エアコンは家電機器の中で最も消費電力が多いものであり、夏季と冬季でいずれも家庭の消費電力の3割以上を占めています。そのため、省エネ法の対象となり、省エネ基準も厳しい目標が設定されています。
エアコンの省エネ対策として、フィルターの清掃などの維持管理や室内空気の循環など手軽に行う対策もあります。しかし、より大きな省エネ効果を期待するなら、出来れば室内の断熱性を高めてエアコンの冷暖房負荷を低減する方法や買い替えによる省エネ性の向上などを検討することも必要です。
ところで省エネではありませんが、エアコンは地球温暖化に直接影響する温室効果ガス(GHG)を排出しています。すなわちエアコンには高い温室効果を持つ冷媒(HFCs)が使われており、エアコンや冷凍冷蔵庫から日本のGHG排出量の5%が排出されているのです。
近年は比較的GWP(地球温暖化係数)値が低い冷媒が使われるようになってきましたが、古い機種では大きなGWPの冷媒を使用しているものもあり、新型機種への買い替えが重要です。また使用中や廃棄時の冷媒の漏洩についても配慮することが必要です。
ここでは、まずエアコンの原理と特徴を説明した上で、省エネ法で設定された省エネ基準を整理し、具体的な省エネ対策を示していきます。また、使用時だけでなくライフサイクル全体におけるGHG排出(冷媒のGHG排出も含む)の傾向についても示します。
<本報告のコンテンツ> ■原理と特徴 (1)原理 (2)特徴 ■省エネ基準(基準エネルギー消費効率) (1)目標年度2026年度まで (2)目標年度が2027年度以降 ■省エネ対策の事例 (1)エアコンの効率性を低下させない維持管理 (2)室内空気の循環による暖房効果の向上 (3)エアコンの節電機能の利用 (4)エアコンの無理のない温度設定 (5)室内の断熱性の向上 (6)新しいエアコンの買い替え ■LCA分析の事例 (1)LCA分析方法 (a)エネルギー起源の二酸化炭素排出量 (b)冷媒のGHG排出量 (2)エネルギー起源の二酸化炭素排出量の分析結果 (3)冷媒のGHG排出量の分析結果 <参考となる本サイトの記事> |
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原理と特徴
(1)原理
エアコンはヒートポンプの原理を利用して家屋内の冷房と暖房を実現します。その原理を簡単に言うと、エアコン内の室内機と室外機を循環する冷媒(圧力の増減により気体と液体に相変化する物質)が、液体から気体になった時に熱を奪い(冷風を生成)、気体から液体になったときに熱を放出する(暖かい風を生成)原理を使っています。冷房の原理は冷蔵庫や冷凍庫に使われている原理と同じです。
図-1にエアコンの冷房、暖房のそれぞれの原理を示します1)。冷房の場合、圧縮機が冷媒を高温、高圧の気体にして室外機の熱交換器(凝縮器)で放熱し、冷却されて液体になった冷媒を減圧器(膨張弁)で圧力を下げ、液体から気体になる過程で室内の熱交換器(蒸発器)で熱を吸収して室内を冷やします。
暖房の場合はこの流れが逆になり、圧縮機で高温高圧にした気体を室内の熱交換器で放熱し(温風の供給)、冷却されて液体となった冷媒を減圧器(膨張弁)を通して液体から気体となる際に室外機で熱交換することで暖房のサイクルを実現します。この暖房、冷房の切り替えに用いられるのが四方弁です。
(2)特徴
エアコンのエネルギー効率を表すのは成績係数(COP: Coefficient of performance)であり、以下で表されます。COPは投入されたエネルギーの何倍の熱量を処理したかを表す指標です。
COP=付加または除去された熱量(kWh)/消費電力量(kWh)
=冷房または暖房能力(kW)/定格消費電力(kW)
上式で付加された熱量は暖房の場合、除去された熱量は冷房の場合であり、暖房COP、冷房COPと区別されています。この付加または除去された熱量を言い換えると、エアコンの能力のことです。この能力を定格消費電力で除してもCOPを算定できます。
このエアコンの性能については最近の省エネ法ではCOPよりもAPF (Annual Performance Factor)が使われます。これは通年エネルギー消費効率と言い、以下で定義されます。
APF= エアコンが稼働する期間の冷暖房負荷(kWh)/当該エアコンの期間消費電力量(kWh)
これは、「ある一定条件下でエアコンを使用したとき、1年間に必要な冷暖房負荷を、1年間でエアコンが消費する電力量(期間消費電力量)で割った数値」です。ここで、冷暖房負荷とは部屋の広さ、外気温を条件として、設定された稼働時間において、設定された室内温度にするためにエアコンが除去する熱量(冷房の場合)と付加する熱量(暖房の場合)の合計のことを指しています。
この指標により、従来は冷房と暖房で別々に示されていたエネルギー効率を1つの指標にできたことになります。ここで、年間の冷暖房負荷は地域によって異なっているため、表-1に示すように東京地区のある住環境を想定して冷暖房負荷を設定しています(JIS C 9612:2013の規格)2)。
表-1 エアコンの使用条件(APF算定条件)
項目 | 条件 |
---|---|
外気温度 | 東京をモデルとする |
室内設定温度 | 冷房時27℃、暖房時20℃ |
期間 | 冷房期間 5月23日〜10月4日 |
暖房期間 11月8日〜4月16日 | |
使用時間 | 6:00~24:00の18時間 |
住宅 | 平均的な木造住宅(南向き) |
部屋の広さ | 製品能力に見合った広さの部屋(2.2kW→6畳、3.2kW→12畳、5.6kW→18畳) |
出所)総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会エアコンディショナー及び電気温水機器判断基準ワーキンググループ、家庭用エアコンディショナーの取りまとめ、2022年1月13日
これらの式の分母である消費電力量は、圧縮器や送風機などの装置を駆動させるためのものです。そのため、COPの値は1を超えることができ、最新の機器では7程度の性能の製品もあります。これは、電気ストーブのCOP1.0であるのと比べて非常に効率的な機器と言えます。
そして、これらの数値が大きいほどエネルギー消費効率が高くなります。そのためエアコンの消費する電力量を削減するには、エネルギー消費効率が高い、すなわちCOPまたはAPFが大きい機器を選択することが重要です。
図-1に示したエアコンを構成する圧縮機、減圧器(膨張弁)、熱交換器、四方弁についての性能向上により省エネが行われています(表-2)。電力は主に圧縮機を作動させるためと熱交換器でのファンを回す動力などに使われており、省エネのために各種の損失を軽減させる工夫も見られます3)。
表-2 エアコンの省エネ技術
関連部 | 消費電力が減少する技術 | |
---|---|---|
圧縮機の性能向上技術 | 新冷媒対応 | 冷媒R32に対応した摺動部位のクリアランス最適化、冷凍機油の最適化、給油経路の最適化などにより圧縮機効率を向上。 |
機械損失・熱損失低減 | ロータリ式圧縮機:摺動部位のクリアランス最適化やローラとベーンの⼀体化構造で効率を向上。 スクロール式圧縮機:設計圧縮⽐の最適化、固定スクロールラップと旋回スクロールラップのクリアラ ンス最適化等 |
|
圧縮機モータ効率 | ブラシレスDCモータについて ステータコア:集中巻き、コイル占積率の増加、鉄⼼の分割 ロータコア:希⼟類系磁⽯の採⽤、電磁鋼板の薄⾁化 |
|
圧縮機モータ制御用電機品効率 | インバータ回路やコンバータ回路のスイッチング素⼦にSJ-MOSやSiCを採⽤することによる回路損失の低減、圧縮機モータとのマッチングや制御⽅法の最適化により回路効率を向上 | |
送風系の性能向上技術 | ⾼密度実装化やフラップ形状適正化など実装構造適正化により⾵路損失を低減、ファンの翼形状適正化やグリル・通⾵路形状の適正化により送⾵効率を向上、モータ駆動回路の⾼効率化によりファンモータ効率を向上 | |
弁の性能向上技術 | 主に冷房運転と暖房運転での冷媒経路を切り替える四⽅弁の熱伝導によって発⽣する損失について、弁本体やパイプの材質をステンレス採⽤し熱伝導率を下げることで熱損失を低減 | |
熱交換器の性能向上技術 | 円管フィンチューブ熱交換器について、溝付き管による冷媒側の伝熱促進、フィンスリットの適正形状・配置による空気側の伝熱促進、細径多パス化により伝熱管後流に⽣ずる死⽔域を減少および冷媒側圧⼒損失を低減。また、熱交換器の⼤型化により、前⾯⾯積拡⼤により通⾵抵抗を低減および伝熱⾯積拡⼤により伝熱性能を向上 |
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省エネ基準
エアコンの省エネ基準の指標はAPFです。2022年5月にエアコンの告示が改正され2027年度以降の省エネ基準が追加されました。エアコンの種類と能力別に基準が決められていますが、一般的な家庭で使われている「直吹き形で壁掛け形のもの」で「寸法規定タイプ」について以下に示します4)。
(1)目標年度2026年度まで
目標年度2026年度までの能力別の省エネ基準値を表-3に示します。「直吹き形で壁掛け形のもの」で「寸法規定タイプ」 のみのAPFをまとめると以下のようになります。
表-3 一般的な家庭用エアコンの省エネ基準(2026年度まで)
能力(kW) | 部屋の広さの目安 | APF基準値 | 備 考 |
---|---|---|---|
2.2 | 6畳 | 5.8 | 告示第2表による |
2.5 | 8畳 | 5.8 | 〃 |
2.8 | 10畳 | 5.8 | 〃 |
3.2 | 12畳 | 5.8 | 〃 |
4.0 | 14畳 | 4.9 | 〃 |
5.0 | 16畳 | 5.5 | 告示第3表による |
5.6 | 18畳 | 5.0 | 〃 |
6.3 | 20畳 | 5.0 | 〃 |
7.1 | 23畳 | 4.5 | 〃 |
出所)1999年通商産業省告示第190号(制定・廃止)「エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2019年経済産業省告示第46号
(2)目標年度が2027年度以降
目標年度が2027年度以降の省エネ基準値を表-4に示します。2027年度以降は冷房能力2.8kW以下はAPF6.6(寒冷地は6.2)、同じく2.8kW超はAPF6.6(同じく寒冷地は6.2)を上限とする冷房能力の関数で設定されます。
表-4 一般的な家庭用エアコンの省エネ基準(2027年度以降)
冷房能力 | 仕様 | 区分名 | 基準エネルギー消費効率又はその算定式 |
---|---|---|---|
2.8kW以下 | 寒冷地仕様以外のもの | Ⅰ | E=6.6 |
寒冷地仕様のもの | Ⅱ | E=6.2 | |
2.8kW超28.0kW以下 | 寒冷地仕様以外のもの | Ⅲ | E=6.84-0.210×(A-2.8) ただし、E = 6.6を上限、E = 5.3を下限とする。 |
寒冷地仕様のもの | Ⅳ | E=6.44-0.210×(A-2.8) ただし、E = 6.2を上限、E = 4.9を下限とする。 |
E:基準エネルギー消費効率(APF:通年エネルギー消費効率) A:冷房能力(kW)
注2)区分名「Ⅲ」であってその基準エネルギー消費効率が6.6以上又は5.3以下の場合は、それぞれ、6.6又は5.3とし、区分名「Ⅳ」であってその基準エネルギー消費効率が6.2以上又は4.9以下の場合は、それぞれ、6.2又は4.9とする。
出所)エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判
断の基準等、1999年3月31日通商産業省告示第190号(廃止・制定)、最新改定2022年5月31日、経済産業省告示第128号
一般的な家庭用エアコン(「直吹き形で壁掛け形のもの」、「寸法規定タイプ」、寒冷地仕様以外のもの)の旧基準と新基準をグラフにしたものを図-2に示します。新基準値のAPFは厳しい目標値となっていることが分かります。
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省エネ対策の事例
家庭でのエアコンの節電対策をまとめると以下の通りです。
① エアコンの効率性を低下させない維持管理
② 室内空気の循環による暖房効果の向上
③ エアコンの節電機能の利用
④ エアコンの無理のない温度設定
⑤ 室内の断熱性の向上
⑥ 新しいエアコンの買い換え
対策としては、フィルターの清掃などの維持管理を適切に行うことや室内空気の循環など手軽に行う対策もあります。しかし、より大きな節電効果を期待するなら、出来れば室内の断熱性を高めてエアコンの消費電力量を低減する方法や買い換えによる省エネ性の向上などを検討することも必要です。
(1)エアコンの効率性を低下させない維持管理
資源エネルギー庁によると、フィルターの清掃を行うことでエアコンの効率低下を防ぐことから節電ができるとされています。エアコンのフィルターを月に2回清掃すると、フィルターが目詰りしているエアコン(2.2kW)とフィルターを清掃した場合との比較で、年間で消費電力量31.95kWhの省エネができるとしています5)。
最近ではフィルターの掃除を自動で行う機種も出てきており、機種の違いによって維持管理の方法や清掃の頻度も違うので操作マニュアルを確認して適切な頻度で行うことが必要です。
(2)室内空気の循環による暖房効果の向上
室内の空気は高さ方向に温度成層ができ床と天井では温度が大きく異なります。エアコンで温風を下向きに設定しても、人がいる高さの温度が低くなり寒く感じることがあります。また、エアコンの位置により温度が上がりにくい場所や、逆に上がりやすい場所があり、均等に温度を保つことが難しいのです。特に断熱性が低い部屋ではその傾向が強いようです。
そのため、サーキュレーターによって温度分布を改善するという対策が効果的です。暖房の場合はサーキュレーターを上部に向けて天井付近に溜まりがちな暖気を動かし、部屋の空気を効率よく循環させることが効果的とされます6)。
サーキュレーターの効果についてアイリスオーヤマの商品ページから引用したものを左図に示します。エアコンのみの場合、床と天井の温度差が8.8℃であったものが、サーキュレーターを使用することで0.6℃まで縮小したとされています。このように、部屋の高さ方向の温度差を解消するにはサーキュレーターが効果的です。
(3)節電機能の利用
エアコンには様々な節電機能が搭載されています。節電機能の一例を表-5に示します。これらの機能は、センサーとAIによる自動制御機能を利用しています。居住者の快適性と省エネを目的として多くのメーカーがこれらの機能を搭載しています。
これは、省エネラベリング制度の指標であるAPFには反映しませんが、実際の消費電力には影響があるものと想定されています。この機能の付加によって価格が高くなる可能性もありますので、カタログに記載された節電率と価格とを総合評価して購入の判断をされたらどうかと思います。
表-5 ソフト的な省エネ手法
機 能 | 機能の一例 | 機種と機能の名称 |
---|---|---|
学習や予測を主とした機能 | 部屋の性能と帰宅時間などを学習し、⽴ち上げ制御や、外出前に温度をゆるめる温度シフト制御等で省エネ。 | シャープAY-J40X2「クラウドAI」 パナソニックCS-408CX2「おへや学習機能」 ⽇⽴RAS-XJ40J2「AIこれっきり運転」 三菱電機MSZ-FZ6318S「先読み運転」 |
人のセンシングを主とした機能 | ⼈感センサーで⼈のいる場所に集中的に気流を吹き分け、快適と省エネを両⽴して⾃動運転。 | ダイキンRXシリーズ「快適エコ⾃動運転」 東芝RAS-E406DRH「ecoモード」 三菱重⼯SRK40SW2「エコ運転」 |
不在時オフを主とした機能 | センサーで⼈の不在を検知すると、運転パワーをセーブまたは停止する不在省エネ運転。 | 東芝RAS-E406DRH「不在節電機能」 パナソニックCS-408CX2「不在省エネ運転」 富⼠通ゼネラルAS-X40H2「不在ECO」 三菱重⼯SRK40SW2「不在時ひかえめ運転」 |
部屋のセンシングを主とした機能 | 温度センサーで計測した⽴体的な部屋温度とハイブリッド気流によって、運転のムダを省き、快適性と省エネ性を向上。 | 富⼠通ゼネラルAS-X40H2「3D温度センサー」 シャープAY-J40X2「エコ⾃動運転」 パナソニックCS-408CX2「ひとものセンサー」 |
送⾵とのハイブリッドを主とした機能 | 温度・湿度センサーでお部屋の状況をチェックしPMVや体感温度に合わせて⾃動で送⾵に切り替える「快適⾃動運転」 | 三菱重⼯SRK40SW2「快適⾃動運転」 三菱電機MSZ-FZ6318S「ハイブリッド運転」 |
自動掃除を主とした機能 | エアコン内部の「⾃動お掃除」で省エネ性能をキープ | 東芝RAS-E406DRH「⾃動お掃除」 |
エアコンの節電機能を利用した冷房運転時の消費電力量を測定した結果を図-3に示します。外気温がやや低い傾向にありますが、AIによる自動モードの運転時は消費電力量が非常に少ないことが分かります(詳細は「エアコン(11)-冷房時の省エネ運転」を参照下さい)。
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(4)無理のないエアコンの温度設定
設定温度を変更することで消費電力量を削減できるのは言うまでもありません。しかし、快適性の温度の範囲は個人差が大きく、無理に設定温度を変更することは快適性だけでなく健康に悪影響をもたらします。
そのため、十分な対策をしたうえで今までの設定温度を変更することが必要です。エアコンの暖房時において、温度設定を変えて消費電力量の削減量を測定した事例を以下に示します。測定したのは三菱電機の「霧ヶ峰」MSZ-ZW403Sです。
通常の設定温度24℃のところ23℃に下げて運転した結果が図-4です。設定温度を下げて運転した2日間の1日平均外気温と1日消費電力量を測定し、事前に測定した設定温度24℃でエアコンを運転した時の外気温による回帰式の推計値との比較より、15%程度の節電ができたことが分かります(詳細は「エアコン(5)-暖房時の省エネ運転」を参照ください)。
(5)室内の断熱性の向上
エアコンの暖房負荷を低減する最も基本的な対策は室内の断熱性を向上させることです。暖房時は室内の熱が外気へと逃げていく熱損失が生じます。逆に冷房時は室外からの熱負荷が影響します。断熱性が高いとはその熱収支(熱負荷)が少ない住居の特性を言います。
室内の熱は壁や窓、床や天井などの建材を通して流出(損失)していきます。この建材の熱の通しやすさ(熱貫流率)を低下させることで断熱性の向上が図れます。これまでの報告で壁については、「建築材料(1)-外壁の断熱性能」で、窓については「建築材料(2)-窓の断熱性能」で取り上げてきました。
壁の断熱性を向上させるためには、図-5に示すように壁材の中に断熱性の高い断熱材と空気層を入れます。断熱材については、省エネ法の対象となっており、その性能基準も決められていますので、「建築材料の断熱性能の向上の判断基準」を参考にしてください。
また、窓も一枚のガラスではなく複層ガラスを使ってガラスの間に空気層等を設けることで断熱性を向上させています。図-6に様々な複層ガラスの事例を示しています。中空層を2層にするなどして断熱性を高めることができます。
壁の断熱性の向上は難しいですが、複層ガラスは既存の窓の内側に内窓(二重窓)を設置することが可能です。下に内窓を施工した事例の写真を示します。この事例は既存のガラス窓(3mm、単板ガラス)に内窓として複層ガラス(Low-E複層ガラス、高遮熱仕様:室外側Low-Eガラス3mm、中空層12mm、室内側ガラス3mm)を設置した事例です。
この内窓の設置前後の夜21時から朝5時までの間の外気温と室温の状況を比較した結果(冬季の測定結果)を図-7に示します。内窓を設置したケースは外気温が低いにも関わらず、室温の低下が少なくなっています(詳細は「【速報】内窓の断熱効果を実測で確認してみた!」を参照ください)。
この内窓の施工後の暖房、冷房時のエアコンの消費電力量を測定した事例を示します。まず、暖房時のエネルギー消費量が1割程度削減されていたことが分かりました。冬季はエアコンとストーブを併用していますが、この結果は両方のエネルギー消費量の測定結果です(詳細は「【続報】内窓によるエネルギー消費と暖房代の削減効果を分析してみた!」を参照ください)。
また、冷房時の省エネ効果についても測定した事例を図-8に示します。その結果、消費電力量は16%程度低減していました。暖房時よりも省エネ効果が大きいのは、内窓による日射の遮熱効果が大きいためと考えられました(詳細は「【続報】内窓は暖房時に比べて冷房時の省エネ効果が大きいことを実測で確認した」を参照ください)。
(6)新しいエアコンへの買い換え
エアコンは省エネ法の対象として年々省エネ性能が向上しています。資源エネルギー庁によれば、エアコンは過去10年間(2009年から2019年)で約17%程度省エネ性能が向上したとされています7)。エアコンの平均使用年数は13.7年とされており、運転音が気になったり暖房の効き目が悪く感じるようになったら買い換えのタイミングと考えて良いと思われます。
エアコンの省エネ基準は前述したように2022年5月に目標年度を2027年度とする改正が行われ、厳しい基準値となっています。このように省エネ性能も上がっていることから10~15年以上使用している機器は買い換えによる省エネ効果は高いと考えられます。
その際、参考になるのは小売店での多段階評価表示です。2022年9月に小売店での省エネ表示が改正され、多段階評価点が適用されました8)。多段階評価点とは最高点を5.0、最低点を1.0とした41段階の評価方法です。下図に小売店で表示されている製品の省エネ性能を表すラベルの事例を示します。
左は改正前の5段階評価ですが、右は現在の41段階の多段階評価点のラベルです。このラベルには評価点だけでなく、APF、省エネ基準達成率、年間消費電力量が記載されていますので、それを参考に省エネ性能が高い製品を選ぶことが必要です。
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LCA分析の事例
(1) LCAの分析方法
エアコンの消費電力量が他の家電機器に比べて多いことは説明しましたが、エアコンの製造や廃棄に消費されるエネルギー量についても気になるところです。本サイトは地球温暖化対策を検討することが目的なので、このライフサイクル全体で消費されるエネルギーによる二酸化炭素排出量の分析結果を紹介します。
エアコンはエネルギー起源の二酸化炭素排出だけではなく冷媒によるGHGの排出についても検討しておく必要があります。冷媒によるGHGの排出については、冷媒として使われている代替フロンであるHCFsが大きな温室効果を持つためです。
エアコンの冷媒は2020年以前まではR410Aという地球温暖化係数(GWP)が2,090という冷媒が使われていましたが、2020年頃以降に製造された製品はHFC-32(GWP=675)に置き換わっています。しかし、それでも依然として大きな排出量となるため、現在グリーン冷媒を開発中とされています(冷媒の温室効果等については「日本のGHG排出量の5%を占め、年率5%増加している温室効果ガスとは?」を参照ください)。
いくつかの製品のLCA評価値が公表されていますが、その分析結果はエネルギー消費量から二酸化炭素排出量を算出したもののみでした。しかし、冷媒のGHG排出量も無視できませんので、ここではその算定方法についても示しておきます(エアコンのLCA評価の詳細については「ライフサイクル全体のGHG排出量の分析(2)-冷媒を使用しているエアコンと冷蔵庫」を参照ください)。
(a)エネルギー起源の二酸化炭素排出量
LCAの分析における一般的なGHG排出量の算定方法は下式に示す通り、製造時、使用時、廃棄時のそれぞれのGHG排出量を算定するものです。
<製造時の二酸化炭素排出量>
∑{部品、素材の重量(kg)×部品、素材の二酸化炭素排出原単位(kg-CO2/kg) }
<使用時の二酸化炭素排出量>
製品の耐用時間における1次エネルギー使用量(E)×1次エネルギーの二酸化炭素排出係数(kg-CO2/E)
<廃棄時の二酸化炭素排出量>
製品の重量(kg)×廃棄方法別二酸化炭素排出原単位(kg-CO2/kg)
製造時は部材や素材の重量に二酸化炭素排出原単位を乗じて、それらを合計する積み上げ方式をとっています。また、詳細に算定する場合は組み立て、輸送などにかかるエネルギー分の二酸化炭素を算定する場合もあります。
使用時は製品の耐久時間内に使用した1次エネルギー使用量にそのエネルギーの二酸化炭素排出係数を乗じて算定します。さらに、廃棄時は製品の重量に廃棄方法別の二酸化炭素排出原単位を乗じて算定します。
(b)冷媒のGHG排出量
政府が公表しているGHG排出インベントリ資料からその算定方法を示します9)。冷媒(HFCs)のGHG排出量は製造時、使用時(故障時を含む)、廃棄時の漏洩量から算定されます。2021年の算定結果より、製造時はほぼゼロであり無視しうると考えられます。
また、廃棄時の漏洩量は特定機器及び指定機器(法律で定められた機器)はフロンの回収が義務付けられています。さらに、これらの機器以外でも家電リサイクル法によって家庭用の冷蔵庫とエアコンは業者によるリサイクルが行われ、フロンも回収が義務付けられています。
家電リサイクル法の施行以前の機器が残存する可能性がありますが無視できると考えられ、使用時のみの漏洩量を求めることで十分です。使用時の冷媒の漏洩量は以下の式で算定されます。
<使用時の冷媒の漏洩量(1年間)>
製品の冷媒充填量(1kg)×使用時漏洩率(2%/年)×冷媒の地球温暖化係数
家庭用エアコンに充填される冷媒は1kgであり、使用時の漏洩率は年間2%とされています。これらの積に冷媒の地球温暖化係数(GWP)を乗じることで、二酸化炭素量に換算したGHG排出量が算定されます。
(2)エネルギー起源の二酸化炭素排出量の分析結果
ここでは、エネルギー起源の二酸化炭素排出量を算定した事例として、東芝が自社製品のLCAを行った報告書を引用します10)。この報告書では「製品A」(RAS-406YDR、2000年製品)と「製品B」(RAS-402SDR、2006 年製品)をLIME2(日本版被害算定型ライフサイクル環境影響評価手法)で評価しています。LCA分析の条件は以下の通りです。
・家庭用エアコンが10 年間使用されることを想定。
・エアコンの使用条件はAPF(通年エネルギー消費効率)の算定条件(日本冷凍空調工業会規格 JRA4046)に従う。
・素材(調達),使用段階は設計データを使用し、製造に関しては投入財(エネルギー等)を出荷金額で配分。
・冷媒フロンに関しては全て回収されるものと仮定(使用時の漏洩も考慮しない)。
2つのエアコン製品のライフサイクルにおけるエネルギー起源の二酸化炭素排出量の算定結果を表-6に示します。その結果は以下の通りです。
・家電製品の中でも非常に大きな値で、製品Aは約9.1t、製品Bは約7.0tです。
・新製品は材料調達と流通でやや増加していますが、省エネ型になったため使用時は8割以下に減少しています。
・使用時の二酸化炭素排出量が全体の98~99%を占めており、製造時や流通(輸送)時の割合は少ない。
・廃棄・リサイクル時のマイナスの値はリサイクルによって別の材料に転換されることを評価したもの。
表-6 エアコンのライフサイクルにおけるエネルギー起源の二酸化炭素排出量
材料調達 | 製 造 | 流 通 | 使 用 | 廃棄・リサクル | 合 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
2000年製品 A | 121.1 | 12.7 | 1.6 | 8,970.4 | -39.3 | 9,066.5 |
2006年製品 B | 129.0 | 12.7 | 1.7 | 6,927.4 | -39.3 | 7,031.5 |
B/A (%) | 106.5 | 100.0 | 106.3 | 77.2 | 100.0 | 77.6 |
出所)東芝:家庭用エアコンの環境影響評価報告書、2008年6月
(3)冷媒のGHG排出量の分析結果
東芝の報告書には示されていませんが、冷媒のGHG排出量を前述した方法により算定すると表-7の通りです。表-7では冷媒をR410AとHFC-32の2種類について計算しています。冷媒R410Aの場合は418kg-CO2、冷媒HFC-32のそれは135kg-CO2でした。地球温暖化係数が約3倍違うので、GHG排出量はその割合で変化しています。
表-7 冷媒のGHG排出量
単位 | 冷媒R410A | 冷媒HFC-32 | |
---|---|---|---|
HFC充填量 | g | 1,000 | 1,000 |
年間漏洩率 | % | 2 | 2 |
使用年数 | 年 | 10 | 10 |
冷媒漏洩量 | g | 200 | 200 |
HFCのGWP | - | 2,090 | 675 |
GHG排出量 | kg-CO2 | 418 | 135 |
エネルギー起源と冷媒からのGHG排出量(二酸化炭素換算値)の合計を示したものを図-9に示します。エアコンの製品Aでは冷媒R410Aを使用し、製品Bでは冷媒HFC-32を使用していると仮定しています。図-9に示す通り、製品Aの冷媒のGHG排出量の割合は約4%ですが、製品Bでは約2%と小さくなっており、冷媒のGWP値の改善が影響していることが分かります。
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<参考となる本サイトの記事>
■エアコンの省エネ基準
「エアコンのエネルギー消費効率」
■小売店での省エネ情報
「小売事業者の省エネラベル表示制度」
■エアコンの省エネ情報
「エアコン(1)-省エネ性能」
「エアコン(2)-製品の省エネ評価」
■節電対策
「エアコン(4)-暖房時の消費電力」:間欠運転の効果
「エアコン(5)-暖房時の省エネ運転」:運転モード、設定温度の効果
「エアコン(11)-冷房時の省エネ運転」:運転モード、設定温度の効果
「エアコン(12)-冷房負荷の低減(1)」:日射熱負荷の効果
「エアコン(13)-冷房負荷の低減(2)」:貫流熱負荷の効果
「エアコン(14)-冷房負荷の低減(3)」:すきま風熱負荷の効果
「エアコン(15)-冷房負荷の低減(4)」:室内発熱負荷の効果
■LCA分析
「ライフサイクル全体のGHG排出量の分析(2)-冷媒を使用しているエアコンと冷蔵庫」
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<参考文献>
1)安達勝之、佐野洋一郎:絵解きでわかる熱工学、オーム社、2005
2)日本冷凍空調工業会:公式Webサイト、家庭用エアコン、「エアコンの期間消費電力量について」、2021年8月15日閲覧、https://www.jraia.or.jp/product/home_aircon/e_saving_energy.html
3)資源エネルギー庁:第2回総合資源エネルギー調査会(省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、エアコンディショナー及び電気温水機器判断基準ワーキンググループ、資料4、2019年12月18日
4)経済産業省:エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等、1999年3月31日通商産業省告示第190号(廃止・制定)、最終改定2022年5月31日経済産業省告示第128号
5)資源エネルギー庁:省エネ性能カタログ(家庭用)、2022年版、エアコンの上手な使い方
6)アイリスオーヤマ:公式Webサイト、商品情報、サーキュレーターの効率的な使い方、https://www.irisohyama.co.jp/seasonal/circulator/special.html
7)資源エネルギー庁:公式Webサイト、省エネポータルサイト、家庭向け省エネ関連情報、機器の買換で省エネ節約、https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/choice/
8)経済産業省:2006年経済産業省告示第258号「エネルギー消費機器の小売の事業を行う者その他その事業活動を通じて一般消費者が行うエネルギーの使用の合理化につき協力を行うことができる事業者が取り組むべき措置」(制定)、最終改定2022年経済産業省告示第162号
9)温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)編、環境省監修:日本国温室効果ガスインベントリ報告書、2023年版
10)東芝:家庭用エアコンの環境影響評価報告書、2008年6月