ここでは、テレビに関するこれまでの投稿の要約と新たに整理したLCAの分析結果を追加してとりまとめていきます。
本サイトは家庭での地球温暖化対策をテーマとして、これまでの投稿ではエネルギー消費機器のエネルギー効率を整理し、国の進める省エネに関する規制やそれを参考にした省エネ対策などを整理してきました。
しかし、エネルギー消費機器は単に使用時の消費エネルギーを減らすだけでは地球温暖化の防止対策としては十分ではありません。すなわち、そのエネルギー消費機器の製造から使用、廃棄までのライフサイクル全体にわたる二酸化炭素排出量を評価して、その最適な機器の選択と使用をしていくことが必要です。
このような製品のライフサイクル全般に渡る環境汚染(二酸化炭素排出を含む)の評価をLCAと言います。ここではLCAの対象とする環境汚染項目を二酸化炭素排出量に限定して文献調査を行い、分析結果を整理しました。他のエネルギー消費機器についても、できるだけLCA分析をサーベイしていくことを目標にしています。
<本記事のコンテンツ> ■原理と特徴 (1)テレビの原理 (2)エネルギー消費の特徴 ■省エネ基準 (1)目標年度2025年度までの省エネ基準 (2)目標年度2026年度以降の省エネ基準 ■省エネ対策の事例 (1)画面(バックライト)の明るさの調節 (2)節電機能を使う(無操作自動電源オフ機能等) (3)テレビに接続された不要な機器の取り外し (4)新しいテレビへの買い換え (5)シチュエーションに応じたデバイスの選択 ■LCAによる分析事例 (1)LCAの分析方法 (2)LCA分析結果 (3)二酸化炭素排出量の製造時と使用時の比較 <参考となる本サイトの記事> |
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原理と特徴
(1)テレビの原理
テレビは放送局から送られてくる電波信号を受信し、それを画像や音声として変換する装置で構成されます。その装置は電源、信号受信、信号処理、ディスプレイ、スピーカーなどで構成され、それらは多数の半導体(チップ)が配置された基板により制御されています。
ディスプレイは以前はブラウン管(CRT)が使われていましたが、今ではほとんどが液晶ディスプレイ(LCD)が使われており、ここでは液晶テレビを対象として説明していきます。ただし、LCAの分析については、CRTとの比較も対象としています。
液晶(LC:Liquid Crystal)とは「液体のような流動性と、結晶のような異方性を兼ね備えた物質」1)で、電圧を加えると分子の向きが変化し、配列が変わるという性質を持っています。この性質を応用して、背後からの光(バックライト)が液晶を通過する際に、電圧の強弱によってブラインドを開け閉めするように光をコントロールし、さらにRGBのフィルターを通すことで色が再現されます。
ブラウン管は蛍光塗料に光源から電子ビームを当てて発光させる方式であり、大画面になるとブラウン管の奥行きが長くなります。一方、液晶ディスプレイは、液晶パネルのドットを一つ一つ制御することで映像を作り出します。そのため、大画面でも一定の奥行きを保つことができ、テレビ画面に利用されてからテレビの大型化が進んできました。
液晶パネルのドットが多くなる(画面の大きさと画素数)と電力も消費することになります。また、液晶自体が発光するのではなくバックライトにより映像を作るため、このバックライトが省エネの対策として重要になります。
バックライトの配置については図-1に示すように、エッジ型と直下型があります2)3)。エッジ型は光源を液晶パネルの側面に設置して、反射板を利用して光を全面に伝達させる方法です。光源の数が少なく済むため安価であることや、光源が側面にあるため薄型のディスプレイを作ることができるという利点があります。しかし、大型の液晶パネルになると輝度にムラが出るなどの欠点もあります。
一方、直下型は液晶の背後に光源を設置する方式で、画面の全面を均等な輝度に保つことができる半面、ディスプレイがやや厚くなること、光源の数が多くなり電力を消費するなどの特徴があります。大型の液晶ディスプレイでも鮮やかな画像を作ることができることから、大型テレビに採用されることが多いようです。
(2)エネルギー消費の特徴
液晶テレビのディスプレイの画素数は以下の4分類(資源エネルギー庁の分類)となっています。
① FHD未満:横のドット数が2K(2,000)未満の画素数
② FHD(2K):フルハイビジョンで横のドット数が2K(2,000)の画素数
③ 4K:横のドット数が4K(4,000)の画素数
④ 8K:横のドット数が8K(8,000)の画素数
ディスプレイが大きくなると画素数も大きくなります。販売中の製品について画面サイズと画素数の傾向を示したのが表-1です(2020年、2021年登録のテレビで集計)。この表から30インチ未満の液晶テレビは2K(FHD)までであるのに対して、50インチ以上の液晶テレビはほとんどが4K以上の製品であることが分かります。
表-1 画面サイズと画素数別の製品数
画面サイズ | FHD未満 | FHD(2K) | 4K | 8K | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
30インチ未満 | 28 | 24 | 0 | 0 | 52 |
30インチ以上50インチ未満 | 34 | 27 | 108 | 0 | 169 |
50インチ以上 | 0 | 1 | 145 | 9 | 155 |
合 計 | 62 | 52 | 253 | 9 | 376 |
画面サイズ別に年間消費電力量の平均値を集計したものを図-2に示します4)。年間消費電力量とはある一定の視聴条件(省エネ法によって1日4.5時間の視聴を前提とし省エネモードを考慮したもの)のもとで、1年間に消費される電力量を推計したものです(本サイトの「液晶テレビのエネルギー消費効率」に詳細に記載しています)。
年間消費電力量は、画面サイズが2倍になると3.1~3.5倍の年間消費電力量になっていることが分かります(50インチ/24インチが約3.1倍、65インチ/32インチが約3.5倍)。理論的には画面サイズが大きくなるとそのインチ数の2乗に比例して消費電力も大きくなると想定されますが、他の要因もあるため画面サイズだけに比例するわけではないようです。
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省エネ基準(基準エネルギー消費効率)
テレビの省エネ基準(基準エネルギー消費効率)の評価指標は年間消費電力量です。テレビの省エネ基準は2012年度に制定されて2025年度までを目標とする基準と、2021年に改訂されて2026年度以降を目標とする基準があります5)。
(1)目標年度2025年度までの省エネ基準
2025年までの省エネ基準はテレビの画素数、画面サイズ、動画表示、付加機能の数により区分されて設定されています。図-3に画素数がFHD以上(2K、4K、8K)で、動画表示別(ノーマル、倍速、4倍速)、画面サイズ別、付加機能の数別の省エネ基準を示します。
省エネ基準は動画表示が速いほど、付加機能の数が多いほど、画面サイズが大きいほど大きな値となっています。なお、2025年度までの省エネ基準の指標となる年間消費電力量は1日4.5時間視聴する前提で計算されています。
(2)目標年度2026年度以降の省エネ基準
次に、目標年度が2026年度以降の省エネ基準を示すと以下の通りです。2026年度以降の省エネ基準の対象は、ブラウン管テレビやプラズマテレビは対象外となりました。省エネ基準の指標は年間消費電力量ですが、1日の平均動作時間は4.5時間(年間1642.5時間)から5.1時間(年間1861.5時間)に変更になりました。
図-4にテレビの種類別の省エネ基準を示します。液晶テレビは画素数別に画面の面積の関数で、有機EL(organic electroluminescence)は画素数に関係なく画面の面積の関数で設定されます。なお、面積では分かりにくいため、この図では画面サイズ(インチ)を横軸にして表示しています(横と縦の比を16:9に仮定して面積を算定)。
少し分かりにくいかもしれませんが、図-3と図-4を比較すると目標年度2026年度の省エネ基準がより少ない消費電力量になっていることが分かります。図-3の液晶ノーマル、DF(付加機能なし)と図-4のLCDの消費電力量を比較すると分かりやすいです。
この図より、有機ELは画面サイズが45インチ程度までは大型LCDより小さい値ですが、これ以降は大きな値となっています。なお、付加機能がある場合は表-3に示すようにその内容を考慮した値を基準値に上乗せできます。
表-2 付加機能の考慮(2026年度以降の省エネ基準に適用)
付加機能 | 年間消費電力量 (kWh/年) |
---|---|
2Kチューナーを2つ以上内蔵 | 2.8 |
4Kチューナーを2つ以上内蔵 | 5.5 |
録画装置内蔵(HDD3.5 インチ) | 11.0 |
録画装置内蔵(HDD2.5 インチ) | 4.8 |
録画装置内蔵(SSD) | 3.7 |
ブルーレイディスクレコーダー又はDVDレコーダー内蔵(4K以上に対応) | 23.9 |
ブルーレイディスクレコーダー又はDVDレコーダー内蔵(4K未満に対応) | 16.7 |
動画倍速表示(4K以上に対応) | 18.3 |
動画倍速表示(4K未満に対応) | 17.0 |
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省エネ対策の事例
テレビの省エネ対策をまとめると以下の5つが考えられます。
① 画面(バックライト)の明るさの調節
② 節電機能を使う(無操作自動電源オフ機能等)
③ テレビに接続された不要な機器の取り外し
④ 新しいテレビへの買い換え
⑤ シチュエーションに応じたデバイスの選択
(1)画面の明るさの調節
原理と特徴で示したように、液晶テレビは1つ1つのドットにバックライトがあり、これが電力を消費します。そのため、バックライトの明るさ(以後、明るさの程度を「明度」と称します)を低減することで消費電力は大きく下げられます。
図-5に消費電力モード別、バックライトの明度別の消費電力量を示します。図-5では消費電力モードが「標準」、「節電1」、「節電2」の3種類別にバックライトの明るさと消費電力の関係を示しています。標準モードで明度を100%とした場合約130Wが消費されますが、明度50%にすると約80Wとなり、約4割の消費電力を削減できます。
図-5では3つのモードがありますが、明度0%とした場合の消費電力は3つのモード共にほぼ同じであり、モードによって明度を上げた際の消費電力の上昇カーブが異なっています。
節電モード1の明度100%は標準モードの明度50%に相当し、節電モード2の明度100%は標準モードの明度25%に相当します。これらの節電モードを使用することでも消費電力量を軽減することができます。
(2)節電機能を使う
どのテレビ製品でも節電機能があり、代表的なものでは表-3のような機能です。バックライトの明るさについては既に説明しました。「無信号自動電源オフ」は一定時間以上入力信号がない場合に自動的に電源が切れる機能です。
「無操作自動電源オフ」は一定時間以上操作がない場合に自動的に電源が切れる機能です。作業を行いながらテレビを見る人はこのような機能を利用して節電を図ることも有効と考えられます。
また、「番組情報取得設定」とはテレビ番組の情報を取得する機能ですが、テレビは電源OFFの時でも一定の間隔で番組情報を取得しています。この機能を設定しないことで消費電力を削減します。ただし、録画をするときにいつでも最新の番組情報を見ることができなくなるので注意が必要です。
表-3 液晶テレビの節電機能
節電機能 | 内 容 |
---|---|
画面の明るさ(バッククライト)の調節 | バックライト(液晶パネルの背面に光源として配置される照明装置のこと)の明るさを調節して消費電力を削減。 |
無信号自動電源オフ機能 | 一定時間信号がないときは、自動的に電源をオフにする機能。 |
無操作自動電源オフ機能 | 一定時間操作を行わない場合は、自動的に電源をオフにする機能。 |
番組情報取得設定(取得しないを設定) | 電源がOFFの時でも番組情報を取得する機能を停止することで取得時の電力を削減する |
明るさセンサーによる明るさ自動調整 | テレビを見る部屋の明るさに応じて、画面の明るさを自動的に調整し、 ムダに消費する電力を低減する機能。 |
(3)テレビに接続された不要な機器の取り外し
テレビに接続されたビデオデッキや録画用磁気ディスク(ハードディスク)等もスイッチを切っていても電力を消費します。テレビ単体も待機電力がありますが最近の製品は概ね1W以下の電力です。ただし、機種によっては最大1時間程度大きな消費電力(20W程度)が継続するものもありますので注意が必要です(この電力の測定については、「待機電力(2)-エネルギー消費機器のまとめ」を参照ください)。
ハードディスク単体の待機電力(テレビをリモコンでOFFとした場合)は、実測した事例では0.9~2.3Wとそれほど大きくありませんでした。また、Amazon Fire TV stickなどの機器も少量の待機電力を使用します。これらは長期的に使わない場合は、接続を切っておいた方が良いと思われます。
(4)新しいテレビへの買い換え
資源エネルギー庁によると、テレビは9年前に比べ42%省エネ(40インチテレビ、2010年と2019年の比較)になったとされています6)。これは前述した省エネ基準の強化によりメーカが消費エネルギーの少ない製品を製造するようになっているためです。
したがって、古い機器を新しく買い換えることで節電ができます。小売店は液晶テレビを販売するときに省エネ性能を表示することが義務付けられていますので、その性能を確認することでどの程度省エネができるかを判断できます7)。また、メーカーには製品のカタログ等に省エネ性能を表示することが義務付けられていますので、カタログでも確認ができます。
小売店で表示する省エネラベルは図-6に示すように目標年度によって異なります。目標年度が2025年度の製品は星の数のみで表す5段階評価(図-6の左側)でした。目標年度が2026年度以降の製品は多段階評価点で表されます(図-6の右側)。
多段階評価点とは最高点を5.0、最低点を1.0とした41段階の評価方法です。その多段階評価点の算定方法をコラムに示します。なるべく大きな数字が付いている製品を購入することで節電ができます。
<テレビの多段階評価点の計算方法> (1)多段階評価比率(X)の計算 X=EM/E×100 E:エネルギー消費効率(年間消費電力量) EM=0.00728A+62.99(kWh/年) A:テレビの画面面積(cm2) (2) 多段階評価点(Y)の計算 ①Xが100未満の場合 Y=3+2/59×(X-100) Y:1未満の場合は1.0とする ② Xが100以上の場合 Y=3+1.5/98×(X-100) Y:5を超える場合は5.0とする 出所)2006年経済産業省告示第258号(制定)「エネルギー消費機器の小売の事業を行う者その他その事業活動を通じて一般消費者が行うエネルギーの使用の合理化につき協力を行うことができる事業者が取り組むべき措置」、最終改定2022年経済産業省告示第162号 |
なお、ここで注意すべきはコラムに示すように多段階評価点は画面サイズ(画面面積)が同じ製品における相対的なエネルギー消費(年間消費電力量)を示したものであり、画面サイズが異なるものを比較することはできません。節電を目的とするのであれば、図-2に示した画面サイズによる消費電力量の相違を踏まえて購入することが必要です。
(5) シチュエーションに応じたデバイスの選択
前述したように、大画面のテレビは多段階評価値が高くても多くの消費電力量を要します。最後の節電対策は視聴の状況に応じてデバイスを変えるというものです。最近はテレビ番組をインターネットを通じてスマートフォン(スマホ)やタブレットでも視聴できるため、これらのデバイスを活用することも有効です。
スマホもテレビ番組を視聴できますが、やはりタブレットの方が見やすいでしょう。下表にタブレットの一例としてipad(Apple社製)の充電に要する消費電力量を示します。
表-4 タブレットのバッテリー充電のための消費電力量
型 式 | 画面サイズ | 充電時間 | 消費電力量 | |
---|---|---|---|---|
タブレット | ipad mini 2 | 7.9インチ | 3時間50分 | 27Wh |
ipad 第7世代 | 10.2インチ | 約5時間 | 51Wh |
画面サイズが7.9インチのipad mini 2の充電に要する消費電力量は27Whであり、10.2インチのipad第7世代のそれは51Whです。1回の充電でどれくらい視聴できるかは、バッテリーの性能によりますが、ipad第7世代を使って3時間テレビ番組を視聴したところバッテリー残量が25%消費していました。このことから満充電のバッテリーからは概ね12時間の視聴が可能と思われます。
一方、50インチの液晶テレビを12時間視聴すると1,560Whが消費され(明度100%の場合)、節電モード1でも1,000Wh消費する(明度100%)ことになり、ipad第7世代で視聴すれば1/20から1/30の消費電力量で済むことが分かります。このように、テレビ番組の視聴にデバイスを変えて節電することも今後の有効な手法であることが分かりました。
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LCAによる分析事例
(1)LCAの分析方法
全てのエネルギー消費機器は使用時のみでなく製品の製造時や廃棄時においてもエネルギーを消費し、温室効果ガスを排出します。このような製品のライフサイクル全体に渡る温室効果ガスの排出を評価する方法をLCA(Life Cycle Assessment)と言います。
LCAは温室効果ガスのみではなく環境負荷全般を対象とし、温室効果ガス(二酸化炭素)のみの排出を評価する場合はLCCO2とされます。しかしここでは、LCAについて二酸化炭素排出量を評価する意味で使います。
テレビのLCA評価を行った事例がありますので、ここで紹介しておきます8)。この研究では製造時と使用時のLCAを行っており、廃棄時は評価していません。比較の対象はブラウン管テレビ(CRT)と液晶テレビ(LCD)の2種類のテレビで、CRTは15インチのみLCDは15インチと32インチの2種を比較しています。
これらのテレビを分解して素材、部品を取り出し、その資源の採掘から製造に至る二酸化炭素排出量を推計します。その算定方法は以下の通り各部品の重量に二酸化炭素排出原単位を掛けて合算する積み上げ法を採用しています。この原単位は国立環境研究所環境負荷原単位ベース「3EID」を使用しています。
部品、素材の製造時の二酸化炭素排出量(kg-CO2)=部品、素材の重量(kg)×二酸化炭素排出原単位(kg-CO2/kg)
主要な素材、部品の二酸化炭素排出原単位を図-7に示します。この原単位が大きいのは基板、液晶モジュール、トランジスタ、抵抗器などの部品です。一方、ガラス、CRTユニット、アクリル板、ABS樹脂、ステンレス鋼板などは小さな値となっています。
また、製品の使用時はテレビの定格消費電力に使用時間を乗じます。使用年数は8年、1日の使用時間を4.5時間(省エネ法による)と3.3時間(2005年国民生活時間調査報告書、NHK放送文化研究所)を仮定して計算しています。
(2)LCA分析結果
対象となるテレビの重量とその構成部品の重量割合を表-5に示します。重量はCRT15は12.01kg、LCD15は5.29kg、LCD32は22.25kgでした。LCD15はCRT15の1/2以下、LCD32はLCD15の4倍の重量となっています。
また、CRTの素材、部品はCRTユニットとABS樹脂、ガラスで9割程度を占め、基盤は5%程度となっています。一方LCDはステンレス鋼板、ABS樹脂、液晶モジュールで8割以上を占め、基盤は1割程度でした。
表-5 対象テレビの重量と主要な素材、部品の重量割合
テレビの種類 | 重量(kg) | 主要な素材、部品の重量割合 |
---|---|---|
CRT15 ブラウン管、15インチ | 12.01 | CRTユニット(65%)、ABS樹脂(15%)、ガラス(7~8%)、基板(5%) |
LCD15 液晶、15インチ | 5.29 | ステンレス鋼板(約4割)、ABS樹脂(約2割)、液晶モジュール(1.5割)、基板(1割) |
LCD32 液晶、32インチ | 22.25 | ステンレス鋼板(約6割)、ABS樹脂(約1.5割)、液晶モジュール(7~8%)、基板(約7~8%) |
出所)牧口 裕介、伊坪 徳宏:ライフサイクルの視点に基づく 家電製品の買い替えによる環境負荷削減効果分析、第5回日本LCA学会研究発表会講演要旨集、2010年3月
これらの基礎データをもとに、テレビの二酸化炭素排出量を計算した結果を図-8に示します。図-8で使用時の二酸化炭素排出量の計算における1日使用時間はModel1は4.5時間、Model2は3.3時間です。
まず、テレビの製造時と使用時を合計した二酸化炭素排出量は、Model1ではCRT15、LCD15、LCD32の順に512.2、299.9、1200.2kg-CO2となっています。LCD15はCRT15の約6割、LCD32はCRT15の約2.3倍となっています。
また、製造時の二酸化炭素排出量はそれぞれ70.3、85.0、246kg-CO2となっています。LCD15はCRT15の重量の半分でありながら、その製造時の二酸化炭素排出量はCRT15よりわずかに大きくなっています。これは図-7に示したように液晶モジュールの二酸化炭素排出量原単位が大きいためです。
LCD15とLCD32を比較するとLCD32は重量が4倍以上ですが製造時の二酸化炭素排出量は3倍程度です。このため、LCD15とLCD32の製造時の重量当たり二酸化炭素排出量はそれぞれ16.1、11.1kg-CO2/kgと、LCD32のそれが大きく低減しています。これは表-5より、画面サイズが大きくなると二酸化炭素排出原単位が大きい液晶モジュールと基板の重量割合が減少したためです。
一方、使用時の二酸化炭素排出量はLCD15はCRT15の半分以下であり、LCD32はLCD15の4.4倍となっています。CRT15からLCD15への買い換えによって使用時の二酸化炭素排出量が減りますが、LCD32に買い換えると2倍以上の二酸化炭素排出量になってしまうことが分かります。テレビがCRTからLCDに移行していく過程で大型化が進んだことによって、製造時及び使用時の二酸化炭素排出量が増加した可能性があります。
(3)製造時と使用時の二酸化炭素排出量の比較
次に、製造時と使用時の二酸化炭素排出量を比較します。CRT15の「使用時/製造時」はModel1は6.3、Model2では4.8です。LCD15のそれはModel1は2.5、Model2では2.0です。このことは、LCDの方が製造時の二酸化炭素排出量の割合が高く、製品を選ぶときに特に注意を要することが分かります。
製品の購入後の二酸化炭素排出量の時間変化を示すと図-9の通りです。この図では、CRT15、LCD15、LCD32について、テレビ視聴時間をModel2で計算したものを示します。CRT15は購入時点ではLCD15よりも少ないですが、1年後には逆転して大きくなり、その後大きな差が開いていくことが分かります。
LCDもCRTも製造時の二酸化炭素排出量は現時点においては使用時のそれに比べて小さいものであり、それほど気にしなくても良いものです。しかし、電気の脱炭素化が進んでいく過程では、製造時の二酸化炭素排出量にも留意することが必要になるでしょう。
一方、LCD32は製造時も大きな二酸化炭素排出量であり、使用時も大きな排出量であるため、その差は大きく開いていきます。大型化によって製造時の重量当り二酸化炭素排出量が低減していくとは言っても、使用時の消費電力量の増加によって二酸化炭素排出量は増加していくので、画面の大型化については注意したほうがよさそうです。
なお、本論文は2010年に発表されたものであり、電源構成が現状と異なるため電力の二酸化炭素排出係数は現状より小さかった可能性があります(論文中には明記されていない)。また、各種の素材、部品の二酸化炭素排出原単位も改善されている可能性はありますので、この結論は研究時点のものであることを考慮してください。ただし、今回の結論が大きく異なることはないと思われます。
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<参考となる本サイトの記事>
■テレビの省エネ基準(エネルギー消費効率)
「液晶テレビのエネルギー消費効率」
■小売り店での省エネ情報
「小売事業者の省エネラベル表示制度」
■節電対策
「【家庭の省エネ対策】効果的なテレビの節電対策 5選」
■テレビの製品の省エネ情報
「液晶テレビ①-サイズと画素数の拡大」
■テレビの待機電力
「液晶テレビ②-意外に大きい待機電力」
■LCA
「ライフサイクル全体のGHG排出量の分析(1)-テレビと照明」
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<参考文献>
1)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』、「液晶」
2)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』、 バックライト」
3)東芝公式Webサイト、テレビREGZA、高画質、全面直下LED
https://www.regza.com/regza/lineup/j10x/quality.html#just_below_full_led_panel
4)経済産業省、資源エネルギー庁、省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、https://seihinjyoho.go.jp/、閲覧日2021年8月2日閲覧
5)1999年通商産業省告示第192号(廃止・制定)「テレビジョン受信機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2021年経済産業省告示第111号
6)資源エネルギー庁:公式Webサイト、省エネポータルサイト、家庭向け省エネ関連情報、機器の買換で省エネ節約、https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/choice/
7)2006年経済産業省告示第258号(制定)「エネルギー消費機器の小売の事業を行う者その他その事業活動を通じて一般消費者が行うエネルギーの使用の合理化につき協力を行うことができる事業者が取り組むべき措置」、最終改定2021年8月31日経済産業省告示第194号
8)牧口 裕介、伊坪 徳宏:ライフサイクルの視点に基づく 家電製品の買い替えによる環境負荷削減効果分析、第5回日本LCA学会研究発表会講演要旨集、2010年3月