球と蛍光灯(電球形蛍光ランプ)の使用時間による総コスト(製品購入費用と電気代)の推移を図-3に示します。LEDは3,000時間を超えた時点で総コストが蛍光灯のそれを下回ります。蛍光灯は40,000時間までに3回買い換えが必要であり、使用時間が長くなるほどコストの差が広がります。
図-3 照明器具の使用時間による総コスト(イニシャル+ランニングコスト)
(2)省エネ性能の高いLEDの選択
LED製品でも消費電力は同じではなく、同じ明るさでもエネルギー消費効率が異なる製品があります。色調(光源色)によりエネルギー消費効率が異なるので、まず色調を選択してから同じ色調での効率を比較することが必要です。
光源色には、昼光色、昼白色、白色、温白色、電球色の5種類があります。光源色別のイメージを下図に示します。昼光色は正午の太陽光のように明るい光、昼白色は日の出の2時間に近く、電球色は日の出、日の入りに近い光です(図-4)。部屋の用途に応じて光源色を決め、部屋の広さに応じた全光束を選択するようにします。部屋の広さと全光束の目安は表-6に示しています。
LED照明製品の省エネ性能については、資源エネルギー庁の以下のサイトに示されていますので、参考にしてください。
省エネ型製品情報サイト:https://seihinjyoho.go.jp/index.html
図-4 光源色の自然光との対応
現在販売中のLED電球は白熱電球と同一の規格化された口金(E17、E26など)に差し込むだけで利用できる照明であり、交換しやすくコストも安価です。一方、LED照明器具はランプだけでなくランプに電気を供給する装置も含んだものです。照明器具の代表はシーリングライト(円管蛍光灯)や直管蛍光灯ですが、これをLEDに交換するには蛍光灯だけでなく照明器具全体を交換する必要があります。
(3)こまめに消灯を心がける
トイレや洗面所などは使用するときだけ点灯することが多いですが、消し忘れることが良くあります。資源エネルギー庁では、図-5に示すように9WのLED電球の点灯時間を1日1時間短縮した場合、年間で3.3kWhの省エネ、CO2削減量1.6kg-CO2の節約になるとしています7)。
出所)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、無理のない省エネ節約、照明
図-5 点灯時間短縮による節電量、CO2削減量
白熱電球はこの約6倍、蛍光灯は約1.3倍となります。消費電力が少ないLED照明でも消し忘れるとこの程度の電力消費になるということです。照明の数が多いと、これがさらに増大しますので、注意が必要です。
(4)省エネモードを使用する
照明器具の中では省エネモードを有する機種もあります。多くは調光機能により明るさを落として節電します。三菱電機の説明によると、図-6のように全光束5100lm、定格消費電力26.5Wを、70%まで調光して全光束3,670lm、消費電力18.7Wにすることで、30%の節電ができるようです。この調光によって、エネルギー消費効率は192.4lm/Wから196.2lm/Wまで向上するとされています。
図-6 調光による節電の事例
このような調光は部屋の広さの割に能力が高い照明器具を設置した場合に有効な方法です。部屋の広さと明るさ(全光束)の目安は表-6の通りです。同表に示すように6畳(9.7m2)では2700~3300lm、8畳(13.0m2)では3300~4300lmが目安とされています。
表-6 部屋の広さと標準的な明るさ(全光束)の目安
全光束 | 2700lm 未満 | 2700- 3300lm | 3300- 4300lm | 4300- 4900lm | 4900- 5600lm | 5600- 7000lm | 7000lm 以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
広さ | 4.5畳 | 6畳 | 8畳 | 10畳 | 12畳 | 14畳 | 16畳以上 |
面積(m2) | 7.3 | 9.7 | 13 | 16.2 | 19.4 | 22.7 | 25.9 |
出所)一般社団法人日本照明工業会、「LED照明器具の適用畳数について」を参考に作成。
(5)自動制御の照明設備の利用
自動調光機能を有した照明設備を活用すると、天候や周囲の光の量によって以下のような制御が可能であり、最適な省エネが可能となります(日本照明工業会から引用)。
7時:朝日が差し込むときは明るさを抑えて15%点灯
12時:太陽が昇り晴れているときは自動的に消灯
17時:暗くなりすぎないように半分の明るさで
20時:団らんの時間は明るくお部屋を照らします
また、人感センサー付き照明もあり、赤外線センサーで人を感知して自動的に点灯、消灯を行います。価格も非常に安価になっており、工事が不要のものもあります。
さらに、自動制御ではありませんが、ソーラーライトという主に屋外で使用する照明の省エネ型の製品もあります。昼間に太陽電池パネルで発電した電気を内蔵バッテリーに蓄電し、夜間照明に利用します。住宅では玄関ポーチや縁側などの屋外灯への利用が考えられます。
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LCA分析の事例
これまで家電機器のエネルギー消費の削減が二酸化炭素排出量を削減することにつながると考え、省エネ型の機器や省エネ対策を推奨してきました。しかし、家電機器は使用時だけでなく、製造時や廃棄時にもエネルギーを消費し、二酸化炭素を排出しています。
製品のライフサイクル全体における二酸化炭素排出を分析するために、LCA(Life Cycle Assessment)手法が使われます。ここでは、この手法を用いて照明機器のLCA分析を行い、製造時や廃棄時も含めた照明の二酸化炭素排出の特徴を整理します。
(1)LCA分析方法
ここでは白熱電球、蛍光灯、LED照明について分析します。これらの機器の全光束、重量、耐久時間(寿命)、消費電力と製造時及び廃棄時における二酸化炭素排出原単位を表-7に示します。表-7の機器の諸元は白熱電球については参考文献7、他の機器はパナソニックの最新の製品仕様によります。
算定を簡便化するために、製造及び廃棄段階での二酸化炭素排出量の算出方法は、「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)」(環境省)における原単位を使用します。
表-7 照明機器の諸元と二酸化炭素排出原単位
照明器具 | 全光束 (lm) | 重量 (kg) | 耐久時間 (hr) | 消費電力 (W) | 製造時CO2 排出原単位 (kg-CO2/千円) | 廃棄時CO2 排出原単位 (kg-CO2/kg) | 価格 (円) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
電球 | 白熱電球 | 800 | 0.023 | 2,000 | 60.0 | 2.67 | 0.047 | 520 |
電球型蛍光灯 | 750 | 0.060 | 10,000 | 11.0 | 2.67 | 0.047 | 800 | |
LED電球 | 810 | 0.077 | 40,000 | 7.4 | 2.67 | 0.047 | 2,600 | |
照明器具 | 丸型蛍光灯 | 4,580 | 0.376 | 20,000 | 58.0 | 3.14 | 0.047 | 2,400 |
LED照明 | 5,500 | 2.700 | 40,000 | 34.4 | 3.14 | 0.047 | 38,000 |
出所)田畑智博、文多美:家庭用照明のLED照明への切り替えに伴うCO2削減コストの試算、第6回LCA学会発表会講演要旨集、2011年3月
まず、製造時は製品の価格当り排出原単位を用い、電球は2.67 kg-CO2/千円、照明器具は3.14kg-CO2/千円です。また廃棄時はどの機器も埋め立てを想定し、埋立時の重量当たり排出原単位である0.047 kg-CO2/kgを用います。製品の価格は価格コムにおける平均的な価格を採用しています。
また、使用段階では各商品の消費電力量に、系統電力平均値の排出原単位を乗じます。ここでは現在の日本の平均的な電力の二酸化炭素排出係数である0.44 kg-CO2/kWhを用います。
また、各機種の条件を統一するため、全光束はほぼ同一と見なし使用時間を40,000時間に統一して照明機器の比較を行います。そのため白熱電球と蛍光灯は40,000時間を稼働させるためそれぞれ20個、4個分の製品を使用します。また、照明器具については丸型蛍光灯を2個使用します。
(2)LCA分析結果
上記の分析方法を用いて計算した結果を表-8に示します。この結果、製造、使用時、廃棄時の合計の二酸化炭素排出量は白熱電球、電球型蛍光灯、LED電球の順に1084kg-CO2、202 kg-CO2、137 kg-CO2であり、白熱電球はLEDの約8倍、蛍光灯はLEDの1.5倍です。
また、照明器具の製造、使用時、廃棄時の二酸化炭素排出量は、丸型蛍光灯は1036 kg-CO2、LED照明は725 kg-CO2となっており、蛍光灯はLED照明の1.4倍となっています。
表-8 条件を統一した照明機器のLCA分析結果
照明機器 | 製造・廃棄時二酸化 炭素排出量(kg-CO2) | 使用時二酸化 炭素排出量(kg-CO2) | 合 計 (kg-CO2) | 製造廃棄の 割合(%) |
|
---|---|---|---|---|---|
電球 | 白熱電球 | 27.8 | 1,056.0 | 1,083.8 | 2.57 |
電球型蛍光灯 | 8.6 | 193.6 | 202.2 | 4.25 | |
LED電球 | 6.9 | 130.2 | 137.1 | 5.03 | |
照明器具 | 丸型蛍光灯 | 15.1 | 1,020.8 | 1,035.9 | 1.46 |
LED照明 | 119.4 | 605.4 | 724.8 | 16.47 |
次に、それぞれの機器の製造・廃棄時と使用時の二酸化炭素排出量を比較したものを図-7に示します。ほとんどの機器の製造・廃棄時のそれは小さいことが分かります。表-8の最右欄に示す全二酸化炭素排出量に対する製造時の割合は電球については数%程度です。
しかし、LED照明の製造・廃棄時の二酸化炭素排出量は16%を占めています。これは、LED照明は照明器具とLEDランプの両方を含むためです。また、今回利用した環境省の二酸化炭素排出原単位が価格当りのもののため、LED照明の価格が非常に高額であることが原因している可能性があります。
製品の価格は需給によって変動し、また小売事業者によっても変わるため、価格当りの原単位の適切性に課題が残ります。この結果については原単位による方法ではない別の方法で算定した事例を整理する必要があります。
(3)積み上げ法によるLCA事例
海外の文献で物理的な方法で製造時と使用時の二酸化炭素排出量を算定した事例を紹介します。この文献は機器に使われた素材や部品を整理し、それらの製造過程で使用された一次エネルギーをもとに二酸化炭素排出量を算定したものです。
LCAの分析においては、素材の発掘、精製、輸送、部品の製造、製品の加工、販売までを、個別のデータに基づく積み上げによる一次エネルギーを算定しています。分析の対象は白熱電球、蛍光灯、LED電球の3種であり、その諸元を表-9に示します。
表-9 分析対象の照明器具の諸元と製造時の1次エネルギー消費量
照明機器 | 全光束 (lm) | 消費電力 (W) | 耐久時間 (時間) | 個数 (個) | 1次エネルギー消費量 (kWh) |
---|---|---|---|---|---|
白熱電球 GLS | 345~420 | 40 | 1,000 | 25 | 15.3 |
電球型蛍光灯 CFL | 8 | 10,000 | 2.5 | 10.2 | |
LED電球 LED | 8 | 25,000 | 1 | 9.9 |
出所)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009
ここでは、照明種別の耐久時間を白熱電球1,000時間、蛍光灯10,000時間、LED電球25,000時間としており、条件を合わせるために表-9に示すように白熱電球は25個、蛍光灯は2.5個分の製造時の二酸化炭素排出量を算定します。
照明器具の製造に要する1次エネルギーの消費量(耐久年数25,000時間分の個数を乗じたもの)を図-8に示します。白熱電球は15.3kWh(1個当り0.61kWh)、蛍光灯10.2kWh(1個当り4.1kWh)、LED電球は9.9kWhです。LEDは1個当りの一次エネルギー消費量は大きいですが、耐久年数を考慮すると最も小さくなることが分かりました。
図-8 分析対象の3種の電球の製造時の1次エネルギー消費量
それぞれの内訳は、白熱電球は充填物(フィラメントなど)の割合が大きいですが、蛍光灯はベースの割合が高く、LED電球は電球部分に多くのエネルギーを要しています。LED電球の電球部分が大きいのはアルミニウムで作られたヒートシンクという熱を吸収する部品が含まれているためです。
これらの結果より、それぞれの照明の二酸化炭素排出量を算定した結果を表-10及び図-9に示します。製造時の二酸化炭素排出量は2.2から3.5kg-CO2と大きな差はありませんが、使用時のそれは白熱電球が564 kg-CO2、蛍光灯とLEDが同じく113 kg-CO2となっています。この製品では蛍光灯とLEDの消費電力が同じ8Wであるため、使用時の排出量は同じ結果となっています。
表-10 素材、部品の積み上げ法によるLCA結果
照明機器 | 製造時(kg-CO2) | 使用時(kg-CO2) | 合計(kg-CO2) | 製造時の割合(%) |
---|---|---|---|---|
白熱電球 25×GLS | 3.5 | 564 | 567.5 | 0.6 |
電球型蛍光灯 2.5×CFL | 2.2 | 113 | 115.2 | 1.9 |
LED電球 LED lamp | 2.4 | 113 | 115.4 | 2.1 |
出所)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009
出所)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009
図-9 3種の電球のLCA結果
図-9では製造時の二酸化炭素排出量は10倍のスケールで表示しています。この結果よりライフサイクル全体における製造時の二酸化炭素排出量の割合は白熱電球では1%未満、蛍光灯とLED電球でも2%程度と小さなものでした。
この分析結果と表-8に示した価格による原単位方式での計算結果とを比較すると、こちらの方が製造時の割合が小さくなっています。なお、表-10では廃棄時の二酸化炭素排出量を含んでいませんが、文献によればその値は非常に小さい(0.1%未満)とのことです。
どちらの方法でも製造時の割合は小さく、使用時の二酸化炭素排出量が多いことから、使用時の省エネを進めることが重要であることが分かります。
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<参考となる本サイトの記事>
■LED照明の省エネ基準(エネルギー消費効率)
「LED照明のエネルギー消費効率」
■小売り店での省エネ情報
「小売事業者の省エネラベル表示制度」
■LED電球の省エネ情報
「LED照明①-省エネ性能」
「LED照明②-照明器具の省エネ性能」
■節電対策
「LED照明③-自宅照明のLED化」
「【家庭の省エネ対策】数が多くて管理がしにくい照明の節電対策6選」
■LCA
「ライフサイクル全体のGHG排出量の分析(1)-テレビと照明」
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<参考文献>
1)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、家庭でできる省エネ、家電製品別の電力消費割合を知ろう!
2)フリー百科事典「ウィキペディア」(LED照明),
https://ja.wikipedia.org/wiki/LED%E7%85%A7%E6%98%8E
3)経済産業省:LED照明産業を取り巻く現状、2012年11月29日
4)一般社団法人日本照明工業会:電球形LEDランプガイドブック、第2版
5)1999年通商産業省告示第191号「照明器具のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」(廃止・制定)、最終改定2019年経済産業省告示第46号
6)2003年経済産業省告示第235号(制定)「電球のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2019年経済産業省告示第46号
7)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、無理のない省エネ節約、照明
8)一般社団法人日本照明工業会:公式Webサイト、明かりの未来へ、LED照明ナビ
https://www.jlma.or.jp/led-navi/index.htm
9)田畑智博、文多美:家庭用照明のLED照明への切り替えに伴うCO2削減コストの試算、第6回LCA学会発表会講演要旨集、2011年3月
10)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009